――Side 頼久
「はじめまして……のほうが良いですか?頼久君」
「どっちでも? オレが認識阻害して綾小路清香とチェス勝負してたのをマジックミラー越しに見てた坂柳有栖さん」
その言葉に何故か嬉しそうな顔をする坂柳。
「人を超えた存在。天才と持て囃された者たちを赤子のようにモテ遊べる超越者。貴方に会える日を楽しみにしていました」
「えぇ……(困惑) かえっていい?」
「ダメだ」「気持ちは理解できるけど、有栖のワガママにもう少し付き合ってもらえないかな」
父が辛辣で、理事長が優しい。
逆だったかもしれねぇ(こなみ)
オレは理事長室のソファーに腰を据える。
「んで、何の用で?」
「綾小路……いえ、今は綾川清華さんでしたか。貴方たちと何処かで戦わせてもらいたいと思っておりまして」
「……ホワイトルーム最高傑作が錆びてないか、あるいは人造の天才を否定したいがためか?」
「清華さんについては概ねそうですね。それはそれとして良くて引き分けになるであろう貴方という壁の大きさを、今一度知りたいと考えていますので」
微笑を浮かべる有栖。
「頼久、わかってると思うが」
「いや、肉体に致命的問題あるやつに肉体負担あるような戦いふっかけるほど落ちぶれた覚えはねぇよ」
「それはそれとして、お前なら治せるだろう?」
「できるとして、双方デメリットがでかいんだが?」
オレの言葉に坂柳父娘が目を丸くした。
「世界の名医すら匙を投げた私のこの身体、どうにかできるので?」
「方法を聞きたいものですね」
食いつきがすごいが……
「言葉にすれば簡単だが……問題ある箇所にオレの細胞を定期的に植えつけるだけだ。やってることは自転車の補助輪や支え技みたいなもんだな。オレの細胞が最初は全面補助しつつ、十数年計画で同化し、健康な肉体に段階的移行されていく。そういう代物だ」
「我々黄金の獣の系譜の細胞を入れるのです。人類の上澄み程度の身体能力は得られますが……少なくとも完治するまで愚息に縛られることになるでしょうね」
「「……」」
考え込まないで?
「それは黄金の獣の系譜の細胞なら誰でもできるので?」
「いいえ、今のところ相性制約がないのは頼久と総帥の2人だけです。ソレ以外は相性があり、拒否反応が出る場合もあります」
「成功例は?」
「総帥が16世紀、19世紀、そして数年前に治療を開始したものを合わせ6ケース筆頭に数百件。頼久の方は身内で1件、とある治験のためいくつかのホスピスや治療の必要な重罪人で数百件ほど検証中で、いずれも完治あるいは経過観察で快方に向かってると診断がされています」
「……失敗例は?」
「同数ほど。そのうち半数は回復中に移植細胞を拒絶して絶命しています。残りは初回移植で拒否による自己破壊と寿命や別の原因による病死に移植拒否により、症状悪化での死亡等です」
「……前向きに検討させてもらっても?「有栖!?」」
有栖の言葉に理事長が立ち上がる。
「実質的にオレに縛られることになるし、植えつけるために定期的に施術部位に触れる必要があって痛みも伴う。父親としては娘の身体好き勝手されるわけだし、嫁に出すよりキツイと感じてると思うが」
「賢過ぎて父の肩書なければ貰い手もなく、脆すぎて愛玩もこなせない病弱な小娘であるよりはマシと思いますよ」
自虐的な様子の有栖。
理事長の顔を見るが
「……娘が決めたなら、私はそれで構いません」
凄く険しい顔をしつつそう告げた。
「気持ちはわかった。だがこっちもこっちで中間テストのクラスメイトケアの真っ最中なんだ。それが終わったら治療を開始する。あと治療期間中はバイタル確認のためにこまめにオレのところに来ること。それが条件だ」
「わかりました」
「施術のためにPP支払い等は?」
理事長が問いかけるが
「本音では貰いたいが、ソレやると嗅ぎ回られて叩かれた時に追撃材料にされかねないから要らない」
オレは理事長が何かの理由で一時不在になるのを思い出して止める。
「……父親として、感謝しますよ」
「代わりに外部から清華の身柄について調べ回るやつや面会交渉が来たらこっちに連絡してからにしてほしい。清華は『天涯孤独』だからな」
「ええ、ソレくらいお安い御用です」
こうして、坂柳有栖治療プロジェクトと引き換えに、保険を1つ手に入れたのだった。
コレで勝負云々うやむやにできたら良かったんだがな……。
とか言ってる間にいい時間。
理事長室出て端末確認すると、勉強会初日は(山内と池不在以外)特に問題なく終わったと清華から連絡来ていた。
須藤から大丈夫か?
という連絡も来ていたが、主語が無くて何が?と返したくなったのはここだけの話。
さて、テスト範囲の再確認からのヤマ勘集バージョン1.1を作りますかね。
「須藤、勉強会に行ってたのかよ」「フェナスエリア見に行ったんだが、すごかったぜ!?」
「お前ら赤点で退学するかもって危機感ねぇのかよ!?」
翌日教室についた頃、そんな声が聞こえてきた。
前者2人は山内と池で、後者は須藤だろう。
オレがチベットスナギツネ顔になり、清華がため息吐いて、恋が顔を伏せる。
トキは何時ものポーカーフェイスで桔梗が笑顔で握り拳を作っている。
教室に入ると須藤が怒りゲージ上げつつ山内と池に食って掛かっている。
「幾ら凄かろうと退学したら意味ないし娯楽施設ばっかなんだ「CP稼いで貢献してないやつに言われてもなぁ」何?」
その言葉にクラスの過半が端末からCPを確認する。
Dクラス 25ポイント
「ARアリーナってところでポケ◯ンや遊☆◯☆王のAR版がプレイできて、オレと池がそれぞれのマスター帯に最速到達したとかでCPもらえたんだよ」
「リアリティあって迫力あるし、しかもレート戦は勝てば数千PPもらえて、負けても挑戦料だけ。おかげで懐あったかいんだよなぁ」
どうよ、と自分の残高を見せつける2人。
ふむ、どちらも12万は稼いでるな。どんだけやったんだ?
「なにそれ」「稼げるってこと……?」
ざわめくクラスメイトたち。
「ソレにSシステムなら成績すら「買える」らしいし、アリーナで稼いで楽して退学回避させてもらうぜ」
「まあ、1~2ヶ月ごとのシーズン最速のCPボーナスだけオレは狙って、あとは勝てそうな時にポイント稼ぐくらいでオレは行くけどな」
おや、山内と池で反応が別れたな。
「貴方そのARアリーナ?ってのでPPやCP稼げることは聞いてるの?」
しれっと鈴音が問いかけてきた。
「聞いてないな。昨日ドナドナされて理事長室で会ったけど殆どの会話なかったし」
「……そう」
「あとソレでCP稼げるなら、最終ランキング1位とかでCP出すだろうな、ゲルマニアグループのスタンスなら」
総帥ならやる(確信)
「ってことだから、オレは勉強会パスだわ。アリーナで荒稼ぎして、楽して退学回避させてもらうから」
山内が言い終わるくらいに先生が入ってきて、話がそこで中断されたのだった。
そして放課後の勉強会だが……
「昨日より人が少ないな」
清華がそう零す。
図書室のことか、勉強会参加者か……両方だな。
前者はフェナスエリアに足を運んでいるのだろう。
後者は……ARアリーナだろうか。
ちなみにPPに困ってタカリしてた軽井沢やその取り巻きとかが平田側では不在であり、こちらは松下や男子数名が不在である。
須藤+数名は継続して参加、それと池がこちらに参加している。
しかし池は……確認するか。
「アリーナ行かなくていいのか?」
「稼ぎすぎたし、成績が買えるとかアリーナスタッフの眉唾話を鵜呑みにして退学になったら目も当てられないからな。買えるとしてもたぶんテストの1点数十万PPとかになる気がするし」
オレの言葉に池が冷静に答える。
浮かれてるように見えて、地に足が着いてるようだ。
「参加する意思があるなら何も言うまい。さあ、勉強会を始めようか」
須藤は文系基礎を清華に任せてオレは池や男子の面倒見るとするかな……。