転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜   作:蠱毒は孤独

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27.伸ばしかけた手

 ツクヨミの特設ライブ会場は、開演前から熱を冷ます気配をまったく見せていなかった。

 

 視界の果てまで観客席を埋め尽くす色とりどりのアバターと、空間をかすかに震わせるざわめき。その無数の視線の先で、照明を落とした巨大なメインステージが、これから始まるものへの期待と歓声だけを静かに受け止めている。

 

 僕もまた、周囲のリスナーたちと同じように一般席の一角に身を置き、まだ誰も立っていない舞台を見つめていた。

 

 かぐやが配信を始めてから、本当に色々なことがあった。

 

 最初は機材の扱いもネットの作法も分からないことだらけで、画面の向こうへ飛び込むこと自体が冒険だった。けれど今では、その姿を数え切れないほどの人が待ち望んでいる。歌いたいと願ったかぐやの隣には、いつの間にか彩葉さんが当たり前のように立つようになり、二人で音を紡ぎ、伴奏を重ね、活動を支え合ってきた。

 

 彩葉さんが一人で抱え込みすぎて、限界を迎えたこともあった。

 

 ヤチヨカップの終盤では、あのブラックオニキスを相手に竹取合戦まで駆け抜けた。試合そのものには僅差で届かなかったけれど、二人は最後まで自分たちの意志で足掻き続け、その先で堂々と優勝を掴み取ってみせた。

 

 今日は、その長かった日々の先にある、公式コラボライブの当日だった。

 

 客席の待ちきれない空気を押し上げるように、地鳴りのような歓声がまた一段高く跳ね上がる。

 

 直後、場内の照明が一斉に落ちた。

 

 息を呑むような暗転の中、ステージ中央の円形リフトへ鋭いスポットライトが集まり、床がゆっくりとせり上がってくる。

 

 光の柱の中に、並び立つ三つのシルエットが浮かび上がった。

 

 満面の笑みを浮かべたかぐや。

 

 肩から使い慣れたキーボードを提げた彩葉さん。

 

 そして、二人の間に立つ月見ヤチヨ。

 

 スタジアムの天蓋を揺るがすほどの歓声が爆発した。

 

 かぐやが両腕を大きく振り、彩葉さんも眩しそうに客席の光の海を見渡す。ヤチヨは二人へ柔らかく視線を配ったあと、正面の観客へ向けて朗らかな声を響かせた。

 

 「ヤオヨロ~! みんな生きるのはどうですか? 良い事あった? それとも泣いちゃいそう? よしよし、全部大丈夫。どんなに遠い道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に踊ってくれる?」

 

 地響きのような返答が、会場の全方位から返ってきた。

 

 その途方もない音圧に、胸の奥がくすぐったくなって自然と笑みがこぼれる。

 

 ――そして、最初の音が鳴り響いた。

 

 かぐやの突き抜けるような歌声が真っ直ぐ空へ駆け上がり、そこへヤチヨの澄んだ声が寄り添うように重なる。

 

 その瞬間、喉の奥が熱くなった。

 

 胸の芯を突き上げるような感情が、抑えようもなく込み上げてくる。

 

 目の前にいるのは、もう「これから始める」と手探りで進んでいた二人ではない。

 

 かぐやが心から楽しそうに笑い、歌っている。その隣で彩葉さんが鍵盤を叩き、二人の歌声を力強く、それでいて繊細に支える音を鳴らしている。

 

 二人に向けて降り注ぐ無数の光と歓声が、この仮想空間そのものを幸福な熱で揺らしていた。

 

 初めて二人の活動を間近で見た頃には、こんな眩しい景色が訪れるなんて想像もしていなかった。

 

 かぐやはいつだって、自分の心が動いた方へ迷わず飛び込んでいった。

 

 彩葉さんは、その奔放な跳躍を呆れながら受け止め、現実に耐えうる形へと整えてきた。

 

 決して楽な道ではなかったはずだ。楽しいことばかりでもなかった。傷つき、立ち止まり、躓いた瞬間を、僕はすぐ近くで見てきた。

 

 それでも今、二人が並んで立っているあの舞台を見れば、積み重ねてきた迷いや苦労のすべてが、確かにこの場所へ続いていたのだと思えた。

 

 かぐやの動きは、今日も決まり切った振り付けの枠には収まらない。

 

 楽しさが膨らめば、身体ごと音の先へ飛び出していく。ヤチヨはそんな衝動を自然に拾い、ライブの流れへ溶け込ませる。彩葉さんも二人の勢いに巻き込まれながら、肩掛けのキーボードを鳴らし、ときには一緒になって動いていた。

 

 三人とも、まるで違う。

 

 違うまま、同じ舞台にいる。

 

 その光景が、たまらなく嬉しかった。

 

 そして――ヤチヨ。

 

 彼女が歌う姿なら、それこそ数え切れないほど見てきた。八千年という途方もない歳月の中でも、幾度となく。

 

 けれど、今日の彼女の隣にはかぐやがいて、彩葉さんがいる。

 

 二人の声を受けて、ヤチヨが笑う。

 

 ヤチヨが広げたものへ、二人が自分たちの音で返していく。

 

 それを見つめているうちに、胸の奥がじわじわと締めつけられた。

 

 苦しいわけじゃない。

 

 むしろ、その逆だ。

 

 満たされた幸福があまりにも大きくて、自分の中だけでは収まりきらない。

 

 ずっと見てきたヤチヨが、今は二人と一緒に歌っている。

 

 ただそれだけの光景が、どうしてこんなに胸へ来るのだろう。

 

 気がつけば、緩んだ口元を隠すことも忘れて舞台を見上げていた。

 

 曲が進んでも、その温かな高揚は途切れなかった。

 

 かぐやが自由に舞台を駆ければ、ヤチヨが笑って拾う。彩葉さんも演奏を止めることなく、二人の熱の中へ混ざっていく。

 

 客席から歓声が返り、舞台上の三人がそれを受け取って、また返す。

 

 あらかじめ決められた通りだから成立しているのではない。

 

 今、この三人が立っているからこそ続いていく時間だった。

 

 何度も胸が熱くなる。

 

 かぐやと彩葉さんが、自分たちの足でここまで辿り着いたこと。

 

 ヤチヨが二人とここにいること。

 

 どちらを思っても、同じだけの喜びが胸へ込み上げてきた。

 

 やがて、最後の音が広い空間の彼方へ長く伸びていく。

 

 かぐやとヤチヨの声が重なり、その下を支える彩葉さんの鍵盤が、最後の音を刻んだ。

 

 すべての音が、ふっと静寂へ吸い込まれる。

 

 ほんの一拍の静止。

 

 直後、今日一番の歓声と拍手が、津波のようにステージへ押し寄せた。

 

 かぐやが全身を弾ませ、その勢いのまま彩葉さんへ駆け寄っていく。興奮冷めやらぬ様子で何かを話しかけると、彩葉さんが目を丸くして戸惑っていた。

 

 また何か、突拍子もないお願いでもしているのだろうか。

 

 けれど、ヤチヨだけは二人の方を見ていなかった。

 

 歓声の中心で、わずかに視線を伏せたまま静かに立っている。

 

 言葉もない。

 

 大きな仕草もない。

 

 ただ、今ここにあるものを、自分の中へゆっくりと落とし込んでいるように見えた。

 

 その横顔を見つめているだけで、胸の奥がまた熱くなる。

 

 やがてヤチヨはゆっくりと顔を上げ、穏やかな笑みを客席へ向けた。

 

 僕もまた、惜しみなく拍手を送った。

 

 ――最初の違和感は、音だった。

 

 スタジアムを満たしていた歓声が、ふっと一瞬だけ途切れた。

 

 完全な無音ではない。

 

 通信の一部だけが不自然に抜け落ちたような、奇妙で冷たい空白。

 

 僕は拍手を止め、思考より先にツクヨミの運営用管理インターフェースを展開した。

 

 ライブ進行ログ。

 

 会場内通信。

 

 イベント制御。

 

 複数の監視情報を同時に呼び出す。

 

 予定されている演出の中に、こんな処理は存在しない。それどころか、会場通信の一部で更新そのものが止まりかけている。

 

 「……通信障害か?」

 

 監視対象をライブ会場全域へ広げ、同時にスタッフ側へ緊急の状況確認を飛ばした。

 

 だが、返答が戻るより先に異常は表面化した。

 

 ステージ上空や客席の頭上に浮かんでいた巨大モニターの映像が、大きく乱れる。

 

 ノイズ。

 

 月。

 

 そして、無機質な文字列。

 

 《2030/09/12》

 

 一度消えた。

 

 直後、別のスクリーンにも同じ文字が浮かび上がる。

 

《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》《2030/09/12》

 

 演出側から送られた映像ではない。

 

 発信元を追う。

 

 取得できない。

 

 監視系そのものにも遅延が入り始めている。

 

 ステージを見る。

 

 ヤチヨの表情は、すでに変わっていた。

 

 客席へ向けていた笑みは消え、鋭い眼差しで会場を見渡している。

 

 彩葉さんも異常に気づいていた。

 

 そして、かぐやは――。

 

 「……なに、あれ?」

 

 ある一点を見た。

 

 僕もその先へ視線を走らせる。

 

 白い。

 

 胴体も四肢も、確かに人の形をしている。だが、真っ白な体と提灯のような頭部が異常を際立たせる。

 

 通常のアバター情報も何ひとつ返ってこない。

 

 空間内のオブジェクト情報と照合する。

 

 該当なし。

 

 一体だけではなかった。

 

 観客席の通路、その向こうにも、同じ白い人型が姿を現している。

 

 その異形を目にした瞬間、遠い記憶の底から、かつて聞いた声が鮮明に蘇った。

 

 ――いや~、お迎えがきちゃってさー。

 

 ヤチヨが笑いながら零した言葉。

 

 月の仕事を放り出して地球へ来て、彩葉さんと過ごし、迎えが来たから月へ帰った。

 

 その後、もう一度彩葉さんに会いに向かう途中で失敗し、八千年前へ落ちてきたことも聞いている。

 

 ――迎え。

 

 これが、その「迎え」に関係するものなのか。

 

 確証はない。

 

 けれど、無関係だとは思えなかった。

 

 白い人型の近くにいた観客たちが、気味悪そうに距離を取る。会場全体が崩れるほどの騒ぎにはなっていないが、異常に気づいた者からざわめきが広がり始めていた。

 

 僕は状況確認を続けながら、ツクヨミの緊急管理系統を開いた。

 

 アクセス元。

 

 不明。

 

 登録情報。

 

 不明。

 

 通常の強制退場対象としても捕捉できない。

 

 なら、守る側を切り離す。

 

 そう判断した瞬間、ステージに最も近かった白い人型が動いた。

 

 かぐやへ。

 

 距離が一気に縮まる。

 

 間に合わない。

 

 僕は緊急切断の対象指定を開いた。

 

 対象――かぐや。

 

 ライブ会場との接続だけを強制的に切る。

 

 白い人型そのものを捕捉できないなら、触れられる前にかぐやをこの場から退避させればいい。

 

 確認画面。

 

 実行。

 

 指を動かす。

 

 あと一押し。

 

 その瞬間――。

 

 ヤチヨの続く道が、途切れた。

 

 「……っ、は……?」

 

 指が止まった。

 

 帰還へ続く因果を不用意に断てば、ヤチヨまで失いかねない。それは分かっていた。

 

 けれど、今はこの場から退避させようとしただけだ。

 

 この切断も、そこへ繋がるのか。

 

 考えている時間はない。

 

 かぐやまで、もうほとんど距離がない。

 

 実行すれば助けられる。

 

 少なくとも、今この瞬間の接触からは逃がせる。

 

 指を押し込もうとする。

 

 道が消える。

 

 止める。

 

 もう一度。

 

 やはり消える。

 

 ここから離すだけでも、駄目なのか。

 

 今、目の前に伸びている手から、かぐやを逃がしたいだけなのに。

 

 ほんの少し前まで、かぐやと彩葉さんとヤチヨが並んで歌っていた。

 

 ヤチヨが、あんなにも幸せそうに笑っていた。

 

 ようやく三人で同じ舞台に立てたのに。

 

 この操作を通した先には、その未来が続かない。

 

 かぐやを助けたい。

 

 ヤチヨにも笑っていてほしい。

 

 どちらか一方なんて、選べるわけがない。

 

 白い腕が伸びる。

 

 猶予がない。

 

 「――かぐやに触るなッ!!」

 

 叫びが喉を裂いた。

 

 近くの観客たちが驚いて振り返る。

 

 そんな視線はどうでもよかった。

 

 目の前には、強制切断の実行確認がまだ浮かんでいる。

 

 押せない。

 

 押して助けたい。

 

 押せば、取り返しのつかないものを失う。

 

 指先が震えた。

 

 その間にも白い腕は止まらない。

 

 「やめろ……ッ!」

 

 今度は、掠れた声しか出なかった。

 

 頼むから。

 

 それ以上、その子に近づかないでくれ。

 

 僕に、どちらかを選ばせないでくれ。

 

 そして。

 

 白い腕が、かぐやを掴んだ。

 

 「かぐやッ!!」

 

 彩葉さんの叫びが響く。

 

 かぐやの全身から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。倒れ込む身体を、彩葉さんが咄嗟に抱きとめた。

 

 客席から悲鳴が上がる。

 

 音は聞こえている。

 

 それなのに、その瞬間だけは何も頭へ入ってこなかった。

 

 間に合わなかったんじゃない。

 

 僕が止めた。

 

 押せるところまで指を進めて、最後に自分の意志で止めた。

 

 その事実が、鉛のように喉へ詰まった。

 

 けれど、立ち止まっている暇はない。

 

 強制切断の確認画面を閉じる。

 

 この手段が使えないなら、別の道を探す。

 

 ツクヨミの管理権限で、監視対象を白い人型と接触箇所へ集中させる。

 

 オブジェクトの識別情報。

 

 侵入元。

 

 通信データ。

 

 経路。

 

 拾えるものを片端から洗う。

 

 同時に、能力でも追う。

 

 目の前に現れている白い人型そのものではなく、ここへ至った経路を辿る。

 

 どこから来た。

 

 何を通った。

 

 どこからツクヨミへ繋がった。

 

 ツクヨミ側の記録は、途中で途切れている。

 

 けれど、完全に何もないわけじゃない。

 

 細い繋がりが残っている。

 

 管理系統で拾った断片と、能力で辿れる経路を重ねる。

 

 一つ先へ。

 

 さらにその先へ。

 

 細い。

 

 それでも、まだ続いている。

 

 ――迎え。

 

 先ほど蘇った言葉が、もう一度頭をよぎる。

 

 もし本当に月から来たものなら。

 

 この経路の先には、ヤチヨが話していた場所がある。

 

 それは、通常の空間的な距離を追う感覚とはまるで違っていた。

 

 ここから隣接する場所を順番に辿っているんじゃない。

 

 途中がない。

 

 なのに、接続だけが成立している。

 

 その先に、別の空間がある。

 

 今いる場所とは、空間上の連続性を持たない領域。

 

 輪郭だけが、少しずつ浮かび上がる。

 

 まだ遠い。

 

 細部までは分からない。

 

 それでも、一度掴んだ経路は消えていない。

 

 もっと深く。

 

 もう一段。

 

 辿る。

 

 舞台の上では何かが起き続けている。

 

 声も聞こえる。

 

 観客席からざわめきも上がっている。

 

 それでも今は、経路を離さない。

 

 ここで切れば、もう一度掴める保証はない。

 

 空間同士に連続性はない。

 

 なのに、確かに向こうからこちらへ何かが通っている。

 

 その繋がりだけを追う。

 

 もう少し。

 

 あと少しで。

 

 向こう側の輪郭を、もう少しはっきり――。

 

 経路が切れた。

 

 唐突だった。

 

 細くなったわけでも、遠ざかったわけでもない。

 

 そこまで確かに存在していた繋がりが、一瞬で消えた。

 

 「……っ!」

 

 すぐに能力を伸ばし直す。

 

 ない。

 

 管理側の記録を見る。

 

 こちらも消えている。

 

 接続元も、残っていた情報も、さっきまで追えていた痕跡が一斉に途絶えていた。

 

 そこで初めて、舞台へ意識を戻す。

 

 白い人型はもういなかった。

 

 ヤチヨが観客席へ向き直っている。

 

 「何が起こってしまうんだ? 続報を待て!」

 

 一瞬、場内が止まった。

 

 それから、戸惑いの混じった声が返る。

 

 今までの異常も含めて演出だったのかと、受け取り直し始めている人もいる。

 

 僕はまだ、消えた経路の先を探していた。

 

 何も返ってこない。

 

 ヤチヨは大きく手を振る。

 

 「みんな、今日は本当にありがとう~☆」

 

 幕が下り始めた。

 

 かぐや。

 

 彩葉さん。

 

 ヤチヨ。

 

 三人の姿が少しずつ隠れていく。

 

 僕は最後まで監視表示を閉じなかった。

 

 ライブ会場の状態。

 

 接続異常。

 

 さっきの侵入対象。

 

 一瞬だけ触れかけた、空間の向こう側。

 

 取れるものは全部取る。

 

 けれど、幕が完全に落ちるより少し後。

 

 通信切断。

 

 視界が切り替わった。

 

 ステージ側との接続が消える。

 

 監視表示からも、ライブ空間内部の直接情報が落ちた。

 

 客席とステージが完全に分断された。

 

 静かになった視界の隅に、さっき中断した緊急切断操作だけが履歴として残っている。

 

 対象――かぐや。

 

 実行直前で中止。

 

 そこへ目が止まった。

 

 「……っ」

 

 喉が痛い。

 

 叫んだ時の感覚が、まだ残っている。

 

 かぐやに触るな。

 

 確かにそう叫んだ。

 

 それなのに、僕は最後の一押しができなかった。

 

 押せば、ヤチヨの道が途切れた。

 

 だから止めた。

 

 それでも。

 

 白い腕がかぐやへ届いた瞬間だけは、何度思い返しても消えてくれなかった。

 

 

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