とある提督の日記   作:Yuupon

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02 とある提督の日記

 ○月&日、はわわわ!雨だったのです。

 

 提督さんが演習に連れて行ってくれた。話によると、どうやら今日は戦艦同士の演習らしい。

 ただ見るだけ、と思っていたのだが突然パソコンを渡されたのには驚いた。

 中身はこの前やったゲームと同じだったようで、説明を要らないと言うと驚かれた。何故?

 

 で、陣とかを適当に決めてプレイしたらまた完全勝利した。……このゲームの難易度が低い気がするのは気のせいだろうか?

 そうしている間に本当の演習は終わってしまったらしい。結局見る事が出来なかった。まったく……提督さんも空気を読んで欲しいものである。周りの人もおかしなモノを見るような目で俺を見ていたし。まぁ演習中にゲームなんかやってる奴が居たら当然だろうけど。

 

 謝るべきかな?と思って提督さんに聞いてみたら「キミは対戦相手の艦娘達にも優しいんだな」と感嘆の目で見られた。訳分からん。

 演習には電ちゃん達も一緒に着いて来てて、憧れのような表情で演習を見つめていた。……ごっこ遊びをするくらいだし、やっぱりなりたい職業なのかな?と思い、夢について語ってみたら、頑張ります!と笑顔で答えてくれた。うむ、やはり子供はこうでなくちゃね。

 そう言えば今度、ここから別の場所に移動してもらう事になるかもって言われたけどどういう事なんだろうか?

 

 

 

 ○月!日、ハラショー、こいつは雨を感じる

 

 いつも通り昼飯を食おうと食堂に行ったら、あり得ない量のご飯を食べているお姉さんと出会った。名前は赤城さんと言うらしい。隣には加賀さんという方も居た。

 

 赤城さんも加賀さんもとても丁寧な人だ。自己紹介の時にですます口調で話されたせいか少し緊張した。

 そして、赤城さんはとてもご飯を食べる人らしい。いつも加賀さんが横についていてカロリーのチェックをしてあげているそうだ。

 何時も助かってます、と赤城さんが笑っていた。

 

 そして、お二人は正規空母をやっているらしい。……操縦士?

 服装は剣道をする時の防具とかを付けていた。弓が得意とも言っていたし、正規空母で敵に弾丸を当てるのも得意なのかもしれない。

 

 それから金剛さんという方にも会った。紅茶好きらしく、何か作れますカー?と頼まれたのでダージリンを入れてみたら喜ばれた。個人的には普通に入れたつもりだったのだが、とても気に入ってくれたらしい。

 どうやらイギリス人らしく、特に紅茶の中でもダージリンは大好物なんだそうだ。

 また今度作ってくださいネー!と頼まれたのでもう少し腕を磨いておこうと思う。にしても明るい人は付き合いやすいな。

 

 

 ○月?日、rainyの時間は大事にしなくちゃネー

 

 何か知らないけど電ちゃん達と提督さんと一緒に釣りに行く事になった。

 釣りをする場所は、鎮守府前の堤防だ。釣りをした事が無かった俺とは違って、他の皆は慣れているらしくそれぞれ何匹か魚を釣っていた。……ううむ、年上としての威厳が。

 中々釣れなかったので場所を変えようと鎮守府の端の方へ移動して釣りを始めたところ、なんか良く分からない女の子が釣れた。

 深海棲姫とか言ってたけど、何だったんだろ?

 適当に会話したらナルホドナ、と言って海に潜っていった。深海棲艦が居て危ないよ、と言おうとしたのに聞く耳持たず。

 ……後、釣り針刺さってたけど痛くなかったのかな?

 

 それからもう暫くそのポイントで粘ったのだが、特に何も釣れなかった。仕方なく皆の所に戻ると、丁度魚を焼いている所で、香ばしい匂いがしていた。うん、すごい美味そうな匂いだった。

 何も釣れなかった分、頑張って準備したら電ちゃん達がありがとう、って言ってくれた。少し嬉しかったのは内緒だ。

 ……にしてもまだ提督さんからは働くように言われてないけど、何時になったら働くように言われるのだろうか。

 

 

 ○月¥日、雨!いっきますよー?

 

 提督さんに呼ばれたと思ったら、またあのゲームをやらされた。

 対戦相手は自分よりもレベルが高かったけど、少し工夫してみたら完全勝利出来た。

 ……いや、真面目にこのゲームの難易度設定低くない?と思ったけど、それを聞ける空気では無かったので自重した。

 陣とかキャラとかをチョチョイと動かしているだけなんですがそれは。

 後、明日は出撃をしてみて欲しいと頼まれた。まだ解放していない海域らしい。

 よく分からなかったけど引き受けたら喜んでくれた。深海棲艦がどうとか言っていたが、俺みたいな不法侵入者には関係の無いことだろう。

 

 

 ○月$日、一人前の雨として扱ってよね!

 

 またゲームをやらされた。難易度はぶっちゃけ前の日よりも低かったと思う。十分くらいでクリア出来たので帰ろっかなーと思っていたら、中破が出るまでは出撃して欲しいと頼まれ、やっていたら殆ど五時間くらいパソコンの前でやり続けていた気がする。

 最後は弾薬とかが切れてしまったので、仕方なく帰還させると提督さんに呼ばれた。

 何か良く分からないけど。明日、元帥さんとこのゲームをして欲しいそうだ。

 

 見極める……とか、君が提督になるのを反対する人達を黙らせるとか何とか言っていたけど、俺には関係無いだろう。多分提督の側にいた海兵さん達の誰かに向けた言葉の筈だ。妙に神妙な顔をしていたし。

 頑張ってくださいと声を掛けたら驚かれた。……なんで?

 ……にしても元帥さんか。あのお爺さんもゲームやるんだな。

 とりあえず話だけ聞く限りとても強いらしいし俺も本気を出そうかな。

 

 

 ○月%日、雨の出番ね!見てなさい!

 

 ……どうしてこうなった?

 目の前には三十人くらいの提督様方。皆、真剣な表情で俺と元帥さんの画面を見つめている。

 本当にどうしてこうなったのかは分からないが、仕方ない。ゲームだし本気でやるべきだろう。

 

 そして画面の中では武装した女の子達が激しく戦っている。弾丸の発射位置を指定して次々と敵の武装した女の子達に当てていく。

 ……弾丸を当てた時に外からズドーンッて本当に弾丸が撃ち込まれた音がするのは何故だろうか?

 外でガチの演習してんのかな?なら何でこんなに提督が居るんだろ……多分皆、暇なのかな?

 

 にしても、元帥さんは本当に強かった。レベルもさる事ながら、作戦や動き。全てが完璧にも思える。

 いや、ぶっちゃけ勝てる気がしねー。そもそも今まで勝ってたのは適当に陣を選んでたり適当に動かしたら上手く弾丸が入っただけで、俺の実力じゃねーし。現に今はコッチの攻撃ばかり当たっているが、一発でも当たったらお陀仏の状態。

 

 逃げ回るしかねーよ!何この差!チートって程じゃねぇぞ!ゲームくらいレベル差を無しにしろぉぉ!!と叫びたかったがそんな事は出来るはずもなく。無言のまま指示を続ける。

 そして一時間が経過しただろうか、何とかタイムアップまで生き残った。

 此方は大破三隻、小破一隻、無傷二隻。対して向こうは一隻だけ大破で、残りは無傷。

 負けた、うん。完全に負けた。

 

 逃げながら攻撃を当てて、一隻だけ大破まで追い込んだがそれが限界だった。寧ろよく粘った方だろう、と俺は思うんだけど、周りの反応はいかんせん違うようだ。小難しそうな顔で画面を見つめている。……アレ、俺またやらかした?

 何か居づらくなった俺は勝敗を確認する事なく部屋から出る。いや……だってあんな空気の中居れないでしょ。

 ましてや俺は犯罪者だし、あの人達は海に潜む深海棲艦と戦う提督だぞ?そんな中で居れる方がおかしいって。

 

 ってか、今から考えたら出る時の言葉が少しアレだったな。「では、俺は邪魔な様なので」って何処のお偉いさんだ俺のバカ!

 うん、明日提督さんに謝っておくか。さっきも青い顔してたし、胃薬も渡しておこう。

 

 

 

 ○月£日、雨の誇り……こんな所で失う訳には……ッ!

 

 何か良く分からないけど『提督』をやるように頼まれた。うん、良く分からないね。俺も分からないよ。

 正直、お偉いさん方は何を考えているのだろうか?俺、単なる高校生なのに。そんなのはもっと勉強してる立派な人を選べってんだ。

 とは言え、威圧されるかのように任命されたのでその場は誤魔化すように言葉を並べて退出してしまった。自分でも焦っていたせいか頭が真っ白で何を言ったのか覚えていない。

 

 それから、電ちゃん達。第六駆逐艦隊も俺と一緒に移動になるそうだ。

 なんでも一度実戦で俺の指揮を受けた分、飲み込みが早いだろうとの事。ねぇ、実戦って何?俺、そんな事したっけ?

 そして多くの提督さん達の前で任命式?が行われた。

 

 何か、一部の人から睨まれたりしていたのは何でだろ?恨みを買った覚えはないんだけど。

 

 ……にしても一般人の俺に、これはキツイって!何?何ですかこれ!?

 彼は人類の希望であります!とか言ってるけどアレは何!?俺が人類の希望ならそこそこ頭良い人全員が人類の希望だよ!

 

 そして半ば放心状態の俺は元帥さんから書状と提督バッジを受け取った。

 この辺りからもう流れに任せて無茶苦茶な事を言ってしまった気がする。……やっちまった。

 

 ってか、一般人の俺に提督やれとかどうしろと?

 

 

 

 ○月○日、口調ネタが尽きてきた。天気は雨

 

 俺が提督として勤める事になる鎮守府は此処から二十Km程離れた無人島にあるらしい。

 どうやらまだ新しく作られたばかりだそうで、島の開発も同時進行で進めて欲しいそうだ。……開発とか知らんのですが。

 

 それから、提督さんと会った。何だかゲッソリとしていて疲れている様子だったので胃薬を渡してから愚痴を聞いたのだが、その大半が一人の迷惑な奴らしい。いきなり現れたかと思うと、勝手に艦娘を指揮して今まで突破出来なかった深海棲艦を完全勝利で轟沈させたそうだ。何だそのチート野郎。その才能を俺に分けてくれ。

 

 気付いたら日が暮れるまで愚痴を聞いていた。うぅむ、やっぱり提督って大変なんだなぁ。

 最後にはお礼を言われた後に、九条君と一緒に無人島鎮守府に移動してくれる艦娘が居ないか聞いてみるよ、と言ってくれた。……やっぱり提督さんは良い人だなぁ。

 

 

 ○月+日、ナンドデモ……アメハヤマヌゥ……

 

 今日は今までお世話になった人達に別れの挨拶をした。

 赤城さんに、加賀さん。それから提督さんと日記には書いてないけど会った人達。

 金剛さんとは何故か会えなかったけど、皆、良い人ばかりだった。思わず嬉しくなって泣きそうになったよ。割と真面目に。

 そう言えば何となく堤防辺りにいたら、深海棲姫さんと会った。

 深海棲艦に襲われてないか心配だったけど問題無かったらしい。そして彼女もまた何処か疲れた表情を浮かべていたので愚痴を聞いてあげた。

 何か知らないけど、自分達の家を荒らされて怒って攻撃したら反撃してきて、ずっと戦いが続いている事に悩んでいるそうだ。

 ……うぅむ、皆それぞれに悩みがあるんだな。

 そう言えば帰る時に間宮アイスっていうオヤツを上げたら凄い喜んでくれた。懐かしいなって言ってたから、もしかして前に鎮守府に居た事があるのかな?

 

 

 ○月*日、小降りの雨も出来れば土砂降りにしたいのです。

 

 いよいよ明日が出立の日だ。そして今日でこのVIP待遇も終わりである。

 沢山の人が見送りに来てくれた。こんな犯罪者に……と、嬉しくなって思わず泣きそうになったのは内緒だ。

 提督さんからも応援のメッセージを頂いた。戦術で困ったり分からない事があれば何時でも頼ってくれ、と言われた時は本当に嬉しかった。

 ……俺、頑張ろうと思う。どうして提督をやらなくちゃならない、とか色々な疑問はあるけど。それでも周りの人達は俺を認めてくれている。

 だから、精一杯この提督という仕事を頑張りたい。

 

 さぁ、出発だ。提督さんとあの言葉を交わす。

 

『暁の水平線でまた会おう』

 

 グッと提督さんと固い握手を交わした。


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