――Side 頼久
アレから数日後の放課後
「お前が、龍園か」
「はじめまして、だな。黄金の獣の後継者さんよ」
ケヤキモールのカラオケルームにて、オレはCクラスの中心人物である龍園と顔合わせしていた。
山田アルベルトだっけか。
ソイツが出入り口でこちらが退出できないように立ちふさがった。
「それで、何の用だ?」
「何、Dクラスと揉めてる件だ。こっちとしてはお前の態度によっては穏便な示談にしてもいいと思ってな」
「それはすごい。……が、普通クラスの取りまとめしてる平田か櫛田と交渉するべきでは?」
オレが乗ってこないことに対して微かに眉を動かすが、余裕の表情を浮かべたまま続ける龍園。
「『自分は代表をさせてもらってるが、長として全て決める立場ではい』、『実質的リーダーは千手で自分には交渉のテーブルにつく資格なし』と袖にされたからな」
平田はともかく桔梗は面倒くさいから投げたやろコレ。
やはり鈴音育成計画でリーダーに育てねばならないか……。
「……で、Aクラス目指すつもり皆無のオレにどんな示談という名のふっかけをしたいんだ?」
「好きなのを選べばいい。1つ目は『DクラスからCクラスへ200CPの割譲』。クラス間の揉め事の場合、CPをクラス間合意が取れれば移動可能なのは裏取りしてある。2つ目は『1年生の間の十か月相当、茶柱が担任してるクラスから生徒1人当たり1万PPとして累計430万PPを坂上が担任のクラスへ支払う。支払い方法は一括か分割は問わない』、だ。3つ目は『1年生の間各種試験やPP、CPの動く案件について、こちらの指示に従うこと』だ。何れかを飲むなら裁判を取り下げてもいい」
Dクラス、と言わなかったのは、CPによるクラス変動で言い逃れされないようにかな?
「吹っかけたな」
「譲歩してる方だぞ? 須藤とかいう暴力野郎の退学の方が良かったか?」
余裕を見せる龍園。
「証拠があって逆転されるとは思わないのか?」
「監視カメラもない、当時周辺にはCクラスの奴がそれなり以上に居て、3人と須藤以外あの階段付近に居なかったとオレは聞いてる。それこそそんな映像がでたなら『不正なことをして手に入れたか、捏造した』以外ありえない」
「ふむ……手詰まりかな?」
手札は切らずにそう返すと龍園は笑みを深める。
「欧州最大の権勢を誇るゲルマニアグループ総帥の後継者なら、賢い判断ができるはずだ。違うか?」
「いやオレ的にあんな過労死不可避枠を押し付けられたくないし、それなら寧ろアホやらかして後継者枠から脱出できる方選びたいんだが?」
オレの言葉に龍園の思考が止まったのか部屋の音が止まる。
「……何言ってるんだお前。欧州、そして世界規模で経済牛耳る怪物複合企業の総帥の後釜がいらないってのか!?」
「黄金の獣の系譜全員、『グループとして働くのはいいが、総帥の跡継ぎは絶対に嫌だ』で意思統一されてるぞ、知らないのか?」
雑誌とかでインタビューされてるやつ口揃えて言ってるはずだが、と言うと何故かワナワナとし始める。
「届く高みに手を伸ばさないのかお前たちは」
「憧れは理解から最も遠い感情であり、遠くから見た楽園は、案外地獄だったりする。ただそれだけだ」
「――!」
絶句してる。
「それはそれとしてふむ……別にオレとしてはどれ選んでもいいが……須藤は悪くないのにひどい目にあうのは看過できないからなぁ……」
山田の端末らしきものが部屋の隅でこちらにカメラ向けてるのが今更見えた。
コレ一括で支払うとそれを理由にクラスの面々やらに集られそうだし、CP減らすとAクラス目指す面々のやる気大幅減少、1年生中命令に従うのは論外。
裁判で殴り合いしても束の映像あれば勝てるが、同時にプライバシー云々で揉めかねない……。
いや、逆に好都合か。
「600万PPの一括即決を条件にそっちには『千手頼久が必要と判断した場合、【ジャッジ】を呼び出すことに坂上担任の所属するクラス全員賛同する』を飲んでもらおうか」
「!?」
「総帥が作り出したゴーレム【ジャッジ】の前では総帥ですら真実を自白せざるを得ない。コレを飲んでもらおうか」
ある意味裁判所泣かせの最強の調停者であり、虚偽を語らせず、真実を強制的に吐き出させる強制自白装置。
主に欧州で猛威振るっており、コイツが出てきた時点で良くも悪くも全てが白日の下に晒され、相応しい罰が下される。
ちなみにちゃんと国や地域に対応してるし、被害者側の嘆願等はちゃんと聞いてくれるあたり完全な被害者からは『キッチリ裁いてくれる最高の裁判官』と言われてる。
なお複数体いてそこそこの稼働率なのでまあ余程がなければ召喚できるだろう。
「どうする? 悪いことしないなら君たちは想定以上のPPが手にはいる。 後ろめたいことする予定……なければメリットしかないよね?」
「……良いだろう」
顔をしかめる龍園。
そして契約書をその場で作成。
「んじゃ、契約成立っと。コレで入学最初に渡されたPP枯渇しちまったよ全く」
サインしたあと、端末操作して送金。
ちゃんと履歴も残る。
「ククッ、嘘つきめ」
「おいおい、当日特別棟にはCクラスは3人しか出入りしてないのに法螺吹いたお前ほどじゃあ、ないけど?」
「そういうことにしておこう。――おい、アルベルト。お客様のお帰りだ」
龍園の言葉にうなずき、山田がドアから離れて退出を促してきた。
「暴君ではあるがどちらかと言うとスジモンの親分に近いか。暗君ではなさそうで安心した」
オレはそう言うとそそくさと去ることにした。
――Side 須藤
「どうやらそちらの紋章持ちさんは太っ腹のご様子。君のために600万PPで示談してくれましたよ」
放課後直ぐに頼久がいなくなったと思えば、Cクラスの生徒が数人でやってきて、龍園と頼久の会話を通話で聞かせてきやがった。
「……クソっ」
「いや寧ろコレで何かあったときあの強制自白装置を呼び出せるようになったから、後ろめたいことしない限り、私たちにメリットしかない」
「ん、入学するときに総理から色々縛られて、ジャッジ呼び出しも縛られてたから……コレで色々と牽制できる」
「…………えっ?」
綾川と神裂の言葉に、金田とか言うCクラス男子が間の抜けた声をこぼして、同行していた奴らもざわめいている。
「『高育に在学中、ジャッジ呼び出しには召喚に賛同する同学年生が30名以上必須』って縛りかけられてるこちらとしては、600万PPで御主人様だけとはいえ、必要な時にジャッジ呼び出せるようになったのはかなりメリットがありますから」
「……!?」
……コレもしかして、オレのいざこざを使って縛りの枷を壊してたってこと……?
でもオレの暴力未遂事件は示談という形でもみ消されたし……いや、示談成立って半ば認めたようなもののはずでは……?
ちょっと頭の中でぐるぐると考えが巡っていく。
「須藤。予想外のふっかけされたから上乗せ金額で財布ギリギリになっちまった。次回のテストで赤点取って退学とか勘弁してくれよ?」
いつの間にか頼久が教室のドアに背を預けていた。
「……いや、圧倒的不利で手詰まりだったし、オレとしては退学とかの懸念がなくなった。思うところはあるが、不義理かましたくねえし感謝以外しないつもりだ」
「本当に4月と別人だな」
「能天気なフリしながら自分にとってメリットある一手を確実にねじ込む腹黒野郎に言われたくないぞ。それがお前の素なんだろうが」
少なくともコイツは、鏡のように、誠実なら誠実を、狡猾な行動には狡猾な行動を返してくる。
そういう奴なんだろう。
このあと束が証拠映像無駄になったじゃん!とヘソ曲げたのを宥めるのに数時間使ったとか……。
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