――Side 頼久
フェナスエリア開放とテスト勉強会が始まり約一週間。
つまりテストまであと1週間である。
「学校からの通達により、急遽テスト範囲が変更になった」
茶柱先生の言葉に生徒がざわめく。
「範囲がガラッと変わって申し訳ないが、コレも試験というものだろう。詳細は後ろの掲示板に張り出しておく。以上だ」
通告なので一方的だが、茶柱先生からのありがたい言葉はとりあえず終わった。
「殆ど被ってないな」
「ヤマ勘集全滅……」
「代わりに恋と清華が作ったつまづきやすい復習用のやつに少し被ったな」
「普通に先輩が作ったのも役に立つレベルだと思うけど……」
掲示板確認してオレたちは見解を述べる。
桔梗の慰めは嬉しいが、須藤や池が不安なラインに逆戻りである。
「マジかよ覚え直しか……間に合うのか……?」
「この1週間弱で多少勉強マシになったと思うが……うーん」
遠い目をしてる須藤と池。
「須藤は、積み上げの足元がしっかりしてきたから、赤点回避は……何とかなると思う。池も、何とかなる……はず」
「そのために2人に私や鈴音、恋が交代でマンツーマンしてるしな」
「「本当に助かります」」
恋と清華の言葉に頭下げる2人。
うーん、念のため布石打っておくか……。
「ほう、私に600万PPを預ける、と」
茶柱先生、腕組んで胸強調しないでよ吸い寄せられるから。
っと現在放課後の相談室。
茶柱先生と二人っきりである。なお色っぽい雰囲気ではなく、悪徳商人と悪代官の密会のソレなのは少し悲しい。
「ええ、もしうちのクラスの誰かが赤点になった場合、匿名という形で点数購入時の代行等をしてほしくて」
「あしながおじさんでもなりたくなったか?」
「3年間続くであろう試験の初手で躓いて、失敗体験から始まると、あとが面倒そうですし。……先生が側にいる他の試験でPPを使えれば何かと便利かなと」
「担任をATMにするか、いい度胸だな?」
「『PPで買えないものはない』が『PPを引き出す方法がない時があるかも』と思って預けて置くだけです。もし当たってるなら、その時ソレを使えば有利になるかなって睨んでるだけです」
「逆に言えば私が居ないと預けた分は使えないぞ、いいのか?」
「差し引いても400万弱あるんで問題ないですね……」
「ふむ、そこまで言うなら良いだろう」
オレがPP預けると茶柱先生は頷いた。
「確かに預かった。一先ずは赤点生徒救済などに割り当ててやる」
「赤点生徒が出ないことを祈りますよ、本当に」
「げっ」
諸事情により、寮のエントランスでボケーッとしてたらなんか声がした。
振り向くと――そこには幸村がいた。
「「…………」」
幸村がエレベーターの方に向かおうとしたのでディーフェンスしてみる。
「……邪魔するな!」
「本当に申し訳ない(ブレイク博士ボイス) しかし……本当にこのままで良いのかい?(CV大塚明夫)」
「……どういうことだ」
オレの言葉に動きをとめる幸村。
「学校とは集団行動を覚えさせる場所という側面を持っている。ぶっちゃけ個人で何とかできるなら高卒認定とって、さっさと大学行くなり、就職するなりしたほうが早いからな」
「……」
「勉強以外……協調性や連携、同時に集団での競争や社会に出る前にできる人間関係構築の予行練習。それと本人の苦手とも向き合うことができるチャンスでもある」
「それは……そうだろうな」
「あと、学校ならあるであろう体育祭とかのイベントで……お前須藤あたりに言われるだろうな。『なんで足手まといをフォローしないといけないんだ』とか」
「!!」
幸村は自身が言ったのと似たような言葉にハッとする。
「平田の方に行くのはキツイだろうが、オレの方ならオレや桔梗、清華で反論ねじ伏せるから何とかなるだろう。面倒くさいが将来後ろ指さされたとき、窮地に陥ったとき、誰かに助けてもらう可能性……あげたほうがよくないか?」
「……わかった」
何とか丸め込めたな、ヨシ!
それはそれとして……
「お前さん頑張れば肉体面でも得意分野なら上の中以上くらいいけるスペックあるんだ。勉強すれば上の中狙えそうな須藤と相互補完し合えば互いを高め合える最高のバディ組めそうだ」
「すぐ手が出そうになるアイツが?」
「アイツがアクセルならお前がブレーキ。アイツが運動の師ならお前は勉学の師をやる。相互補完し合えるはずだ」
「……違うもの同士で化学反応か」
「授かりの英雄か与えられるのが当たり前ならともかく、オレらに一方的施しされてあんまりいい気分じゃないだろ。持ちつ持たれつ、そのほうが案外長持ちするし、困ったとき意外と助けてくれるだろうさ」
「……自分の勉強の時間は取った上で、余力で教える」
「須藤もたぶん、体育祭の直前にはそう言ってくれるだろうさ」
「……余裕あるからもう少しリソースを割くか」
2人が鏡合わせになってくれるだろう。
互いに高め合いができる……はず。
あとは見守るだけだな。
「で、何の用だ?」
オレは寮で忘れ物回収して図書室の勉強会に向かう途中、軽井沢に捕まった。
幸村のことは清華に伝達済みだから問題なかろう(丸投げスタイル)
今日はイベントてんこ盛りだな。
コイツが単独行動してるの初めて見た気がする(スゴク失礼)
とりあえず空き部屋で話を聞くことにしたのだが……。
「アンタ付き合ってるコ居ないって言ったけどまだそうなの?」
「そうだな。清華、恋、トキ、桔梗は実質ハーレムのメンバーだしな(囲い込まれてるのはオレだけど)」
「なっ!? 不潔極まりないわね!」
「愛の形は人それぞれだ。4人も(自発的に妾ポジ同盟が締結したし)オレも(妾ポジ同盟の要として白紙の契約書にサインさせられた状態だが)誰も文句言ってない。先生も黙認してて、不純異性交遊にも該当しないと学園からお墨付きも貰ってる」
「……!?」
目を丸くする軽井沢。
「で、だ。お前はなにしに来たんだ?オレに嘘告白の罰ゲームでも「違う!」ならなんだ?」
罰ゲームで過敏に反応する軽井沢。
「……アンタに寄生しようと思ってたの。彼女居ないなら、そのポジションにって……。そうすればアンタについてきてる神裂や綾川、飛鳥馬を取り巻きにできると思ったから……」
あれ、なんか原作だと夏休みあたりでゴタゴタしてなかったっけか?
ソレはそれとして……
「お前平田はどうした。彼氏だろ?」
「彼氏のフリしてもらってるだけ。本当は付き合ってない……」
オレがため息を吐くとビクッとしてこちらをうかがうような顔をする。
「そこまで誰かに寄生して他の相手に高圧的になる理由を話すか、清華たち4人と話し合いして認められたらオレの妾ポジの1人に入ってもいいが……」
「妾……」
「黄金の獣の系譜は内縁の妻持ちそれなり以上にいるからな。それに正妻ポジは苦痛極まりないぞ?世界首脳とかのファーストレディ然り、王配然り、一挙手一投足を注目されるの知ってるだろう?他にも理由があるが、知らないほうが幸せなこともあるってことだ」
「……4人と話し合いさせてくれる?」
オレは端末から4人にメッセージを飛ばしてOKをもらう。
「夜、20時くらいに桔梗の部屋に行ってくれ。そこに清華たちがいる。オレはそこにいないから助けも邪魔もしないしできない。4人が認めたなら、受け入れる。受け入れたら筋を通ってないなら筋を通させるが、理不尽からは守るよう動くのは約束してやる」
「……わ、わかったわよ……」
「あと、肉体関係は持つかはそっち次第だ。こっちからは強制しない。4人にとってアレはストレス発散と身体的接触しよる精神ケアだからなアレ」
「〜〜!」
オレの言葉に顔を赤くして去っていく軽井沢。
さて、仕事しますかね。
幸村参加の勉強会は最初困惑されたが、清華が先に反論を潰したらしい。
色々渋ってた須藤には幸村と真逆の立ち位置だと教えたのだが……。
なんか「勉強出来ないから教えてくれ!オレもお前の運動が得意になるよう、手伝うからよ!」と言いだした。
そしてわからないところがどうわからないかをなるべく具体的に伝えようと奮起しはじめる須藤。
……とりあえず好転してるからヨシ!
「あの……千手……君……」
図書室での勉強会をきり上げるいい時間になったので解散宣言して片付けを始めたところ、そっと袖を引くとともに、佐倉が声をかけてきた。
「ん?どうした?」
「勉強会入れてくれて、ストーカー事件解決してくれて、ありがとう」
「どういたしまして?」
「あと……その……これ……返さなきゃって……」
バッグから未開封の電マの箱を取り出す。
「そういえば持たせっぱなしだったな。まあそのまま使ってくれてイイんだけど」
「えっ!? それって……」
顔真っ赤で蒸気出そうまで至ってる佐倉。
「いや、肩こりとか普通に使えばいいと思うんだけど……」
「えっ?あっ!? そそそそうだよね!」
うーん、この(確信犯感)。
「……オレは買って渡したけど、使い方についてとやかく言わんし、たとえ壊したとしても怒らないよ。もし壊されたら悲しいモノ渡した時とかなら先に言うしな」
そう言って佐倉のバッグの中に電マの箱を押し戻す。
「そ、そうしたら、お礼とか、何かしてほしいこととか、ない?してもらってばっかりで、お返ししたい……」
これぞ倫理観と善性故の返応性の法則!
……いや、オレとしては別にイイんだけど……いや、それなら……。
「なら、その伊達眼鏡外して学校に来るとか……」
「それ……は……」
注目されたくない気持ちとお礼で揺れ動く佐倉の瞳。
さすがに駄目だな。
「無理言ったな。代わりにここで1枚、眼鏡外してオレとツーショットしてくれるか?」
「そ、それくらいなら」
頷いて眼鏡を外す佐倉。
オレが肩に手を回し抱き寄せて密着ツーショット。
「はわわ」
顔真っ赤である。
……無理させすぎたかな。
「佐倉にも送っておくよ。とてもかわいい顔見れてよかった」
「ありがとうございましゅ……」
そのあとおぼつかない足取りの彼女を部屋に送り届け、送り狼を我慢して鍵かけるまで確認し、自分の部屋に戻る。
「いや、もう押し倒したら?」
「生殺し……」
「わざわざ私の部屋で軽井沢と面談にしたのに……」
「優しくしたりして惚れさせるくせに、なかなか手を出さないので暴発するの、逆レ通報事件から学んでませんね……「私は反省してるからね??」」
部屋に戻って寛いでいたら部屋に戻ってきた清華、恋、桔梗にトキから辛辣な言葉投げつけられて満身創痍なオレである。
「それはそれとして、軽井沢の方どうなったんだ?」
「『被害者にならないために加害者になろうとしたら止める。もし私たちの知らないところで揉め事起こしたらケジメはしっかり取らせる』とかそのへんの釘刺しした上で認めたよ」
「高圧的に振る舞ってる理由的に、勉強方面は伸びしろあると踏んだし、場を支配する才覚の片鱗を感じたのもある」
「あと……桔梗と軽井沢で、クラスの女子の手綱握れると思ったから」
「それとCクラスで王座に君臨した龍園という男について、Cクラスのチョウジから聞いた限り、軽井沢が須藤でCクラスと揉め事起こさせるつもりで何やら準備始めたらしいので、御主人様が手を付けてることを伝えて軽井沢ルートの抑止が望ましいかと判断した次第」
「なるほどな」
利害得失踏まえた判断とかもしてるようなのでよし、と頷く。
「ちなみに今からなら軽井沢を呼びつけられますがどうします?」
「先輩を何処か舐めてるから、わからせしておくべきかなって」
「……手を出す予定はなかったんだがなぁ……」
オレの言葉にトキがすかさず呼びつけの連絡をする。
チャイムがなるのはそれから間もなくのことだった……。