転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜 作:蠱毒は孤独
本日2話投稿
復活上映、見に行ってきます
一勝一敗。次で決まる。
作戦会議で確認したのは最初の入り方だけだった。ここまで二戦、予定通りに最後まで進んだ試合なんて一つもない。だったら最初から全部を決めるより始まってから見た方がいい。
かぐやは竹束ハンマーを肩へ担いだまま、まだ興奮が抜けきっていないらしい。彩葉さんはその隣で戦況表示を確認していた。
「次は絶対、帝倒す! 彩葉と一緒に!」
「だから、倒すのが勝ちじゃないからね」
「分かってる! 勝つし、帝も倒すの!」
「欲張るなあ」
彩葉さんが呆れた声を返す。それでも、止めるつもりはないらしい。
僕は大剣の柄へ手を掛けた。
次で最後。
誘われた時は参加したいとだけ思っていた。それで十分だったはずなのに今は少し違う。
開始までのカウントが落ちていく。
『一勝一敗! 世紀の竹取合戦、第三戦! 泣いても笑ってもこれが最後だぁぁぁ!』
『ここまで両チーム、一戦ごとに違う勝ち方を見せています。最終戦はどこから動くでしょうか』
ゼロ。
三人で天守閣前を飛び出した。
翼を広げ、ミニオンを処理しながら櫓側へ向かう。別方向ではかぐやのハンマーがブースターを噴かし、彩葉さんの黒いオオタカがその横を飛んでいた。
マップに映った相手を見て、僕は少しだけ口元を緩める。
僕の前に来たのはアキラさんだった。
向こうの櫓側には雷さんと乃依さん。かぐやと彩葉さんがその二人を迎えている。
『おおっと、第三戦は葛原イッキ対帝アキラから入ったー!』
『一方、もう片方はかぐや・いろP対雷・乃依。最初の櫓を巡る戦力配分としては分かりやすい形ですね』
アキラさんが虎バイクから飛び降りる。そのまま金棒を肩へ乗せたまま、隠す気もなく楽しそうな顔をしていた。
「やっとちゃんとやれるね、イッキさん」
「今までだってちゃんと戦ってたと思うけど」
「俺とずっとやってたわけじゃないでしょ?」
「それはそうだね」
「だったら今度は逃げないでよ」
「逃げるかどうかは、勝つのに必要かで決めるよ」
「最高」
返事と同時に、金棒が伸びた。
大剣を合わせる。
重い。
そのまま受け止めず刃を滑らせて横へ逃がす。
次の一撃へ合わせる前に翼を一度振った。身体が斜め上へ跳ね、金棒の軌道から外れる。
翼で飛ぶところなら、ここまでの二戦でも見せている。けれど、攻防の中へ直接織り交ぜるのは、これが初めてだった。
「へえ」
アキラさんがすぐに笑った。
「それ、戦いながらも使うんだ」
高度を変えた僕へ合わせるように、アキラさんは金棒から刀を抜く。そのまま自分から一気に間合いを詰めてきた。
速い。けれど、見えないほどじゃない。
一撃をかわし、空いた脇へ大剣を差し込む。アキラさんが身体を捻って避けた。僕が翼でもう一段角度を変えると刀がすぐに追ってくる。
一度見ただけで合わせてきた。
面白い。
正面からぶつかり、離れ、また間合いが詰まる。
そのまま続けたいと思うくらいには。
けれど、アキラさんは殴り合いだけを見ているわけじゃなかった。僕が一歩深く入れば無理をせず下がり、牛鬼側への道を残す。僕が牛鬼へ寄れば、今度は迷わず仕掛けてくる。
『激しい! 帝選手、楽しそうに殴り合っております!』
『ただし少しずつ押しているのはイッキ選手ですね。それでも帝選手は牛鬼から離れすぎない。対人戦に熱くなって盤面を捨ててはいません』
たぶん、その通りだ。
アキラさんは熱くなっている。でも、熱くなったまま冷静だった。
それが少し面白い。
僕も大剣を振る。
その間にも牛鬼のHPは削れていく。僕が攻撃を通し、アキラさんも隙を見て削る。どちらが最後を取るかだけじゃない。その先で鐘へ入れる位置まで含めて互いに動きを変え続ける。
反対側の戦況もマップと実況から入ってきた。
『雷選手、また止める! かぐや選手のハンマーを大楯で受けた!』
『外へいろP選手が回りますが、乃依選手の射線があります。二人とも片方だけを追えばいい形にはしてくれませんね』
かぐやが押し彩葉さんが位置を変える。それでも雷さんが前を塞げば乃依さんの矢がその外へ通る。
正面からの二対二なら、あの二人の方が上か。
僕の方も楽じゃない。
アキラさんの刀を弾き、こちらから一歩踏み込む。
もう一歩。
アキラさんが下がった。
追える。
あと一歩入れば、もっと深く攻撃を通せる。
その向こうで牛鬼が倒れた。
鐘が開く。
アキラさんも気づいた。
僕を見る。
僕もアキラさんを見る。
ほんの一瞬だけ、そのまま続きをやりたいと思った。
でも。
今は勝ちたい。
僕は翼を開いた。
アキラさんではなく鐘へ向かう。
「やっぱ取るよね!」
「勝負だからね」
後ろから楽しそうな声が来る。
鐘へ攻撃を通した。
ほとんど同じ頃、もう片方の戦場からも鐘の音が響く。
『双方、櫓占領! 双方一櫓です!』
『イッキ選手が帝選手との攻防から一つ。そして反対側は雷・乃依ペアがかぐや・いろPを押し切りました!』
第三戦も盤面まで五分になった。
僕は一度高度を取る。
櫓を巡る戦いは終わった。次に見る場所が変わる。
マップを確認したところで試合前のかぐやの声を思い出した。
次は絶対、帝を倒す。
彩葉と一緒に。
「かぐや」
「なに!」
「さっき、帝を倒すって言ってたよね」
「言った! 絶〜対っ倒す!」
「彩葉さんと?」
「もちろん!」
「勝つ方忘れないでよ」
すぐ横から彩葉さんの声が入る。
僕は少しだけ笑ってから、オープンチャットをブラックオニキス側にも通した。
「アキラさん、雷さん、乃依さん。せっかくだから相手を変えない?」
「へえ」
「どう変える?」
「第一戦は僕が雷さんと乃依さんに落とされた。第二戦は僕が二人を止めた。最後だし、今度はちゃんと決着をつけたい」
少し間を置いて、乃依さんが笑った。
「わざわざ二人まとめて指名するんだ」
「一人ずつじゃ、第一戦の続きにならないから」
「なるほどねえ」
「望むところだ」
雷さんの低い声が続く。
最後にアキラさんが楽しそうに口を挟んだ。
「じゃあ、俺はかぐやと彩葉か?」
「帝、逃げんなよ!」
「逃げる理由ある?」
「ない! かぐやたちが倒すから!」
「かぐや、煽らない」
「楽しそうだからいいでしょ。乗ったよ、その勝負」
これで決まった。
僕は雷さんと乃依さん。かぐやと彩葉さんはアキラさん。
勝てると思っているからこそ、向こうもこの組み合わせを受けたんだろう。だったら遠慮する理由もない。
「じゃあ行こうか」
僕たち三人が移動に入った。
翼で高度を取り、ミドルの向こうへ進路を取る。少し離れたところでは、かぐやの竹束ハンマーが長い噴射を引き、彩葉さんのオオタカも同じ方向へ飛んでいた。
次の戦場へ向かっている途中、チームチャットが開く。
「ねえ! 一回真ん中集合しよ!」
「今!?」
「今!」
彩葉さんの声に、かぐやが即答した。
僕も少しだけ進路を中央へ寄せる。
「分かった。中央で」
「イツキ話早い! 三人のやつやろ!」
「もう、試合中だよ」
「いいじゃん、待ってくれてるみたいだし」
「……ほんっと自由」
呆れてはいるけれど、拒む様子はない。
三人の進路が中央へ寄る。ブラックオニキスもこちらの動きを見ながら、組み替えた対面が整うのを待っているらしい。
もちろん、長居はしない。
中央へ入ったところで一度だけ速度を落とし、三人で手を出した。
「いち!」
三本の人差し指。
「に!」
Vサイン。
「さんかく!」
親指と人差し指で作った三つの角が、中央で重なる。
手を離す。
勝ちたい。
今は、僕も。この三人で。
「じゃ、行こ!」
かぐやが真っ先に飛び出した。
「かぐや、そっち帝だからね!」
「分かってる! だから行く!」
僕も翼を開き直し、反対方向へ進路を取った。
雷さんと乃依さんが待つ戦場へ。
『双方一櫓から、ここでカードが変わりました! 葛原イッキ対雷・乃依! そして帝アキラ対かぐや・いろP!』
『第一戦、第二戦を踏まえた再戦ですね。ブラックオニキス側も受けました。熱い組み合わせです』
雷さんの大楯が正面へ出る。
その少し後ろ、盾の外に乃依さん。
第一戦と同じ形。
でも、僕が踏み込んだ瞬間に違いが分かった。
乃依さんの最初の矢は僕を直接狙わず、横へ抜ける場所を塞いでいる。その直後、雷さんの盾がわずかに上を向いた。
僕が翼を使う前から、上も見ている。
準備されてる。
さっきアキラさん相手に見せた戦い方を、二人とも最初から警戒しているらしい。
「上も空けるな」
「見てるって」
雷さんが短く言い、乃依さんが次の矢を番える。
なら、その先だ。
大剣を雷さんへ振り下ろす。
大楯が受ける。
押し合いには行かない。刃を合わせたまま剣先をずらし、至近からビームを放つ。
雷さんが盾を正面へ戻した。
その瞬間、翼を振る。
上へ抜ける。
乃依さんの矢は、もうそこへ来ていた。
大剣で弾き、その勢いのまま斜めへ落ちる。雷さんの頭上を越えるんじゃない。乃依さん側へ間合いを詰める。
「そっちか」
乃依さんは驚かずに下がる。
同時に雷さんが身体ごと回り込み、大楯を僕と乃依さんの間へ滑り込ませた。
大剣と盾がぶつかる。
すぐに剣先を下げる。
今度はビームを撃たない。
翼だけを一度開き、雷さんが盾を上へ追わせたところで地面近くへ潜り込む。
低い位置から大剣を振った。
盾が戻る。
速い。
乃依さんの矢も、その外からもう来ている。
僕は斬撃を途中で切って一歩下がり、剣先からビームを返した。乃依さんが横へ動き、射線を切る。
一つずつなら、二人とも対応できる。
だったら、順番を固定しなければいい。
『イッキ選手、第一戦・第二戦までと攻撃の組み立てが違う! 帝戦同様、翼を戦闘そのものへ入れてきたぁぁぁ!』
『飛行のためだけではありませんね。射撃で盾を向けさせてから高度を変える。逆に飛ぶと見せて地上から斬る。攻撃の始点を上下にもずらしています』
『でも雷・乃依ペアも崩れない!』
『最初から上下への対応を意識していますね。そこから実際の動きを見て、二人で位置を修正しています』
実況を聞きながら大剣を振る。
雷さんが受ける。
その外から乃依さんの矢。
今度は翼で避けない。刃の腹で矢を流し、そのまま剣先を乃依さんへ向ける。
ビーム。
乃依さんが横へ避ける。
追わず、翼で一段だけ高度を変えて雷さんの盾の外へ回った。
雷さんもすぐ向きを変える。
最初の数手でもう、二人の対応が変わっている。
僕が翼を開けば雷さんまで一緒に追うんじゃない。乃依さんが上下の射線を押さえ、その中で雷さんが僕の降りる場所を塞ぐ。
ビームを撃てば二人で避けるんじゃない。雷さんが受け、乃依さんは射線を残す。
さすがに簡単じゃない。
「もうそこ来ないんだ」
「一回やられたからね」
「そっちも色々増えてるけど」
「二人ももう合わせてるでしょ」
「まあね」
「乃依、来るぞ」
「分かってる!」
矢が飛ぶ。
同時に雷さんが前へ出る。
僕も出た。
その間にも、別戦場の音はオープンチャットと実況から届いている。
『帝選手、やはり強い! かぐや選手といろP、二人掛かりでも簡単には押し切れません!』
『ただ、二人のやり取りがかなり減っていますね。さっきまでほど一手ずつ確認していません』
「彩葉、そっち!」
「見えてる!」
攻撃音。
少し間が空く。
「行くよ!」
「うん!」
言葉が短くなっている。
雷さんの盾を大剣で流しながらマップを見る。かぐやと彩葉さんの表示はアキラさんを挟むように動き、また離れた。
何をしているのかまでは分からない。
でも、彩葉さんが一つずつ確認している声は、もうほとんど聞こえなくなっている。
『おっと、ここでかぐや選手といろPが武器交換!』
『試合途中で変えてきましたね』
何を始めたんだ。
一瞬だけ意識を向けたところへ、乃依さんの矢が来る。
大剣で弾く。
雷さんの盾へ踏み込む。
こっちも止められない。
『武器が弾かれた! ハンマーが大きく飛んだ!』
『かぐや選手もそのまま弾かれたぁ!』
反射的にマップを見る。
かぐやの表示が止まっている。
彩葉さんは動いた。
かぐやの方へ。
でも、オープンチャットには何も来ない。
さっきまでなら、彩葉さんは確認していた。何をするのか。大丈夫なのか。
今は聞かない。
僕も聞かなかった。
必要なら、二人から来る。
僕が見るのはこっちだ。
雷さんが盾を押し出す。僕は正面から受けず、翼を一度だけ振って斜めへ逃がす。そこへ乃依さんの矢が先回りし、大剣で受け流した。
『帝選手、かぐや選手側を警戒しています!』
『第二戦で天守閣を落としたのはかぐや選手ですからね。動けなくなったように見えても、放置はしづらい』
『いろPはかぐや選手の方へ! 救援か――』
実況が止まった。
次の瞬間、声が跳ねる。
『帝選手の動きが止まった!?』
『ワイヤーだぁぁぁ! 帝選手、拘束されています!』
『なるほど。先ほどの武器交換のあと、いろP選手側から、弾かれたハンマーへワイヤーを通していたんですね』
『見えてなかった!?』
『巻き取るまで狙いを見せていません。かぐや選手が動けないように見せ、いろP選手が救援へ向かう。その動きごと帝選手を誘った形です』
『じゃあ、かぐや選手は――』
『囮です。本命はいろP選手!』
攻撃が入る、その直前。
彩葉さんの声がオープンチャットへ響いた。
「かぐやの考えてることくらい、分かってるっつーの!」
直後、攻撃音。
撃破表示が開く。
帝アキラ。
撃破。
『決まったぁぁぁぁぁ! いろP、帝選手を撃破!』
『かぐや選手が帝選手を引きつけ、いろP選手が最後を取りました!』
雷さんも乃依さんも、まだ目の前にいる。
試合は終わっていない。
それでも、少しだけ口元が緩んだ。
やった。
本当に二人で、アキラさんを倒した。
向こうから、かぐやの弾んだ声が飛んでくる。
「彩葉!」
「いえーい」
『おおっと、二人が指を合わせた!』
『試合中でも、これはやりますか』
『やるでしょー! 帝選手を倒した直後ですよ!』
手元までは見えない。
それでもどの合図かは分かる。
二人は、やってみせたんだ。
【リスポーン待機中:帝アキラの内心】
いやー、やられた。
完全にハメられた。
かぐやちゃんが吹っ飛ばされた時、
「あ、第二戦で大将落とし決めたかぐやちゃんが隙だらけだ」
って普通に思ったよね。
そしたら彩葉が走ってくるから、「妹がかぐやちゃんを助けに来た」って思うじゃん?
お兄ちゃんとしては、そこをまとめて狩りに行くじゃん?
全部罠だったよね。
まさかあのかぐやちゃんが「やられたフリの囮」やって、彩葉が本命の暗殺者やってくるとは思わないじゃん。
ワイヤーでガチガチに巻かれた瞬間、目の前で彩葉が悪い顔して「分かってるっつーの!」って言ってきた時の衝撃たるや。
……いや、普通に強いわ、あいつら。
妹の成長を実感してちょっと感動しそうになったけど、撃破直後に二人でキャッキャしながら指合わせてるの見て全部吹き飛んだ。煽り性能まで一級品かよ。
まあいいや。
リスポーンしたら、すぐやり返しに行ってやる。
待ってろよ、彩葉。