また、タイトルにある通り一話では終わらなかったので何度かに分けて書き切りたいと思います。
文章力……oh。
以下、忘れた方へのあらすじ
志島鎮守府が深海棲艦に奪われた。
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主人公率いる神無鎮守府へ奪還せよとの命令
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駆逐艦2隻での縛りプレイ
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いざ突撃←イマココ
追記、一部修正を入れました。
8
その部屋には窓がない。
一つだけ、防弾仕様の扉があるのみで中には武器にならなそうな固定式のイスとテーブルだけが存在している。部屋としては圧迫感があるその部屋は、海軍の中でも最重要機密を扱う時のみ使われていた。
そんな核シェルターなみの強度を誇る部屋の外に、一人の男性が立っていた。
海軍の服を着用した男性は、毅然とした態度で扉を睨む。その服に付けられた階級章から彼が大将であることが見てとれた。
「…………、フン」
つまらなそうに鼻を鳴らして、彼は扉を叩く。コンコン、と二回鳴らしたあと、コンコンコンと三度。
そうして数秒、扉が開かれる。
「ようこそーーーー」
部屋の奥からしわがれた声が響いた。
大将、であるからには彼は多くの戦果を上げている。当然、人を殺すことにだってためらいはない。
捕獲した人型の深海棲艦を殺すことさえ、迷いはしない。
「……、」
だが、そんな彼でさえ、この部屋を慣れることはできなかった。
室内と呼ぶにはあまりにも広い空間には、薄暗い照明しかない。それでいて、文字を見るのには不自由しなかった。部屋の至る所には目に見えない極小の監視カメラや、大小様々な機械類が見える。
それらはすべて中に入った人間を監視し、そして万が一があれば殺すため。
いわば、何かしようものなら決して生きて帰れない空間だった。
「遠慮せずに入りたまえ。柴田……ぃゃ、
「……っ、ハッ」
人に寒気を感じさせるような声に、一瞬反応出来なかった。
頷いて部屋に入ると、途端に中にいた人物の姿があらわになる。
『ソレ』は、人間だった。怪物、化け物。そんな言葉は似合わない。温和そうな、気の良さそうな。そんな老人にしか見えない『ソレ』は見た目には人間と表現するしか出来ない。
「待っていたよ。いやはや面倒を任せて済まないね。キミには
初めの口上はそんな感じだった。うっすらと浮かんでいる笑みは暖かな印象を抱かせて。
「ーーーーまぁそれは置いておこう。さて、経過はどうか聞かせてもらいたい」
孫に向けるような笑みで、老人は言う。昔からそうだったが、歳を取るごとにその技術は上がっていた。ごくごく自然で、当たり前のように包み込んでしまう優しさが、武蔵野提督の目の前に存在した。
武蔵野提督は、怖い。
彼の笑みは自然なものなのに。そっと微笑みかけられてしまうだけで自分のすべてを委ねてしまいそうになる程心酔させてしまう目の前の『人間』が。
言葉では表せないほどどうしようもなく、
「呼び出した理由は分かっていると思うがーーーー」
海軍本部元帥、『
数人存在する元帥の中での別格である『人間』は、厳然と告げた。
「ーーーー逃げ出した彼の動向はどうかね?」
科海元帥の言葉に、武蔵野提督はビクリと身体を震わせた。言霊なんてものを信じているわけではないが、彼の一言一言に不思議とそうさせてしまう力があったのだ。
「……黒鎮守府の件ですね」
目の前の元帥には九条と話した時のような甘さは存在していない。
一瞬でも。ほんの少しでも敵意を感じられれば、その瞬間に殺されてしまうことが分かった武蔵野提督はごくりと息を呑む。
「そうだ」
科海元帥は頷いた。そして『人間』、科海俊蔵は全てに安心感を与えるような笑みを作り、言う。
「ーーーーどうかね? あの男の実力は。こっちとしても彼をこれ以上のさばらせるわけにもいかないからね」
9
暗闇と濃い霧に包まれた海を高速船で突き進んでいた。
最新型の高速船、と言われるだけあってか音も余り大きくなく、スピードも凄まじい。
速さに関しては深海棲艦でも追いつく事は出来ないだろう。
「一応確認しておこう。今回、俺たちのやるべき事は志島鎮守府の奪還だ。その為には、志島鎮守府にいる深海棲艦と周りの深海棲艦を一掃しなければならない」
九条は島風と電の二人に言う。基本的には高速船から九条は指揮を執ることになるだろう。
コクン、と二人は頷いた。
それから三十分ほど、驚くくらい静かな海を突き進んでいた。
その頃から、どうも様子がおかしくなっていた。
「……敵艦反応。レーダーに敵艦の接近を確認!」
レーダー。深海棲艦を索敵する機械が異常を発した。それを見ると、六隻の敵艦が『こちら』へ向かっている事が分かる。
既に場所は志島鎮守府付近。突っ込んで奇襲出来るくらいの距離ではある。気付かれたか……、と九条は一瞬考え、レーダーへと目を向けた。
あいも変わらずレーダーには接近してくる敵艦の反応。
「司令官さん……」
「提督、どうするの?」
「少なからずこちらからは撃たない。相手が追いつけるとは考えにくいから最速で突破する」
そう言って妖精さん、と声をかけると妖精達が慌ただしく動き出した。
そして数分もしないうちに船の速度が加速する。
「上手くいけばあと二十分くらいか? 万が一の時の迎撃は頼む」
妖精さん、とは言わずに九条は手元のデータを確認する。敵艦の動きは変わらない。ただただ一直線に進むのみだった。
これは、気付かれていないのか……、と少しの間思考して、九条は結論を出す。
「とりあえず全速力で駆け抜ける。バレる可能性があるからしっかり船につかまってくれ」
そのまま近くの妖精さんに声をかける。妖精さんは頷くと、船の速度を上げた。流石最新型の船と言うべきか。速さだけに特化させた事でグングンと敵艦と差をつける。
濃い霧のお陰ですぐに目視できなくなり、レーダー上の敵艦に異常がないかを確認してフゥと安堵の息を吐いた。
「よし、逃げ切ったな。このまま霧に紛れて本陣に突撃をかけるぞ。当然、相手側もそれを考えているからまずは撹乱する。島風ちゃん」
「なに?」
「連装砲ちゃんを同時にいくつ運用できる?」
「基本的には2つかな。運用だけなら6つまで出来るよ。ただ、その間動けないけど」
「分かった。じゃあその6つを動かすことに集中してほしい。敵陣の表門で暴れさせてやれ」
ただ本陣に突っ込んだところで数を持ってこられたら勝ち目はない。
素人の浅知恵だが、まずは撹乱をすべきだと感じた。そのためにまずは表門を攻める。
「次に電ちゃん、無理だったらいいけど遠くからの射撃(連装砲ちゃんで)出来るかな?」
「出来ます! 任せてほしいのです」
「じゃあ、俺たちはこのまま敵陣の裏側に回る。まず先に島風ちゃんが表側で連装砲ちゃんを操作。表側に戦力を集中させつつ、裏側から電ちゃんが砲撃。その後最速で表側へ向かう。次の指示はその移動中にするよ」
幸い、敵に感知はされていない。表側を撹乱し、裏から攻撃。ただ、これだけならば相手も直ぐに見破るだろう。だからこそ再度表側に回る。
連装砲ちゃんも大量に用意した。勿論、連装砲ちゃんも意思を持つ生き物なので無理はさせられない。それぞれ決めた位置まで移動させ、役目だけを務めさせればいい。
「じゃあ、行くぞ。作戦開始だ」
10
「出撃準備だ」
一方、横須賀鎮守府も援軍の準備を進めていた。
理沙提督率いる鎮守府との合同作戦。階級的にも横須賀鎮守府は理沙提督のバックアップに入ることになりそうだ。
段取りや打ち合わせも全て終え、橘冬夜は執務室にて一八人の艦娘を呼び出し今に至る。
「オッケー、援軍ですね?」
「あぁ、第一艦隊の旗艦は霧島で頼む。まぁ三つの部隊に分けるから三人選ぶ必要があるけどな」
いずれも真剣な表情を浮かべる艦娘達の前で橘提督は地図を開く。
その上で指をさし、三つのルートを辿った。
「今回、三方同時作戦という形で決まった。俺たちの役割は本隊が通る最短の海路の警護だな。ようは攻略することで敵艦を集中させちまうって寸法だ」
「ということは実質的に援軍として行くのは第一艦隊だけ?」
「あぁそうだ。愛宕、お前には第二艦隊を任せる」
「分かったわ〜」
返事に頷いて、今度はパソコンを開き画面を表示させる。画面には現在の現地の情報及び、目的地到達までの予測時間などが計測されていた。
「……つい先程、神無鎮守府から奇襲を仕掛けるとの報せが届いた。今から向かっても恐らく戦闘には間に合わないだろう。そして何よりも、大本営からの指示で二隻の駆逐艦での奪還を目指すらしい」
「……ふざけているのですか? その命令って」
「ジョークなら良いんだけどな。まっ、そういうわけでメンバーはいつも通りで構わないからさっさと第一艦隊は出撃をしてくれ。次に第三艦隊だが赤城」
「はい」
「旗艦を頼む。加賀をつけるから彼女の言うことをよく聞くように」
そこで指示を打ち切った橘提督は理沙提督への引き継ぎ作業を完了させた。
本来であれば、橘提督は万が一に備え指示室に居なくてはならないのだが、彼はそのまま部屋を後にする。
(……武蔵野提督、か)
口の中で呟く。
昨日、理沙提督と共に探ったことで不可解な点がいくつか生まれた。
武蔵野提督は何を考え、九条にあのような命令を出したのか。元帥はなぜ、今回のことについて決定権を持たないのか。
そして、何よりも。
(……九条が何を考えて命令を受けたのか)
一応、彼も提督という立場上、上からの命令は断れない。が、どう考えてもあんなメチャクチャな作戦には従おうとはしないだろう。
仮に、橘提督自身がそのような命令を受ければ間違いなく何かしらの反論をする。それなのに何も言わず命令を受けた九条は何を考えているのか。
少なくとも勝算はあるだろうが、と橘提督は考えて、
(ぃゃ、考えてるよりも先に動け、だ。とりあえずは武蔵野鎮守府へ向かう。それで万が一反乱の意思が見つかればーーーー)
そうなったら。
武蔵野提督を潰さなくてはならない。
とりあえず、と呟いて、
「ま、日記に証拠代わり兼、遺書でも書いておくか」
楽観的に言って、橘提督は笑った。
11
作戦は成功した、と言うべきなのだろう。
島風曰く連装砲ちゃんが上手く機能し、操作に集中することで相手の攻撃を回避しながらの攻撃が可能だったらしい。
視覚共有のシステムを使うことで敵基地の様子も確認出来たらしくそれなら、と暴れさせた連装砲ちゃんを回収せずに侵入させるように命じた。
「裏はどう?」
九条が島風に問うと、
「良いわ。多くを哨戒に回していたのかは分からないけど、あまり数もいないし。そもそも深海棲艦は陸を得意としないのもあるけど」
「そうか」
だが、船のレーダーには絶えず深海棲艦のマークが映されている。ここまで近づけたのは敵のレーダーが第二次世界大戦時のレーダーであったことと、濃霧のおかげ。そして運が良かったに過ぎない。
一瞬、連装砲ちゃんで一気に攻め込むべきかと考えて、九条は首を横に振った。
その代わりに、
「電ちゃん、島風。コレを」
「なんですか? これ」
船に積んだ荷物から、二人の妖精さんを出す。その後ろには小さな船が二つ存在していた。
それらを一つずつ、二人に渡す。
「妖精さんが艦娘に渡しといてってさ」
九条はどこに艦娘があるのかは分からない。だからこそ、理解している二人に渡した。
妖精さんが必ず渡して、と言うほどなので相当な代物なのだろうと予想する。
「表側まで、あと二分かな」
マップを見て九条は呟いた。順調に行けば、だが。
現在、裏側を撹乱しているので潜り込むならその混乱が最上になった瞬間である。
故に、静かに、素早く。
絶えず敵艦の存在を
「ーーーーーーはぁ」
九条は小さく吐息を吐き、今度は目であちこちを見渡す。敵の姿は見えない。ただ濃霧によって白く染まった世界が存在するだけだ。
が、その時チラッと。九条の視界の端であるモノが見えた。
海の上を走る女性、距離は三〇メートル。その女性は怒りを覚えた顔で巨大な砲をこちらに向けて、
「〜〜〜〜〜〜!!」
なんと言ったのか。シネ、というように口が動いた瞬間、九条は咄嗟に二人を庇う位置に飛び出していた。
次の瞬間、ズドンッ!! という轟音が響く。そして何かがぶつかり合うような轟音が響いた直後、九条は体をくの字に折り曲げた。
ふわり、と身体が浮く。
そのまま地面に背中から落ちた。
(何、が……、)
立ち上がろうとするが力が出ない。九条はヒューヒューと不明瞭な音を立てる己の喉から、何かがせり上がってくるのを感じていた。
それを吐き出して、
「……紅?」
紅い何かが溢れた。
温かい液体だ。
直後、ふわふわとした意識が覚醒する。
「グ、ガアアアアアッ!!」
胸を押さえる。焼けるように痛い。まるで熱したナイフで突き刺されたかのような。そんな痛み。
冷静さが失われ、どこから撃たれたのか? と視線だけ動かし確認して、
(……ッ!?)
まともに動かない身体を無理やり動かしたのは計算してのことではない。
司令官!? と駆け寄ってきた二人の女の子を地面に転がした瞬間、二人がいた空間を弾丸が突き抜けていった。
九条は逃げるよう、妖精さんに指示を飛ばす。そしてモニタに触れて敵艦の場所を把握するが、
(やっぱり……無理が)
薄れゆく意識を何とか現実に繋ぎ止めながら、痛みに堪える。空を裂くように、幾つもの砲弾が船のすぐ空を突き抜けていった。着水したソレは、轟音と水しぶきを立てる。
「……、!」
倒れこんだまま、九条は考察する。こうやって自分が生きているということは心臓を打たれたわけではないのだろう。恐らく破片が突き刺さったのだと思う。
さっきからバンバン打たれているのは敵艦の砲撃か。
モニタをおいて、人間の眼球に捉えられない速さの弾を
そのまま何とか身体だけ船から乗り出して敵の把握をしようとして、ふと思った。
九条の横ーーーーすぐ横合いに押さえつけた二人の女の子の存在を。
(……逃げながら敵基地を掠めるようにして二人を下ろす。連装砲ちゃんに賭けるしかない……)
二人は無力な女の子だ。敵艦は間違いなくこの船を追ってきているのだろう。なら、九条がすべきなのは二人の安全確保。
だからこそ、まだ倒れるわけにはいかない。
「最速……っ。二人を下ろすよ」
エンジンの運動を加速させる。何人かいる妖精さん達はそれだけで九条がやろうとしていることを理解してくれたようで、ビシッと敬礼してくれた。
気を抜いた瞬間倒れてしまいそうな痛みに耐えながら、九条は二人を助けることを優先する。
グングンと敵艦を引き離していく姿を見つつ、まだ飛び交っている弾幕を弾幕用のレーダーで観測する。
(焦るな……、三次元の弾幕ゲームだと思え。普段からこれぐらい突破してきただろうが……!)
バクバクと、確かに生きている感触を心臓が鳴らすのを感じながら、九条はモニターに表示された弾幕と船の位置から突破する航路を定める。
ピピピピピ、という音が辺りに響いた。
高速で船の動きを、操作する音だった。
「ーーーーく、そ」
一発でも被弾したら終わり。改めて現実はクソゲーだと、あまりの事態に麻痺しかけた思考を九条は必死に動かす。喉まで出かかった悲鳴を必死で押し殺す。九条には『助けて』とは言えなかった。横に、自分よりも小さな女の子が二人いるのに、見捨てるなんて出来ない。きっと、あの敵艦は九条の船を沈めるまで追いかけてくるに違いないから、彼女達を生かすために連装砲ちゃん達の元まで送らなければならなかった。
九条は叫ぶ。
「くそ、が……ちくしょう! 戦場ってなぁ理不尽過ぎんだろ!!」
「ゴホッ……降りてくれ二人とも」
何とか砲弾の雨を掻い潜った九条達は敵基地を掠めるように船を進ませていた。
そして妖精さんに合図した瞬間、船が減速する。連装砲ちゃんの姿も確認した九条は船に乗っていた残りの連装砲ちゃんを全て降ろし、同時に島風と電の二人も降ろした。
「ケホッ……俺が囮になってさっきの敵艦を誘っておくから安全を確保していて……」
「で、でも司令官さん。大丈夫ーーーー」
「良いから! 心配せずに降りろ!」
半ば追い出すようにして船から二人を敵の基地へ降ろしたのは、最低の行為だったのかもしれない。
だが、九条はこれが最優の選択であると確信していた。
辺りには50機の連装砲ちゃん。それら全てを改造させたのは九条の指示だ。
妖精さんには無理を言ったが、きっと二人を守ってくれることだろう。
「ーーーー行こう、妖精さん」
なおも、九条を気にする二人をおいて、九条は加速するよう妖精さんに命じた。
「ま、司令官ーーーー!」
コクンと。頷いた妖精さんは目を伏せて作業をする。直後、船が加速した。二人が待って、という声を上げたように聞こえたが、それら全てを聞こえなかったふりをして九条は更に加速するよう告げた。
活動報告を書いたのでそちらも見てくださるとありがたいです。