【本編完結】転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

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いろっぴ~

3日ぶりなので初投稿です
今回は2日ごとに更新していきます

彩葉視点



10.始動!配信活動

 

 音楽は、や(・)め(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

 今でも副業として続けているし、部屋には仕事用のキーボードもある。依頼を受けて、要望に合わせて作り、修正を重ねて、納期までに納品する。そうすれば報酬が入って、生活費の足しになる。

 

 だから、音楽をやっているかと聞かれれば、やっている。

 

 楽しいかと聞かれると──少し、答えに困る。

 

 今の私にとって音楽は、そういうものだった。

 

 

   ◆

 

 

 バイトを終えて帰宅し、玄関を開ける。静かだった。

 

 靴を脱ぎながら眉をひそめる。かぐやがいるのに静か。嫌な予感しかしない。

 

 騒いでいる時は、何をしているのか大体分かる。問題は静かな時だ。私の知らないところで、何かを思いついて、何かを始めて、何かをやらかしている可能性が高い。

 

 部屋へ入ると、案の定、パソコンの前に座ったかぐやがこちらを待ち構えていた。しかも、ものすごくいい顔をしている。嫌な予感が確信へ変わった。

 

 「何ニヤついてんの? 怖いんですけど」

 「ふっふっふ〜。彩葉ぁ、知りたい?」

 「知りたくない」

 

 はっきり断ったのに、かぐやは「そんな彩葉に教えてあげよう!」と胸を張った。

 

 「人の話聞け」

 

 聞くわけがなかった。かぐやが勢いよく画面をこちらへ向ける。

 

 「ジャ〜ン! 動画、投稿した!」

 「もう?! 昨日ライバーになるって決めたばっかでしょ?!」

 「だから今日出した!」

 「その『だから』は何と何を繋いでるのよ!」

 

 早い。あまりにも早い。思いついてから実行するまでの間に、せめて一度くらい立ち止まってほしい。五分とは言わない。一分。いや、十秒でもいい。

 

 ただ、初投稿だと言われれば気にはなる。鞄を置き、かぐやの横から画面を覗き込んで、竹TUBEに投稿された動画を最初から再生した。

 

 そして一分もしないうちに、こめかみを押さえたくなった。最初に流れたのは、かぐや自作らしいジングルだった。

 

 不穏。動画の始まりというより、封印されていた何かが解き放たれそうな音だった。

 

 「……何この音」

 「ジングル!」

 「種類を聞いてるんじゃないのよ」

 

 その直後、かぐやのイラストが勢いよく手を振る。

 

 「かぐやっほー!」

 

 そこから自己紹介が始まった。名前。好きな食べ物。今度食べたいもの。料理もしたい。歌も好き。

 

 そして歌う。唐突に。

 

 少し歌ったかと思えば、次はゲームの話。そこからツクヨミへ飛び、ヤチヨの話になり、ヤチヨカップでは絶対に優勝すると宣言する。その勢いのまま、なぜかまた食べ物へ戻り、最後には今後やりたいことを片っ端から並べ始めた。

 

 歌。ゲーム。料理。他にも色々。

 

 全部かぐやではある。確かに全部、この子の中にあるものではある。でも。

 

 「……おいおいおい」

 「どう?」

 「どうもこうもない。情報多すぎ。話が飛びすぎ」

 

 動画が終わった。そう思った。

 

 終わっていなかった。

 

 撮影が続いていることに気づかないまま、かぐやが画面の外へ歩いていく。顔が映る。部屋が映る。生活空間が普通に映る。

 

 「切れてないじゃん!」

 「ちょっとだけじゃん!」

 「ちょっとでも駄目なの! 部屋まで映ってんでしょ!」

 「でもかぐや可愛く映ってる!」

 「今そこ審議してない!」

 「可愛くない?」

 「可愛いけど! だから違う!」

 

 何で認めた、私。そこじゃない。

 

 まず見えてはいけない最後の部分を処理する。動画そのものを消すつもりはない。ただ、顔を出すのか、どこまで部屋を映すのか、それを何も考えないままにするのは駄目だ。

 

 「次から投稿前に最初から最後まで確認。部屋は映さない。顔を出すなら先に決める。分かった?」

 「はーい」

 

 返事だけはいい。

 

 動画を頭まで戻すと、例のジングルがもう一度鳴った。

 

 「あと、これ」

 「かっこいいでしょ?」

 「怖い」

 「えー!」

 「何か始まっちゃいけないものが始まりそう」

 「始まるよ? かぐやの動画」

 「そういう意味じゃない」

 

 仕事でこれが送られてきたなら、修正を返す。音の置き方が落ち着かない。頭に使うなら少し長い。オリジナルにこだわらないなら、用途に合う素材を探す手もある。

 

 そう説明すると、かぐやが露骨に口を尖らせた。

 

 「えー。オリジナルがいい」

 「じゃあ、もう少し頑張りなさいよ」

 「そうだ!」

 

 嫌な予感。かぐやの目が部屋の隅へ向いた。そこには私の仕事用キーボードがある。

 

 「ピアノあるってことは、彩葉弾けるよね」

 「まあ、弾けるけど」

 「いっちょお願いしますよぉ」

 「嫌」

 「なんで!」

 「自分の動画でしょ。自分で作りなさい」

 「彩葉できるじゃん!」

 「できるけど、やらない」

 「ちょっとだけ! 五秒! いや、三秒でいいから!」

 「秒数の問題じゃない」

 「お願い〜!」

 

 言いながら、かぐやが私の背中をキーボードの方へぐいぐい押してくる。

 

 「押すな押すな」

 

 何度断っても、かぐやは引かなかった。このまま放っておけば、あのジングルを何度も聞かされる未来が見える。私が先に折れた。

 

 「……作らないからね。変なところ直すだけ」

 「うん! うん!」

 「今の返事、絶対ちゃんと聞いてないでしょ」

 「聞いてるって!」

 

 信用ならない。それでも床へ座り、キーボードへ手を伸ばす。

 

 仕事なら、まず条件を聞く。癖で、つい同じ順番で聞いてしまった。

 

 「何秒くらい?」

 「いい感じの!」

 「秒数を聞いてるの」

 「さっき秒数の問題じゃないって言ったじゃん」

 「それとこれとは別」

 

 雑な返しのくせに、変なところだけ覚えている。

 

 「じゃあ、どんな雰囲気?」

 「かっこよくて、可愛いの!」

 「どっちよ」

 「両方!」

 「雑すぎる。……どこで使うの」

 「動画の最初!」

 「それは知ってる」

 「あと、すっごいやつ!」

 「何一つ具体的になってないんだけど……」

 

 仕事だったら、ヒアリングからやり直しだ。

 

 でも。

 

 これは仕事じゃない。とりあえず、今より聞きやすければいいか。

 

 指を鍵盤へ置き、短い音をいくつか並べた。

 

 「こんなの?」

 「もっと!」

 「何を?」

 「バーンって!」

 「擬音で注文しないで」

 「じゃあドーン!」

 「悪化してる!」

 

 もう少し明るく。少し短く。最初に置いた時に、次へ繋ぎやすいように。

 

 適当に音をいじって、これくらいならいいだろうと手を離しかけた。その時、隣から声が重なった。

 

 かぐやが歌っていた。

 

 「……何してんの?」

 「歌!」

 「それは分かる。何で急に歌うのよ」

 「歌いたくなった!」

 

 理由が強い。

 

 今弾いた旋律へ、思いついたままの言葉を勝手に乗せている。意味はかなり怪しい。でも、音は外さない。私が音を置かなかった先まで、ごく自然に旋律を繋いでいく。

 

 「……へえ」

 「今、へえって言った!」

 「言ってない」

 「言った!」

 「もう一回やるから、歌って」

 「誤魔化した!」

 

 同じフレーズを弾くと、今度は最初からかぐやの声が入った。

 

 途中で一音、コードの響きを変える。かぐやが一拍遅れて、それを追う。もう一度変える。

 

 「わっ!」

 

 少し外れかける。でもすぐ戻った。

 

 「今変えた! ずる!」

 「即興なんでしょ? じゃあ次、かぐやが変えていいよ」

 「ほんと? やる!」

 

 今度は向こうが仕掛けてくる。旋律から半歩ずらすように歌が跳ねた。

 

 反射的に指が動く。合わせる。なら、次はこっち。裏拍に一音、食い込ませる。

 

 かぐやが追う。また向こうが先に飛ぶ。今度は私が追う。

 

 数秒のジングルを直すだけだった。そのはずなのに、いつの間にか手を止める理由がなくなっていた。

 

 納期はない。報酬もない。正解もない。完成しなかったところで、誰にも怒られない。

 

 ただ、次に私が音を置いたら、かぐやが何を返してくるのか。向こうが変えたら、今度はどう合わせるのか。それだけを考えて指を動かす。

 

 音楽には、今もずっと触れている。仕事なら何度もやっている。

 

 けれど、正解を求められていない音を、こんなふうに好き勝手鳴らしたのは久しぶりだった。

 

 「彩葉!」

 

 呼ばれて顔を上げると、かぐやが私の顔を覗き込んでいた。

 

 「今、口ゆるんだ!」

 「ゆるんでない」

 「ゆるんだ!」

 「気のせい」

 「楽しい?」

 「うるさい」

 「楽しいんだ!」

 「……もう一回やる?」

 「やる!」

 

 しまった。自分から言った。

 

 まあ。いいか。

 

 もう一度、鍵盤へ手を置く。さっきとは違う音に、すぐにかぐやが声を重ねる。好き勝手に合わせて、変えて、追いかけて。

 

 区切りのいいところで、ようやく手を止めた。

 

 「今のもう一回!」

 「無理。即興だから覚えてない」

 「じゃあ違うのでいい! また作ればいいじゃん!」

 

 簡単に言う。仕事なら、再現できないのは困る。でも今は、別に困らない。

 

 そんなことを考えていた時、かぐやがこちらへ向き直った。

 

 「彩葉、プロデューサーになって!」

 「嫌」

 「なんでぇ!」

 

 今度は迷わず断った。さっきの時間が楽しかったことと、責任を背負い込むことは別の問題だ。

 

 「勉強もある。バイトもある。音楽の仕事もある。これ以上増やしたら無理」

 「じゃあちょっとだけ! できる時だけ! ちゃんと自分でもやるし!」

 「その『ちょっと』が信用できないの。自分のチャンネルなんだから、自分でやるのは当然でしょ。だから──」

 

 言い返しかけて、止まった。かぐやの勢いが、そこでほんの少しだけしぼんだ。眉尻を下げて、唇をきゅっと結ぶ。それから、少し潤んだ目で私の顔を下から覗き込んできた。

 

 ……何その顔。

 

 泣いてはいない。泣いてはいないのに、見た目だけならほぼ泣き落としだ。そんな技、いつ覚えたのよ。

 

 「かぐや、彩葉とやりたい」

 

 言葉が止まった。

 さっきまでとは違って、そこだけ妙に真っ直ぐだった。

 

 「……なんで私なのよ」

 「彩葉がいい!」

 

 即答。ずるい。多分、本人は一欠片もずるいと思っていない。

 

 キーボードを見る。さっきは、普通に楽しかった。そこだけは否定できない。

 

 だからといって、一日の時間が増えるわけじゃない。勉強も、バイトも、副業も消えてくれない。予定表を見ても、相変わらず埋まっている。見れば見るほど、正気か、と言われている気がする。

 

 私もそう思う。

 

 「……ほんとに、できる時だけだからね」

 「え?」

 「私は表に出ない。自分でできることは自分でやる。全部私に投げない。それでいいなら、少しだけ手伝う」

 「やったぁ!」

 「最後まで聞け! ……じゃあ条件、言ってみなさい」

 「できる時だけ!」

 「そこしか聞いてないじゃん!」

 

 不安しかない。そして案の定、かぐやはもう次へ行っていた。

 

 「じゃあ次何する?! 歌? ゲーム? 料理?」

 「一個ずつにしなさい」

 「全部やる!」

 「……そう言うと思った」

 

 昨日までライバーですらなかったのに。私の予定表に、新しい項目が一つ増えた。

 

 一つで済む気は、まったくしなかった。

 

 

   ◆

 

 

 夕方。投稿した動画へ少しずつ反応がつき始めると、かぐやは何度も画面を更新していた。そして突然立ち上がる。

 

 「イツキにも見せる! ご飯食べるし!」

 「何で藤原さんちで食べるのが確定してんのよ。……ちょっと、待ちなさいって!」

 

 待たなかった。結局そのまま上の階まで連れていかれ、チャイムを鳴らす頃には、私も半分諦めていた。

 

 扉を開けた藤原さんが、かぐやと、その後ろにいる私へ順番に顔を向ける。

 

 「どうしたの?」

 「動画出した!」

 「出してたね」

 「コメント来た!」

 「早いね」

 「見て!」

 「分かった。まず中入ろうか」

 

 冷静。こういう時、この落ち着きがちょっと腹立つ。

 

 リビングへ入るなり、かぐやはスマホを開いた。

 

 「可愛いって! 声好きだって! 元気でいいって!」

 「よかったじゃん」

 「元気なのは、動画見たら分かるね」

 「でっしょ〜!」

 

 ものすごく嬉しそうだ。知らない誰かが動画を見て、何か感じて、わざわざ言葉を返してくれた。それだけで、かぐやには十分らしい。

 

 また更新する。

 

 「あ! 急に歌い出すの笑ったって!」

 「そこは私も笑う」

 「なんで!」

 「急だったから」

 

 藤原さんまで普通に頷く。

 

 「かなり急だったね」

 「二人して!」

 

 さらに指を滑らせていたかぐやが、不意に止まった。

 

 「……情報量すごい?」

 

 少し下へ視線を動かす。

 

 「何の動画か分からない」

 

 眉が寄る。似たような反応が続いている。話が飛ぶ。詰め込みすぎ。分かりにくい。

 

 「なんだとぉ……」

 

 低い声。嫌な予感がして手元を見ると、もう入力欄を開いていた。

 

 「何してんの」

 「返信!」

 「待て」

 

 送信される前にスマホを押さえる。

 

 「なんで! まとまってないって言われたんだよ!」

 「まとまってなかったじゃん」

 「彩葉まで!」

 

 かぐやが勢いよく藤原さんを見る。

 

 「イツキは?!」

 「かなり色々入ってたね」

 「味方いない!」

 

 こればかりは仕方ない。

 

 「藤原さん、何か言ってあげてください」

 「僕に振るの?」

 「一緒に見てるんだからお願いします」

 「随分雑に巻き込むね」

 「私一人じゃ無理なんで」

 「正直だなあ」

 

 藤原さんは少し困ったようにしてから、かぐやのスマホへ顔を向けた。

 

 「今すぐ返さなくてもいいと思うよ。腹が立ってる時って、自分で思ってるより言い方が強くなることがあるから」

 「でもムカつく」

 「ムカつくのは別にいいよ。腹が立つことまで駄目にする必要はないでしょ」

 「じゃあムカつきながら返す!」

 「送るのは一回待とうか」

 「なんでぇ!」

 

 思わず口元が緩みかけたところで、藤原さんの顔がこちらを向いた。

 

 「彩葉さん、ちょっと楽しんでない?」

 「人に任せると少しだけ」

 「彩葉さん?」

 「すみません」

 

 本当に少しだけだ。かぐやは納得していない顔で画面を見る。

 

 「じゃあ、どうするの」

 「もう一回、自分の動画を最初から見てみたら?」

 

 言い終わる前に、かぐやはもう再生ボタンへ指を伸ばしていた。手元に残していた元の動画が流れ始める。

 

 「かぐやっほー」から始まって、名前。食べ物。料理。突然の歌。ゲーム。ツクヨミ。ヤチヨ。ヤチヨカップ。また食べ物。今後やりたいこと。

 

 そして最後の切り忘れ。

 

 「そこは次絶対直すから!」

 「今は最後まで見なさい」

 「はーい」

 

 動画が終わった。今度こそ、本当に。

 

 かぐやは少しだけ黙っていた。

 

 「……いっぱいある」

 「あるね」

 「でも全部かぐやじゃん」

 「それもそうだね」

 「藤原さん、そこは肯定するんですね」

 「事実ではあるからね」

 

 私も否定はしない。全部この子だ。ただ、それを一度に全部見せる必要があるかは別の話だ。

 

 「やりたいこと、全部やりたいんでしょ?」

 「やりたい!」

 「じゃあ、次は?」

 

 かぐやが私を見る。すぐには答えず、止まった画面を一度見て、それから少し考える。

 

 「……一個ずつ?」

 「そう」

 「じゃあ次、一個ずつやる!」

 「そうそう」

 「歌! ゲーム! 料理!」

 「もう三つ出てるんだけど」

 「一個ずつやるから大丈夫!」

 「ああ、そういう意味ね」

 

 やりたいことを減らすつもりはないらしい。そこは、まあ、かぐやらしい。

 

 かぐやはもう一度、さっきの否定的なコメントへ目を戻した。

 

 「この動画、どうするの?」

 「このまま! 直すとこは次から直す。でもこれはこのまま! 次はもっと分かりやすくする!」

 

 迷わなかった。

 

 「……なら、まあいいけど」

 

 今回の一本は今回の一本。そういうことらしい。

 

 かぐやはスマホを閉じかけて、ふと藤原さんを見た。

 

 「イツキ、かぐやが来る前に、最初から最後まで見た?」

 「見たよ」

 「ほんと?」

 「約束したから」

 

 かぐやの顔が一気に緩む。

 

 「にひぃ〜」

 

 嬉しそう。

 

 「じゃあ、どこが一番よかった?」

 「歌かな。楽しそうだったしね」

 「歌! やっぱり? ちゃんと見てる!」

 

 確認できたら、それで満足らしい。すぐに別の画面を開く。

 

 「よし、次! どれにしよっかなぁ」

 「もう?」

 「一個ずつだから大丈夫!」

 「その自信どこから出てくるのよ」

 

 一つ。もう一つ。さらに一つ。候補だけが増えていく。

 

 「増えてる……」

 「一個ずつやるからいいの!」

 

 減らす話ではなかったらしい。

 

 自分の予定表を見直すのは、明日にしよう。今開いたら、引き受けたばかりの判断を後悔しそうだった。

 

 

   ◆

 

 

 その日の夜。

 

 夕食を済ませ、二人を見送ってから配信用アバターへ切り替える。ツクヨミで配信を開始した。

 

 「皆さん、お久しぶりです」

 

 言い終える前から、コメントが流れていく。

 

 :生存確認

 :やっと帰ってきた

 :37日ぶり

 :三十七日

 :月刊葛原イッキ

 

 「……37日?」

 

 念のため確認すると、本当に37日だった。どうやら僕の感覚の方が間違っていたらしい。

 

 「……随分お待たせしたようですね」

 

 :ようですねじゃない

 :他人事で草

 :配信者は配信してください

 :次は何日後ですか先生

 

 「今日はちゃんと配信しているので、それで手打ちにしてください」

 

 :ならん

 :誓約書ください

 

 「配信に誓約書を要求しないでください」

 

 久しぶりでも、烏守たちは相変わらずだった。

 

 しばらく雑談を続けていると、昨日発表されたばかりの話題がコメントへ混ざり始める。ヤチヨカップに参加するのか。ただ、長く配信を見ている人たちは、僕が答えるより早かった。

 

 :出ないでしょ

 :競争イベント出ない人だぞ

 :いつもの不参加

 

 本人より先に回答されている。

 

 :一応本人にも答えさせてあげて

 

 ありがたいことに、発言の機会だけは残してもらえた。

 

 「はい。今回は参加しません」

 

 :でしょうね

 :知ってた

 :はい解散

 :いつものイッキ

 

 「……そこまで即答されると、少し複雑ですね」

 

 競争性のある公式イベントへ出ないことは、すっかり周知されているらしい。

 

 「参加する皆さんを応援する側です。見る分には私も楽しみにしていますよ」

 

 またコメントが流れる。その中身を眺めながら、僕は画面を切り替えた。

 

 「では、今日は久しぶりにSETSUNA指導をやっていきましょうか」

 

 :逃げたな

 :急に先生

 :反省会終わらせたぞ

 :お願いします先生

 

 「逃げていませんよ」

 

 たぶん。

 

 参加者の対戦記録を開き、最初の場面を再生した。

 

 




【本日の竹TUBEコメント欄ダイジェスト】

かぐや初投稿動画
・開幕のジングルでクトゥルフ神話始まったかと思った
・自己紹介→急な歌→ヤチヨカップ優勝宣言→食べ物の怒涛のコンボで脳がバグる
・最後カメラ切り忘れて部屋歩いてるの草。可愛いからヨシ!
・ツクヨミの編集機能使わず雑なイラストなの笑う

葛原イッキ37日ぶり配信
・【速報】葛原イッキ、生きていた
・月刊葛原イッキ創刊号
・「今日は配信してるので手打ちにしてください」←ならん、誓約書を出せ
・ヤチヨカップ出ないの草。安定の不参加芸
・「逃げていませんよ」←絶対逃げた顔してる

彩葉の胃薬代カンパ(ブクマ・高評価・感想)お待ちしております
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