転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜 作:蠱毒は孤独
明確な指針が立ってから、さらに三年がたった。
北方では帝国と悪魔の軍勢の小競り合いが激化しているらしい。
僕が拠点とする街は帝国領の南端近くに位置している。そのため影響は軽微で街の活気も平時と変わらなかった。
それでも、風の噂に聞いた争いが妙に気になった。調べるうち、その発端が一人の勇者と一柱の悪魔による古い争いにあると知った。
一方は、原初から存在する悪魔族最上位の存在。
もう一方は勇者。この世界で初めて誕生した人間の超越者。
両者は古くから幾度も激突し、今なお形を変えて雌雄を決しようとしている。よくそこまで戦い続けられるものだと、調べながら呆れた。
もちろん、勇者が人間の超越者と聞いて『
僕が
だが、件の超越者までの道筋は
初めての反応だった。
勇者と呼ばれる段階*1へ至る道筋は見えた。それは思ったほど遠くない。さらに、超越者*2となった先から伸びる道もあった。そこから先、より高位の存在へ至る細い道が、ほんの僅かだが続いている。
ただし、その二つを繋ぐはずの部分だけが見えなかった。
脳裏に映るのは、勇者へ続く道の終端と、断崖の向こうから再び始まる道筋だった。勇者と呼ばれる段階から、完全な超越者へ至る方法だけが抜け落ちている。
少なくとも僕には、それが『道標』の力不足と超越者という存在の重さを示しているように思えた。
今の僕には見えない。
ならば、見えるところまで力をつけるしかない。
そう結論づけて、ひとまず超越者への問いを意識の奥へ沈めた。道筋を見つめ続けたところで今日明日に答えが現れるわけではない。
僕には依頼もあれば学ぶべきこともある。そして、何でもない顔で迎えてくれる人たちもいた。
遠い未来への道を探していた、そんな日々の中。
すぐそばで、新しい未来がひとつ生まれた。
お世話になっている夫婦の間に子どもが生まれたのだ。
かわいい女の子だ。
小さく、あまりにも儚い命だった。この子がこれから大きくなっていく姿を思うと胸の内が温かくなる。けれど、触れればほどけてしまいそうで抱き上げることはできなかった。小さな手に指先で触れるだけに留めた。
後になって、少し惜しいことをしたと思った。
父となった男はそんな僕を腰抜けだとからかい、母となった女性は深くため息をついていた。
温かい家庭だった。
そんな折、僕に大きな仕事が舞い込んできた。
ここ三年で、僕の名は拠点としている街の誰もが知るほどになっていた。今では『金眼の預見者』なんて呼ばれている。それを聞くたびに恥ずかしい気持ちと誇らしい気持ちが同時に湧き上がる。まだまだ未熟な僕が、それでもこの瞳は認められたみたいに思えた。
その依頼はさる筋からのもので所謂、断れない依頼というやつだ。こういった依頼は度々あった。以前の重傷を負った時の依頼もそうだ。
仲介者も請負人も、まず断れない。いや、断らない。
断れば、その街で仕事を続けにくくなる。それでも断る者は余程の阿呆扱いされるし、そもそも断りそうな者へ、こうした依頼が回ってくることはない。
依頼内容は帝都へ同行すること。護衛などの戦闘行為は必要なく、都度能力を使って危険がないか予見してほしいとのこと。
早期警戒役として見込まれているらしい。
そして、今回提示された報酬は貨幣とは別に帝都の大書庫への紹介状。
断る選択肢はなかった。
夫婦にも仕事でしばらく来られないことを話した。帝都までの道は片道で半年、往復で一年かかる。そのことを考えれば、挨拶回りは必要だった。
僕の移動能力は秘密にしている。夫婦の住まいは街から徒歩で一週間ほどの場所にある。その間に別の町があり、このくらいの距離なら別の能力として言い訳が利く。
だが、それ以上の長距離となると隠蔽が難しくなる。
そして、『
バレた時の末路は容易に想像できる。
帝都までは、領軍に同行することとなる。四六時中見られている状態が続く。気軽に能力は行使できない。だから、しばらく会えない。
別れの挨拶は済ませた。二度と会えなくなるわけじゃない。そう分かっていても辛かった。
何故辛いのかは、その時は分からなかった。
でも、男と女性は力強く送り出してくれた。
だから、僕も笑顔を見せて、立ち去った。
……久しぶりに笑ったな。
小さくなる家を横目にそんな事を考えた。
長い旅が始まる。
◆
「大丈夫かね、行かせてしまって」
「ふん、無愛想な顔を見ずに済んでせいせいするよ」
「帰りの旅支度まで口出しといて言うことじゃねえぞ」
「ふんっ」
「いってぇ、叩くことねぇだろ。……そのまま消えていってしまうんじゃねぇかって思ってよ」
「ないね」
「なんでだよ」
「別れ際の顔」
「あぁ!……そうか、アイツ笑えたんだな」
「帰ってくるよ」
「そうだな。よしっ、酒でも飲むか!」
「ふんっ」
「だから痛えって!!」
◆
領軍の人たちはいい人たちだった。あちらから歩み寄り、僕を集団の中に迎え入れてくれた。ただ、規律は厳しいのか度々、勝手に判断して叱られることはあった。素直に自制した。長く行動を共にするのだ。仲良くしていたかった。
そして、日頃の自己鍛錬が実ったのか、出発して間もなく自身の殻が破れた感覚がした。だが、僕は勇者になったわけでも、進化したわけでもないらしい。『
『
あの団欒が恋しい。
そうして半年が過ぎ、帝都に到着した。帝都には約一か月滞在し、その後、帰路につく予定らしい。滞在中は、呼び出しがない限り自由行動を許されていた。ようやく目的を果たせる。領軍で親しくなった者たちに見送られ書庫へと向かった。
紹介状の確認を終え、中に入る。大書庫というだけあって、前世で見た大型書店を彷彿とさせる広さだった。それほどの広さなのに遠い階層から聞こえる誰かが頁をめくる乾いた音以外は何も聞こえなかった。それが古びた羊皮紙の匂いをより際立たせていた。
圧倒されていた意識を引き締め書庫の中を見て回った。
半月が経った。その間、書庫へ通い詰め、閲覧を許された蔵書すべての記録をようやく終えた。
以前に身につけた『思考加速』で知覚を引き延ばし、目にした頁を『
そして、書庫での用事を終え、宿へ戻る途中、僕は悪魔に遭遇した。帝国は悪魔の軍勢と争っている。帝都まで偵察が入り込んでいても不思議ではない。
通報しようと判断した時にはそいつは僕の前へ来ていた。
速い。
即座に距離を取り戦闘態勢に切り替えた。
悪魔、赤毛のそいつはそんな僕を見ても余裕綽綽といった態度を崩さない。
様子がおかしい。偵察にしては、あまりに堂々としている。それに存在の規模。抑えられているが並大抵の悪魔じゃない。おそらく
「珍しいな、聖人が一人うろついてるなんてよ。見たこともねぇし、もしかしてお前、在野の聖人か?帝国にお前みたいなのは見たことがねぇ。外見も魂も無駄にキラキラしやがる」
聖人。人間の上位階梯に位置し、現状では確認例も少ない強者。僕が?仙人ではないのか?仙人へ至る道を進んでいたはずなのに、どこで道筋が変わった。
「だが、成り損ないだな。未だ物質に依存して安定もしていない。隠してるが魔素の波長が乱れてるぜ」
確かに、殻を破った感覚を得てから魔力操作がいまだ覚束ない。魔素も精密な制御までは手が届いていなかった。今はこれまで『
そして、なぜか死へ続く道が見えない。僕には逃走以外の選択肢がない。それほど隔絶した相手なのに少なくとも今この場で、僕が死へ至る道筋は示されていなかった。『
それに眉を寄せた悪魔はだんだんと楽しげに口元を緩めた。
「大胆だ。そして、いい判断だ。俺にお前を殺すつもりはねぇよ。そっちの方が面白そうだ。ルドラの良い駒になる」
ルドラ。帝国の皇帝の名だ。そして、皇帝を呼び捨てにするこいつは。
「じゃあな、小僧」
そう言って赤毛の悪魔は去って行った。いたはずの空間には何もなく、風だけが通り過ぎる。突然嵐が通り過ぎていったような心地で立ち尽くす。
間違いない。
赤毛
帝国と皇帝に対する、あまりにも遠慮のない言動
あれこそ、原初の悪魔。その一柱。
ギィ・クリムゾン
たった今まで、太古から生きるこの世界の頂点がそこにいた。
蔵書すべての記録をようやく終えた
―リムルの『胃袋』と『大賢者』による複製が反則すぎる。
ギィ・クリムゾン
原初の悪魔の一柱。最古の魔王。
ルドラとの会談の帰りに面白そうな奴を見つけた。
小僧はどこかでルドラが拾うだろと思っている。
ルドラ・ナム・ウル・ナスカ
始まりの勇者。転生を繰り返している帝国の皇帝。
世界統一による恒久平和の理想を掲げながら、ギィとの代理戦争に勤しむ。
小僧?だれそれ状態。
一旦ストックに専念します
かぐや?次ね、次