【本編完結】転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

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 時系列が少し飛びます。


幕間5.邂逅

 『太陽之王(ヤタガラス)』へ意識を向ける。

 

 これまで僕は自分が求める存在ばかりを探してきた。

 

 会いたい人はどこにいる。望む未来へはどう進めばよい。

 

 今度は、問いを反対へ向けた。

 

 今、この瞬間。僕を求めている存在はいるか。

 

 道が開いた。

 

 それはこの世界のどこにも続いていなかった。既知の土地でも、遠い大陸でもない。世界そのものの外へ伸びる一本の細い道だった。

 

 誰が待っているのかは分からない。なぜ僕を求めているのかも。

 

 それでも、求められていることだけは分かった。今度は手遅れになる前に辿り着きたい。

 

 『変遷者(アユムモノ)』へ意識を向け、道の先を観測する。

 

 見知らぬ世界。海と、その周辺に点在する岩礁。存在できる場所を選び、世界の隔たりを越えた。

 

 潮風が頬を撫でる。降り立った岩礁へ波がぶつかり、白く砕けた。

 

 周囲を見渡す。

 

 海と、遠くに見える陸地。

 

 人の姿はない。『太陽之王』が示す道はまだ先へ続いていた。

 

 海の中。足元よりも、さらに深いところへ。

 

 『変遷者』で海中を観測する。

 

 魚影がいくつか通り過ぎる。そのさらに下、光の届きにくい海底に不自然なものが沈んでいた。

 

 竹に似ている。けれど、植物ではない。岩や砂に囲まれ、ただ一つだけ場違いなものが海底に横たわっていた。

 

 道はそこで終わっている。

 

 あれか。

 

 『思念伝達』を伸ばすが反応はない。もう一度、範囲を変えて探っても返事はなかった。

 

 中に何かがいるのか。それとも、道が示したのはあの物体そのものなのか。ここからでは分からない。

 

 一度別の位置から確認しようと、海へ向けていた意識を外す。

 

 『待って、置いてかないで!』

 

 足が止まった。振り返る。当然、海面には誰もいない。

 

 もう一度、海底へ『思念伝達』を伸ばす。

 

 『聞こえてるよ』

 『……え?』

 『聞こえてる』

 『ほんとに?』

 『うん』

 『ほんとに、ほんと?』

 『二回返したよ』

 

 また黙った。今度の沈黙は少し長い。

 

 『……返ってきた』

 

 小さな思念が届いた。

 

 『返事、返ってきた』

 

 さっきまでとは声が違う。僕が何か言うより先に、続けて飛んでくる。

 

 『どこにいるの?』

 『海の上』

 『見えない』

 『今行くよ』

 『来るの?』

 『うん』

 『ほんと?』

 『うん』

 『途中でどっか行かない?』

 『行かない』

 

 岩礁から海へ入る。水面を抜けると波の音が遠ざかり、代わりに水の中を進む感覚だけが残った。

 

 『今動いた?』

 『僕が?』

 『うん』

 『向かってるよ』

 『こっち?』

 『海の底へ』

 『こっち! もっと下!』

 

 どうやら僕の姿は見えていないらしい。海底へ近づく。

 

 『まだ?』

 『もう少し』

 『ほんとに来てる?』

 『うん』

 『見えない』

 『あと少し』

 

 頭上から届く光が薄くなる。先ほど観測したものが暗い海底に浮かび上がった。周囲の岩や砂の中で、竹に似た形だけが妙に目につく。

 

 その前まで移動する。

 

 『近くまで来たよ』

 『……どこ?』

 『目の前』

 『見えない』

 

 どうやら外を見ることはできても、好きな方向を自由に見られるわけではないらしい。

 

 不便、では済まないか。

 

 竹の周囲を回る。

 

 『あ』

 『見えた?』

 『いた!』

 

 声が一気に明るくなる。

 

 『人!』

 『一応ね』

 『マジで人じゃん!』

 『そんなに珍しい?』

 『珍しい!』

 

 即答だった。

 

 竹へ手を伸ばし、表面に触れた。

 

 『あっ』

 『どうしたの?』

 『触った?』

 『うん』

 『もう一回』

 

 一度手を離し、もう一度同じ場所へ触れる。返事がない。

 

 『……ぽかぽかする』

 『ぽかぽか?』

 『うん』

 

 少し間が空く。

 

 『イツキとおんなじ、ぽかぽかする』

 

 知(・)ら(・)な(・)い(・)名(・)前(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 『イツキ?』

 『かぐやの知ってる人』

 『そう』

 『なんか似てる』

 

 それ以上は続かなかった。僕も聞かなかった。

 

 でも、大切な人なんだろう……。

 

 今は目の前の方が先だ。

 

 『かぐや、でいい?』

 『うん! かぐや!』

 『分かった』

 『あなたは?』

 『刹(・)那(・)。好きに呼んで』

 『せつな』

 

 一度、ゆっくりと繰り返される。

 

 『セツナ』

 『うん』

 『セツナ!』

 『聞こえてる』

 『呼んでみたかった!』

 『そう』

 

 名前を知った途端、随分と呼ばれる。……少しくすぐったい。

 

 竹の表面へ視線を戻す。

 

 『これ、君がいるもの?』

 『もと光る竹!』

 『もと光る竹』

 『そう!』

 『ここから出られない?』

 『出れない』

 『いつから?』

 

 返事が少し遅れた。

 

 『ずっと』

 『ずっと?』

 『何年も』

 

 かぐやの声が先ほどより落ち着く。

 

 『最初は数えてた』

 『途中でやめた?』

 『うん』

 

 竹越しに見える海。光が差して暗くなる。魚が通る。また明るくなる。

 

 そんな景色を何度も見てきたらしい。

 

 『出ようとはした?』

 『いっぱいやった』

 『駄目だった』

 『駄目だった!』

 

 そこは元気に返ってきた。

 

 『動かすことは?』

 『できない』

 『これ自体を?』

 『うん』

 

 竹の周囲を確認する。

 

 『じゃあ、動かすよ』

 『え?』

 『海底には置いておかない』

 『動かせるの?』

 『試してみる』

 『壊さないでね』

 『気をつける』

 『ほんとに?』

 『うん』

 『それならいい!』

 

 切り替えが早い。

 

 もと光る竹へ手を掛け、海底からゆっくりと持ち上げる。周囲の砂が舞った。

 

 『わっ!』

 

 竹が海底を離れる。

 

 『動いた!』

 『動いたね』

 『動いてる!』

 『うん』

 『だって動いてる!』

 

 嬉しいらしい。そのまま上へ向かう。

 

 長く同じ位置にあった景色が、竹の移動と共に変わっていく。

 

 『岩が動いてく!』

 『君が動いてるんだよ』

 『同じ!』

 『そうかな』

 『魚! いつもの魚いる!』

 『いつもの?』

 『よく前通るやつ!』

 

 数年。あるいはもっと長い時間。

 

 同じ場所から見続けていれば、魚にも見覚えができるのかもしれない。

 

 『あ、見えなくなった』

 『魚?』

 『うん』

 『そう』

 『そっか』

 

 少しだけ残念そうだった。

 

 上へ。さらに上へ。海底の暗さが薄れ、周囲に青が戻り始める。

 

 『明るくなってきた!』

 『もうすぐ海面だよ』

 『海の上?』

 『うん』

 『どうなってる?』

 『出たら教える』

 『今教えて!』

 『まだ海の中』

 『じゃあ出たらすぐね!』

 『分かった』

 

 水面が近づき、頭上で光が揺れる。その境目を抜けた瞬間、波の音と潮風が戻ってきた。濡れた髪から水が落ちる。

 

 岩礁まで移動し、もと光る竹を海面より上へ引き上げた。

 

 『出たよ』

 『海の上?』

 『うん』

 『空どんな?』

 

 すぐに質問が飛んでくる。

 

 かぐやに見えているのはもと光る竹から観測できる限られた範囲だけなのだろう。見えている場所にもかなり偏りがあるらしい。

 

 ……どこを基準に見えているんだろう。

 

 顔を上げる。

 

 『青いよ』

 『海も?』

 『海も青い。少し違うけど』

 『どっちが明るい?』

 『空』

 『雲ある?』

 『ある』

 『どんな?』

 

 白い雲がいくつか、ゆっくり流れている。

 

 『白い。薄いのが長く伸びてる』

 『鳥は?』

 

 探す。

 

 『……いるね』

 『どこ?!』

 『君からは見えない方』

 『ずるじゃん!』

 『僕のせいじゃないよ』

 『どんな鳥?』

 『白っぽい』

 『大きい?』

 『遠くて分からない』

 『ちゃんと見て! それか見せて!』

 『注文が多いね』

 

 不満そうな声が返ってきた。

 

 『陸は?』

 『あるよ』

 『近い?』

 『そこまで遠くない』

 『何ある?』

 『海岸と木』

 『いっぱい?』

 『いっぱい』

 

 しばらく質問が止まらなかった。

 

 海の色。波が岩へぶつかる様子。風で揺れる草。雲の形。

 

 自分では見えないものを片っ端から聞いてくる。何年も同じ海底から外を見ていたのなら、当然なのかもしれない。

 

 『セツナ』

 『何?』

 『セツナはどこから来たの?』

 『ここじゃないところ』

 『どこ?』

 『別の世界』

 『世界?』

 『うん』

 『ヴェ、違う世界から来たの?!』

 『そう』

 『どうやったの?』

 『能力』

 『さっきの?』

 『さっきのって?』

 『急に来たやつ』

 『たぶん』

 『すっげぇ!』

 『そうかな』

 『すごいよ! かぐやずっとここ出れなかったのに!』

 

 返す言葉がなくて、もと光る竹へ視線を向けた。

 

 『なんで来たの?』

 『僕を求めてる存在を探した』

 『それ、かぐや?』

 『道はここに続いてた』

 『じゃあ、それかぐやじゃん!』

 『そうかもね』

 『でもかぐや、セツナのこと知らなかったよ』

 『僕も知らなかった』

 『変なの~』

 『そうだね』

 『でも来たんだ』

 『うん』

 『ふーん』

 

 もと光る竹の向こうから見られているような気がする。

 

 『何?』

 『セツナ、気になるな』

 『僕が?』

 『うん』

 『何で』

 『かぐやの声聞こえる』

 『うん』

 『海の底まで来た』

 『うん』

 『竹も動かした』

 『うん』

 『別の世界から来た』

 『そうだね』

 『あと、ぽかぽかする!』

 

 結局そこへ戻るらしい。

 

 『だからセツナのこと知りたい!』

 『そう』

 『セツナもかぐやのこと知りたいっしょ?』

 『調べる必要はある』

 『じゃあ同じ!』

 

 同じなのだろうか。

 

 まあ、訂正するほどでもない。

 

 『陸へ行くよ』

 『かぐやも?』

 『もと光る竹ごと』

 『一緒に?』

 『うん』

 『置いていかないよ』

 『ほんと?』

 『うん』

 『よっしゃあ、娑婆だぁ!』

 

 言葉の選び方はともかく、嬉しいらしい。

 

 もと光る竹を持ち上げ、岩礁を離れて陸へ向かう。

 

 『今どこ?』

 『海の上』

 『何見える?』

 『海』

 『それさっき聞いたって!』

 『陸も見える』

 『それも聞いたし!』

 『難しいな』

 『今見えてるの全部言って!』

 『全部?』

 『全部!』

 

 無茶を言う。

 

 『左に岩礁。前に海岸。少し奥に木。空には雲。さっきの鳥はいない』

 『鳥いねぇの?』

 『見えなくなった』

 『そっか』

 

 少し間を空けて、また質問が飛んでくる。

 

 『海岸どんな?』

 『砂と岩がある』

 『木は?』

 『近づいたら分かるよ』

 『今!』

 『遠くて見えない』

 『じゃあ早く行って!』

 『今向かってるよ』

 

 返事の代わりに楽しそうな声が届いた。

 

 海岸へ降り、波の届かない場所まで進んで、もと光る竹を静かに置いた。

 

 『止まった』

 『着いたよ』

 『ここ陸?』

 『うん』

 『何見える?』

 

 早速だ。

 

 『砂。少し先に草と木。向こうに岩』

 『人いる?』

 

 周囲を確認する。

 

 『いないね』

 『セツナだけ?』

 『うん』

 『そっか』

 

 その返事だけ少し静かだった。

 

 周辺を確認しておきたい。この場所が安全なのかも、この世界に何がいるのかも分からない。

 

 『少し見てくるよ』

 『……行くの?』

 『すぐ戻る』

 『どこまで?』

 『この辺り』

 『見えなくなる?』

 

 もと光る竹から観測できる範囲を外れれば、そうなる。

 

 『たぶん』

 

 返事がなくなる。

 

 『かぐや?』

 『……また、いなくならない?』

 『戻るよ』

 『ほんと?』

 『うん』

 『絶対?』

 『戻る』

 『どれくらい?』

 『長くはしない』

 

 少し待つ。

 

 『……分かった』

 『行ってくる』

 『待ってる』

 

 海岸を歩き、少し離れたところで振り返った。

 

 もと光る竹はさっき置いた場所にある。中にいるかぐやから、僕がまだ見えているかは分からない。

 

 『セツナ』

 『聞こえてるよ』

 『まだいる?』

 『まだ近くにいる』

 『そっか』

 

 さらに歩き、木々の近くまで来る。

 

 『今は?』

 『少し離れた』

 『何見える?』

 『木』

 『どんな?』

 『背が高い』

 『葉っぱは?』

 『緑』

 『他は?』

 『調べ終わったら話すよ』

 『じゃあ終わったら全部教えて!』

 『分かった』

 

 やっと静かになった。

 

 周辺を一通り確認して戻る。木々を抜けて海岸へ出ると、遠くにもと光る竹が見えた。

 

 近づいていく。

 

 『セツナ!』

 

 僕が声を掛けるより早かった。

 

 『戻ってきた!』

 『うん』

 『おかえり!』

 

 その言葉に、足が一瞬止まった。

 

 『……ただいま』

 『何あった?』

 『いろいろ』

 『教えて!』

 『順番にね』

 

 もと光る竹の横へ座る。

 

 『少し先は木が多い。水も見つけた。人はいなかった』

 『動物は?』

 『いたよ』

 『どんな?』

 『小さいのが何匹か』

 『かわいい?』

 『逃げられたから分からない』

 『セツナ、見るの下手』

 『そうかな』

 『次はちゃんと見て!』

 『分かった』

 『あと何あった?』

 

 そこから、僕が見てきたものを一つずつ話した。かぐやは途中で何度も質問する。

 

 形は。

 色は。

 大きさは。

 何をしていた。

 食べられるのか。

 触れるのか。

 

 僕が分からないと言えば、今度は何故分からないのかと聞いてくる。

 

 外を知りたいらしい。

 

 それと同じくらい、僕のことも。

 

 『セツナ、何好き?』

 『急だね』

 『セツナのこと知りたいから!』

 『そう』

 『何好き?』

 

 少し考える。

 

 『料理かな』

 『食べる?』

 『作る方』

 『作れるの?!』

 『一応』

 『食べたい!』

 『今は無理だろう』

 『外出れたら!』

 『出られたらね』

 『作って!』

 『その時にね』

 『約束!』

 『約束とは言ってない』

 『じゃあ約束して!』

 『強引だなぁ』

 『して!』

 『……出られたら、何か作るよ』

 『やった!』

 

 勝手に約束へ変えられた気がする。

 

 空が少しずつ赤くなる。

 

 『セツナ』

 『何?』

 『今、外どうなってる?』

 『夕方』

 『夕方?』

 『太陽が沈み始めてる』

 『見たい』

 

 もと光る竹から見える方向を確認する。

 

 夕日は反対側だった。

 

 『今は見えないね』

 『えー!』

 『少し動かすよ』

 『動かして!』

 

 竹の向きをゆっくり変える。

 

 『見えた?』

 

 少し間が空いた。

 

 『……見えた』

 

 声が静かになる。

 

 『赤い』

 『うん』

 『海も赤い』

 『光が映ってる』

 『きれい』

 

 それからしばらく、質問はなかった。

 

 波が寄せて引いていく。太陽が水平線へ近づき、海の色が変わる。

 

 数年。あるいはそれより長い時間。

 

 海底から同じ範囲を眺め続けていたかぐやが、今は違う場所から夕日を見ている。

 

 『セツナ』

 『うん』

 『明日もいる?』

 『いるよ』

 『明後日は?』

 『まだ分からない』

 『じゃあ明日はいる?』

 『うん』

 『よかった!』

 

 すぐに声が明るくなる。

 

 『明日も外教えて』

 『分かった』

 『今日見てないの』

 『うん』

 『セツナのことも!』

 『まだ聞くの?』

 『いっぱい聞く!』

 『ほどほどにね』

 『あと料理!』

 『それも覚えてたんだ』

 『覚えてる!』

 

 夕日が沈み、空に残った赤も少しずつ暗くなっていった。

 

 『おやすみ、セツナ』

 『おやすみ、かぐや』

 

 

   ◆

 

 

 翌日。

 

 『どこ行くの?』

 『昨日より少し先』

 『いつ帰る?』

 『暗くなる前』

 『何あったか全部教えてね』

 『全部は難しいな』

 『じゃあいっぱい!』

 『分かった』

 『いってらっしゃい!』

 『行ってくる』

 

 

   ◆

 

 

 『おかえり!』

 『ただいま』

 『今日何あった?』

 『水辺を見てきた』

 『どんな?』

 『海とは違う水』

 『魚いる?』

 『いたよ』

 『昨日よりちゃんと見た?』

 『ちゃんと見た』

 『えらい!』

 『褒められることかな』

 

 

   ◆

 

 

 『セツナ』

 『何?』

 『今日もぽかぽかする』

 『昨日も言ってたね』

 『うん』

 『それ、そんなに気になる?』

 『気になる!』

 『そう』

 『セツナは気にならない?』

 『何が』

 『かぐや』

 

 少しだけ考える。

 

 『気になってるよ』

 『ほんと?』

 『うん。だから戻ってる』

 『そっか!』

 

 嬉しそうだった。

 

 

   ◆

 

 

 『セツナ』

 『何?』

 『今日もどっか行く?』

 『うん。でも今日は少し、一人でいたい』

 

 何かあったわけではない。ただ、今日は少し、一人で考え事をしたかった。

 

 『……かぐやも一緒じゃダメ?』

 『今日は一人がいいかな』

 

 少しだけ間が空いた。

 

 『……そっか。分かった』

 

 それ以上、かぐやは聞かなかった。

 

 

   ◆

 

 

 離れる時は行き先を伝える。戻る時間も伝える。

 

 帰れば、見てきたものを話す。

 

 かぐやは聞く。

 

 外のこと。

 この世界のこと。

 僕のこと。

 

 僕は必要なことだけ答えていた。それでも、最初の日より返す言葉は少し増えていた。

 

 『セツナ』

 『うん?』

 『明日も帰ってくる?』

 『うん』

 『じゃあ待ってる!』

 『分かった』

 

 しばらく。

 

 少なくとも、その時の僕は。

 

 それくらいのつもりで、この場所にいた。

 

 

 

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