あの後、魔女は魔法少女になった美樹が倒した。
「キュウべぇから聞いたよ。
これからはマミさんに代わってこのさやかちゃんが見滝原を守る!
よろしくね、小鷹……じゃなくて、ノクスナイト!」
「一つ聞かせてくれ。
お前は、どんな夢を叶えて魔法少女になった?」
「……恭介の腕を治してらったの」
「恭介?上城恭介か?」
「うん、幼馴染。前話したよね?」
「ああ。野暮なことを聞いたな」
カプセムの力は俺じゃない誰かが俺に託した絶望を根源としつつも希望でもあった。
俺が余計なことを迷わずにリカバリーカプセムを貸しておけば美樹は契約せずに済んだのではないか?
俺が愚かにも夢を叶えようと思わなければ巴マミの運命は違ったんじゃないか?
傲慢かもしれない思考に苛まれ出した俺は、次の休みにホオズキ市を訪れていた。
電車を降り、改札を抜けて階段の方に向かうと所在なさげにうろつく学生服の女性がいた。
(あの魔女の見せたヴィジョンしか情報がなかったから結構時間はかかったが……あの制服で間違いない)
俺は彼女に声をかける。
「すいません」
「あ、はい!」
振り向いた少女の瞳は濁っていた。
見ると、身体に隠れて見えていなかったが白い杖も持っている。
そして何より、俺は彼女を知っている。
あのヴィジョンで見た魔法少女の一人だ。
見ての通り、この世界では契約していないようだ。
(……道理で探知の魔法に覚醒するわけだ)
「なにか、お困りですか?」
俺はなるべく動揺を悟られないように言葉を続ける。
少女は点字ブロックを見失ってしまったから教えて欲しいといった。
「よければ手を貸します。
階段、登るの大変でしょう?」
「いいんですか?ありがとうございます」
想像より強い力で二の腕を掴まれたのに少し驚いたが、俺は一段一段ゆっくりと彼女と共に階段を上がった。
「階段、次で終わりです。この後はどちらに?」
「中華屋さんの方までお願いできますか?」
俺はコードフォンで地図を確認しながら彼女と共に近くの大きめの中華屋の方まで歩いた。
「
「
そこでは、青い髪の違う世界の
「友達を送ってくれてありがとうございます」
頭を下げる彼女に俺は、何とも言えない奇妙な感覚を憶える。
「いえ、当然のことをしただけです。
ところで、千里さんといいましたね」
「……はい」
「もしかして、スポーツかなにかやっていますか?」
「ええ。水泳をやっていますが……」
「すいません、どこかの大会で見かけたことがあった気がしまして。
俺はこれで」
盲目の少女を待っていた水泳少女の腕に預け、俺は街の中を歩いた。
買い食いしたタイ焼き屋、ダンスのスコアを競ったゲームセンター、応援に向かった市営のプール、部活動などがある生徒以外来ていないため生徒の数は少ない学校。
そしてそのままもう一人の自分が住んでいた家の方に向かうと、少し細い道に入る。
「あれは……」
三人組の少女が桃色の髪の少女に寄って集った暴力を振るっていた。
その様子を、派手な格好の金髪の少女が見つめている。
ヴィジョンで見た清楚な印象とは違う彼女は暴力に加担しているわけではないが、助けようともしていない。
ただ、見ていた。
しかしその顔は悔しそうな、苛立っているような物だった。
「……おまわりさんこっちです!
女の子が暴力を振るわれています!
早く!こっちです!」
大声を張り上げると、三人組は反対方向にそそくさと退散していった。
俺は怪我した姿のままうずくまる少女の方に向かう。
「立てるか?」
「うん……あれ?おまわりさんは?」
「追っ払うための方便だ」
「そっか。その、ありがとう……」
記憶にある姿とは似ても似つかない彼女は俺が来た方に去っていった。
「あんた、どうしたかったんだ?」
俺は残った金髪の少女に問う。
彼女は不機嫌そうな、バツが悪そうな、そんな顔で黙った。
「あれ?
すると彼女の後ろから、彼女とよく似た大学生くらいの女性が来た。
「お姉ちゃん……」
彼女の姉らしい女性は、俺の姿を見るとお邪魔だったかみたいね、と言って俺に頭を下げると元来た道を引き返していった。
(そういえば、彼女は他の三人と違って願いに関して何も言っていなかったな。
それに一人っ子だった……まさか?)
「綺麗なお姉さんですね」
「……」
「消えて欲しいと、思ったことは?」
「!?」
驚き振り向く彼女は、泣きそうな顔をしていた。
「すまない。失礼な詮索だった」
「ある」
「……」
「みんな、お姉ちゃんばっかり期待して、誰も見てくれない。
いっそ消えてほしいと思ったことは、何度でもある」
「消えたら、あなたは救われたと思うか?」
「あり得ない。
だって、消えて他の誰かが全員お姉ちゃんのことを忘れても、私がきっと覚えているから」
「どうして?あなたも忘れることが出来るかもしれない」
「無理よ。人を呪えば穴二つ、って言うでしょ?
きっと忘れられないわ。
お姉ちゃんを呪って叶えた悪夢を、きっと見続ける。
……ごめんなさいね、なんか愚痴みたいで」
「かまいません。
あなたが勇気を振り絞る機会を奪ったのは、俺ですから」
「……私が、勇気を?」
「さっきの子、今からでも追いかけてあげてください。
あなたなら、友達になれますよ」
俺はそうとだけ言ってもしかしたら過ごすはずだった街を後にした。
-----
見滝原に帰ってきたのは夜になってからだった。
結局宿題をやれていないので、言い訳を考えなければならない。
言えの方に歩きだそうとすると、コードフォンがメッセージを受信する。
「マジかよ」
俺はナイトインヴォーカーを装着して夜の繁華街を走る。
向かった先では佐倉杏子と美樹さやかが戦っていた。
どういった経緯だったのか、鹿目もその場にいる。
「お前ら何をしている!?」
「おう胸にベルト野郎。
魔法少女の先輩として後輩に指導してやってただけだよ」
「指導?
古株が殉職してルーキーしかいないのをいいことに縄張りを奪いに来たがめついハイエナを随分と美辞麗句で彩ったものだな」
俺は鹿目にバリアーカプセムを渡しながら前に出る。
「……何が言いたい?」
「他所の縄張りで勝手をするな。先に言い出したのはお前のはずだ。
ここはもう巴マミの縄張りじゃないが、俺の縄張りじゃなくなったわけじゃない」
そう言われた佐倉は不満げだったが、肩をすくめると槍こそだしたままだったが壁にもたれかかる。
「小鷹、あんたどこに行ってたのよ?」
「ホオズキに野暮用があってな。
それよりこれはどうゆうことだ?」
聞けば、佐倉杏子は他人の為に願いを叶えて他人の為に戦う美樹が気に食わないんだという。
「……魔法少女の願いを叶えたからと言って最終的に不幸になるとは限らない。
生まれながらの盲目が治った者も、友人に恵まれた者もいる。
同時に、願いを叶えたからこそ不幸になる者もいる。
願いによって排除した存在を永遠に自分の中に残したり、ようやく出会えた戦友を目の前で亡くしたり……キュウべぇの存在は兎も角、俺は魔法少女そのものに関いてジャッジを下せる程えらくない。
所詮はエージェントだ。だが……」
俺は胸のインヴォーカーにイレイスカプセムをセット。
佐倉に向き直る。
「なんだよ。
お前もこっちのやり方が気に入らないってか?」
「ああ。言い訳しているお前が心底気に入らない」
「いいわけって……」
「一度対峙したからわかる。
お前は美樹に簡単に勝てるどころか殺せる程に強い。
だというのに、警告のような真似をして手緩く痛めつけるだけで済ませている。
同じ轍を踏ませないためか?」
「さっきから何寝言ほざいて……」
「魔法少女は!
希望を叶えてその力を手に入れるんだろう?
そしてそのの地獄を後悔しているから昔の自分に当たる、怒鳴る、痛めつける。
甘ったれここに極まれりだ」
<イレイス!>
<オ オ オン・ユア・マーク!オン・ユア・マーク!>
トリガムを押し込み、第二待機状態に移行。
俺はコードナンバー:4。
仮にこの運命が最初から用意されていたとしても、誰かを救うえる自分になりたいと願ったのは外でもない俺で、ここにいることを願ったのも俺だ。
仮に愚かな悪夢だったとしても、俺の譲れない願いだ。
叶えなくてもきっと俺自身は不幸にも幸福にもなれる。
けど一度始めた以上、必ず正夢にする。
「擬装……っ!」
<インヴォーク・ナイト・システム!イレイス!>
仮面が、顔を覆う。
鎧の奥に仕舞われた瞳が佐倉を見つめる。
気分は酷く、凪いでいる。
「ノクスナイト、擬装完了。
コードナンバー:4、これよりミッションを開始する」
〇エージェント道具解説。
・ソウルジェム
…『魔法少女の希望を秘めたアイテムだ!』
『魔法少女がキュウべぇと契約した証にして変身アイテムだ。
定期的にグリーフシードで浄化しなければ悪夢を叶えてグリーフシードに変質してしまう。
俺の平行同位体は、これの破壊と同時に死んでいるようだったな』