【本編完結】転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

19 / 62
15.推しへの欲目

 

 初ソロライブが終わっても、配信の予定は待ってくれない。

 

 テーブルの上には、次に何をやるかの候補を書き出したメモが広がっている。歌枠、ゲーム、料理、それから「なんか面白いの」。最後のはかぐやが書いた。思いつくたびにかぐやが一つ足し、私が使える時間と準備の手間を見比べて一つ消す。今日もそれを繰り返して、消す方がまだ追いついていない。

 

 そのメモを、今日はいったん端へ寄せた。

 

 これから始まるのは、月見ヤチヨと葛原イッキのコラボ配信だ。ヤチヨカップとは何の関係もない、普通のコラボ。

 

 「まだ?」

 「あと二分」

 「長ーい」

 「二分くらい待ちなさい」

 「彩葉は平気なの? 待つの」

 「ヤチヨの配信なら、何時間でも待てる」

 「即答じゃん」

 

 当たり前でしょ。

 

 かぐやはテーブルに頬杖をついて、待機画面とにらめっこを始めた。私も同じ画面を見る。

 

 ヤチヨとイッキが昔から仲がいいのは知っている。知っているから、見る。別に監視しているわけじゃない。ファンとして確認しておきたいだけだ。

 

 ……何を確認するのかは、自分でも少し謎だけど。

 

 時間ちょうどに、画面が切り替わった。

 

 『ヤオヨロー! 神々のみんな、こんばんはー! 今日はマカロン読むよ! イッキと!』

 『皆さん、こんばんは。葛原イッキです。本日はよろしくお願いいたします』

 『出たー、最初だけ丁寧なイッキ』

 『最初くらいはちゃんとさせてよ』

 『三分後には崩れてるよ』

 『三分も持つかな』

 『本人が諦めた!』

 

:もう崩れてる

:三分とは

:丁寧語RTA終了

:初見です

 

 始まって十数秒で、もういつもの調子だった。

 

 ヤチヨが投げて、イッキが返して、そこへヤチヨがもう一つ乗せる。速いのに慌ただしくない。かぐやは早くも画面へ身を乗り出していた。

 

 『今日はみんなから届いたマカロンを、二人で読んでいきまーす。質問でも相談でも、どうでもいい話でも大歓迎!』

 『最後のも大歓迎なんだ』

 『どうでもいい話、好きだよ?』

 『それは知ってる』

 『何その納得の早さ』

 『今までの配信を見ていれば分かるよ』

 『あー、そういうこと言うんだー』

 

:どうでもいい話公認

:助かる

:マカロン追加してくる

 

 一通目が開かれる。

 

 『「イッキさんって、ヤチヨさん以外ともコラボするんですか? 二人でいる印象が強いです」』

 『するよ?』

 

 答えたのは、なぜかヤチヨだった。

 

 『テテテのクイズ企画で進行やってたじゃん』

 『あれは楽しかったですね。ほかにも、普通にいろんな方とやっていますよ』

 『ほら、ちゃんとしてる』

 『どうしてヤチヨが得意げなの』

 『知ってるから』

 『私の活動なんだけどな』

 

:テテテのクイズ見た

:あれ進行イッキだったな

:深町トワともやってる

:朝凪ミツもいた

:意外とある

:新規さんかな

 

 「テテテ?」

 「今、ヤチヨカップにも出てるライバー」

 「あー! いる!」

 

 それだけで納得したらしく、かぐやはもう画面へ戻っている。

 

 イッキがヤチヨ以外とも配信していることくらい、私も知っていた。それでも名前が並ぶと少し印象が変わる。この人は、ちゃんと他の人ともやっている。

 

 その上で、今のこれだ。

 

 『次。「ヤチヨさん、イッキさんの配信見すぎじゃないですか?」』

 『見すぎとは失礼な』

 『否定するの、そこなんだ』

 『公開されてるんだから見るでしょ。配信も見るし、アーカイブも見るし、告知も見るよ』

 『たまに私より覚えてるよね』

 『それはイッキが忘れてるだけ』

 『そうかなあ』

 『そうです』

 

:出た公開情報

:本日の弁明

:公開情報です!!

:ストーカーヤッチョ

 

 コメント欄を見たヤチヨが、ちょっとだけ頬を膨らませた。

 

 『だから、公開情報だってば。ストーカーじゃないので~す』

 『その説明、何回目?』

 『何回でも言うよ』

 『はいはい』

 『雑ー!』

 『ちゃんと聞いてるって』

 『今の「はいはい」は、聞いてないやつ』

 『聞いてる聞いてる』

 『ほんとー?』

 

:はいはい警察

:今のは雑

:ヤッチョ異議あり

 

 別に、おかしなことは言っていない。

 

 公開されている配信を見るのは自由だし、ヤチヨだって一人の視聴者だ。そこは分かる。分かるんだけど。

 

 なんでそんなに見てるのよ。

 

 「彩葉、今ちょっとムッてした?」

 「してない」

 「した」

 「してません」

 「したよー。口がこうなってた」

 

 かぐやが自分の口をへの字に曲げてみせる。

 

 「配信見てなさい」

 「見てる。彩葉も見てる」

 「私を同時視聴コンテンツにしないで」

 

 かぐやがけらけら笑った。画面では、次のマカロンが開かれている。

 

 『「お互いの配信で、好きなところを教えてください」』

 『お、いい質問! じゃあ私から。イッキは説明が分かりやすい』

 『ありがとうございます』

 『ゲームでも歴史の話でも、知ってる人だけで進めないじゃん。知らない人にも一回ちゃんと説明するし。あと、大剣持つとちょっと楽しそう』

 『最後いる?』

 『いる。ビーム撃つ時、ちょっと嬉しそうだもん』

 『気のせいです』

 『ほほーう?』

 

:ある

:本人だけ否定

:大剣は正直

:ビーム好きそう

 

 説明が丁寧なのは、私も分かる。知識を見せるより、知らない人を置いていかない方を選んでいる感じがする。そこは素直にいいと思う。

 

 大剣の話は知らない。

 

 『じゃあ次、私からヤチヨ』

 『どうぞどうぞー。褒めて褒めて』

 『先に催促されると話しにくいな』

 『遠慮しないで~』

 『……本人が楽しそうなところかな』

 

 ヤチヨの動きが止まった。

 

 『え』

 『歌でも雑談でも、思いつきで予定から外れた時でも、ヤチヨ自身が楽しんでるから、見てる側もついていきやすい』

 『……イッキ』

 『はい』

 『めっちゃ見てるじゃん』

 『ツクヨミが一般公開された頃からだからね。それなりには』

 『今の、録音した?』

 『配信に残ってるよ』

 『あ、そっか』

 『さっき自分で、アーカイブ見るって言ってたよね』

 

:ヤッチョ停止

:あっ

:急に真っ直ぐ

:録音しようとしてて草

:配信中です

 

 そこ。

 

 そこなんだ。私も、そこが好きなのに。楽しそうに歌うところ。配信中に自分だけ先に面白くなって、気づけば周りまで巻き込んでいるところ。

 

 なんで、そんなに自然に言えるの。

 

 「彩葉」

 「何」

 「今の、彩葉も同じこと思ってた?」

 「……まあね」

 「じゃあイッキと一緒じゃん」

 「一緒にしないで」

 「なんで?」

 「なんでも」

 「へんなのー」

 

 うるさい。

 

 嫌なことを言われたわけじゃない。ちゃんと見ている人の言葉だから、変な褒め方をされるよりずっといい。

 

 だから余計に、扱いに困る。

 

 『次!「二人で一日入れ替われるなら何する?」』

 『イッキの配信をする』

 『どういうこと?』

 『毎日配信』

 『一日だけって書いてあるでしょう』

 『じゃあ二十四時間配信』

 『私の身体で無茶しないで』

 『イッキがやらないから、代わりにやってあげるのです~』

 『論点がずれてる』

 

:本人の許可どこ

:二十四時間!?

:やめたげて

 

 『じゃあイッキは? ヤチヨになったら』

 『何もしないかな』

 『えー!』

 『一日だけでしょう。変なことしたら、次の日困るのヤチヨだし』

 『もっと遊んでいいのに』

 『その発想がもう怖いんだよ』

 

:温度差すごい

:そっちは何もしないのかよ

 

 やっぱり、こうなる。

 

 どちらかが一方的に合わせているわけじゃない。ヤチヨが勝手に走り出しても、イッキが全部を止めるわけでもない。イッキが真面目に返せば、ヤチヨもちゃんとそこへ乗る。

 

 見慣れているはずなのに、今日はやけに目についた。

 

 かぐやは画面を見たまま、少し首を傾げた。

 

 「やっぱ似てる」

 「誰と誰が」

 「イッキとイツキ」

 「またその話?」

 「うん。声もだけど、返す時。すぐ答える時と、ちょっと待ってから答える時があるじゃん。さっきの『好きなところ』の時みたいに。あと、全部は止めないとこ」

 「それくらいなら、似てる人なんていくらでもいるでしょ」

 「いると思う」

 「じゃあ――」

 「だから、似てるってだけ」

 

 さらっと言って、かぐやはそれ以上追いかけなかった。

 

 それならいい、と思ったところで。

 

 「あとね。ちょっとぽかぽかする。……かも?」

 

 今度は私の方が止まった。

 

 「何それ」

 「分かんない。なんとなく」

 「なんとなくで増やさないで」

 「でも、イツキが近くにいる時より全然弱いよ。ほんのちょっとだけ」

 「私に聞かれても分からないわよ」

 「かぐやも分かんない」

 「じゃあ何で言ったの」

 「気になったから」

 

 それで終わり。答えのないものを考えても仕方がない。私の方だけ、少し引っかかったまま残った。

 

 マカロンはまだ続く。猫に三日連続で見つめられたという相談には、ヤチヨが一秒で判定を下した。

 

 『これは脈あり』

 『猫だよ?』

 『三日連続で目が合ったんでしょ? 両想い』

 『ご飯を期待してただけかもしれないでしょう』

 『夢がないなあ』

 『投稿者が傷つく前に、現実も置いておこうよ』

 

:相手猫です

:判定はやい

:餌では

 

 オムライスに描いたウサギを、家族から「生きてるみたい」と言われたという報告には。

 

 『生命錬成、成功……!』

 『絵が上手だったって話だと思う』

 『まだ分からないよ。夜中に冷蔵庫から逃げてるかも』

 『急に怖い話にしないで』

 『自由を得たウサギは――』

 『その前に、早めに食べてほしいな』

 『そこ?』

 『衛生面』

 

:生命錬成

:急にホラー

:逃げるなオムライス

:衛生面で草

 

 かぐやが声を上げて笑う。私も少しだけ息が漏れた。

 

 どうでもいい話を、よくここまで広げられるものだ。

 

 『そろそろ最後かな』

 『えー、まだあるよ?』

 『それを全部読んでたら終わらないよ』

 『じゃあ第二回やる?』

 『今決めるの?』

 『嫌?』

 『嫌とは言ってないけど』

 『はい、決定ー!』

 『そうなると思った』

 『分かってたの?』

 『その聞き方をした時点でね』

 『じゃあ合意済み!』

 『話を完成させないで』

 

:言質

:第二回たすかる

:もう待ってる

 

 そのままヤチヨが締めに入る。

 

 『じゃあ今日はここまで! いっぱい送ってくれてありがとー! 神々のみんな、またね! 感謝感激――』

 『雨アラモード』

 『先に言うなー!』

 

:取ったw

:雨アラモード泥棒

:おつヤチ!

:おつイッキ!

 

 配信が終わって音が途切れると、部屋が急に静かになった。

 

 「面白かったー!」

 「まあね」

 「彩葉、途中ずっとムッてしてた」

 「してない」

 「三回くらいしてた」

 「数えてたの?」

 「うん。配信と彩葉、両方見てたもん」

 

 器用なことしないでよ。

 

 かぐやは暗くなった画面を見たまま、ぽつりと聞いてきた。

 

 「ヤチヨとイッキって、前からずっとあんな感じ?」

 「そうね。少なくとも、私が見るようになった頃にはもう」

 「へー。いっぱい話したら、あんな風になるのかな」

 「人によるでしょ」

 「そっか」

 

 それ以上、かぐやは聞かなかった。

 

 私は配信画面を閉じて、端へ寄せていたメモを手元へ戻した。歌枠、ゲーム、料理、「なんか面白いの」。次の配信のことを考えないといけない。

 

 昔から仲がいい。それは知っていた。だから今日、何か新しいことが分かったわけじゃない。

 

 ただ。

 

 推しの好きなところを、あんなに普通の顔で言われるのは。

 

 やっぱり少しくらい、面白くない。

 

 





【今回、時間の都合で読まれなかったマカロンより】

・プリンのカラメル、上か下かで家族会議になりました。助けてください。
・電子レンジを残り一秒で止めました。勝ちです。
・【急募】片方だけになった靴下の今後
・傘持ってきたら晴れました。俺が止めた可能性ある?
・「ちょっと横になる」→二時間経過。どうして??
・イッキさん、電子レンジを残り一秒で止める派ですか。ゼロまで見届ける派ですか。
・ヤチヨさんが一日だけイッキさんの配信タイトルを決められるなら、任せても大丈夫なんでしょうか。
・一番好きなひらがなだけ教えてください。理由はいりません。
・このマカロンが読まれていない場合、この文章は誰に向かって存在しているのでしょうか。
・マカロンって食べ物ですよね???

 最後までお読みいただきありがとうございました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。