転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

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15.推しへの欲目

 

 かぐやの初ソロライブが終わっても、配信の予定は待ってくれない。

 

 次に何をするか。歌枠か、ゲームか、それとも別の企画か。かぐやの方は思いつくたびに候補を増やし、私はその横で使える時間と準備量を見比べて減らしていく。

 

 そんな作業をいったん横へ置いて、今日は二人で一つの配信を待っていた。月見ヤチヨと葛原イッキ。ヤチヨカップの優勝特典とは何の関係もない、普通の配信コラボだ。

 

 「まだ?」

 「あと二分」

 「長い」

 「二分くらい待ちなさい」

 「彩葉は平気なの?」

 「何が」

 「待つの」

 「ヤチヨの配信なら待つ」

 「即答じゃん」

 

 当たり前でしょ。

 

 かぐやがテーブルへ頬杖をつき、待機画面をじっと見つめる。私も同じ画面を見た。

 

 ヤチヨとイッキが昔から仲が良いのは知っている。知っているから見る。別に監視ではない。ファンとして確認しておきたいだけだ。

 

 時間になり、画面が切り替わった。

 

 『ヤオヨロー! 神々のみんな、こんばんはー! 今日はマカロン読むよ! イッキと!』

 『皆さん、こんばんは。葛原イッキです。よろしくお願いします』

 『出た。最初だけ丁寧なイッキ』

 『最初くらいはちゃんと挨拶させてよ』

 『三分後には崩れてる』

 『三分も持つかな』

 『本人が諦めた』

 

:もう崩れてる

:三分とは

:はやい

:初見です

:丁寧語RTA終了

 

 開始して十数秒。いつもの感じだった。

 

 ヤチヨが投げる。イッキが返す。そこへヤチヨがもう一つ乗せる。速いけど、慌ただしくはない。かぐやは早くも楽しそうに画面へ身を寄せている。

 

 『というわけで、今日は二人で届いたマカロンを読んでいきます。質問でも相談でも、どうでもいい話でも大歓迎!』

 『最後のは大歓迎していいの?』

 『いいじゃん。どうでもいい話、好きだよ』

 『それは分かる』

 『何その納得』

 『今までの配信を見ていれば』

 『あー、そういうこと言うんだ』

 『事実でしょう』

 

:どうでもいい話公認

:助かる

:そこ歓迎するんだ

:送る勇気出た

:マカロン追加してくる

 

 最初のマカロンが開かれる。

 

 『「イッキさんってヤチヨさん以外ともコラボするんですか? 二人でいる印象が強いです」』

 『するよ?』

 

 ヤチヨが即答した。

 

 『テテテのクイズ企画で進行やってたじゃん』

 『あれは面白かったですね。ほかにも普通にコラボしていますよ』

 『ほら、ちゃんとしてる』

 『なぜヤチヨが得意げなの』

 『知ってるから』

 『私の活動なんだけど』

 

:テテテのクイズ見た

:あれ進行イッキだったな

:深町トワともやってる

:朝凪ミツもいた

:意外とある

:新規さんかな

 

 かぐやがコメント欄を目で追う。

 

 「テテテ?」

 「今ヤチヨカップにも出てるライバー」

 「あー! いる!」

 

 それだけで納得したらしく、もう画面へ戻っている。

 

 私もイッキがヤチヨ以外と共演していることくらいは知っていた。ただ、いざ名前が並ぶと少し印象が違う。普通に他の人ともやっている。

 

 その上で、今これ。

 

 『次。「ヤチヨさん、イッキさんの配信見すぎじゃないですか?」』

 『見すぎとは失礼な』

 『否定するところ、そこなんだ』

 『公開されてるんだから見るでしょ。配信も見るし、アーカイブも見るし、告知も見るよ』

 『たまに私より覚えてるよね』

 『それはイッキが忘れてるだけ』

 『そうかなあ』

 『そうです』

 『急に断言するね』

 

:出た公開情報

:また言われてる

:本日の弁明

:公開情報です!!

:草

 

 ヤチヨはコメント欄を見て、少しだけ頬を膨らませた。

 

 『だからストーカーじゃないって。公開情報だから』

 『その説明、何回目?』

 『何回でも言うよ』

 『はいはい』

 『雑!』

 『ちゃんと聞いてるよ』

 『今の「はいはい」は聞いてないやつ』

 『聞いてるって』

 『ほんとー?』

 『ほんとほんと』

 

:今のはいはいは雑

:アウト

:聞いてる?

:はいはい警察

:ヤッチョ異議あり

 

 なんだろう。

 

 別におかしなことは言っていない。公開された配信を見るのは自由だし、ヤチヨだって一人の視聴者だ。そこは分かる。

 

 分かるんだけど。

 

 なんでそんなに見てるのよ。

 

 「彩葉、ちょっとムッてした?」

 「してない」

 「したよ」

 「してません」

 「した」

 「配信見てなさい」

 「見てる。彩葉も見てる」

 「私を同時視聴コンテンツにするな」

 

 かぐやがけらけら笑う。画面では次のマカロンが開かれていた。

 

 『「お互いの配信で、好きなところを教えてください」』

 『お。いい質問』

 『じゃあヤチヨからどうぞ』

 『イッキは説明が分かりやすい』

 『ありがとうございます』

 『ゲーム配信でも歴史雑談でも、最初から知ってる人だけで話さないじゃん。知らない人にも一回ちゃんと説明するし。あと大剣持つとちょっと楽しそう』

 『最後いらなかったよね?』

 『いる』

 『そこまで即答されるとは』

 『ビーム撃つ時ちょっと嬉しそうだよ』

 『気のせいです』

 『ほほう?』

 『何、その顔』

 

:ある

:それはある

:本人だけ否定

:大剣は正直

:ビーム好きそう

 

 確かに、イッキの配信は説明が丁寧だ。知識があることを見せるより、知らない人が置いていかれない方を優先している感じがする。そこは普通に好感が持てる。

 

 大剣の話は知らない。

 

 『じゃあ次、私からヤチヨ』

 『どうぞー。褒めて褒めて』

 『先に要求されると話しにくいな』

 『遠慮しないで』

 『……本人が楽しそうなところかな』

 

 ヤチヨの動きが止まった。

 

 『え』

 『歌でも雑談でも、何か思いついて予定から外れた時でも、ヤチヨ自身が楽しんでると見てる側もついていきやすいから』

 『……イッキ』

 『はい』

 『めっちゃ見てるじゃん』

 『まあ、ツクヨミが一般公開された頃からだから。それなりには』

 『録音した?』

 『配信に残るでしょう』

 『あ、そっか』

 『さっき自分でアーカイブを見るって言ってたよね』

 

:ヤッチョ停止

:あっ

:急に真っ直ぐ

:録音しようとしてるの草

:配信中です

 

 そこ。

 

 私もそこが好きなんだけど。楽しそうに歌うところ。配信中に自分だけ先に面白くなって、周りまで巻き込んでいくところ。

 

 なんでそんな自然に言えるの。

 

 「彩葉」

 「何」

 「今の、彩葉も同じこと思ってた?」

 「……まあね」

 「じゃあイッキと一緒じゃん」

 「一緒にしないで」

 「なんで?」

 「なんでも」

 「変なの」

 

 うるさい。

 

 嫌いじゃない。むしろちゃんと見ている分、変なことを言われるよりずっといい。

 

 だから余計に扱いに困る。

 

 『次はこちら。「二人で一日入れ替われるなら何する?」』

 『イッキの配信をする』

 『どういうこと?』

 『毎日配信』

 『やめて』

 『一週間分まとめ撮り』

 『一日しか入れ替われないんでしょう?』

 『じゃあ二十四時間配信』

 『私の身体で無茶しないで』

 『イッキがやらないから』

 『論点がずれてる』

 

:本人の許可どこ

:二十四時間!?

:やめたげて

 

 『じゃあイッキは?』

 『ヤチヨになったら?』

 『うん』

 『何もしないかな』

 『えー!』

 『だって一日だけでしょう。変なことしたら翌日困るのヤチヨだし』

 『もっと遊んでいいのに』

 『その発想がもう怖いんだよ』

 『失礼な』

 

:そっちは何もしないのかよ

:温度差すごい

 

 やっぱり、こうなる。

 

 どちらかが一方的に合わせている感じじゃない。ヤチヨが勝手に走って、イッキが全部止めるわけでもない。イッキが真面目に返せば、ヤチヨもそこへ乗る。

 

 見慣れているはずなのに、今日は妙に目についた。

 

 「やっぱ似てる」

 

 かぐやが不意に言った。

 

 「誰と?」

 「イッキとイツキ」

 「また?」

 「うん。声もだけど、返す時」

 「返す時?」

 「すぐ答える時と、ちょっと待つ時あるじゃん。あと、全部止めないとこ」

 「それくらいなら似てる人いるでしょ」

 「いると思う」

 「じゃあ」

 「だから似てるってだけ」

 

 さらっと言って、かぐやはまた画面へ戻った。追いかける気はないらしい。

 

 まあ、それならいい。

 

 「あとね」

 「まだあるの?」

 「ちょっとぽかぽかする。……かも?」

 

 今度は私が止まった。

 

 「何それ」

 「分かんない。なんとなく」

 「なんとなくで増やさないで」

 「でもイツキが近くにいる時より全然弱いよ。ちょっとだけ」

 「私に聞かれても分からない」

 「私も分かんないよ?」

 「じゃあ何で言ったの」

 「気になったから」

 

 それで終わり。

 

 かぐやは次の瞬間、コメント欄へ目を移している。切り替えが早い。

 

 私の方だけ少し引っかかったけど、答えのないものを考えても仕方がない。

 

 その後もマカロンは続いた。

 

 猫に三日連続で見つめられたという相談に、ヤチヨが一秒で恋愛判定を下す。

 

 『これは脈あり』

 『猫だよ?』

 『目が合ったんでしょ?』

 『三日連続でね』

 『ほら』

 『何が「ほら」なの』

 『両想い』

 『食べ物を期待してただけかもしれないでしょう』

 『夢がないなあ』

 『投稿者が傷つく前に現実も置いておこうよ』

 

:相手猫です

:判定はやい

:三日連続は強い

:餌では

:猫に聞いて

 

 続いて、オムライスに描いたウサギを家族から「生きてるみたい」と言われたという報告。

 

 『生命錬成成功』

 『絵が上手かったって話だと思う』

 『まだ分からないよ』

 『何が』

 『夜中に冷蔵庫から逃げてるかも』

 『急に怖い話にしないで』

 『自由を得たウサギは――』

 『まず冷蔵庫から出して』

 『そこ?』

 『衛生面』

 

:生命錬成

:急にホラー

:逃げるなオムライス

:衛生面で草

:食べ物です

 

 かぐやが声を上げて笑っている。私も少しだけ息が漏れた。

 

 こういうどうでもいい話を、よくここまで広げられる。

 

 『そろそろ最後かな』

 『もう?』

 『結構読んだでしょう』

 『まだあるよ』

 『それ全部読んだら終わらないよ』

 『第二回やる?』

 『今決めるの?』

 『嫌?』

 『嫌とは言ってないけど』

 『はい、決定』

 『そうなると思った』

 『分かってたの?』

 『その聞き方した時点でね』

 『じゃあ合意済み!』

 『話を完成させないで』

 

:決まった

:言質

:はやいはやい

:第二回たすかる

:もう待ってる

 

 そのままヤチヨが締めに入る。

 

 『じゃあ今日はここまで! いっぱい送ってくれてありがとー! 神々のみんな、またね! 感謝感激――』

 『雨アラモード』

 『先に言うなー!』

 

:取ったw

:先に言うな

:雨アラモード泥棒

:最後まで草

:おつヤチ!

:おつイッキ!

 

 配信終了。

 

 音が途切れると、急に部屋が静かになった。

 

 「面白かったー!」

 「まあね」

 「彩葉、途中ずっとムッてしてた」

 「してない」

 「してたよ」

 「してません」

 「三回くらい」

 「数えてたの?」

 「うん」

 「配信見なさいよ」

 「両方見てた」

 

 器用なことをする。

 

 かぐやは終了した画面を見ながら、少しだけ首を傾げた。

 

 「ヤチヨとイッキ、前からずっとあんな感じ?」

 「そうね。少なくとも私が見てる頃には」

 「へー」

 「何」

 「いっぱい話したら、あんな風になるのかなって」

 「人によるでしょ」

 「そっか」

 

 それ以上、かぐやは聞かなかった。私も画面を閉じる。

 

 昔から仲が良い。それは知っていた。だから別に、今日何かが分かったわけじゃない。

 

 ただ。

 

 推しの好きなところを、あんなに普通の顔で言われるのは。

 

 やっぱり少しくらい、面白くない。

 

 

 





【今回、時間の都合で読まれなかったマカロンより】

・プリンのカラメル、上か下かで家族会議になりました。助けてください。
・電子レンジを残り一秒で止めました。勝ちです。
・【急募】片方だけになった靴下の今後
・傘持ってきたら晴れました。俺が止めた可能性ある?
・「ちょっと横になる」→二時間経過。どうして??
・イッキさん、電子レンジを残り一秒で止める派ですか。ゼロまで見届ける派ですか。
・ヤチヨさんが一日だけイッキさんの配信タイトルを決められるなら、任せても大丈夫なんでしょうか。
・一番好きなひらがなだけ教えてください。理由はいりません。
・このマカロンが読まれていない場合、この文章は誰に向かって存在しているのでしょうか。
・マカロンって食べ物ですよね???

 最後までお読みいただきありがとうございました
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