デカかわいいダウナーロボ顔ロボ娘と田舎大豪邸2人暮らし戦中スローライフ 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
爪で机をつつくような掛け時計の音が、微かに風の通る和室の中に囚われている。
床についてから1時間程が経過したが、僕はまだ寝られていなかった。
自然由来の重力に何となく身体を巡る血の流れを妨げられている感じがして心がざわつく。
それとは対照的に、隣のナギサは全く身動きせずぼうっと天井を見つめ続けている。
寝るという動作が必要ない彼女にとって、睡眠はただ静止する時間である。
「…」
そんなナギサからも、別に気になる程ではないものの、実は僅かな機械駆動音が鳴っていた。
それに、彼女の青い目は夜になると結構明るく、和室全体がおどろおどろしい青色にぼんやりと照らし出されている。
「う、ん…」
…かち、こち。
時計の音が耳元に降り注ぐ。
更に隣の田畑では土着生命が何らかの意図の元に大合唱を繰り広げている。
しかし、両方とも別にうるさくはない。
地味にやかましい宇宙船で寝ていた僕にとっては、むしろ静寂の方が慣れないものであった。
「………」
こういった寝られない時に足を組み替えたり寝相をやたらと変えたりするのは悪手中の悪手である。
別に寝ようと思わずとも黙って目を閉じて動かないでいるだけで、生物的に正しい行動を取る脳はいずれ必ず睡眠プロトコルの必要性に勘づくからだ。
そんなわけで、僕は無理やり目を閉じ、布団の中の腕を定位置に置いて。
なんだか粒状の植物種子が詰められているような感じのする俵型の枕に後頭部を沈みこませると、羊を数えるかわりに少し気になっていた夜の発生要因の理解に努め始めることとした。
◇◇◇
…おそらく、午前三時頃。
地球生活史の文献*1によると、草木も眠る丑三つ時という時間帯に。
いつの間にか眠りに落ちていたはずの僕はなぜか全身の身動きが取れなくなっていることに気が付き、パチリと目を覚ました。
「!…っ」
ナギサに咄嗟に声をかけようとするものの、彼女は全く気がついていない様子。
僕がよく悪夢を見ることを知っているので、多少の寝言程度の呻きではバイタルチェックにこないのだ。
「…!……」
この症状は明らかに金縛り、というやつであろう。
一般的に疲れや個人差、非科学的な超常現象が要因とされる肉体の一時的麻痺であり、文献の中ではそんなに大したことではないとされるそれは、いざ自分で経験してみるとかなり大したことがあるものであった。
とりあえず動く足の親指を僅かに動かしてみるが、彼女は気付かない。
…なんだかナギサの目から発せられる薄ぼんやりとした青い光の中に黒いモヤが見え始めた気がした。
魔法的科学がそこら辺に舞い散る宇宙時代において非常にナンセンスである。
「かは………っ、ひゅ……!」
数十秒ほど必死に足掻き、緊張のせいか吐息ばかり漏れる喉からようやく声らしい声を発することに成功する。
流石にナギサも異常を検知したのか、未だ無言かつ不動ではあるものの静寂の中にカメラのズーム音のようなセンサー機器類の起動音が混じり、更に何らかの回転機構が回り出す音も彼女の胎の辺りから漏れ聞こえる。
「…」
「バイタル異常をけんち」
「異常呼吸」
部屋の狭さの問題から彼女は四つん這いで僕の真上に移動し、 胴体に内蔵されているセンサー類を精密に活用する。
「おきて」
極めて平坦な声色で彼女は僕に起床を促すが、動けないのでどうしようもない。
極度の緊張下にあるであろう瞳を左右にきょろきょろと振り、動けないことを暗にアピールする。
「おきて」
彼女は二度目の勧告を行ったが、やはり僕は動けない。
今度は瞳を足の方に向けて上下に振ってみる。
う、ご、け、な、い…というふうに。
「おきて
…艦長戦闘不能」
三度目の勧告の後、数秒の間も置かずに彼女は突然艦橋を起動した。
見た目状の変化はないものの、要するに戦闘状態に移行したのである。
僕がなんらかの攻撃を受けたと判断したのだろう。
胸部に内蔵された収束レンズがカシャカシャと攻撃的に組変えられる音がする。
彼女は僕を下に敷いたままなので発射装置が僕に向かってしまっているが、万に一つも誤射はありえないので、特に思うところはない。
しかしただの金縛りに対して過剰反応なのもまた事実。
ナギサの
手が少しだけ動くようになったので、そっと布団の上を滑らせ、畳の上に広げて付かれた細長い機械指をふわりと握ってみると、ようやく彼女は僕に視線を落とした。
「おきた」
…僕を覆い隠すほど大きな
少し眩しいけど、心配してくれて嬉しい。
落ち着きを取り戻しかけた僕が、喉を震わせるように彼女へ声をかけようすると…
「はっけん」
「非実態型兵器」
…え?
◇◇◇
「質量、なし。熱、なし。反射率、0。
視覚以外で感知、不能」
彼女は淡々とその特徴を述べる。
重さも熱も反射も全くないのにそこに居ることが明らかなもの…
それはつまり、超自然現象そのものであろう。
しかし、それに対して感じるものは恐怖というより、知的好奇心である。
先程までは状況が理解できなかったから混乱していたが、そんな未説明存在に遭遇できた幸運を今は素直に喜ぶことができる。
「…ご、ごめん………もう大丈夫…!」
僕は彼女の下から脇に転がるように抜け出ると、すっくとその場に立ち上がった。
彼女の目も僕の起床に合わせて本来の光量を取り戻し、黒いモヤは暗闇の中の青い光で消え去りそうになっている。
「第一「第二「第三種戦闘…」」」
戦闘指揮システムを重複起動する声が夜の民家を揺るがした。
本格的に臨戦状態に舵を切った航宙戦闘艦は、重力下仕様の対フォグレンズを胸元に煌めかせる。
「家壊さないようにね」
「うん」
彼女は四つん這いから女の子座りへ慎重に姿勢を変えると、レンズをモヤに向けたまま僕が使っていた変な枕をちょんとつまみ、そしてモヤに向かって放り投げた。
「えっ」
ポイ。という感じでサラサラと音を立てながら昼間の物体投射学習を存分に活かした動作をもって飛翔したそれは、モヤがいる場所の壁にシャンと音を立ててぶつかると、なんとも頼りない音と共に畳の上におっこちる。
すると驚くべきことに黒いモヤが急激に薄くなり、グラデーションを認識する暇もなく、それは元から無かったかのように消えてなくなってしまった。
「…きえちゃった」
「戦闘終了」
なんともあっけない終わりである。
艦長は少し肩を落としながら布団に戻ろうと身を屈めたが、すぐにナギサがその両脇を引っ掴んで自らの前に引き寄せる。
「わあっ」
「情報共有」
物凄く真面目に裸の僕の肩をひしと捕まえて「情報共有」と繰り返し始めたナギサは、どこか狼狽しているようにも見えた。
「たぶん、幽霊だと思う。たぶんね………」
「ユウレイ」
…その後かなり真面目に新兵器「幽霊」の警戒をし始めたナギサは、夜間も艦長のバイタルを測り続けるためか、片手を繋いで寝るようになった。
他にも、たまに寝顔を覗き込んだり1時間おきにセンサー類で居室の走査を行ったり、しばらくちょっと落ち着かない様子が見られるようになってしまった。
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