風見野の魔法少女、佐倉杏子との接触から一夜明けた今日。
学校は休みで休日の課題は昨夜に終わらせたので俺は街のパトロールを行っていた。
佐倉杏子の証言から魔女のもとを去った配下はいずれ成長して魔女になると、しかもその過程で少なくとも10人近い人間に死をもたらすと分かったからだ。
(現実でも問題なく擬装できるなら、場所さえ選べば戦うことに不都合はない)
それに魔女は基本的に悪夢を展開して隠れ潜む。
相手の土俵に上がてしまうことにはなるが、一般人に見られないことの方が大事だ。
「あなたは……」
「どうやら同じターゲットを追っていたようだな」
歩くこと約一時間、俺はばったり暁美ほむらに出くわした。
「……魔法少女のことを想うなら、これ以上魔女狩りなんてしないことね」
暁美は魔法少女の姿になり左腕に装着された盾から拳銃を引き抜く。
「グリーフシードが少なくなるからか?」
「ええ」
「なら取引だ」
俺は懐から先日佐倉杏子に渡した以外に今まで回収した13個のグリーフシードを取り出す。
「それは……」
「お前の知り得るすべての魔法少女と魔女、そしてキュウべぇに関する情報をくれ」
「あなた、自分が拳銃を向けてくるほど警戒している相手に取引をもちかけるなんて何を考えてるの?」
「別にお前が取引に応じなくとも構わない。
応じないなら応じないですべて自分の足で調べ上げるだけだ」
そう言ってナイトインヴォーカーを装着して魔女の悪夢に潜入する。
すると背後から暁美ほむらが追いかけてきた。
「まだ何か用か?」
「真相を知ってどうするつもり?」
「俺の任務はこの世の悪を撲滅すること。
その為の理由が増えるだけだ」
俺の言葉に何を考えたのか、暁美は一歩先を歩いていた俺の後頭部に拳銃を突き付けてきた。
「ついこの前同じように武器を向けられたのに、どうして背中を見せたのかしら?」
「……なるほどな」
「何がなるほどなのかしら?」
「少なくともこのやり取りでお前は俺が真相を知れば自分と敵対する可能性が高いと考えている。
そして昨日別の縄張りの魔法少女ともめた時グリーフシード一個で手打ちになったが、その13倍の物を見せてな喋らないということは、お前にとって知られるだけでも問題のある情報ということだ。違うか?」
暁美は無言だった。
そして俺が撃たれるより早く敵が攻撃してきた。
「使い魔……この!」
暁美が応戦しだすと俺はナイトインヴォーカーにカプセムをセットして使い魔を盾に走り出す。
「擬装」
ノクスナイトに擬装した俺は武器を立体化させずに走り出す。
少しでも身体を軽くしてスピードを上げるためだ。
具体的に測った訳ではないが、今まで悪夢に潜入してから魔女に辿り着くまでの最短タイムを更新したと思う。
怪人……使い魔を全く相手にしなかったからだろう。
(……ここですぐに俺を追ってこない辺り、使い魔をきちんと倒してるだけ被害を広げない気はあるのか)
俺はブレイカムバスターをカリバーモードで実体化させて走り出す。
当然本丸の守りは固く、それなり以上の数の使い魔を斬り祓い、蹴りつけ、撃ち抜き進む。
魔女は無数の使い魔をそのまま肉の盾にしながら圧殺しようとしてきたが、俺はナイトインヴォーカーの上部スイッチを三度押してカプセムを回転させる。
<イレイス!フェイタル!>
そしてランチャーモードのブレイカムバスターにはバリアーカプセムをセットして回転させる。
<ブレイカムキャノン!>
「悪夢に……沈め!」
イレイスの力を上乗せした砲撃が使い魔ともども魔女を撃ち抜く。
色のない炎を噴き上げて魔女は爆散。
グリーフシードが放物線を描いて俺の足元に転がってきた。
俺はナイトインヴォーカーのカプセムをリカバリーカプセムに入れ替え、先ほどと同じ要領で必殺技を発動する。
<リカバリー!ヴァニッシュ!>
拳で思い切り悪夢の外側を殴りつけて破壊。
その穴から現実に戻ると崩れかけながらも破壊された箇所が修復される。
暁美が追ってこないうちに俺は退散することにした。
-----
その夜、俺は魔法少女を探して明晰夢に入ってから街を歩いていた。
公共交通機関は軒並み終電だったので途中から歩きだったが、見滝原を出て神浜市に入る。
交通事故でもあったのか、野次馬と警察車両のサイレンが見えたが特に魔女は関係なさそうだったので無視して人通りの少ない、思案の悪そうな方へと歩いていくと、酔ったような足取りでフラフラと廃ビルに入っていく女性を見つけた。
ナイトインヴォーカーを装着して追いかけると、使い魔が夢現になった女を引き込もうとしていた。
「させるか!」
俺がブレイカムバスターで使い魔を銃撃すると、その音で正気に返ったらしい女がこちらを振り向く。
どうやら我に返ったせいで使い魔が見えていないらしい。
「走れ!殺されるぞ!」
俺がもう一発銃弾を撃つと流石にここが危険なぐらいは分かったのか、女は建物の外に飛び出していった。
残った使い魔は代わりに俺を食おうとデザインナイフのような形の槍を引き抜く。
カリバーモードに切り替えて打ち合うが、なかなかに強い。
かなり魔女化が近いのかもしれない。
「なら速攻でたたく!」
<イレイス!>
俺はインヴォーカーのカプセムを操作して両腕にエネルギーを貯めて得物を無理やりひき下ろす。
派手な火花を散らして膝をついた使い魔に蹴りを浴びせて壁にたたきつける。
当然痛みに怒った使い魔は再びとびかかってくるが、もう遅い。
俺はすでにソケットにセットした何の力も入っていないヴォイドカプセム回し
「見つけた!ばっこーーーん!」
技を発動するより早く、やってきた金髪の魔法少女に使い魔は紫色の変な汁をまき散らしながら叩き潰された。
身の丈ほどもあるハンマーを担いで少女はこちらを振り返る。
「無事だったかコスプレやろー」
「……」
完全に獲物を横取りされた格好だが、他所の縄張りで勝手をしたのはこちらだし、魔法少女と会いたかったのだから好都合と自分を納得させて俺は擬装を解除する。
「うわっ!なんだそれ……お前、魔法少女でもねえのに魔法みたいな……まさか本当に戦えるのか?」
「だったらどうする?」
「どうもしねー!いやでも、オレがお前を助けてやったのには変わらないから払うもの払ってもらうぜ!」
図々しい上にがめつい多分年下に些か以上の怒りがわいてくるが、俺はポケットからグリーフシードを取り出す。
「これでいいか?縄張りに勝手に入った詫びと口止め料で二個追加だ」
「いいぜ!てかお前、他所の街とは言え一人で三匹も魔女を倒してるとかまあまあ強いな?」
「どうも。ところで、お前は戦闘の代行や共闘に金銭やミッション上必要な物を要求しているのか?」
「ああ、オレは傭兵だからな!」
「なら、追加でもう一個。
これでお前の知る限りの魔法少女と魔女のすべてを話してもらう」
こうして俺は深月フェリシアという魔法少女から手に入り得るすべての情報を得ることが出来た。
〇エージェント道具解説。
・グリーフシード
…魔女が倒されると残す絶望を秘めたアイテムだ!
『絶望という悪夢を叶えようとする怪物、魔女が落とすオブジェだ。
エージェントの道具としては、今のところ魔法少女との交渉道具でしかないな』