デカかわいいダウナーロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
ビーーーーーープ。
唐突な電子的アラームが午後の惰眠を妨害した事により、僕はようやくポジショニングを終えたばかりの座布団から頭を持ち上げなければならなかった。
それも、かなりの驚きをもって。
地球に来て初めての不愉快極まりない起床である。
「!?」
「こうるさい」
すぐに音の発生源を特定したナギサは首の角度を玄関の方へと向けていた。
そういえば玄関の姿見の横に小さな机があり、その上に黄土色の色褪せた用途不明小型装置が設置してあった記憶がある。
その机の引き出しに入っていた電話帳なる何らかの数字記号の羅列と識別子が膨大な量収録されていた書籍によると、その名も「固定電話」だ。
おそらくは通信装置の類ではあろうが、まだ使用されていたとは。
「…」
その間も、ナギサは何とも言えない無言の圧を持って僕の顔を見つめ続ける。
察するにうるさいから早く何とかしてほしいらしい。
「操作がわからないよ」
耳障りなビープ音を叫び続ける小さな賊徒を前に、僕は困り果ててしまう。
常日頃理解不能な技術に包まれて生きている僕にとって、その取り扱い方法を理解していない何かしらによく分からないまま手を触れるというのはすなわち何が起きるか分からない行為を意味するので、かなり怖いことなのである。
0から9までと録音や留守番電話などのサブ機能の宿ったボタンが整然と並んでいるその天板には、意味深な子機のようなものが左側半分を閉めるようにくっ付いていて、明らかに外れそうである。
「ナギサ、これ取っていいと思う?
…………あっ!」
ガチャリ、と。
意外と面倒くさがりな彼女は僕の返事を待たず、着脱部位を親指と人差し指に当たるハンドエフェクタをもってつまみ上げてしまう。
…事後に調べてわかったことだが、これは受話器と言う付属品で、ナギサのように無造作に取り上げて耳元に当てることでダイレクトに音声を聞き取るためのものであったらしい。
しかしこの時はまだ耳に当てるという発想がないので、僕は彼女が爪楊枝を持つようにちまっと保持したままのそれをじっと見つめるばかり。
「…うわっ、なにこれ」
黙りこくって、しんとした室内に僅かな音量で漏れ聞こえる電話口の音を聞き取ってみれば。
概ね「ギャーーー」と表現出来る壊れた機械の様なグリッチ音が、ある程度の規則性を持って繰り返されているではないか。
…とはいえ、おそらく何らかの意味があるということは僕でもわかる。
幸いなことに、それが瞬時に予測できる程度の技術的知見は備わっていた。
「…構造化しんごう」
どうやらナギサも同意見のようである。
「…なんらかのデータ通信とはんだん」
「わかるの?」
「…モデム通信とはんだん」
僕の問いかけには答えず、どんどん予測と考察を絞ってゆくナギサ。
天井の低さの問題により、例によって玄関の踊り場に女の子座りのままである。
技術的にはすごいことしてるのにな。
あまり格好がつかないことに、僕はナギサらしさをどこか他人事のように感じてしまう。
「…ふくごう」
「…ふくごう」
「…ふくごう…救援要請と解釈」
…救援要請?
作業中であることを僕に伝えるためか、何故か同じことを3回も言ったナギサは、妙な復号結果を教えてくれた。
どうしてわざわざ地球にいる無所属野良艦隊の僕に?
謎は深まるばかりである。
「…なんて言ってるの。どこ?」
「ストークス恒星系
ナビエⅡ軌道上
53.45N 7.50W +100km
操舵不能」
「そっか…なんでモデム通信?」
「ふめい」
…まあ、おそらくこの家にまともな通信機器がこの電話しかないからであろう。
ともあれかなり面倒がくさそうなのは間違いない。
正直なところ僕は無視したかったが、常識的に考えて行かない方がおかしいというものである。
それに、僕が今真面目に要請に応えることで、いつか僕が撃破されたり難破した時に誰かが助けに来てくれるかもしれないのだ。
「…行く?」
「したがう」
「…分かってる。行くしかないよね……」
この座標は撃破されたり操舵不能に陥った船や戦闘艦の亡骸で出来たデブリ帯の一角である。
複数の恒星系を川のように跨ぎ膨満したエーテルの只中を彩り続けるそれには、なぜだか皆がみな捕らえられその身の一部に誂えられてしまうような、悍ましき魔力があるのだ。
◇◇◇
『…皆で、ずっと、トランプをして…』
『食料が…』
『助け…』
「…やかましいな」
ぶつりと受信トグルをねじると、僕は操舵席のクッションに腰を沈めた。
船外のナギサが少し心配そうにこちらを見る。
…ここ、恒星間デブリ帯には、まだ生きている無数の廃船の動力から漏れだした高出力エネルギーが、半永久的に供給され続けてしまっている。
そんな高出力のエネルギーは大量の金属の骸の間を電波などが乱反射及び滞留することを助けてしまうので、当時発せられた通信の類がその瞬間から今現在に至るまで空間そのものに閉じ込められた状態となる。
よって、こうやって不用意に近づくとまるでさっき発せられたような救援要請や命乞いや遺言が、延々と混線した状態で無線に流れ続けることになる。
『食料が…もう……もたない…』
『炉心が…』
「ああ…もう………!」
…彼らが今度はヘルメットの通信装置にしがみついてきたので、僕はメットの外から側頭部を3回叩き、インターフェースを停止させることで一時の安寧を手に入れる。
自由気ままにその辺を漂いつつ、ありもしない救いを求めてひっきりなしに帯域に混線してくるそれらは、大抵の場合死に際の世迷言か餓死か狂死の慟哭であり、つまりここいらは周囲一体全てがボイスメモ付きの墓標と言ってもいい。
…逆に言えば死人の声と姿を何時でも拝める場所でもあるのかもしれないが、僕にとって懐かしい人はここにも過去にも未来にも居ないのだ。
「…あれだな」
キラキラと好き勝手に回転したり光ったり火花を出したりサージを走らせたりする輝きの海の少し先を見据えると、助けを求めた者の姿が見えた。
…7割ほど蒸発しているそこそこ大きな知能化駆逐艦と、それを指揮していたと見られる半壊した明らかに旧式の黒い航宙戦闘艦と、彼らに相対するように対角線上に静止する船型独立思考航宙戦闘艦である。
なお、後者はまだ戦闘可能な様子であり、更にバルバス・バウの先端に搭載された巨大な人の眼のような装置がギョロギョロと忙しなく暴れているように見える。
…あきらかに危ないやつであり、この救援要請の発端であろう。
「ナギサ、あれ………」
一旦戦闘距離に入る直前で船を止め、ナギサに通信を送る。
すると彼女は食い気味で青い目を明滅させ、こう返信した。
「キケン」
…でも。
僕は困ったように更なる通信を送る。
「古いやつだから強いよ」
…彼女の武装は胸元のミニマルな光学兵器一門だけである。
ナギサの設計元が真面目に戦争を想定していたかという不毛な考察はさておき、今目の前にいる明らかに真面目に戦争を想定していそうなちゃんとした軍艦をそれだけでどうこうできるとは思えないので、先に倒すというのはまた難しいのではと言いたいのだ。
すると彼女はまた食い気味に目元を明滅させると、こう返信した。
「マズ ハナシアイ」
僕は無言でその目玉ギョロギョロ船を見やるが、やはり狂気的にたった一つの巨大な眼を振り回している。
…明らかに狂っている気がするけどな。
頭をポリポリとかきながら、僕は彼女に回避運動を全力で用意しながら話しかけるべしと司令を送った。
「ウン」
「………」
彼女は数回ほど目を瞬かせた後、ゆっくりと目玉の方に旋回すると、いつもより気持ちゆっくりめに可視光通信を試み始める。
…パチ、パチパチ、パチと。
暗い宇宙に彼女の瞳の光が溶けて散り、また煌めいた。
数十…数百秒が経過した後、彼は唐突にその主砲の仰角を限界を超えて更に上げ始めると、なんとそのまま自壊させてしまった。
真空なので音がなく、事態に気が付くのが遅れた僕は、ちょっと驚いてしまう。
「…どっ、どしたの急に
何言ったの…?」
「セットク」
彼女は光をこちらに少しだけ送ると、また彼の方に向き直り、今度は近付くことを提案した。
彼の眼からは黒い油が漏れ、なんだかとても可哀想である。
「ムガイ」
「わかったけど…」
…大丈夫かな。
一抹の不安が脳裏を過ぎるものの、ナギサは信用できるので大丈夫だろう。
僕はゆっくりと舵を進めた。
◇◇◇
ゆっくりと船を近付けると、ナギサは彼の甲板にふわりと降り、そして艦橋を破壊するために僕にハッチを溶断するよう依頼した。
言われるがままにトーチを持って船外に出たは良いものの、ちらりと横目をミサイルベイにやれば、数十列もあるそれの蓋がガチャガチャと開いたり閉じたりしていて異様極まりない。
ナギサいわく、彼はずっとあれの「ナカミ」をどこかの誰かに向かって射出しようとしているのだけど、どうしてか延々と失敗し続け、それで狂ってしまっているらしい。
…ナカミ?
僕はその思考を流すべきだったが、好奇心の方が勝ってしまった。
「…ナカミ、ってなに?」
「…」
ナギサはその質問をあえて無視することで、その疑問に対する回答を行う。
まあ、知るべきではないのだろうな。
…精神衛生上。
僕はちょっと嫌な気持ちになりつつも、トーチでロの字を描き切り、見事主計算装置を暴露することに成功した。
「…」
無言で巨大な開口部の前にぼうっと浮かぶナギサ。
彼女の目の前には物理的にガシャガシャとダイナミックに稼働するメインフレームの姿があったが、彼女は特にカタルシスを溜めることもなく、すぐさまそれをマニュピレータの物理的衝撃を持って、要するに殴りで叩き割り、彼を介錯してしまった。
「…よかったの?」
「…うん」
ナギサは僕のヘルメットに頭を触れさせると、少しの間の後に音声を持って回答を行った。
物理的に接触することで、音声を多少なりとも伝えることができるのだ。
回線を入れると呪いの言葉でお互いの声が聞こえなくなってしまうからこうしたのだろうが、少しロマンチックである。
…彼女の右手から彼の無念が黒い油となって空間に飛び立ってゆく。
一粒一粒、デブリの方に何故か引き寄せられてゆき、そして宇宙の闇の中に消え去る。
…あとは消化試合である。
大破した駆逐艦はコアだけトーチで切り取ってから無傷で残されていた「艀船」の方に載せてしまい、宇宙服を着たまま10キロ先まで回転しながら吹っ飛ばされていた船員2名を拾って座席に座らせる。
半壊した旧式の黒い航宙戦闘艦には自律航行可能な程度まで応急修復を施し、2名と知能コアを載せた艀船の船頭を任せた。
…ちなみに、人間は2名とも気絶していて会話不能だったので特に仲良くなるようなこともなく、ナギサと黒い旧型の可視光通信による会話を眺めるだけで僕はお役御免である。
「疲れた……」
少し新たな人間との邂逅を期待していた僕はやり場のない虚無感を抱えて地球へ帰投することとなり、翌日は寝て過ごしてしまった。
…現実はこんなものである。
これでよかったのかな。
僕はなんとも言えない気持ちをしばらく抱え込んでしまった。
宇宙版世にも奇妙な物語