昼休み、小鷹賢政の姿は屋上にあった。
お茶会の魔女を倒して以降、再び眠りこそしなかったが授業は完全に上の空。
まどかたちに会う気にもなれず、ふらふらと街を彷徨い、気付けば日が暮れようとしていた。
「……」
賢政の手にはずっと二つのカプセムが握られている。
リカバリーとガン。
もしかしたら、リカバリーカプセムの力ならばガンカプセムから巴マミの魂を解放できるかもしれない。
だが、魔女となった魔法少女とは生きている状態なのだろうか?
綺麗な死体が出てくるだけならやるだけ無駄かもしれない。
それにそもそもの話、ヴォイドカプセムが魔女の残骸や倒した魔女を内包してこの中央にスイッチのあるタイプのカプセムに変質しているということはイレイスもリカバリーもバリアーも内包しているのは魔女と化した魔法少女、またはそれと同質の何かなのではないのか?
そんな思考がグルグルと頭を周り、出口のない袋小路に入りかけた時だった。
「あら、小鷹さん」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、目に光のない同い年のお嬢様と
「待って仁美ちゃん!え?小鷹君!?」
桃色の髪の少女が来た。
「志筑に、鹿目……随分と、夢現な様子だな」
「そう言う小鷹さんこそ、随分悩んでいるご様子……でも大丈夫ですわ。
これから向かう場所でなら何にも悩むことはありませんわ」
「……」
俺は不安げにこちらを見つめる鹿目に、小鷹はナイトインヴォーカーを取り出し、
「是非、案内してもらおう」
装着せずに仁美の案内に従った。
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「小鷹君、大丈夫だよね?」
「……」
不安げに尋ねる鹿目の顔を、今の俺は見れなかった。
今までは気にしたことはなかったが、俺はこれ以上擬装していいかどうかわからなくなっていた。
一応案内された廃工場に着いた時点でナイトインヴォーカーを装着してブレイカムバスターを取り出しはしたが……。
「鹿目、離れるなよ?」
「うん……」
進めば進むほどに、志筑と同じ夢現な状態に……魔女の口付けによりターゲットとしてマーキングされた人間の数が増えてくる。
見渡すとざっと二クラス分ほどの人数が集結していた。
そして二人の男がバケツと、大きいペットボトルのようなものをもって一段高くなっているところに上がる。
「あれって!」
「どうした鹿目?」
「あの洗剤、混ぜちゃダメ!」
「塩素ガスか!」
魔女は大規模集団自殺という悪夢を叶える気らしい。
俺より先に気付き、一足早くついていた鹿目が俺から見て右の男から引っ手繰ったバケツを窓の外に投げる。
俺は左の男を思い切り蹴飛ばした。
向上の内側と外側で派手に水をぶちまける音がする。
「鹿目、走るぞ」
自殺は止めたが、魔女の影響は止めていない。
一度バリアーカプセムで閉じ込めてイレイスカプセムを使うという手もあったがこの人数にいちいちそれをやっていてはキリがない……いや、嘘だな。
今の俺は、カプセムを使うことを怖がっている。
「小鷹君結界が!」
逃げに逃げ続けていると、まるで視界が波打つように揺れ始める。
どうやらマーキングできていない俺たちを結界に引き込んでいs松するつもりらしい。
「なら!」
俺は、イレイスカプセムを取り出すが背後から現れた使い魔に取り押さえられ捕まってしまう。
「小鷹君!」
「なんとか出口を探して暁美を呼べ!」
なんとか鹿目に救援を呼ぶことだけは伝えられた俺が放り込まれたのはブラウン管テレビが浮かぶ不気味な空間だった。
『本当に、なんでも願いが叶うの?』
映ったのは、どこか母や従姉に似た面影の少女とキュウべぇだ。
「これは……」
『ああ。なんでも叶うとも。
その代わり君は人々に絶望を振りまく魔女と戦う宿命を背負うんだ。
■■、君の願いはなんだい?』
名前の部分は聞き取れなかったが、映像は問題なく続く。
『おじいちゃんみたいなお医者さんには、なれそうもないけど……せめて、誰かを助けて暗闇から救えるような私が欲しい!
でもそれは私が魔法少女になることでかなっちゃうから、どこか別の世界で私と同じお父さんとお母さんが生まれた子が私と同じ願いを抱いたら、それが叶うようにしてあげて!』
『契約成立だ。
君の願いはエントロピーを凌駕するよ。
今日から君は、魔法少女だ!』
場面が変わる。
恐らく先ほどの映像で契約したと思しき彼女が黒板の前に立っている。
『見滝原から来ました!
小鷹■■です!よろしくお願いします!』
「小鷹?彼女の願いは、いやまさか!」
俺の想いとは裏腹に、映像は続く。
転校先の魔法少女たちと、彼女は出会った。
相変わらず名前は聞き取れないが、映像を見る限りとても楽しそうだ。
金髪の薙刀使いは巴マミのようなベテランらしく、共に生徒会の業務や連携を相談していた。
長い桃髪を二つ結びにした大鎌使いと一緒にゲームセンターでダンスゲームのスコアを競った。
緑髪の大人しそうな探知魔法持ちと学校帰り買い食いをした。
青髪のチーム一番の生真面目が水泳部で大会に出たのでみんなで応援に行った。
普通の少女としても魔法少女としても充実した日々。
そんな中、彼女と青髪が何時ものようにパトロールをしていると、見覚えのない炎を使う魔法少女が現れた。
『あなたの名前、教えて』
警戒する青髪をなだめて、俺と同じ苗字の少女が名乗る。
相変わらず下の名前は聞き取れなかったが、炎の魔法少女には聞き取れたらしい。
『サヨナラ』
剣が振るわれる。
初撃はどうにかあった。
彼女の影を操る魔法を使って動きを封じることが出来たからだ。
そう、影だ。
炎でたやすく照らされて消える影だ。
すぐさま拘束を抜け出した炎の魔法少女が彼女を袈裟斬りにする。
『■■!』
『逃げて!』
半分振り向き、精いっぱいの声で叫ぶ。
だが次の瞬間には、涙と後悔を張り付けた相棒の顔を焼き付けて彼女の意識は闇に落ちた。
そして映像が切り替わる。
『賢政はどうなんだ?』
『駄目だ。あいつに務まるとは思えない。
兄貴のとこは女の子しかいないし、玖門に借りを作ることに……』
幼心に理解していた自分に対する期待とそれが裏返った落胆。
そんな中でも遊びに行けば頭を撫でながら親父が見ていた古い映画のビデオを引っ張り出して一緒に見てくれた祖父。
白衣を翻し仕事場に向かう姿は本当に格好良かったから、余計に申し訳なかった。
それでも、せめて誰かの役に立てる人間になろうと夢見て、祖父が見せてくれた映画の主人公のようなエージェントになる明晰夢まで見始めて……いつしか、夢見たエージェント道具が現実にあった。
最初はこれも夢かと思ったが、夢の中で戦うたびに現実で起こる不可解な事件が減っていくのを見るたびにそれを受け入れ、自分に酔っていった。
俺は夜を征き、夢を彷徨うエージェント。
与えられたミッションはこの世の悪の撲滅。
「……道理でカプセムに魔女の力を封じれるはずだ」
なんと滑稽だろう。
奇跡と思ってたすべては用意してもらっていた運命だったのだ。
若くして仲間を守って死んだ……手放しで褒められないかもしれないが、少なくとも立派な人間に。
ますます分からない。
カプセムとはなんだ?このベルトは?そもそも本当に極秘防衛機関はあるのか?
ぐるぐる考えていると、気付けば俺は魔女と使い魔に囲まれていた。
ここまで来て、俺はベルトもカプセムも使う気になれない。
「こんな、全部贋物で借り物の力で何ができる?」
使い魔が迫る。今度もは明確に攻撃する気だろう。
それでも俺は
「そりゃあああーーー!!!」
動けずにいると、白いマントの魔法少女がそこにいた。
「お前……」
「マミさんだと思った?残念!さやかちゃんでした!」
〇エージェント道具解説。
・ナイトインヴォーカー
…『CODEの開発した夢に潜入するエージェント用のシステムだ!』
『俺が擬装に使うベルト型アイテムだ。
ベルトと聞いて連想する一般的なイメージとは違い、胸にかけるようにして使う。
今のところイレイスカプセム以外に擬装で使えるカプセムはないが……』