芋虫のような魔女がノクスナイトを飲み込む。
マミは現実を理解できなかった。
別に小鷹賢政を、ノクスナイトを100%信頼していたわけではない。
だが、『この世の悪を撲滅する』という意志だけは本当であったらしく、彼は魔女も使い魔も本来全く関係ないはずなのに狩る姿を見て悪い感情も抱いてなかった。
何かきっかけがあれば仲間になってくれるかもしれない。
そんな期待がどこかにあった。
だが……
「あ……あぁ……」
自分を庇って丸のみにされたノクスナイトの武器だけが足元に転がっている。
動かなければ。
そう思うのに身体が全く言うことを聞いてくれない。
「ひっ!」
再び迫る魔女を遮二無二飛び退いて躱す。
その顔は恐怖に引きつり、武器を生成することすらできていない。
もうマミが戦えないのは誰の目から見ても明らかだった。
「このままではノクスナイトどころかマミまで死んでしまう。
まどか、さやか。僕と契約して魔法少女になるんだ!」
キュウべぇの声にまどかとさやかが目を見合わせる。
確かに今契約して2人がかりでやればあの魔女を倒せないまでもマミを連れて逃げることは出来るだろう。
だがその結果、ベテランのはずのマミさえあの様になりかねない戦いに一生をささげるのか?
そんな思考がさやかの頭の片隅をよぎったとき、
「わかった。契約する」
「ちょ、ちょっとまどか!?本当にいいの?」
「うん。ここでみんな死んじゃうぐらいなら、契約の願いで小鷹君を助けて戦ってみんなで生き残る」
「……あーもう!分かった。じゃああたしも」
「その必要はないわ」
キュウべぇと二人の間にマミが放り込まれた見ると落ちてたブレイカムバスターをキャノンモードにして構えた暁美ほむらがいた。
「ほむらちゃん!」
「転校生、あんた……」
「巴マミ、言ったはずよ。手を引けと」
ほむらはブレイカムバスターを構えると魔女との戦闘を続ける。
魔女は別に獲物がだれであっても構わないらしく、大口を開けて何度もほむらに突っ込むが、ほむらはまるですでに戦ったことのある滴下の様に的確に攻撃を回避してブレイカムバスターの光弾を当てる。
(この武器でもこいつを外側から撃ち抜けないのね)
そしてほむらが決め手を討つために武器を変えようとした時だった。
ふいに魔女が動きを止めた。
「え?」
初めてほむらの表情が驚きに染まる。
続いて魔女の眉間に当たる部分がまるでできものでも出来たように出っ張る。
そしてそのままそのでっぱりは角の様に伸びていき
<バリアー!バニッシュ!>
手刀に三角錐のバリアーを纏わせたノクスナイトが魔女の顔の上半分を貫き破って脱出してきた。
「小鷹君!」
「暁美っ!」
瞬時に状況を確認したノクスナイトはブレイカムバスターを手に持つほむらに声をかける。
「俺の武器をこっちに!」
一瞬迷ったほむらだったが、キャノンモードのままのブレイカムバスター投げる。
空中で受け取ったノクスナイトはバリアーと交換で外していたイレイスカプセムを武器のソケットに装填。
落下しながら照準を合わせ
「悪夢に……沈め!」
<ブレイカムキャノン!>
頭を再生させながら突っ込んでくる魔女に色のない光線が発射され、撃ち抜く。
そのまま背後の結界の壁にも着弾し、色のない炎が吹き上がった。
魔女はなおもノクスナイトを喰らわんと迫ってきたが、再び大口を開けるころには身体全身が色を失いボロボロと崩れ出していた。
魔女だった肺のようなものを全身で浴びたノクスナイトは敵の姿が完全に景色に解けるように消えたのを認めると擬装を解除した。
そして少女たちの方に向かおうとすると
「ん?」
今まで一度も起こらなかったことが起こった。
魔女が脱皮して捨てた皮が黒い蝶へと姿を変えて賢政の元へと飛んできているのだ。
「え?」
「なにあれ?転校生あんたなんかした?」
「わ、私はなにも……」
蝶は賢政を傷つけることなく彼の懐に集まってくる。
(まさか、これか?)
唯一の心当たりのヴォイドカプセムを取り出すと、すべての蝶はカプセムの中に吸い込まれていき
「これは!」
カプセムは今まで見たこともない形へ、回転させる中央のパーツの代わりに黒い正六角形のパーツが中央に付いた黒一色のカプセムへと変貌を遂げた。
「……まさか!」
小鷹はブレイカムバスターに姿の変わったカプセムをセットすると回転させる代わりに中央スイッチを押して技を発動する。
<ブレイカムバースト!>
剣先を地面に突き刺すと、崩れかけていた魔女結界が修復され、景色が塗り替わっていく。
悪趣味な絵本の中のような空間が、欠けた暁月の浮かぶ未来都市の真ん中の広場のような空間へと変わった。
広場の中央にはゴルゴダの丘で処された預言者の様に十字架にはりつけにされた長い銀髪の少女がさらされている。
「これって……魔女結界!?」
「今まで見てきたのと全然違うんだけど!?」
「まさか、魔女とは誰かが叶えてしまった悪夢で、カプセムにチャージされている力もまた悪夢の力だとでもいうのか?」
武器から外したカプセムのスイッチをもう一度押すと結界は解除されて元の病院の一角へと景色が戻った。
「……ミッション終了。帰還する」
「待ちなさい」
立ち去ろうとする賢政にほむらが声をかけてきた。
賢政が背を向けたまま視線を向けると、不機嫌さを隠そうともしない彼女は冷たく告げる。
「これでわかったでしょう?
不用意に絶望に触れたくなかったら、魔女から手を引きなさい」
「……それは組織の判断することであってエージェントの判断することではない。
コードナンバー:4はいかなる指令も完遂する」
「そう。せいぜいあなたの組織が賢明であることを期待するわ」
そうとだけ言うとほむらが先に姿を消す。
賢政も手に入れたばかりのカプセムを見つめながらその場を去った。
〇エージェント道具解説。
・カオスカプセム
…『悪夢の力を秘めたカプセムだ!』
『お菓子の魔女……というより、魔女その物の力を秘めたカプセムだ。
通常のカプセムとは構造が違い、回転させることは不可能。
中央部分にあるスイッチを押せば武器には使えると思う……』