――Side 清華
何故か秘密裏に理事長室に呼び出されたため、1人で向かうことに。
ノックすると入室を促される。
「……失礼します」
そこには月城理事長代理に甘粕理事代理がいた。
「座りなさい」
ソファに座ると、月城理事長代理がため息を漏らす。
「さて、千手君から言われてるか察してるか、確認させてもらいましょう。君は何処まで知っていますか?」
……目的をぼかした質問。
何処までこちらが知っているか、迂闊に話すかを試されている?
「なんのことか分かりません。熟年夫婦なら通じるでしょうが、面識のほぼない相手の曖昧な質問にどう答えれば良いか判断出来かねます」
「よろしい。では少し具体的に聞きましょう。――私と甘粕理事代理について、知っている範囲で答えてください。ああ、コレは君や君の仲間が盗聴や録音でもしてない限り、外に漏れることはありません。我々は今のところ上の要請で貴女に敵対しているだけなのだから」
今のところ……ね。
「……月城理事長代理は不正疑惑があり調査されている坂柳理事長の代理として国……与党議員の手駒から回されたと聞いております。甘粕理事代理は……千手理事が長期不在を確信したため、国と交渉して選定された代理だと考えております。あとは……色々な方からお願いごとをされたりしてるとか」
「なるほど、では伏せる意味もありませんね。貴女の言うとおり我々は様々な思惑でここにいます。君にメリットもデメリットも齎すでしょう。君を宝のように守る彼の手を掻い潜るような形で攻撃することも、君たちがAクラスになりやすい試験を用意することも……ね」
……?
理事長代理たちに立場や行動方針を垣間見せるメリットなんて……場合によっては敵対してくることを知っているのに動かなかった、が私をクラスで追い詰める場合もあるくらい?
でも基本恋やトキ達と一緒にいるし、監視カメラのある場所で動いてるから孤立させられることなんて……いや。
……船上試験もあったことだし、仲の良い面々と離される試験とかも警戒しておいたほうが良さそう……か。
「世界は白と黒だけでは分けられない事は承知しております」
「1を聞いて10を知る、聡い子はありがたいものです」
時には敵、時には味方になりうる曖昧な立場にあると仄めかされたことを理解したと返したら、理事長代理は満足げに頷いた。
「ちなみにオレは千手理事から適度にストレスを与えるような試験を考えるため、ついでに血縁関係こそないが、千手らのようなじゃじゃ馬に高育が一方的に良いようにされぬための抑止力として回された老いぼれだ。コレとは少し扱いが違うのは覚えておくとよい」
えっ、適度………?
「……一先ず甘粕理事代理はさておき「えっ?」……千手君や紋章持ちという強い光が目眩ましになってますが、体育祭、ペーパーシャッフルはじめとした試験全般で彼らに次ぐ成績を叩き出しているようで何より。こちらとしては実力に翳りなし、寧ろ情報より成長の兆しあり、と先生にお伝えできますからね。暫くは面倒くさい事を言われなさそうです」
先生……言い方的にクソ親父か……。
「……恐縮です」
「ソレはそれとして、先生はかの総帥や貴女の半身に煽り倒されて血圧上がったのか、来年度に数名……刺客を送り込む事をほのめかしてきました。来年の9月くらいまで続くであろう代理の立場を、滞りなく終わらせてしまいたいのが本音です」
遠くを眺める理事長代理。
「千手頼久……彼はさながら御伽噺に出てくる宝を守るドラゴンのように宝を大切にされてるご様子。大切にされてる貴女から見て彼はどう見えます?」
「概ね同じ意見です」
「そうですか。……そうなると私としても敵対させられるのは不本意になりますね。行方不明は勘弁願いたいところです」
しれっと命乞いしてる?
「……頼久は気がついてるかと」
「なら良いのですがね……何れにせよ、私は坂柳理事長とは違うと認識頂けたようなので、何より。お話はここで終わりでよいでしょう。そちらからなにかありますか?」
「……甘粕理事代理に質問しても?」
「む?なんだ?」
「……本当に頼久たちと血縁関係ないので? 存在感が彼らのそれと限りなく似てるのですが……」
「ああ、総帥自ら『私の血縁ではないな。だからこそ面白い』と違うことを断定している。それに私の両親どちらも寒村の生まれだ。そもそも先祖がどんな人間か辿りようもない」
「……回答ありがとうございます」
つまり総帥と同系統のなんか知らんが歴史に突然出現した怪物ということだろう。
……この人はやりすぎることがあれど比較的善性の人格だからまだいいが、悪性のソレが生まれてきたら露見する前に国単位で滅びたりしそうな気がするのは気のせいか……?
「新年早々忙しいですので、今のうちに羽根を伸ばしておくとよいでしょう。下がってよろしいですよ」
……何かあるのか?
「では、コレにて失礼します」
ふむ……頼久に相談しておくか……。
――Side 茶柱
「ねー、明日のクリスマスイブと明後日のクリスマス、暇してるよね?」
「してないぞ」
いつもの居酒屋で知恵が絡んできた。
まあ酒飲めるのがここくらいだから外飲みで私が居そうなのは必然的にここになるんだが……随分と赤い顔だな?
「えー、なんでなんでー?」
「プライベートにツッコむな」
「佐枝ちゃんにも放置されたらぼっちになっちゃうもん!」
「嘘つけ、お前のクラス、イブにクリスマス会をやるのは知ってるぞ。フェナスエリアのビュッフェ貸し切りにするのとか、お前がちゃんと参加するのとか聞いてるんだからな」
「……佐枝ちゃんなんでそんなに私のクラスのこと詳しいのかな?」
知恵の声のトーンが下がった気がする。
コレは……なにか良くない気がする。
「いや、なに、頼久が一之瀬から色々聞いてたらしくてな、色々教えてくれたんだ」
「……『頼久』……ねぇ? 生徒を下の名前で呼ぶの、私初めて聞いた気がするなぁ」
……あっ、声が明らかに低くなった。
って私としたことが、うっかり下の名前で……!
「……色々、問い詰め「せ、先生こんなところで奇遇ですね」……あれ? 帆波ちゃん?」
髪の毛乱れてるし、頼久が一瞬やってきてすぐ消えたような気配もするし……もしかして……。
目線を別の方に向けると櫛田たちがいた。
恐らく彼女たちが頼久経由で呼んでくれたのだろう。
普通小洒落たレストランとかで食べないか普通?
まあいい、何故居酒屋にいるのかわからないが、助かった。
「――ということで、先生もどうですか!?」
「いやー、女子会でも未成年居るところで1人お酒飲んでたら色々問題になりそうだし……それより佐枝ちゃんに聞きたいことあるし……」
その言葉を聞いた一之瀬が櫛田たちの方に向いてなにやらサインを出している。
ん?こっちになんかサインを……わからんぞ?
と思ったら端末に通知。
『もうダメそうなので先輩にあと任せます。先輩にお仕置きされてください。部屋のみとか言って部屋に連れ込んでください』
……私は地獄に落ちるかもしれんな。
生徒と不純異性交遊して、同僚を生徒の餌食にさせるような女になるのだから。
「ここでは流石に無理だ。……私の部屋で飲み直そう」
「ふーん? ならそうしようか。帆波ちゃん、ごめんねー」
「いえ、先生がそう言うなら……あはは……」
……私は店の支払いをし、ついでに宅飲みできる酒を買う。
ここを除くと料理酒くらいしか高育敷地内で売ってないから、ある意味酒の出どころはここしかないのだが、まあいいか。
「それで〜千手君のことどーして下の名前で呼んでたの~?」
私はダイニングで酒を用意しつつ、トキが用意していた粉末を酒に混ぜる。
「知りたいか?」
「知りたい知りたい〜」
リビングで用意したつまみ食べながらそう告げる知恵。
「――そう思うなら、私の口が軽くなるよう、もう少し付き合え」
そう言って知恵に酒を渡す。
「仕方ないなー佐枝ちゃんは。はい、カンパーイ」
知恵が煽るように飲み、私も酒を飲む。
――身体が揺れる。
「なんか、身体がふわふわして……」
「そのほうが良いからな。色々と」
「色々ー?」
首かしげてるところ悪いが、御主人様が来てしまったからな。
「佐枝、迂闊が過ぎたので別途お仕置きな」
「わ、わかっている」
「……えっ?――!?――っ♡♡」
振り向いた知恵の唇を奪う頼久。
薬?の効果もあるのだろうが、百戦錬磨を自称していた知恵がまるで生娘のようだ。
……ふふ、どんな姿を、知恵は見せてくれるかな?