放課後、屋上のドアを開けた俺は奥のベンチに腰掛ける。
うちのクラスの担任はホームルームをさっさと終わらせることで有名なので、やはり鹿目より先に来ることが出来た。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか)
待つこと数分。
そう勘違いするように言ったのは自分だが、それなりに緊張した様子で入ってこられると少しばかりの罪悪感が沸くが、この際仕方ない。
エージェントとは、時に手を汚しても目的を達成しなければならないのだ。
「まずは、来てくれてありがとう」
「ううん、大丈夫。それで話って?」
「ああ。実は……鹿目とは昨日ぶりなんだ」
え?惚けた声を出した鹿目に俺はナイトインヴォーカーとカプセムをカバンから取り出して装着する。
「胸に、ベルト?もしかして、小鷹君が昨日の……」
鹿目がそこまで言ったところで入り口のドアが開かれる。
俺は間髪入れずにカプセムを回転させた。
<バリアー!>
予想していたよりも少し早く銃弾が弾かれる音がした。
が、こちらが正体を明かした時点で擬装するより早く仕掛けてくる可能性は考慮出来ていた。
「今のって、ほむらちゃん!?」
驚いた声を上げて鹿目が振り返る。
どうやら彼女はただ
入り口ドアの奥には、長い黒髪の女が拳銃を構えている。
「金髪じゃない?」
今度は俺が驚く番だった。
てっきり介入してくるなら金髪の方……昨日素性を洗った方と思ったが、どうやらまた別にいたらしい。
「だがやることは変わらない……擬装」
俺はインヴォーカーにイレイスカプセムをセットして回転させ、擬装が実行されるとバリアーを一度解除して今度は鹿目を守る様に再展開する。
<インヴォーク!ナイトシステム!イレイス!>
「ノクスナイト擬装完了。これより尋問を開始する」
「ま、待って小鷹君!」
鹿目の焦った声を背後に俺はほむらと呼ばれた襲撃者にブレイカムバスターの銃口を向ける。
「他人の告白に水入りとは、馬に蹴られて地獄行だぞ?」
「何が告白よ……とても鹿目まどかに恋しての行動とは思えないわね」
「お前こそ、鹿目まどかを想っての行動だとしたらいくら何でも右手の光物が物騒すぎるぞ。
何者だ?」
「あなたが知る必要はないわ、ノクスナイト……とか言ったわね」
相手はすぐにでも校舎内に引ける位置。
そして俺もすぐに鹿目のバリアーの背後に回れる位置。
互いの手にはいつでも撃てる武器、そして女は俺と交渉する気はない。
(どうする?このまま女の明晰夢に潜入してしまうか?
擬装した状態でやるならベルトを外されない限り肉体は大丈夫と言えば大丈夫だ。
だが、もし金髪が来た場合……)
などと考えていた俺だったが、何かを実行するより早く俺と女の間を黄色いリボンが駆け巡り、蜘蛛の巣のように張り巡らされる。
「っ!巴マミ……」
拳銃女の声に周囲をうかがうと昨日見た女が、女児向けアニメのヒロインのような衣装と、不似合いなマスケット銃を片手にふわりと降り立った。
「告白を受けるだけにしては遅いと思って様子を見に来たら、これはどうゆうことかしら?」
「いきなり人に拳銃を撃ってくる女が居ればまずは民間人を保護する。
エージェントとして当然のことをしているだけ」
「エージェント?」
拳銃女に注意を払いながらも巴マミ(昨日調べたが、三年生らしい)が俺のセリフに疑問符を浮かべる。
「ああ。俺はノクスナイト。
『組織』よりコードナンバー:4を与えられたこの世の悪を撲滅するエージェントだ」
「悪、ですって?」
「ああ。お前たちも対峙している深い闇……その重要参考人として鹿目まどかには是非とも協力してほしかったが、君にはなかなか熱心なファンがいたのは計算外だった」
少なくとも巴先輩は拳銃女と仲間ではない上に鹿目は巴先輩とは協力関係と判断して俺はバリアーを解除した。
「……騙すような真似で呼び出してすまなかったな」
「え?う、ううん!大丈夫。
今の魔法も、私にケガさせたくなかったからなんでしょ?」
前々から他人がいいとは思っていたが、今の行為をここまで好意的にとらえられるとは思っていなかった。
多分、マスクの下の俺の顔は何とも言えない表情になっていただろう。
「俺が言うのもなんだが……いや、ありがとう」
鹿目に免じて俺は武器を下ろすことにした。
エージェント足る者、敵を作り過ぎてもいけない。
「警戒する気持ちもわかるが、無駄に争う必要はない。
俺の敵はお前たちと同じなはずだ」
鹿目が巴先輩の背後に行ったのを確認し、俺は懐から例のオブジェを取り出す。
「それって、グリーフシード?
あなた、本当に魔女と戦っているの?」
「このオブジェはグリーフシード、それにあの怪獣共は魔女というのか。
情報提供に感謝する」
「へぇ、意外だね。
こちらの状況を十分理解したうえで接触してきたと思ったけど、実際に魔女と対峙した以上の情報が何もないままでの接触だったなんて」
俺の声に、他の三人の発現にしては随分下の方から声が聞こえてくる。
見るとそこには、白いリスともイタチともつかない長い耳と尻尾の四足歩行動物がいた。
「キュウべぇ!」
「はじめましてだね、ノクスナイト。
時々この街にはマミしか魔法少女がいないはずな割には魔女の気配が減っていると思ったけど、君が倒していたというわけだね」
流ちょうな人語で話すキュウべぇと呼ばれたリスのような誰かに俺はブレイカムバスターを構えなおす。
流石に未知の動物に対する警戒ぐらいはさせてもらう。
「まって小鷹君!キュウべぇは別に悪い子じゃないの!
銃を下ろしてあげて!」
鹿目の声に視線をそちらにやると、巴先輩がいつでも臨戦態勢に移れるようにしているのがわかる。
マスク越しの視線を動かすと、拳銃女が大人しくしている辺りこの状況においてこいつに危害を加えるのは得策ではないらしい。
「君がほむらよりは冷静で助かるよ、ノクスナイト。
それで、君にはいくつか聞きたいことがあるんだけど、かまわないかな?」
「エージェントには守秘義務がある。
可能な限りしか答えられない」
「でも質問に答えてはくれるのかい?」
「こちらも答えた分だけの誠意は見せてもらうがな」
「いいとも。
じゃあ早速だけど、例えばその武器や魔法に似た力を秘めたカプセルについてもかい?」
「ナイトシステムとカプセムは『組織』の最重要機密の一端。
俺ですら喋れない以上に知らないことの方が多い」
知らせてくれる人もいるんだかいないんだかだしな。
キュウべぇはこれを聞いて
「それは残念だね」
と言ってすぐさま次の質問を投げてきた。
「君はどうやって魔女の存在を知ったんだい?」
「怪獣とそれがもたらす悪夢……魔女とその配下の出現は『組織』からミッションと共に通達される。
俺も感知の仕組みは知らない。
が、奴らが暴れた結果現実にも悪影響が出ることは知っている。
事故現場や自殺の名所なんかを探ってこちらから見つけたことはないでもない」
俺は自分の持っている情報を小出しにしながらキュウべぇと問答を重ねつつ、3人の傍観者の反応をうかがう。
今のところ名称以外は大体こちらが察している通りらしい。
「君の持っているグリーフシードは魔女の卵なのだけど、全く再び孵化する様子がないグリーフシードなんて君が何かしたのかい?」
「なるほど……まずお前の質問に答えよう。
俺のイレイスカプセムはこの世の色を奪うカプセムだ。
これの力でこのオブジェ、グリーフシードから色を奪うことで非活性化させていたんだ。
次はこちらの質問だ。
結果的に処置としては正解だったようだが、これはどうすれば孵化するんだ?」
「負の魔力を吸うとまた魔女が孵るんだ。
そうなる前に僕が処理する」
処理の方法はもちろん気になったが、いったん後回しにする。
実害が発生するかもしれない事案に対する情報収集が優先だ。
「なぜこいつが再び闇を蓄えるようなことが起こる?」
「魔法少女は魔力を使うたびに核であるソウルジェムに穢れが溜まっていく。
それを浄化するためにはグリーフシードが必要なんだよ」
「魔女の性質を利用しているわけか」
「そう捉えてもらっても構わない」
思ったよりも理知的というか、少し機械的に感じる程に的確に受け答えをしていると思った。
「そうか……呼び出したはずの俺が言うのもなんだが邪魔者は消えるとしよう」
俺はカプセムを外して擬装を解除してキュウべぇを横切って出口の方に向かう。
いつの間にか俺の服はエージェントの時の物になっていた。
昨日もだが、服の変わるタイミングが分からない。
「待ちなさい」
「ほむら、だったか?
少しでも想像力があるなら拳銃で脅すを超えて始末しようとしてくる女と会話したがる男はいないと分からないか?」
俺はそういうと彼女も横切り階段を降りる。
幸い誰ともすれ違うことなく一階に辿り着いた俺はインヴォーカーを外して岐路についた。
「さて、今日は誰が悪夢を叶えようとするかな?」
〇エージェント道具解説。
・バリアーカプセム
…無敵の防御力を持ったカプセムだ!
『この俺、コードナンバー:4がブレイカムバスターの必殺技に使うカプセムだ。
護衛対象の保護や、擬装を終えるまでの時間稼ぎにものすごく役に立つんだ』