転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜 作:蠱毒は孤独
明日は復活上映
第一戦の敗北表示が消えると、私たちは自陣の天守閣前へ戻された。
大将落としが出現する場所には今はまだ何もない。そこへかぐやと私が集まり、少し遅れて一継さんも戻ってくる。
ブラックオニキス、一勝。
私たち、ゼロ。
さっき鳴った二つの鐘を思い出す。あそこまで綺麗に取られると、さすがに悔しい。
「……黒鬼、思ったより勝ちに来るね」
かぐやがこっちを見た。
「そう?」
「もっと見せる方に振ってくるかと思ってた。エンタメ好きなの有名だし」
「でもイツキいるじゃん」
「僕?」
「葛原イッキと戦える時点で、もうめちゃくちゃ派手でしょ」
「……それは、まあ」
一継さんが苦笑する。
「向こうから見れば、このカード自体がもう見せ場なんだろうね。だったら勝ちに行くところまで含めてショーになる」
「じゃあ今度はかぐやたちが勝ってもっと盛り上げる!」
「結局そこなんだ」
「そこだよ!」
切り替えが早い。でも今はその方がありがたかった。
悔しいものは悔しい。それでも試合はまだ終わっていない。だったら今考えることは一つしかない。
三人で戦況を確認する。
次も帝がこっちに来るなら、正面は私とかぐや。乃依さんと雷さんが一継さんを抑えに来るなら、一継さんはそちらを担当する。
第一戦と似た形になっても、同じ負け方はしない。そこまではすぐ決まった。
問題はその先だった。
かぐやが戦況マップを覗き込み、しばらく指先を動かしていたかと思うと、ふと止まる。
「……ねえ。これならいけるんじゃない?」
顔を上げたかぐやが思いついたことを一気に話し始める。
最初は何を言い出したのかと思った。でも聞いていくうちに意味が分かる。一継さんが実行条件を確認し、私も自分がやるべきことを整理する。
無茶は無茶だ。でもできないわけじゃない。
後半の形だけなら。
「……で、櫓はどう取るの?」
三人とも黙った。
そこだった。
どれだけその先を考えても、まず櫓を取れなければ何も始まらない。帝を相手にしながら牛鬼まで進み、撃破後の鐘へ攻撃を通す。第一戦を見た後だと、そこが一番難しい。
帝を引き離す案も出した。役割を入れ替える案も出した。かぐやは途中で「全員ぶっ飛ばせばいい」と主張したけれど、それが簡単じゃないから困っている。
残り時間だけが減っていく。
「後半はこれで行こう」
一継さんが一度区切った。
「櫓まで無理に形を決める方が危ない。向こうの動き次第で変わるし、その場で見るしかない」
「その場で何とかする!」
「かぐやが言うと怖いんだけど」
「何とかするから大丈夫!」
「根拠が同じ言葉しかない」
警告音が鳴った。
会議時間終了。
結局、肝心な入口だけ答えのないまま。
第二戦が始まる。
『第二戦、スタート! ブラックオニキスが一本先取! かぐや・いろP・葛原イッキチーム、ここを取り返せるかー!』
『まずは各選手、担当方面へ進行ですね』
開始と同時に私は黒いオオタカへ乗る。
隣ではかぐやが竹束ハンマーのブースターを吹かし、そのまま前へ飛び出した。別方向では一継さんが翼を広げて飛び立っている。
向こう側を見れば、ブラックオニキスの三人も虎バイクでレーンへ走っていた。
まだ接敵までは遠い。その時間も無駄にはできない。
レーンへ流れてくるミニオンを処理しながら前へ進む。かぐやと分担して群れを片づけるたび、ウルトゲージが溜まっていく。
『両陣営、しっかりゲージを作っていきます!』
『SENGOKUの序盤としては定石ですね。ウルトをどこで切るかがその後の戦果にも直結します』
やがて前方に虎バイクが見えた。
帝。
金棒を構えながら、逃げる様子もなくこちらを待っている。
かぐやが先に笑った。
「今度はこっちが勝つから!」
「いいね。一戦目よりもっと面白いの見せてよ」
「そっちもね!」
「もちろん」
帝も笑う。その顔のまま本気で来る。
だから厄介だった。
接敵してから、しばらくは何度やっても同じだった。
かぐやが前へ出れば帝が止める。私が角度を変えれば、そのぶんだけ位置をずらして牛鬼への進路を消す。二人で挟もうとすれば一度引き、逆にこちらの間が開けばすぐ踏み込んでくる。
魅せることと勝ちに行くこと。ブラックオニキスにとってそれは別々じゃない。
帝はかぐやのハンマーと正面からぶつかるときもあれば、次の瞬間には私をかわして牛鬼側へ位置を取っている。その一連の動き自体が派手で、観客が沸く。でも派手だから隙があるわけじゃない。
むしろ逆だった。楽しそうなのに、ずっと苦しい。
何度押し返したと思っても、次に見たときには帝がまた牛鬼へ近づいている。こちらが一歩取って、向こうが一歩取り返す。それを繰り返しているうちに少しずつ焦りだけが積もった。
せっかく作戦はあるのにその入口まで行けない。
「彩葉!」
かぐやの声に反応して位置を変える。帝を二人で押し戻す。
今度こそ牛鬼側へ行ける。
そう思った。
帝の動きが変わった。かぐやへ向いていた身体が一気に反転する。
牛鬼。
「まず――」
止めに入るより早く、ウルトの発動が見えた。
ここまで温存していた大技。
帝がそれを一気に叩き込む。
牛鬼の巨体が大きく揺れた。
次の瞬間、HPが消える。
「彩葉、考えすぎなんだよ。もっとスマートにやりな。俺みたいに」
牛鬼撃破。
『速いっ! 帝選手、牛鬼を一気に持っていったー!』
『ここでウルトですね。溜めていたゲージを、この勝負所で合わせました』
やられた。
そう思ったのと同時だった。
牛鬼が消える。
その向こう。
鐘。
「彩葉! あれ!」
かぐやが指す。
「今、攻撃当てれば取れるじゃん!」
一瞬だけ頭が止まった。
次に全部つながった。
それ。
スナッチ。
知っている。でも作戦会議では一度も思いつかなかった。
というよりこんな相手に通るものとして考えていなかった。
「彩葉!」
考えている場合じゃない。
「分かった!」
鐘へ攻撃を通せる位置を取る。
最初の一歩だけはこっちが早かった。
帝がこちらを見る。
ほんのわずか反応が遅れた。
でもそれだけ。
すぐに帝が進路を変える。
「へぇ、そっち来るんだ」
鐘と私の間へ入り、帝自身も鐘へ攻撃を通せる位置を取る。
早い。当然だ。私は角度を変えて鐘へ攻撃を通そうとするが、帝がまた塞ぐ。さっきまで牛鬼を挟んでいた攻防がそのまま鐘を中心にした争いへ変わった。
「彩葉、行って!」
かぐやが帝へ突っ込む。帝がそちらへ向く。
今。
鐘を狙う。
届かない。
帝が戻った。
速すぎる。一瞬生まれた穴が次にはもう消えている。
最初に驚かせただけじゃ足りない。最後まで通さないと意味がない。
かぐやがもう一度帝へ入り、押し返される。それでも離れない。私も角度を取り直すが、帝がこちらを見てまた潰してくる。
息が詰まる。
あと少しなのに。
鐘はずっとそこにある。見えている。それなのに攻撃一つ通せない。
「彩葉!」
かぐやが帝の正面へ踏み込んだ。帝が応じる。
二人の武器がぶつかった、その瞬間。
今度は迷わなかった。
私は位置を変える。帝が気づき、かぐやを外してこっちへ戻ろうとする。
でも今度だけは。
一歩。
こっちが先。
鐘へ攻撃を通した。
高い鐘の音が鳴り響く。
『鳴ったぁぁぁぁぁ! いろP、取ったー!』
『スナッチですね。相手が牛鬼を倒した後、先に鐘へ攻撃を通して櫓を奪う形です。プロ帯だとまず警戒されるので、実際にここまで成立するのは珍しいですよ』
櫓の表示が切り替わった。
取った。
胸の奥に一気に熱が走る。
かぐやがこっちを見る。私も見る。
喜ぶのは後。
ここから先なら決めてある。
櫓を取ったことで敵の天守閣前に大将落としが出現する。
私とかぐやはすぐに動いた。同じ方向へ。
櫓の近く。位置情報マップ上で二つのマーカーが重なっていく。
帝も追ってくる。
「まだ何かある?」
「さあ」
「ある顔してるじゃん。お兄ちゃんに教えてみな」
「知らない」
私は櫓の表側へ回り、かぐやは反対へ。帝が私を抜こうとするところへ入る。
ここで私がやることは一つ。
倒すことじゃない。
少しでも長く帝をここに置く。その時間がそのままかぐやの距離になる。
だから離れない。押されても位置を戻し、帝が横へ行けば追う。
何度目かの攻防の最中、櫓の裏から低い噴射音がした。
私は振り返らない。もう始まっている。
位置情報マップではまだ私とかぐやがほとんど同じ場所にいる。
でも実際のかぐやは違う。
上だ。
櫓の死角から竹束ハンマーのブースターを使って垂直に抜けている。
『あれ? かぐや選手の姿が――位置表示はまだ、いろP選手と重なっています!』
『二次元の位置情報を逆手に取っていますね。高度差までは十分に出ません』
帝がマップを見る。
私を見る。
櫓を見る。
そして。
「上か!」
早い。もう気づいた。
帝が空を見上げたときには、かぐやは高空へ抜けていた。そのまま敵天守閣へ向けて水平加速する。
同時に防衛NPCの反応が変わった。弓が上を向き、槍も飛ぶ。
隠せたのは最初だけ。ここからは全部見える。
「行かせない」
帝が追おうとしたところへ、私はもう一度入った。
「まだ止める?」
「止める」
「いいね」
帝が笑う。そのまま本気で突破しに来る。
何度か押し戻される。それでも追う。
完璧に止められるとは思っていない。でも一秒でもいい。その一秒ぶん、かぐやが遠くへ行く。
ただそれだけを考えた。
帝が一気に位置を変える。
今度は追いつけない。横を抜かれた。
「っ……!」
すぐ追う。でももう帝は虎バイクへ飛び乗っている。
かぐやの方向へ加速した。
『帝選手、ついに抜けた! 追撃に入ります!』
『ただし、いろP選手が稼いだぶんだけ、かぐや選手には先行があります』
空を見る。かぐやの周囲へ防衛NPCの攻撃が集まり、軌道をずらしても全部は避けきれない。HPがまた削れた。
帝も距離を縮めている。
そのとき通信へ帝の声が入った。
「乃依、雷。そっち抜けてフォロー入れる?」
少しも間を置かず乃依さんが返した。
「無理。イッキさん、全然離してくれない」
「こちらも同じだ。今ここを外せば、イッキを通す」
『ブラックオニキス、援護要請! ですがボトムは動けません!』
『イッキ選手が二人をその場へ縛っていますね。相手が天守閣へ戻れない代わりに、自分もそちらへ行かない。役割を切っています』
マップを見る。
一継さん、乃依さん、雷さん。三人の表示はまだ同じ戦場にいる。
一継さんは助けに来ていない。
でも。
乃依さんと雷さんも来ていない。
それでいい。今はそれが一番助かる。
「了解」
帝の声は軽い。
「じゃ、こっちは俺が行く」
追撃が止まるわけじゃない。むしろそこから帝はさらに詰めていく。
かぐやへ攻撃が飛ぶ。NPCも帝も全部かぐやへ向いている。
HPがまた減った。
胸の奥が冷える。
まだ。
まだ行ける。
そう思いたい。
でも画面のHP表示はもう赤く、細い。
敵天守閣が見えてきた。大将落としもある。
あと少し。
その「あと少し」がひどく遠い。
かぐやが一つ避ける。別の攻撃が当たり、また削れる。
帝も後ろから迫る。
通常ミニオンまで見えてきた。ここまで減ったHPなら、その一発でも落ちる。
「かぐや……!」
思わず声が出る。
返事はない。でも止まっていない。
帝へ振り返らない。NPCを倒しに行かない。ただ大将落としへ向かっている。
もう本当にあと一発。
ミニオンの一体がかぐやへ向き、攻撃動作に入る。
帝も迫る。
大将落としは目の前。
かぐやが竹束ハンマーを引き、そのまま最後の加速へ入る。
避けない。戻らない。
狙うのは一つだけ。
大将落とし。
ハンマーが振り抜かれた。
『行ったぁぁぁぁぁ!』
大将落としが吹き飛ぶ。
ミニオンの攻撃が届くより先に。
巨大な駒がブラックオニキスの天守閣へ叩き込まれた。
勝敗表示。
第二戦――勝利。
『決まったぁぁぁ! かぐや・いろP・葛原イッキチーム、一勝を返したー!』
『これで一勝一敗。勝負は最終戦へ持ち越しです』
勝った。
その二文字が頭に入ってきた次の瞬間、全身から力が抜けた。
危なかった。本当にあと一発だった。
でも勝った。
戦場が解除され、自陣天守閣前へ戻される。
かぐやが戻ってくるのが見えた瞬間、今度は向こうから走ってきた。
「勝ったぁー!」
「危なすぎ! 本当にあと一発だったからね!」
「でも勝った!」
「それはそうだけど!」
自分でも怒ってるのか喜んでるのかよく分からない。たぶん両方だ。
少し遅れて一継さんも戻ってくる。
「お疲れ。最後、こっちから見てても怖かったよ」
「イツキもありがと! 二人来なかった!」
「うん。こっちも簡単には離してくれなかったからね」
「それ、イッキさんも同じですよね」
「まあね」
かぐやが踊り出しそうなほど笑っている。
第一戦ではあれだけ綺麗に負けた。第二戦ではずっと押されて、櫓の取り方すら決められないまま始まった。予定になかったことまで途中で入った。
それでも。
三人で取った。
かぐやが勢いよく手を上げる。意味を考えるより先に私も手を出していた。一継さんも加わる。
三人で中央に手のひらを打ち合わせる。
ぱん、と乾いた音が鳴った。
「やったー!」
今度は私も素直に頷いた。
「……うん。やったね」
一継さんも小さく笑う。
「いい一勝だった」
少しだけそのまま余韻に浸った。
次の会議時間。
オープンビデオチャットが繋がる。
向こうにはブラックオニキスの三人。
「いやあ、やられた。特にあの鐘」
「ふふーん!」
「かぐやちゃんがあっち行く線、切ってたんだよなあ」
「なんで?」
「今まで見てた感じ、横から取るより自分でぶっ飛ばして勝ちに来るタイプだと思ってたから」
「でも鐘空いてたじゃん」
「そこなんだよ。空いてたからそのまま行くんだっていう」
帝が笑う。悔しそうというより本当に面白そうだった。
スナッチだけじゃない。その後には高度差を使った作戦まで見せた。
かぐやが身を乗り出す。
「それってぇ、配信のかぐやちゃんとは違った〜?」
「ほう、新解釈の登場だ。かぐや道は奥が深い」
かぐやが満足そうに頬を緩めた。
私はその横顔を見る。
牛鬼が消えた瞬間に鐘を見つけたこと。帝に何度止められても、私を通そうとしたこと。空へ抜けてから、あれだけ削られても最後まで大将落としだけを見ていたこと。
やっぱり。
すごい。
「……かぐや、すごかったよ」
かぐやが振り向く。
迷う様子もなく、まっすぐ笑った。
「彩葉と、勝ちたいから!」
【実況席の裏側:第二戦終了後】
オタ公「かぐやちゃああああん!! HPミリ耐えからの大将落とし! 勝ち確の女神! 天使! 尊い!!」
照琴 「オタ公さん、マイク切れてますけど声量が本番と同じです。落ち着いてください」
オタ公「落ち着いてられるかーっ! あのスナッチ見た!? 帝様のウルト直後に鐘掠め取ったいろPの職人技見た!?」
照琴 「あれは美しかったですね。帝選手も完全に虚を突かれていました。……ただ、解説席から一番恐ろしかったのはボトムです」
オタ公「ボトム? イッキ先生?」
照琴 「ええ。雷選手と乃依選手が援護に向かおうとした瞬間、大剣一本で完全に進路を塞ぎ切ってました。『第一戦のお返しです』と言わんばかりの執念の足止め。プロ二人を1ミリも動かさない古参の圧力、画面越しでも背筋が凍りましたよ」
オタ公「さすが保護者枠、仕事が丁寧すぎる!」
照琴 「さあ、これで1対1! 次はいよいよ運命の第三戦です!」