デカかわいいダウナーロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ   作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)

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暇・キャッチボール

 

 

 

 

 

 

 

つぎは?(next?)

 

「…遊ぶ?」

 

「それは、なに」

 

「何って何さ」

 

「その遊ぶ(サブルーチン)はない」

 

 

 

 …確かに。

 

 僕はナギサの言葉に自身の言動の問題点を自覚させられる。

 

 僕らの艦隊には「遊ぶ」についての情報が無いのだ。

 

 

 

「…ツミキをすること?」

 

 

 

 学習装置上においては遊ぶニアリーイコールツミキに等しい描写で例的に示されていたはずだ。

 

 それに、彼女もその様子に感化されたのか「遊ぶ」に相当するであろう積み上げ行動を自主的に繰り返していた記憶がある。

 

 なので、僕は何故かメインルームの畳に仰向けになっているナギサに向け、特に理由もなく部屋を歩き回りながら、それについての検討の意味を含んだ音声を発信してみる。

 

 腐っても戦闘航宙艦なので、その心配になるほど細い上にすらりと長い脚部等を跨ぐのも一苦労である。

 

 

 

「…」

 

 

 そんな彼女の向こう脛の辺りをひょいと乗り越え、おそらく現在は動く必要も立つ必要もないことからその場に大の字で寝転がるという判断をしたのであろう意外に横着なナギサ(返答について思考中)を尻目に、僕は廊下を出て、玄関の姿見の前に立ってみた。

 

 まあ、よくある典型的な設計された人間の容姿である。

 

 居住艦に戻れば医療ベイで修復の名のもとに顔付きから性別まで自由に変更できるのだから、容姿に特段の意味はもはや存在しないだろう。

 

 前の僕とナギサはどんな選択をして、どんな心の見た目をしていたのだろうか。

 

 実際の型式や設計、識別名や消息は一切不明ながら、おそらく僕が製造される以前に存在したであろう先代僕と先代ナギサのことを考える。

 

 …と、そんな調子で半裸の女性が酒瓶を持っている構図のアルコール飲料の広告の付いたポスターを見つめながら、完全に時間が静止したようにさえ感じられる木造建築物の気だるいアトモスフィアを感じていると。

 

 ふいにナギサの方から機械の回転する動作音が聞こえたと思ったら、続いて記憶装置に何かを書き込む時のようなチキチキというクリック音も耳に入ってきた。

 

 空間全体に何かしらの探査光を照射したのだろう。

 

 キーボードが押し込まれる時の音にも似た重たいリレー回路の動作音が遠い蝉の声に混じる。

 

 

 

「…ナギサー、何してるの〜?」

 

「ツミキ、なかった」

 

「走査してたの〜?」

 

「そう」

 

「…そっか」

 

 

 

 一応動向を確認するために、少し大きめに喉を開きつつ若干気合を入れて別室のナギサに声をかけたが、実の所彼女は地獄耳である。

 

 なので、本来声を張り上げる必要などない。

 

 それどころか、言葉を口に含んだだけでも寸分の狂いなくその意味を拾う事ができるだろう。

 

 しかし、相手に何かを伝えたいという意思を明示しながらコミュニケーションを図ることは、それ即ち相手を思いやることに繋がるのだと思う。

 

 なお、これは教育ビデオではなく、ナギサと生きていく中で自然と学び、自主的に常日頃気をつけるようにしていることである。

 

 彼女に聞こえていないふりをしてもらい続けるのは心が痛むからね。

 

 

 

「…遊ぶ、を捜索、する?」

 

「!そうしよっか」

 

 

 

 …僕がナギサといつも通りの意味があるようにもないようにも取れるなんだかフワフワしたやり取りを続けていると、唐突に大きなイベントが発生する。

 

 かなり、ものすごく珍しい、彼女側から行動の提案である。

 

 それも、自分がしたいことに協力してほしそうな意志を感じさせる口ぶりで。

 

 驚きもそこそこに、僕はなんだか嬉しくなってしまったので、すぐに彼女に向かって返答を放り投げる。

 

 

 

「じゃあ、まずはこの家の中を探そうか」

 

「さがす」

 

 

 

 …即答に近い応答が帰ってくると、なぜだか廊下の向こうの広間の中で、彼女が鴨居を避けながら三角座りになる様子が瞳に浮かんでくる気がした。

 

 きっと、僕と一緒に遊ぶをしたいのだろう。

 

 何かを非論理的に望むということは、彼女は人工知能ではない。

 

 が、背部のカバー裏の刻印(京〇ラ)が示す通り、少なくとも設計元が存在し、すなわち当然自然知能でもない。

 

 なら、彼女は…

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 僕は無意義かつ事前に設定された落着点の存在しないな思考を隅に投げ捨て、彼女の非有機的コミュニケーションを掬いに行くことに成功した。

 

 すっくと立ち上がれば、結果は目前に在ることになるのだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「暖まった無機物の匂いがするね」

 

「このましい」

 

 

 

 …じーわじーわと蝉の鳴く運動場らしき施設にて、僕とナギサは小さなボール1個を手に立ち尽くしていた。

 

 小綺麗なオレンジ色のコートが淡い色彩に熱せられている。

 

 夏の日差しが白く眩しいことを知り、僕は帽子の意義を理解した。

 

 

 

「…じゃあ、しよっか。キャッチボール」

 

「キャッチボール」

 

 

 

 彼女はオウム返しで返事をすると、必要最低限の機構が繊細にその機能を維持するマニピュレータにちょこんとボールを乗せ、きゅうと握りこんだ。

 

 周囲数十キロに渡って誰もいないであろうこの場所にて、僕とナギサは2人きりであり、投球の行方を気にする発想は起こらない。

 

 

 

「き、気をつけてね」

 

「もんだいない」

 

 

 

 …どちらかと言うと、設計時点から恐らく1秒たりとも何かを投げることが想定されていない彼女の機体の方が心配である。

 

 彼女は暖簾をくぐるような気楽さで大気圏を突破してシームレスに宇宙空間を遊泳し、そして時たま破壊兵器をレンズ数枚の稼働のみで操ることができるのに、僕は気遣う思考を止めることができなかった。

 

 

 

「…」

 

 

 

 15メートルほど離れた地点に立ち尽くす彼女は、関節をひとつずつ順番に動かしながら腕部全体を古代の投石器が如く進展させると、投げる準備が整ったとばかり顎をこちらに向けた。

 

 深く青く発光するアーモンド型の目様装置が僕を見定めている。

 

 当然ながらその動きはぎこちなく、緩慢である。

 

 

 

「ほんとに大丈夫だよね…?」

 

「…異常なし」

 

 

 

 僅かに返答の遅れるナギサ。

 

 いいからはやくという気持ちが抑えきれないのだろうか。

 

 感情を視覚的に表現する機構はなにもないのにも関わらず、僕には彼女のじれったさが見て取れた。

 

 

 

「じゃあ、気をつけて投げて

あんまり頑張りすぎないでね」

 

「…」

 

 

 

 青い目に日光が煌めく。

 

 投球モーションに入り、頭部の角度が変わったからだ。

 

 産業ロボットのアームのような俊敏性を持って前腕部が僕から見て僅かに上を向き、そしてマニュピレータに保持されていた野球ボールが慣性に従って掌部より解き放たれた。

 

 

 

「…あ」

 

 

 

 が、ボールは彼女の目の前にポトリと落下する。

 

 射出直前に指を離すのが間に合わなかったのだ。

 

 ちなみに彼女の投げ方はどちらかというと砲丸投げである。

 

 

 

「…」

 

 

 

 ナギサはぎこちない投球フォームのまま静止している。

 

 起きた現象の理解を行っているのかもしれないし、単純に少しショックなのかもしれない。

 

 あるいはその両方か。

 

 とにかく、僕は彼女の目の前までとぼとぼと歩み寄り、ボールを手に取った。

 

 熱せられていて少しぬるい。

 

 

 

「うーん、ボールの解放が遅れて慣性と勢いが死んじゃったのかもね」

 

「…」

 

 

 

 講評を垂れながら、僕は背伸びして彼女の空いた左手にボールを握らせた。

 

 されるがままの彼女は神妙な様子でハンドエフェクタの開閉を僕に任せる。

 

 自分でやらない理由はよく分からないし、自分がなぜやってあげたのかもよく分からない。

 

 僕とナギサは雰囲気で行動するのが大好きであった。

 

 

 

「トライアンドエラー」

 

「いいよ。僕があそこに戻ったら投げて」

 

 

 

 僕は今来た道をてくてくと戻る。

 

 敷地内の近くにある市民体育館の戸は4つ全部が開け放たれており、蒸した木材と甘い塗料の香りが時折熱風となって僕らの頬を撫でた。

 

 気が付けば蝉の声が止んでいる。

 

 日が暮れたわけでも、雨が降りそうな訳でもない。

 

 つまり大した理由もなく、たまたま蝉が鳴くのを止めたくなったから止んだだけのことであろう。

 

 少し粉を吹いたようなトタン屋根の白い物置小屋の外壁に彼らの居た記憶を見たような気がした。

 

 

 

「ついたよ」

 

「なげる」

 

「なげな」

 

 

 

 彼女は再度マニュピレータを後頭部のさらに後ろの辺りにまで引き絞り、そして投げた。

 

 可動域の関係で肩の接合部がぐりんと動作し、モーションは何分割かにて実行されることになる。

 

 しかし先程の失敗を学習した甲斐あってか、今回は割としっかり投げることが出来ていた。

 

 

 

「ナイスボール?」

 

 

 

 ナギサの第二球は僕との15メートルの距離のほぼ中間、8メートルあたりにぽてんと落下し、そして転がる。

 

 ワンバンとゴロの中間のような軌道を描き、僕の元にやってきたのだ。

 

 遊ぶについてのデータに乗っていた「気持ちの良い声掛け」をそれらしく行いつつ、手前でしゃがんで両手で掴み取ってやると、二人の間に「キャッチボール」が初めて成立したことになる。

 

 

 

「ふふっ、上手くいったね」

 

「かんぺき」

 

 

 

 相変わらず平坦な声色のナギサは棒立ちながらどことなく自慢げである。

 

 キャッチボールの記録があるならば、ここ数年で1番のものになるだろう。

 

 

 

「うまくいったから…えーと、じゃあ、次はお昼ご飯か」

 

「お昼ご飯」

 

 

 

 僕は遊ぶについてのデータをペラペラと参照しながら次の行動を提案した。

 

 このキャッチボールをもっと何回もしたい気持ちが少しあるが、ここは元データの行動パターンに則っておいた方が学習が早まるだろう。

 

 ちなみに、食事は今までもしてきたが「お昼」という修飾の付いた「ご飯」は生まれて初めてである。

 

 発見した遊ぶについての書籍には「お昼」の詳細が一切説明されていなかったが、描写と挿絵から察するに、おそらく地表が恒星によって照らされる時間帯の中でもその中間に行われる食事行為を指しているのだと考えられる。

 

 

 

「お昼ご飯、楽しみだね」

 

「うん」

 

 

 

 ともあれ、僕とナギサはここ、市民健康運動センターと表札に書かれた施設の2階へと向かうことにした。

 

 案内図によると食堂が併設されているからだ。

 

 僕は階段を使って上がり、ナギサが入れるように大窓を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 








今作はエタ防止のため頻度重視で短くても投稿するようにしています。
随時加筆統合します。
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