転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

13 / 13
いろっぴ~

3日ぶりなので初投稿です
今回は2日ごとに更新していきます

彩葉視点



10.始動!配信活動

 音楽は、()()()()()()

 

 今でも副業として続けているし、部屋には仕事用のキーボードもある。依頼を受けて、要望に合わせて作り、修正を重ねて、納期までに納品する。そうすれば報酬が入って、生活費の足しになる。

 

 だから、音楽をやっているかと聞かれれば、やっている。

 

 楽しいかと聞かれると──少し、答えに困る。

 

 今の私にとって音楽は、そういうものだった。

 

 

   ◆

 

 

 バイトを終えて帰宅し、玄関を開ける。

 

 静かだった。

 

 私は靴を脱ぎながら眉をひそめた。

 

 かぐやがいるのに静か。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 騒いでいる時は、何をしているのか大体分かる。問題は静かな時だ。私の知らないところで、何かを思いついて、何かを始めて、何かをやらかしている可能性が高い。

 

 部屋へ入る。

 

 案の定、パソコンの前に座ったかぐやが、こちらを待ち構えていた。

 

 しかも、ものすごくいい顔をしている。

 

 嫌な予感が確信へ変わった。

 

 「何ニヤついてんの? 怖いんですけど」

 「ふっふっふ〜。彩葉ぁ、知りたい?」

 「知りたくない」

 「そんな彩葉に教えてあげよう!」

 「知りたくないって言ってるでしょ。人の話聞け」

 

 かぐやが勢いよく画面をこちらへ向けた。

 

 「ジャ〜ン! 動画、投稿した!」

 「もう?!」

 「うん!」

 「昨日ライバーになるって決めたばっかでしょ?!」

 「だから今日出した!」

 「その『だから』は何と何を繋いでるのよ!」

 

 早い。

 

 あまりにも早い。

 

 思いついてから実行するまでの間に、せめて一度くらい立ち止まってほしい。五分とは言わない。一分。いや、十秒でもいい。

 

 ただ、初投稿だと言われれば気にはなる。

 

 鞄を置き、かぐやの横から画面を覗き込む。竹TUBEに投稿された動画を最初から再生した。

 

 そして一分もしないうちに、こめかみを押さえたくなった。

 

 最初に流れたのは、かぐや自作らしいジングルだった。

 

 不穏。

 

 動画の始まりというより、封印されていた何かが解き放たれそうな音だった。

 

 その直後、かぐやのイラストが勢いよく手を振る。

 

 「かぐやっほー!」

 

 そこから自己紹介が始まった。

 

 名前。好きな食べ物。今度食べたいもの。料理もしたい。歌も好き。

 

 そして歌う。

 

 唐突に。

 

 少し歌ったかと思えば、次はゲームの話。そこからツクヨミへ飛び、ヤチヨの話になり、ヤチヨカップでは絶対に優勝すると宣言する。その勢いのまま、なぜかまた食べ物へ戻り、最後には今後やりたいことを片っ端から並べ始めた。

 

 歌。

 

 ゲーム。

 

 料理。

 

 他にも色々。

 

 全部かぐやではある。

 

 確かに全部、この子の中にあるものではある。

 

 でも。

 

 「……おいおいおい」

 「どう?」

 「どうもこうもない。情報多すぎ。話が飛びすぎ。あと、このジングル何」

 「ジングル!」

 「種類を聞いてるんじゃないのよ」

 

 動画が終わった。

 

 そう思った。

 

 終わっていなかった。

 

 撮影が続いていることに気づかないまま、かぐやが画面の外へ歩いていく。顔が映る。部屋が映る。生活空間が普通に映る。

 

 「切れてないじゃん!」

 「ちょっとだけじゃん!」

 「ちょっとでも駄目なの! 部屋まで映ってんでしょ!」

 「でもかぐや可愛く映ってる!」

 「今そこ審議してない!」

 「可愛くない?」

 「可愛いけど! だから違う!」

 

 何で認めた、私。

 

 そこじゃない。

 

 まず見えてはいけない最後の部分を処理する。動画そのものを消すつもりはない。ただ、顔を出すのか、どこまで部屋を映すのか、それを何も考えないままにするのは駄目だ。

 

 「次から投稿前に最初から最後まで確認。部屋は映さない。顔を出すなら先に決める。分かった?」

 「はーい」

 

 返事だけはいい。

 

 私は動画を頭まで戻した。

 

 例のジングルが、もう一度鳴る。

 

 「あと、これ」

 「かっこいいでしょ?」

 「怖い」

 「えー!」

 「何か始まっちゃいけないものが始まりそう」

 「始まるよ? かぐやの動画」

 「そういう意味じゃない」

 

 仕事でこれが送られてきたなら、修正を返す。

 

 音の置き方が落ち着かない。頭に使うなら少し長い。オリジナルにこだわらないなら、用途に合う素材を探す手もある。

 

 そう説明すると、かぐやが露骨に口を尖らせた。

 

 「えー。オリジナルがいい」

 「じゃあ、もう少し頑張りなさいよ」

 「そうだ!」

 

 嫌な予感。

 

 かぐやの目が、部屋の隅へ向いた。

 

 そこには私の仕事用キーボードがある。

 

 「ピアノあるってことは、彩葉弾けるよね」

 「まあ、弾けるけど」

 「いっちょお願いしますよぉ」

 「嫌」

 「なんで!」

 「自分の動画でしょ。自分で作りなさい」

 「彩葉できるじゃん!」

 「できるけど、やらない」

 「ちょっとだけ!」

 「やらない」

 「五秒!」

 「秒数の問題じゃない」

 「お願い!」

 「押すな押すな」

 

 何度断っても、かぐやは引かなかった。

 

 このまま放っておけば、あのジングルを何度も聞かされる未来が見える。

 

 私が先に折れた。

 

 「……作らないからね」

 「うん!」

 「変なところ直すだけ」

 「うん!」

 「今の返事、絶対ちゃんと聞いてないでしょ」

 「聞いてるって!」

 

 信用ならない。

 

 それでも床へ座り、キーボードへ手を伸ばす。

 

 仕事なら最初に条件を聞く。

 

 何秒必要なのか。どんな雰囲気なのか。どこで使うのか。締切はいつなのか。

 

 今回は、そのどれも決まっていない。

 

 「どんなのがいいの?」

 「かっこいい!」

 「それだけ?」

 「可愛いのも!」

 「どっちよ」

 「両方!」

 「雑すぎる」

 「あと、すっごいやつ!」

 「何一つ具体的になってないんだけど……」

 

 仕事だったら、ヒアリングからやり直しだ。

 

 でも。

 

 これは仕事じゃない。

 

 とりあえず、今より聞きやすければいいか。

 

 指を鍵盤へ置く。

 

 短い音をいくつか並べた。

 

 「こんなの?」

 「もっと!」

 「何を?」

 「バーンって!」

 「擬音で注文しないで」

 「じゃあドーン!」

 「悪化してる!」

 

 もう少し明るく。

 

 少し短く。

 

 最初に置いた時に、次へ繋ぎやすいように。

 

 適当に音をいじって、これくらいならいいだろうと手を離しかけた。

 

 その時。

 

 隣から声が重なった。

 

 かぐやが歌っていた。

 

 「……何してんの?」

 「歌!」

 「それは分かる」

 「いいでしょ?」

 「何で急に歌うのよ」

 「歌いたくなった!」

 

 理由が強い。

 

 今弾いた旋律へ、思いついたままの言葉を勝手に乗せている。

 

 意味はかなり怪しい。

 

 でも、音は外さない。

 

 「……へえ」

 「今、へえって言った!」

 「言ってない」

 「言った!」

 「もう一回やるから、歌って」

 「誤魔化した!」

 

 同じフレーズを弾く。

 

 今度は最初からかぐやの声が入った。

 

 途中で一音、流れを変える。

 

 かぐやが一拍遅れて、それを追う。

 

 もう一度変える。

 

 「わっ!」

 

 少し外れかける。

 

 でもすぐ戻った。

 

 「今変えた!」

 「即興なんでしょ?」

 「ずる!」

 「じゃあ次、かぐやが変えていいよ」

 「ほんと? やる!」

 

 今度は向こうが仕掛けてくる。

 

 旋律から半歩ずらすように歌が跳ねた。

 

 反射的に指が動く。

 

 合わせる。

 

 なら、次はこっち。

 

 少し変える。

 

 かぐやが追う。

 

 また向こうが先に飛ぶ。

 

 今度は私が追う。

 

 数秒のジングルを直すだけだった。

 

 そのはずなのに、いつの間にか手を止める理由がなくなっていた。

 

 納期はない。

 

 報酬もない。

 

 正解もない。

 

 完成しなかったところで、誰にも怒られない。

 

 ただ、次に私が音を置いたら、かぐやが何を返してくるのか。

 

 向こうが変えたら、今度はどう合わせるのか。

 

 それだけを考えて指を動かす。

 

 音楽には、今もずっと触れている。

 

 仕事なら何度もやっている。

 

 けれど、正解を求められていない音を、こんなふうに好き勝手鳴らしたのは久しぶりだった。

 

 「彩葉!」

 「何?」

 

 かぐやが私の顔を覗き込む。

 

 「今、口ゆるんだ!」

 「ゆるんでない」

 「ゆるんだ!」

 「気のせい」

 「楽しい?」

 「うるさい」

 「楽しいんだ!」

 「……もう一回やる?」

 「やる!」

 

 しまった。

 

 自分から言った。

 

 まあ。

 

 いいか。

 

 もう一度、鍵盤へ手を置く。

 

 さっきとは違う音。

 

 すぐにかぐやが声を重ねる。

 

 好き勝手に合わせて、変えて、追いかけて。

 

 区切りのいいところで、ようやく手を止めた。

 

 「今のもう一回!」

 「無理」

 「なんで?!」

 「即興だから。覚えてない」

 「じゃあ違うのでいい!」

 「それでいいの?」

 「また作ればいいじゃん!」

 

 簡単に言う。

 

 仕事なら、再現できないのは困る。

 

 でも今は、別に困らない。

 

 そんなことを考えていた時、かぐやがこちらへ向き直った。

 

 「彩葉」

 「ん?」

 「プロデューサーになって!」

 「嫌」

 「なんでぇ!」

 

 今度は迷わず断った。

 

 楽しいかどうかとは別の話だ。

 

 「勉強もある。バイトもある。音楽の仕事もある。これ以上増やしたら無理」

 「じゃあちょっとだけ!」

 「その『ちょっと』が信用できない」

 「できる時だけ!」

 「だから──」

 

 言い返しかけて、止まる。

 

 かぐやの勢いが、そこでほんの少しだけしぼんだ。眉尻を下げて、唇をきゅっと結ぶ。それから、少し潤んだ目で私の顔を下から覗き込んできた。

 

 ……何その顔。

 

 泣いてはいない。泣いてはいないのに、見た目だけならほぼ泣き落としだ。そんな技、いつ覚えたのよ。

 

 「かぐや、彩葉とやりたい」

 

 言葉が止まった。

 さっきまでとは違って、そこだけ妙に真っ直ぐだった。

 

 「……なんで私なのよ」

 「彩葉がいい!」

 

 即答。

 

 ずるい。

 

 多分、本人は一欠片もずるいと思っていない。

 

 キーボードを見る。

 

 さっきは、普通に楽しかった。

 

 そこだけは否定できない。

 

 だからといって、一日の時間が増えるわけじゃない。勉強も、バイトも、副業も消えてくれない。

 

 予定表を見る。

 

 相変わらず埋まっている。

 

 見れば見るほど、正気か、と言われている気がする。

 

 私もそう思う。

 

 「……ほんとに、できる時だけだからね」

 「え?」

 「私は表に出ない。自分でできることは自分でやる。全部私に投げない。それでいいなら、少しだけ手伝う」

 「やったぁ!」

 「最後まで聞け!」

 「聞いた!」

 「じゃあ条件言ってみなさい」

 「できる時だけ!」

 「そこしか聞いてないじゃん!」

 

 不安しかない。

 

 そして案の定、かぐやはもう次へ行っていた。

 

 「じゃあ次何する?! 歌? ゲーム? 料理?」

 「一個ずつにしなさい」

 「全部やる!」

 「……そう言うと思った」

 

 昨日までライバーですらなかったのに。

 

 私の予定表に、新しい項目が一つ増えた。

 

 一つで済む気は、まったくしなかった。

 

 

   ◆

 

 

 夕方。

 

 投稿した動画へ少しずつ反応がつき始めると、かぐやは何度も画面を更新していた。

 

 そして突然立ち上がる。

 

 「イツキにも見せる!」

 「今から?」

 「ご飯食べるし!」

 「何で藤原さんちで食べるのが確定してんのよ」

 「行こ!」

 「待ちなさいって!」

 

 待たなかった。

 

 結局そのまま隣まで連れていかれ、チャイムを鳴らす頃には、私も半分諦めていた。

 

 扉を開けた藤原さんが、かぐやと、その後ろにいる私を順番に見る。

 

 「どうしたの?」

 「動画出した!」

 「早いね」

 「コメント来た!」

 「もっと早い」

 「見て!」

 「分かった。まず中入ろうか」

 

 冷静。

 

 こういう時、この落ち着きがちょっと腹立つ。

 

 リビングへ入るなり、かぐやはスマホを開いた。

 

 「可愛いって!」

 「よかったね」

 「声好きだって!」

 「よかったじゃん」

 「元気でいいって!」

 「そこは動画見たら分かるね」

 「でっしょ〜!」

 

 ものすごく嬉しそうだ。

 

 知らない誰かが動画を見た。

 

 何か感じて、わざわざ言葉を返してくれた。

 

 それだけで、かぐやには十分らしい。

 

 また更新する。

 

 「あ! 急に歌い出すの笑ったって!」

 「そこは私も笑う」

 「なんで!」

 「急だったから」

 

 藤原さんまで普通に頷く。

 

 「かなり急だったね」

 「二人して!」

 

 さらに指を滑らせていたかぐやが、不意に止まった。

 

 「……情報量すごい?」

 

 少し下へ視線を動かす。

 

 「何の動画か分からない」

 

 眉が寄る。

 

 似たような反応が続いている。

 

 話が飛ぶ。

 

 詰め込みすぎ。

 

 分かりにくい。

 

 「なんだとぉ……」

 

 低い声。

 

 嫌な予感がして手元を見る。

 

 もう入力欄を開いていた。

 

 「何してんの」

 「返信!」

 「待て」

 

 送信される前にスマホを押さえる。

 

 「なんで!」

 「今そのまま送る気だったでしょ」

 「だって、まとまってないって!」

 「まとまってなかったじゃん」

 「彩葉まで!」

 

 かぐやが勢いよく藤原さんを見る。

 

 「イツキは?!」

 「かなり色々入ってたね」

 「味方いない!」

 

 こればかりは仕方ない。

 

 「藤原さん、何か言ってあげてください」

 「僕に振るの?」

 「一緒に見てるんだからお願いします」

 「随分雑に巻き込むね」

 「私一人じゃ無理なんで」

 「正直だなあ」

 

 藤原さんは少し困ったようにしてから、かぐやのスマホへ視線を落とした。

 

 「今すぐ返さなくてもいいと思うよ。腹が立ってる時って、自分で思ってるより言い方が強くなることがあるから」

 「でもムカつく」

 「それは別にいいよ。腹が立つことまで駄目にする必要はないでしょ」

 「じゃあムカつきながら返す!」

 「送るのは一回待とうか」

 「なんでぇ!」

 

 思わず口元が緩みかける。

 

 藤原さんがこちらを見た。

 

 「彩葉さん、ちょっと楽しんでない?」

 「人に任せると少しだけ」

 「彩葉さん?」

 「すみません」

 

 本当に少しだけだ。

 

 かぐやは納得していない顔で画面を見る。

 

 「じゃあ、どうするの」

 「もう一回、自分の動画を最初から見てみたら?」

 「見る」

 

 こういうところは早い。

 

 動画を最初から再生する。

 

 「かぐやっほー」から始まって、名前。

 

 食べ物。

 

 料理。

 

 突然の歌。

 

 ゲーム。

 

 ツクヨミ。

 

 ヤチヨ。

 

 ヤチヨカップ。

 

 また食べ物。

 

 今後やりたいこと。

 

 そして最後の切り忘れ。

 

 「そこは次絶対直すから!」

 「今は最後まで見なさい」

 「はーい」

 

 動画が終わった。

 

 今度こそ、本当に。

 

 かぐやは少しだけ黙っていた。

 

 「……いっぱいある」

 「あるね」

 「でも全部かぐやじゃん」

 「それもそうだね」

 「藤原さん、そこは肯定するんですね」

 「事実ではあるからね」

 「まあ、そうだけど」

 

 私も否定はしない。

 

 全部この子だ。

 

 ただ、それを一度に全部見せる必要があるかは別の話だ。

 

 「やりたいこと、全部やりたいんでしょ?」

 「やりたい!」

 「じゃあ、次は?」

 

 かぐやが私を見る。

 

 すぐには答えなかった。

 

 動画を一度見て、それから少し考える。

 

 「……一個ずつ?」

 「そう」

 「じゃあ次、一個ずつやる!」

 「そうそう」

 「歌! ゲーム! 料理!」

 「もう三つ出てるんだけど」

 「一個ずつやるから大丈夫!」

 「ああ、そういう意味ね」

 

 やりたいことを減らすつもりはないらしい。

 

 そこは、まあ、かぐやらしい。

 

 かぐやはもう一度、さっきの否定的なコメントへ目を戻した。

 

 「この動画どうするの?」

 「このまま!」

 「直さないの?」

 「直すとこは次から直す。でもこれはこのまま!」

 

 迷わない。

 

 「次、もっと分かりやすくする!」

 「……なら、まあいいけど」

 

 今回の一本は今回の一本。そういうことらしい。

 

 かぐやはスマホを閉じかけて、ふと藤原さんを見た。

 

 「イツキ」

 「何?」

 「かぐやが来る前に、最初から最後まで見た?」

 「見たよ」

 「ほんと?」

 「約束したから」

 

 かぐやの顔が一気に緩む。

 

 「にひぃ〜」

 

 嬉しそう。

 

 「じゃあ、どこが一番よかった?」

 「歌かな」

 「歌! やっぱり?」

 「楽しそうだったしね」

 「ちゃんと見てる!」

 

 確認できたら、それで満足らしい。

 

 すぐに別の画面を開く。

 

 「よし、次!」

 「もう?」

 「一個ずつだから大丈夫!」

 「その自信どこから出てくるのよ」

 「どれにしよっかなぁ」

 

 一つ。

 

 もう一つ。

 

 さらに一つ。

 

 候補だけが増えていく。

 

 「増えてる……」

 「一個ずつやるからいいの!」

 

 減らす話ではなかったらしい。

 

 私は頭を抱えた。

 

 

   ◆

 

 

 その日の夜。

 

 夕食を済ませ、二人を見送ってから配信用アバターへ切り替える。

 

 ツクヨミで配信を開始した。

 

 「皆さん、お久しぶりです」

 

 言い終える前から、コメントが流れていく。

 

 :生存確認

 :やっと帰ってきた

 :37日ぶり

 :三十七日

 :月刊葛原イッキ

 

 「……37日?」

 

 念のため確認する。

 

 本当に37日だった。

 

 どうやら僕の感覚の方が間違っていたらしい。

 

 「随分お待たせしたようですね」

 

 :ようですねじゃない

 :他人事で草

 :配信者は配信してください

 :次は何日後ですか先生

 

 「今日はちゃんと配信しているので、それで手打ちにしてください」

 

 :ならん

 :誓約書ください

 

 「配信に誓約書を要求しないでください」

 

 久しぶりでも、烏守たちは相変わらずだった。

 

 しばらく雑談を続けていると、昨日発表されたばかりの話題がコメントへ混ざり始める。

 

 ヤチヨカップ。

 

 参加するのか。

 

 ただ、長く配信を見ている人たちは、僕が答えるより早かった。

 

 :出ないでしょ

 :競争イベント出ない人だぞ

 :いつもの不参加

 :一応本人の口から聞こう

 

 本人より先に回答されている。

 

 「はい。今回は参加しません」

 

 :でしょうね

 :知ってた

 :はい解散

 :いつものイッキ

 

 「……そこまで即答されると、少し複雑ですね」

 

 競争性のある公式イベントへ選手として出ないことは、すっかり周知されているらしい。

 

 「参加する皆さんを応援する側です。見る分には私も楽しみにしていますよ」

 

 またコメントが流れる。

 

 その中身を眺めながら、僕は画面を切り替えた。

 

 「では、今日は久しぶりにSETSUNA指導をやっていきましょうか」

 

 :逃げたな

 :急に先生

 :反省会終わらせたぞ

 :お願いします先生

 

 「逃げていませんよ」

 

 たぶん。

 

 参加者の対戦記録を開き、最初の場面を再生した。

 

 

 




【本日の竹TUBEコメント欄ダイジェスト】

かぐや初投稿動画
・開幕のジングルでクトゥルフ神話始まったかと思った
・自己紹介→急な歌→ヤチヨカップ優勝宣言→食べ物の怒涛のコンボで脳がバグる
・最後カメラ切り忘れて部屋歩いてるの草。可愛いからヨシ!
・ツクヨミの編集機能使わず雑なイラストなの笑う

葛原イッキ37日ぶり配信
・【速報】葛原イッキ、生きていた
・月刊葛原イッキ創刊号
・「今日は配信してるので手打ちにしてください」←ならん、誓約書を出せ
・ヤチヨカップ出ないの草。安定の不参加芸
・「逃げていませんよ」←絶対逃げた顔してる

彩葉の胃薬代カンパ(ブクマ・高評価・感想)お待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

月の付き人(作者:猫と兎の総力戦)(原作:超かぐや姫!)

 かぐや以外の人が月にいたらなぁ……と、言う妄想です。よろ▼ あと打ち切りにしてごめんちゃい……


総合評価:16/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年08月20日(木) 16:16 小説情報

一人でなんとかできると思ってた僕と君(作者:思いついたんだごめん)(原作:超かぐや姫!)

22歳春。それは大学をストレートに卒業し、多くの人間は企業に入社することで社会人となる転換期。▼それに僕は乗り込まなかった。▼都内にしては珍しい安い賃貸アパート。多くの物件を在学中に保有し大家業を営みながらただひたすらに走っていた僕はめっきりと何かが折れ、大家だというのに管理人のようなことを始めるのにいたった。▼そして、その23歳の春。▼1人の超人とも言える…


総合評価:34/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年08月15日(土) 15:45 小説情報

月人さんはネットがお好き。(作者:ひいらぎもち)(原作:超かぐや姫!)

ネットにハマった月人君が色々やってハッピーエンドにたどり着くお話です。▼なお見た目はタレ目で傍から見るとかぐやときょうだいに見えるものとする。▼やる気が出るので、感想いっぱいください(乞食)!!!


総合評価:454/評価:7.73/連載:4話/更新日時:2026年07月12日(日) 19:12 小説情報

斬り開くは超ハッピーエンド!(作者:迦楼羅織)(原作:超かぐや姫!)

▼現代でとある名家に生まれた主人公が、全身全霊を持ってハッピーエンドを超えた超ハッピーエンドへとたどり着くために奮闘する物語。▼なお、主人公は覚えてないけど8000年前から謎のウミウシとの関わりがあるし、輪廻の外の存在であり、なぜかヤチヨから謎の信頼を持っている▼展開とかけっこう変わってきますのでご注意ください▼


総合評価:308/評価:8/連載:12話/更新日時:2026年08月20日(木) 21:29 小説情報

ちょっ、ッッま...自分まで巻き込まれる必要なくないかぁ!!??(作者:大塩tune八郎)(原作:超かぐや姫!)

ツクヨミ。それはVR技術によって産まれた仮想世界。▼そこは、あまるほど楽しくて、あまりにも美しい、誰も争わないくていい皆んなが笑顔になれる素晴らしい非現実。▼これから話す物語は、そんな世界にのめり込むどころか埋まってしまうほど好きになってしまった男がとんでもねぇ理不尽に見舞われる話。▼感想・評価もらえるともの凄く承認欲求が満たされます。ありがとうございます。


総合評価:350/評価:7.67/連載:7話/更新日時:2026年08月05日(水) 18:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>