エージェント、見滝原の夜を征く   作:伊勢村誠三

8 / 12
マミの悪夢に潜入せよ。(Dive into Mami's nightmare.)


CASE.8 染まる

お茶会の魔女の一件から一夜明けた今日。

俺は普通に登校していた。

残念ながらこの世界のあんまりにあんまりな真相が垣間見えたところで義務教育は待ってはくれない。

 

「おはよう小鷹……」

 

「おはよう美樹。やはりというべきか、夢見がよくなかったようだな」

 

「うん、最悪だった。恭介が無事だったことは、まあよかったけど。

あと昨日カプセルは返したけど、こっち返してなかったよね。あらためてありがとう」

 

俺は美樹から私用の携帯電話を受け取ると、聞いてみた。

 

「巴先輩はあの後どうだった?」

 

「一言で言うと、茫然自失」

 

「……だろうな」

 

俺ですら、魔女の腹の中に入った時のことを思い出すと怖気がする。

美樹に先んじてバリアーカプセムを返却して貰ていなかったら死んでいたに違いない。

魔女の消化器官(?)に溶かされる前にリカバリーで回復していただけではいずれミッションスーツを破壊されていたからだ。

 

「転校生のやつは、平気そうだけど」

 

美樹の視線の先には暁美の後姿がある。

何とでもないといわんばかりに彼女は登校している。

 

「なあ美樹。あとで授業のノート見せてもらえないか?」

 

「いいけどどうして?」

 

「俺は魔法少女と違って寝れば自由に動けるからだ」

 

俺は美樹を置いて先に学校に向かった。

 

-----

 

いつもいつも不思議なのだが、明晰夢を使ってミッションを開始するとかなり派手な格好になるにもかかわらず警官や大人に呼び止められたことはない。

こちらとしては都合がいいので、教室に置きっぱなしの肉体が起こされない限りは大丈夫なはずだが。

 

「ここだな」

 

以前調べた時に把握しておいた住所に辿り着くと俺はチャイムを鳴らす。

 

『……はい』

 

「小鷹です。巴先輩、開けてくれませんか?」

 

『入って……』

 

私服にこそ着替えれていたが、巴先輩は一目で弱っているとわかる様子だった。

 

「今お茶を……」

 

「お構いなく。昨晩は、眠れましたか?」

 

「見てのとおりよ、情けないわよね」

 

「死にたくないと願うのはあなたの根源だ。何もおかしなことではない」

 

俺の返しに目を丸くする巴マミ。

そしてあきらめたように笑った。

 

「エージェントって本当だったのね?調べたの?」

 

「暁美ほむらが明確に魔法少女として活動を開始したと思われるのが退院直後。

なので、もしかしたら九死に一生を得た者ほど魔法少女としての素質が高いと考えました」

 

「半分正解。

両親と出かけた先で、事故にあったの。

その時かろうじて息があったのも、契約できたのも私だけ。

家族の分も無事を願えるだえの余裕はなかった」

 

そこまで言って彼女は自身のソウルジェムを取り出した。

黄色かったはずのそれはグリーフシードを使っているにも関わらず暗い色になっている。

 

「悪夢が、夢を塗りつぶしている?」

 

「ソウルジェムは心と密接に関係しているの。

心が弱れば、汚れるスピードもどんどん速くなっていく。

死ぬのが怖いのと、もう一つ」

 

「これですね」

 

カオスカプセムをテーブルに置く。

 

「あなたがそれを使って作った魔女結界……真ん中にはりつけにされた女の子が居たわよね?」

 

「ええ。おそらく、彼女が叶えてしまった悪夢こそあの魔女」

 

「……あの子、ただの女の子なのかしら?」

 

「どうゆう意味ですか?」

 

分かっているでしょう?

と言って巴先輩は立ち上がって変身はせずに銃だけを生成する。

 

「もしあの子が魔法少女で、ソウルジェムが最終的に魔女を生み出すなら!

魔法少女はみんな死ぬしかないじゃない!」

 

立ち上がって止めようとする俺だったが、すでに仕込まれていたリボンが俺の身体を拘束する。

 

(くそっ!だったら!)

 

正直コンマ一秒の賭けだが、やらないよりはましだ。

俺は意識を浮上させると、教室が視界に入ると同時に眠りにつく。

今度の明晰夢での行先は現実と地続きじゃない巴マミ個人の夢だ。

 

「思った通りだ。

俺が夢に入ろうとすることで対象は夢を見ていないといけないから、現実の巴マミの肉体は眠る」

 

世界による矛盾の解消のために起こる事象、ブラックケースにより俺が潜入した先は……

 

「嘘だろう?」

 

明らかに魔女の結界の中だった。

周囲を見渡し、巴先輩と思しき人影を見つけたが、すぐに淵から落下したように倒れ消える。

 

「……俺は、俺はこの世の悪を撲滅するエージェント。

エージェントは、ミッション遂行をためらわない」

 

それの為だけに出自の怪しいこの力を受け入れた。

カプセムに封じられている物が悪夢かもしれないと思いながら、今日ここに来た。

迷うな。

これは、俺が叶えたい夢のはずだ。

 

「まだ夢現なら、俺が目覚めさせてやる。擬装!」

 

<インヴォーク・ナイトシステム!イレイス!>

 

擬装した俺はブレイカムバスターを片手に巴先輩を探す。

ひと先ずさっき人影が消えた方に向かってみるが、三つ編みの銃を持った使い魔に桃色のツインテールの弓矢を持った使い魔に狙撃され、銃撃戦になる。

 

(片方は明らか鹿目だが、もう片方は誰だ?)

 

俺は銃撃をしては隠れるを繰り返し、奥へと向かう。

先ほど人影が落下したように見えた場所には、グリーフシードが落ちていた。

 

(まさかとは、思っていたが……)

 

グリーフシードが孵化して中から魔女が出現する。

現れたのは、小さなお人形のような魔女だった。

出現させたリボンでマスケットガンを出現させてこちらを攻撃してくる。

俺は攻撃を避けながら武器を組み替える。

 

<カリバーモード!>

 

銃撃に拘束しようっと迫ってくるリボンを打ち落とし、斬り払う。

敵は魔女と化してなお手練れ。

カプセムを取り換えている暇はない。

俺はカオスカプセムを武器にセットしてスイッチを押し、引き金を引く。

 

<ブレイカムバースト!>

 

結界が、欠けた赤い月の悪夢に塗り替わる。

ホームを失った魔女は、居所を逸れた地縛霊のような物。

以下に素材が手練れの魔法少女と言えど、弱体化は免れない。

 

「悪夢に……いや、せめてこれからはどうか良い夢を」

 

<イレイス!>

 

カプセムを回転させてミッションスーツ全体の性能を引き上げ、敵の弾幕を突っ切る。

片腕で武器を構えて顔と胸を守りながらもう片方の腕でベルトを操作する。

 

<イレイス!フェイタル!>

 

飛び上がり、中空にいるのを狙って飛んでくるリボンを斬りながら重力に任せて肉薄。

人形のような姿の、巴マミの魔女の脳天に武器を振り下ろす。

破壊された魔女方出現したグリーフシードの形は、巴先輩のソウルジェムに似ていた。

手元を見つめていると、ふいに影が差す。

見上げると、銀髪の少女の隣に磔にされた巴マミがいた。

彼女のうつろな瞳から流れ出た真っ赤な血がしたたり落ちて地面に触れると蝶に変わる。

蝶は俺の手元に集まると、カオスと同型のマゼンタのカプセムへと姿を変えた。




〇エージェント道具解説。
・ガンカプセム
…『悪夢の力を秘めたカプセムだ!』
『お茶会の魔女……いや、巴マミ絶望の悪夢を秘めたカプセムだ。
カオス同様通常のカプセムとは構造が違い、回転させることは不可能。
中央部分にあるスイッチを押せば武器には使えるので、彼女が使えた魔法を一通り使える。
……鹿目たちになんていえばいいんだ』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。