デカかわいいダウナーロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
誰かの豪邸の近くに帰りついた時、恒星は既にどこか切なく感じさせる橙色の輝きを放ち始めていた、
生暖かった熱風はいつのまにか涼の気配を纏った爽やかな風へと転じており、とぼとぼと歩きながら人気の無い民家の影に入るとなんとなく居心地の悪さも覚える。
日中の一番暑いときと比べると気温も低い。
一日が終わろうとしているのだ。
「外気温低下。きをつけて」
意味もなく地面に降りて一緒に歩いてくれているナギサが警告する。
…確か、以前どこか遠い星の上で…そう、ハタナカⅣという衛星で放棄された何かを処理した時も同じアラートを聞いた気がする。
その星は恒星が出ている間は+23~26度で快適な温度なのに、その庇護を失う夕暮れから夜にかけて気温が急激に低下してしまい、数時間で絶対零度付近まで冷え込むのだ。
宇宙服の耐候性的には充分耐えられたものの、湿気と急激な温度変化のせいで着氷してしまい、しっかりめに死にかけた記憶がある。
あの時ナギサは警告後数時間で危機的状況に気が付き、すぐに僕を引っ掴んで浮遊した結果、最低気温になる寸前で艦長を居住艦のエアロックに放り込むことに成功したのだった。
「…地球は極限の環境じゃないから、だいじょぶだよ」
「そう」
返答を待ちながらもすぐに離陸するつもりだったのか、彼女は歩行補助装置を既に畳んだまま歩いていたが、僕の返事を受けてか安心したように足首の辺りにあるそれを再展開した。
槍のような脚部の先端にヒールの踵のような構造が追加され、2点から4点に接地面が増えるので安定性が増し、当然歩行速度も付随して増加する。
しかし、もう家は目の前である。
民家2軒と畑五畝ほどを挟んだ先に、それはその存在を主張していた。
◇◇◇
「
「次…」
曇りガラスの入った引き戸をガラガラと開き、昼と比べて少し匂いの変わった気がする木材と残置物の甘い香りの中に足を踏み入れると、窓の外はもう青暗くなっていた。
ナギサは次の行動を求めながら、僕の目の前に女の子座りでどでんと座っている。
やはりその頭部は天井スレスレの位置にあった。
「夜にすること、…ってこと?」
「…」
ナギサはすぐには返事を言わず、ただ同じく目の前に座っている僕へ目様の発光部を向け続ける。
彼女は少し考えてから発言することが多かった。
「キャッチボール」
「ナギサ、またやりたい?」
「うん」
キャッチボールか。
僕は雑然とした居間の隅にちょこんと置いてあるボールを見やった。
そうこうしている間に外は既に真っ暗である。
「…暗いから、また明日やろう」
「うん」
ナギサは1秒も僕から視線を外さずノーモーションで返答を行う。
不満そうな感じも全くなく、とても素直である。
「ナギサ、夜にするべきことの資料はある?」
「発見ずみ」
「検索してくれる?」
「夕食、入浴、歯磨き、ゲーム、皿洗い、洗濯、性行為、睡眠」
彼女は結果を淡々と読み上げる。
昼前の捜索時に発見して部屋の隅に積んであった生活史的な文献に記されていたもの達だ。
する必要のあることは夕食と睡眠だろうか。
しかし今から食料を調達するのは面倒だから、睡眠は規定通り実行するとして、今夜はごはん無しでもいいか。
お腹すいてないしな。
「…」
全く動かないままこちらを見続けるナギサを見やっても、夕食を食べたいと言いそうな感じがしない。
ならばと第二選択肢に分類できるものを列挙すると、入浴、歯磨き、ゲーム、皿洗い、洗濯、性行為となる。
ここからまだその必要がない皿洗いと洗濯を省き、さらに技術的に解決済みの入浴と歯磨きを省き、さらに存在がよく分からないゲームを省くと、残るは性行為となるが、ナギサは人間ではなく実効性が薄いうえに必要性もないためこれも省いてしまう。
すると驚くべきことに、夜にやることが現状何もないという結論にたどり着いてしまった。
僕は頭をかきながらナギサへ行動の逆提案要求を試みる。
「…ナギサは、なにかしたい?」
ナギサは数秒ほど考えて、端的にその要求を一言で述べた。
「おふろ」
◇◇◇
「…ほんとにこれでいいの?」
「いいの」
僕は家の中でも隅っこにある入浴室を利用していた。
銀色の四角いシンクに溜まった+40度程度の水の中へ膝を抱えるようにして胸まで浸かり、自分より高い位置にあって不思議な感じのするシャワーヘッドと湯気をお湯で隠した全裸のまま見つめる。
シャンプーやボディソープ、人間用の洗剤は明らかに使いかけのような見た目をしていて、あたかも昨日ここに住んでいた誰かが使ったばかりのような雰囲気で浴室内に置きっぱなしにされていたが、見た目はともかくとしてその悉くがなぜか未開封であった。
「あたたかい」
「そう、だね…」
そんな最小限の空間の中、彼女はどうやって「おふろ」を実行しているのだろうか。
というのも、彼女は浴室の入口みちみちに足を伸ばして座り、脚部の先端をちょこんと僕のいるお湯の中に15センチほど差し込む形のことを「おふろ」と表現することで、入浴行為を実現していたのだ。
さながら足湯だが、正直なところ足湯未満である。
「今度、ナギサも入れるお風呂探そっか」
「さがす」
彼女の頷きが遠い脱衣所から漏れ聞こえる。
その声は湯気と反響によってくぐもっていたが、なんとなくリラックスしているような雰囲気を感じ取ることができた気がした。
「…」
…目の前の彼女の脚部先端をまじまじと眺めても、とくに面白みはない。
その間僕は自分が彼女の足裏を初めて見た事に気がついたが、やはり何の変哲もないただの脚部である。
歩行補助装置を意味もなくパタパタと遊ばせるいつもの彼女の暇な時の癖が出ていないということは、つまり彼女がこの時間に何らかの意義を見出しているのだろうが、少なくとも僕にはその正体が見えてくることはなかった。
気が付けば睡眠規定時刻寸前である。
…僕はいい所まで初めての「お風呂」を楽しんだ後、湯気をまとい人肌程度にまでじんわり温まった彼女のそれを拭いてあげたのだった。
樹脂の表面は一度タオルで撫でるだけで完璧に水気を失うが、僕の頭髪はそう簡単にいかない。
彼女にドライヤーをつまんでもらって乾かしながら身支度をして、寝る準備を終えた後、2人は1番広い和室に川の字で横になった。
彼女は僕の布団の真横に横になり、僕自身は押し入れ収納に入っていた小さな煎餅布団をかぶる。
…人の家の匂いがする。
地球1日目の人生初めての夜は、ナギサがいなければ少し怖く思う気がした。
◇◇◇
…爪で机をつつくような掛け時計の音が、微かに風の通る和室の中に囚われている。
床についてから1時間程が経過したが、僕はまだ寝られていなかった。
自然由来の重力に何となく身体を巡る血の流れを妨げられている感じがして心がざわつく。
それとは対照的に、隣のナギサは全く身動きせずぼうっと天井を見つめ続けている。
寝るという動作が必要ない彼女にとって、睡眠はただ静止する時間である。
「…」
そんなナギサからも、別に気になる程ではないものの、実は僅かな機械駆動音が鳴っていた。
それに、彼女の青い目は夜になると結構明るく、和室全体がおどろおどろしい青色にぼんやりと照らし出されている。
「う、ん…」
…かち、こち。
時計の音が耳元に降り注ぐ。
更に隣の田畑では土着生命が何らかの意図の元に大合唱を繰り広げている。
しかし、両方とも別にうるさくはない。
地味にやかましい宇宙船で寝ていた僕にとっては、むしろ静寂の方が慣れないものであった。
「………」
こういった寝られない時に足を組み替えたり寝相をやたらと変えたりするのは悪手中の悪手である。
別に寝ようと思わずとも黙って目を閉じて動かないでいるだけで、生物的に正しい行動を取る脳はいずれ必ず睡眠プロトコルの必要性に勘づくからだ。
そんなわけで、僕は無理やり目を閉じ、布団の中の腕を定位置に置いて。
なんだか粒状の植物種子が詰められているような感じのする俵型の枕に後頭部を沈みこませると、羊を数えるかわりに少し気になっていた夜の発生要因の理解に努め始めることとした。
◇◇◇
…おそらく、午前三時頃。
地球生活史の文献*1によると、草木も眠る丑三つ時という時間帯に。
いつの間にか眠りに落ちていたはずの僕はなぜか全身の身動きが取れなくなっていることに気が付き、パチリと目を覚ました。
「!…っ」
ナギサに咄嗟に声をかけようとするものの、彼女は全く気がついていない様子。
僕がよく悪夢を見ることを知っているので、多少の寝言程度の呻きではバイタルチェックにこないのだ。
「…!……」
この症状は明らかに金縛り、というやつであろう。
一般的に疲れや個人差、非科学的な超常現象が要因とされる肉体の一時的麻痺であり、文献の中ではそんなに大したことではないとされるそれは、いざ自分で経験してみるとかなり大したことがあるものであった。
とりあえず動く足の親指を僅かに動かしてみるが、彼女は気付かない。
…なんだかナギサの目から発せられる薄ぼんやりとした青い光の中に黒いモヤが見え始めた気がした。
魔法的科学がそこら辺に舞い散る宇宙時代において非常にナンセンスである。
「かは………っ、ひゅ……!」
数十秒ほど必死に足掻き、緊張のせいか吐息ばかり漏れる喉からようやく声らしい声を発することに成功する。
流石にナギサも異常を検知したのか、未だ無言かつ不動ではあるものの静寂の中にカメラのズーム音のようなセンサー機器類の起動音が混じり、更に何らかの回転機構が回り出す音も彼女の胎の辺りから漏れ聞こえる。
「…」
「バイタル異常をけんち」
「異常呼吸」
部屋の狭さの問題から彼女は四つん這いで僕の真上に移動し、 胴体に内蔵されているセンサー類を精密に活用する。
「おきて」
極めて平坦な声色で彼女は僕に起床を促すが、動けないのでどうしようもない。
極度の緊張下にあるであろう瞳を左右にきょろきょろと振り、動けないことを暗にアピールする。
「おきて」
彼女は二度目の勧告を行ったが、やはり僕は動けない。
今度は瞳を足の方に向けて上下に振ってみる。
う、ご、け、な、い…というふうに。
「おきて
…艦長戦闘不能」
三度目の勧告の後、数秒の間も置かずに彼女は突然艦橋を起動した。
見た目状の変化はないものの、要するに戦闘状態に移行したのである。
僕がなんらかの攻撃を受けたと判断したのだろう。
胸部に内蔵された収束レンズがカシャカシャと攻撃的に組変えられる音がする。
彼女は僕を下に敷いたままなので発射装置が僕に向かってしまっているが、万に一つも誤射はありえないので、特に思うところはない。
しかしただの金縛りに対して過剰反応なのもまた事実。
ナギサの
手が少しだけ動くようになったので、そっと布団の上を滑らせ、畳の上に広げて付かれた細長い機械指をふわりと握ってみると、ようやく彼女は僕に視線を落とした。
「おきた」
…僕を覆い隠すほど大きな
少し眩しいけど、心配してくれて嬉しい。
落ち着きを取り戻しかけた僕が、喉を震わせるように彼女へ声をかけようすると…
「はっけん」
「非実態型兵器」
…え?
◇◇◇
「質量、なし。熱、なし。反射率、0。
視覚以外で感知、不能」
彼女は淡々とその特徴を述べる。
重さも熱も反射も全くないのにそこに居ることが明らかなもの…
それはつまり、超自然現象そのものであろう。
しかし、それに対して感じるものは恐怖というより、知的好奇心である。
先程までは状況が理解できなかったから混乱していたが、そんな未説明存在に遭遇できた幸運を今は素直に喜ぶことができる。
「…ご、ごめん………もう大丈夫…!」
僕は彼女の下から脇に転がるように抜け出ると、すっくとその場に立ち上がった。
彼女の目も僕の起床に合わせて本来の光量を取り戻し、黒いモヤは暗闇の中の青い光で消え去りそうになっている。
「第一「第二「第三種戦闘…」」」
戦闘指揮システムを重複起動する声が夜の民家を揺るがした。
本格的に臨戦状態に舵を切った航宙戦闘艦は、重力下仕様の対フォグレンズを胸元に煌めかせる。
「家壊さないようにね」
「うん」
彼女は四つん這いから女の子座りへ慎重に姿勢を変えると、レンズをモヤに向けたまま僕が使っていた変な枕をちょんとつまみ、そしてモヤに向かって放り投げた。
「えっ」
ポイ。という感じでサラサラと音を立てながら昼間の物体投射学習を存分に活かした動作をもって飛翔したそれは、モヤがいる場所の壁にシャンと音を立ててぶつかると、なんとも頼りない音と共に畳の上におっこちる。
すると驚くべきことに黒いモヤが急激に薄くなり、グラデーションを認識する暇もなく、それは元から無かったかのように消えてなくなってしまった。
「…きえちゃった」
「戦闘終了」
なんともあっけない終わりである。
艦長は少し肩を落としながら布団に戻ろうと身を屈めたが、すぐにナギサがその両脇を引っ掴んで自らの前に引き寄せる。
「わあっ」
「情報共有」
物凄く真面目に裸の僕の肩をひしと捕まえて「情報共有」と繰り返し始めたナギサは、どこか狼狽しているようにも見えた。
「たぶん、幽霊だと思う。たぶんね………」
「ユウレイ」
…その後かなり真面目に新兵器「幽霊」の警戒をし始めたナギサは、夜間も艦長のバイタルを測り続けるためか、片手を繋いで寝るようになった。
他にも、たまに寝顔を覗き込んだり1時間おきにセンサー類で居室の走査を行ったり、しばらくちょっと落ち着かない様子が見られるようになってしまった。