デカかわいいダウナーロボ顔ロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「暖まった無機物の匂いがするね」
「このましい」
じーわじーわと蝉の鳴く運動場らしき施設にて、僕とナギサは小さなボール1個を手に立ち尽くしていた。
小綺麗なオレンジ色のコートが淡い色彩に熱せられている。
夏の日差しが白く眩しいことを知り、僕は帽子の意義を理解した。
「…じゃあ、しよっか。キャッチボール」
「キャッチボール」
彼女はオウム返しで返事をすると、必要最低限の機構が繊細にその機能を維持するマニピュレータにちょこんとボールを乗せ、きゅうと握りこんだ。
周囲数十キロに渡って誰もいないであろうこの場所にて、僕とナギサは2人きりであり、投球の行方を気にする発想は起こらない。
「き、気をつけてね」
「もんだいない」
…どちらかと言うと、設計時点から恐らく1秒たりとも何かを投げることが想定されていない彼女の機体の方が心配である。
彼女は暖簾をくぐるような気楽さで大気圏を突破してシームレスに宇宙空間を遊泳し、そして時たま破壊兵器をレンズ数枚の稼働のみで操ることができるのに、僕は気遣う思考を止めることができなかった。
「…」
15メートルほど離れた地点に立ち尽くす彼女は、関節をひとつずつ順番に動かしながら腕部全体を古代の投石器が如く進展させると、投げる準備が整ったとばかり顎をこちらに向けた。
深く青く発光するアーモンド型の目様装置が僕を見定めている。
当然ながらその動きはぎこちなく、緩慢である。
「ほんとに大丈夫だよね…?」
「…異常なし」
僅かに返答の遅れるナギサ。
いいからはやくという気持ちが抑えきれないのだろうか。
感情を視覚的に表現する機構はなにもないのにも関わらず、僕には彼女のじれったさが見て取れた。
「じゃあ、気をつけて投げて
あんまり頑張りすぎないでね」
「…」
青い目に日光が煌めく。
投球モーションに入り、頭部の角度が変わったからだ。
産業ロボットのアームのような俊敏性を持って前腕部が僕から見て僅かに上を向き、そしてマニュピレータに保持されていた野球ボールが慣性に従って掌部より解き放たれた。
「…あ」
が、ボールは彼女の目の前にポトリと落下する。
射出直前に指を離すのが間に合わなかったのだ。
ちなみに彼女の投げ方はどちらかというと砲丸投げである。
「…」
ナギサはぎこちない投球フォームのまま静止している。
起きた現象の理解を行っているのかもしれないし、単純に少しショックなのかもしれない。
あるいはその両方か。
とにかく、僕は彼女の目の前までとぼとぼと歩み寄り、ボールを手に取った。
熱せられていて少しぬるい。
「うーん、ボールの解放が遅れて慣性と勢いが死んじゃったのかもね」
「…」
講評を垂れながら、僕は背伸びして彼女の空いた左手にボールを握らせた。
されるがままの彼女は神妙な様子でハンドエフェクタの開閉を僕に任せる。
自分でやらない理由はよく分からないし、自分がなぜやってあげたのかもよく分からない。
僕とナギサは雰囲気で行動するのが大好きであった。
「トライアンドエラー」
「いいよ。僕があそこに戻ったら投げて」
僕は今来た道をてくてくと戻る。
敷地内の近くにある市民体育館の戸は4つ全部が開け放たれており、蒸した木材と甘い塗料の香りが時折熱風となって僕らの頬を撫でた。
気が付けば蝉の声が止んでいる。
日が暮れたわけでも、雨が降りそうな訳でもない。
つまり大した理由もなく、たまたま蝉が鳴くのを止めたくなったから止んだだけのことであろう。
少し粉を吹いたようなトタン屋根の白い物置小屋の外壁に彼らの居た記憶を見たような気がした。
「ついたよ」
「なげる」
「なげな」
彼女は再度マニュピレータを後頭部のさらに後ろの辺りにまで引き絞り、そして投げた。
可動域の関係で肩の接合部がぐりんと動作し、モーションは何分割かにて実行されることになる。
しかし先程の失敗を学習した甲斐あってか、今回は割としっかり投げることが出来ていた。
「ナイスボール?」
ナギサの第二球は僕との15メートルの距離のほぼ中間、8メートルあたりにぽてんと落下し、そして転がる。
ワンバンとゴロの中間のような軌道を描き、僕の元にやってきたのだ。
遊ぶについてのデータに乗っていた「気持ちの良い声掛け」をそれらしく行いつつ、手前でしゃがんで両手で掴み取ってやると、二人の間に「キャッチボール」が初めて成立したことになる。
「ふふっ、上手くいったね」
「かんぺき」
相変わらず平坦な声色のナギサは棒立ちながらどことなく自慢げである。
キャッチボールの記録があるならば、ここ数年で1番のものになるだろう。
「うまくいったから…えーと、じゃあ、次はお昼ご飯か」
「お昼ご飯」
僕は遊ぶについてのデータをペラペラと参照しながら次の行動を提案した。
このキャッチボールをもっと何回もしたい気持ちが少しあるが、ここは元データの行動パターンに則っておいた方が学習が早まるだろう。
ちなみに、食事は今までもしてきたが「お昼」という修飾の付いた「ご飯」は生まれて初めてである。
発見した遊ぶについての書籍には「お昼」の詳細が一切説明されていなかったが、描写と挿絵から察するに、おそらく地表が恒星によって照らされる時間帯の中でもその中間に行われる食事行為を指しているのだと考えられる。
「お昼ご飯、楽しみだね」
「うん」
ともあれ、僕とナギサはここ、市民健康運動センターと表札に書かれた施設の2階へと向かうことにした。
案内図によると食堂が併設されているからだ。
僕は階段を使って上がり、ナギサが入れるように大窓を開いた。
ナギサは性能良くて革新的だけど古い型式でドリームキャストぐらいの立ち位置のロボ娘