デカかわいいダウナーロボ顔ロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「…ここ?」
「そう」
「いいね」
「うん」
…と、いうことで。
管理衛星から情報を取得した彼女がトロール検索をかけた結果、定住先を早々に見つけることができた僕とナギサの艦隊は、建物の前でぼうっと立ち尽くしていた。
網の目の定義はナギサが無理なく居住できることと綺麗な広い庭があることだったが、この家はそれらの条件に逡巡無く適合しており、優良そうに見えたのである。
佇まいは地球居住代後期の日本風住宅そのもので、縁側と廊下が障子分けの複数の居室をL字に囲うような間取りで、正面に門がある。
そしてかなり広い庭があり、小さな石橋付きの池に紅い鯉が煌めく他、極度に神経質に剪定された様子の低木が植わっていて、それらをなんだか雅な雰囲気の石垣が守っていた。
…少しカサの減った砂利引きの駐車場や建物外に何故かついているアルミの流し台からも、その意匠説明が既に住宅自体から暗黙に行われていると言えるが。
あえて言語化するならば、要するに田舎の代議士や地主の邸宅といった様子である。
少なくともナギサは管理衛星のそういう評を僕に伝えてくれた。
「じゃあ、入ろっか」
「まって」
僕がその曇りガラスの引き戸に手をかけると、頭上からナギサの静止が聞こえ、そして手の甲を見知った冷たい金属の白く嫋やかな指が包み込んだ。
すっぽりと握りこまれてしまった自身の手を一見してから、首の角度を調節し、真上のナギサの顎を見やる。
「…どうしたの?」
「ここからは、入れない」
棒立ちのまま平坦な声を返送するナギサ。
血の流れる生き物の暖かさを確かめるように、僕の手をやんわりとニギニギしているのに、彼女は手以外を一切動かしていない。
なぜなら、宇宙で戦う時もそうであったが、彼女には動く必要のない時に動く必要のない関節を動かす意義が存在しないからだ。
逆に言えば僕の手の甲を握り込むことには何らかの意義を見出しているようであるが、それはともかく、僕はその言葉の意図を汲み取った。
「…あ、そっか。ナギサは玄関から入れないもんね。
じゃあ、入口は縁側に定義しよっか?」
「そうする」
ナギサは即答を返すと、すぐに少しだけふわりと浮かび上がって、縁側のほうへ向かう。
特に何も言わずに見ていると、彼女はその目の前に立ち尽くして数秒考えた後に片足ずつ膝部を床の上に乗せ、半ば滑り込むような女の子座りで無理やり建物の中に収まってしまった。
◇◇◇
「大丈夫?狭くない…?」
「障害なし」
座高が僕の身長に匹敵する彼女の前に座り、その天井ギリギリの様子を眺めながら、僕は心配の言葉を投げかけた。
正直なところここより暮らしやすい場所はいくらでもあるのだが、彼女はこの家がどういう訳かたいそう気に入った様子である。
現に、彼女は表情も声色も仕草も普段と100パーセント変わらないものの、何となく機嫌が良さそうに見える。
「前よりいいにおいがする」
「…そうだね」
どこに付いているのかも分からない嗅覚装置で甘い木と畳の香りを評する彼女の言葉はかなりめずらしい。
普段はたとえガス状星雲の真横にいてもコメントなどしないものだ。
…ちなみに、前というのはおそらく出生管理施設時代のことを指しているのだろう。
そこは僕とナギサ以外に生命反応が一切無く、朽ち果てて乾ききり遮蔽物がドス黒く濁った培養槽の悪臭が、なぜか荒れ果てたまま数キロ続く大広間のような居室に充満するような、今思えばあまり良くない場所であった。
おそらく、僕とナギサのような孤独艦隊が何十年かおきに生産されては同じように極度の暇を持て余し、ある時点でいずれどこかへ消えてゆくことを気が遠くなるほど繰り返していたのだろう。
2人きりなのに数千数万とある埃っぽい椅子と机が細長い居室に散らばっているため、ナギサが「ナギサ」を獲得し始めてしばらくすると、彼女はそれらを積み木のように組み合わせて秘密基地を作ることを日課にしていた。
最初は絡まった合金のかまくらという風貌であったが、時が経つにつれクオリティが向上し、しまいには教育ビデオに出てきた名古屋城を天井の関係で輪切りに再現するに至っていたはず。
「懐かしいな」
「…」
思わず、郷愁が口をついてこぼれ落ちる。
なんだかんだ悪くなかったのだろうな。
ナギサはその思考を知ってか知らずか、天井近くにかけてある知らないおじいさん達の白黒写真を眺めている。
「…ナギサ、秘密基地は作る?」
何となく言いたくなってしまって、僕も僕にしてはとても珍しく、続けてからかうような一言をぽろりと放ってしまった。
「つくらない」
ナギサはその揶揄いに対し、いつもより心なしかぶすっとした、ある意味すこし恥ずかしそうな雰囲気で答える。
やはり音の強弱、声色、姿勢、表情、全てが平時と一切変わらないものの、僕にはそれが分かりやすいようにさえ感じられた。
…ともあれ、艦隊の士気は向上の一途を辿っていることに間違いはなかった。
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あまりに変だなこの連載(客観視)