とある提督の日記   作:Yuupon

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タイトル詐欺も極まれり、というツッコミは置いておいて。
いい加減日記に戻らねば本当にタイトル詐欺ですね。
……本当に終わらないなぁ。

それと、UA三〇万突破ありがとうございます。





25 後半戦(三人称)

 

 

 

 

 16

 

 

 

 翌日の☆月L日、天気超晴れ。

 濃霧の中での奪還作戦というおよそ平凡とは程遠い場所へと放り込まれた九条はしれいかーん、という女の子のミルキーボイスで目が覚めた。

 

「……、何だ。今のドリームボイス?」

 

 九条は半分寝ぼけたまま、うっすらと目を開けた。体に掛けていたタオルケットが横合いでくしゃくしゃになっているのが見える。

 女の子の声は扉の向こう側から聞こえたみたいだった。

 寝そべっている九条の視界に映るのは病院のような一室。床は真っ白のペンキで塗られていて、天井には真新しい小さな蛍光灯。少し鼻を動かすと硝煙と磯の香りがした。

 志島鎮守府。ややあった末にいつの間にか奪い返していた鎮守府である。

 

「……、そっか。奪還しに来てたんだっけかー」

 

 九条はぼんやりする頭で、ぶつぶつと独り言を呟いた。

 そして起き上がろうとして、胸がチクリと痛む。が、今はそれよりも眠気が増していた。

 今何時だ? と時刻を確認すると朝の四時。

 

(う、ぁ、ねみー……)

 

 起きるには早いな、と九条はタオルケットを頭から被って再びまどろみに身を任せた。

 最近は朝から晩まで。それこそ受験前の学生並みの遅寝早起きを繰り返していた九条にとって、眠気は敵である。が、昨日怪我をしたこともあって仕事も任されないだろうと睡魔に甘んじたのだが、その時また『しれいかーん、起きてー』という女の子のモーニングコールが扉を突き抜けて廊下の方から飛んできた。

 うつらうつらと、朝から女の子が起こしに来てくれるとかソイツマジ羨ましいな、と考えていたが、

 

(あれ、司令官って確か俺しかいなかった気が……)

 

 ふと疑問に思った瞬間、ズバーン!! という大音響と共に部屋の扉が開かれた。

 何事!? と九条がベッドから飛び起きようとする前にちょこちょこと女の子の足音が近づいてきて、

 

「朝です司令官! 起きるのおっそーい!!」

 

 耳元で可愛らしい女の子のステキボイスが『鼓膜(こまく)』に突き刺さった。

 うぎゃあ! と耳の奥にまで直撃した女の子のハイパーボイスに九条は悲鳴をあげる。マンガやギャルゲーなら完全に役得なイベントの筈なのに、どうしてだろう耳が痛い。

 九条は両耳をおさえて、若干涙目で声の主を見上げた。普段ならおっそーいというフレーズで大体の想像はついていたのだが、耳をつんざく声でそこまで頭が回らなかったのだ。とにかく眠い、一刻も早くこのどうでもいい茶番を終わらせたい。

 九条は一瞬だけ腕に力を込めると、

 

「……、おはようございます、そして安眠をよく邪魔しやがったなコラァ!!」

 

 勢いよく叫んで、ガバッと起き上がった。軽く押すように腕を振り回したことで、女の子がきゃあ!? という悲鳴をあげて転がるのが分かる。

 ようやっと出来た安眠タイムを邪魔したのはどこのどいつだ、と怒り心頭で九条は朝早くから起こしに来た女の子を見る、と

 

 

 地面に転がっていたのは島風(しまかぜ)だった。

 

 それも、以前言いつけた上着を羽織っていない。最初に出会った時の過激満載(、、、、)の服装の姿である。

 

 更に言えば、転がったことでただでさえギリギリだった服がはだけて、とんでもないことになっていた。

 

 

「いったぁ。ちょっとー、せっかく起こしに来たのにその反応はなんですか?」

「………………、おぅ」

 

 目が覚めた。完全に。一瞬で眠気が吹き飛んでしまった。

 島風。初めて出会った時から過激な。見るからに大人(バカ)服と分かる衣装に身を包んでいた少女。この間、九条の鎮守府に加わったばかりだが大和さん曰く練度はかなり高いっぽい。まぁそんなことは置いておいて、九条はまず何よりも言いたいことが出来た。

 

「え、っと。とりあえずだな、服を見ろよ」

「なに? え? どこかおかしいところでも…………?」

 

 背後を向いて、九条が言うと島風は怪訝そうな声をあげた。

 

「え、だから服。まずそれをなんとかしてもらわないとそっち見れない」

「はぁ、ナニ言ってんですか? 確かに言われてた上着は着てませんけど、見れないほどの衣装じゃ」

 

 

 そこで島風の声が固まった。ようやく、事態を把握したらしい。

 ぁ、という分かりやすい声に、九条の全身から鳥肌が立つ。

 どこか、ビクビクとしながら九条ははちょっと考えてみる。

 

 

 Q、さっきの惨事は一体誰のせいなのか。

 A、九条日向。

 

 

(いや完全に俺のせいだよまさか俺の犯罪歴に不法侵入に加えて器物破損、それに婦女暴行までつくなんてシャレにならねーよマジでここはジャパニーズ土下座をするべきかでも許してくれたら嬉しいけど許してくれなかったら……くれなかったら?)

 

 ……。

 …………ああああああっ!?

 

 はっ!? と。数秒間沈黙していた九条は、そこでようやく現実へと帰ってきた。

 九条は可能性として存在する最悪の未来(バッドエンド)を振り払うべく絶叫してみる。

 

「う、ぐ……あぁもう! 見せてやるぜ大和魂! 九条日向はやるぞ、やってやるぞーッ!!」

「司令官、うっさい」

「くそ、昨日俺は決めたんだ。最高の未来(ハッピーエンド)を目指すと! だからこんな最悪の未来(バッドエンド)は絶対に認めない! あっ、そうか分かったぞ! これは罠だ! L的な誰かの後任が俺に仕掛けた罠なんだろこれーっ!」

「朝からテンションが高すぎるよー……。寝起きからハイテンションになるまではっやーい」

「誰のせいだと思ってんだ!?」

「知らないです」

 

 そして島風はよく分からない顔で考え込むように顎に指を当てて、

 

「ってか、服なら気にしてませんからとっとと起きてください。あと少しで増援が来るらしいですし。それに見張りしてたから眠いんですよ……ふぁあ」

 

 それだけ言うと島風は外へ出るために扉の方まで行って、

 

「そう言えば深海棲艦も反撃に出てくると思いますので、来たら起こしてくださいー……」

 

 真面目な顔でそれだけ言うと島風は行ってしまった。

 どうなってるんだ? 許されたの? と九条は出口の扉の方を眺めてみる。

 

(……、えっと。許されたのか? つまり俺の余罪に婦女暴行は加わらない?)

 

 よく分からないままとりあえず許されてよかったーと、九条は仕事着に着替えて部屋の外に出た。

 長い直線の廊下を歩くと、潮風の影響なのか比較的新しいにも関わらず、ペンキがはがれている部分があった。

 指令室への階段は廊下の突き当たりにある。

 九条がそちらへ向かった所で、後ろからがちゃりとドアが開く音が聞こえた。

 

「ぅ……おはようございますぅ。司令官さん」

 

 電の声だった。

 (いなづま)。眠そうな目をこする彼女は、見た目相応の女の子だ。まだ小さいのに頑張り屋で、他の姉妹達と一緒によく働いてくれている。それはそれで労働基準法違反に引っかかっている気がしないでもない九条だが、少なくとも今の鎮守府にとっては重要な人手だった。

 そんな彼女はまだ四時にも関わらず起きてきて、

 

「ん、おはようーーーーって、あれ?」

 

 何気なく挨拶を返して九条は疑問を持った。

 

「ぅ? どうしたのです司令官?」

 

 電は疑問の声をだす。その疑問の声を出した電に対して、九条は逆に疑問の声を上げた。

 

「ぃゃ、まだ朝早いからさ。別に寝ててもよかったんだよ?」

「そんなのダメです。仕事なのですぅ、から」

 

 トテトテと自分よりも小さな女の子が歩いて行く姿を見て九条は思った。

 あんな小さい子が頑張ろうとしているのに自分は寝ようとしていたことがひどく恥ずかしい。

 というか九条の脳内天使と悪魔は言う。

 働け、と。仲良くハモられた声に深く同意せざるを得ない九条だった。

 

 

 

 

 

 

 17

 

 

 

 

 

 人間、意欲を出したその時には既に手遅れであるという話を聞くことがある。

 その言葉通り、やる気を出した九条を放ったらかしにして、奪還に成功した志島鎮守府にとある客が来訪していた。

 

 

「まさか本当は落とすとは思ってなかったが、とりあえず増援にきた。つーかどんな魔法だよ」

 

 そう、横須賀提督による増援である。そしてもう一人、

 

「よう、演習ぶりだな。まぁ私を倒したんだからそれくらいやってもらわねーとな」

 

 桐谷理沙。むしろこちらが増援の本隊なのだが、九条にとってはどうでもいいことだったので置いておこう。

 で、何故二人がここに来たのか分からなかった九条は尋ねる。

 

「えっとー、何故お二人はこちらに?」

「俺はここ経由で行く場所があってな。あぁ安心してくれ、ちゃんと第一艦隊はここに配備させておくから」

「私はお前の補佐だな。階級上は私のが上だけど、認めたくないけどお前の方が実力は上だ。交代要員とでも思ってくれればいい」

 

 どうやらそれぞれに目的があったようだ。という理沙提督、ジョークは止めてもらいたい。なんと言うか嘘を吐いているように見えないから少しビビる。

 まぁともかく、指揮権は理沙提督の方へ移ったのだと理解した九条は安堵の息を漏らした。

 

「まぁ助かりました。流石に三人じゃどう足掻いても鎮守府は回せないですし」

「あー……まぁそうだな。お前の膝の上のやつが何よりも証明してくれてるぜ」

 

 理沙提督が九条の膝を指差す。

 その上で、電が座って寝ていた。つい先程まで一生懸命働いてくれていた彼女だが、横須賀提督達が来た後は暇になったらしく、うつらうつらとしていた。近くに引き寄せたら身を預けるようにしてクークースースーと寝だしたので、以後そのポーズのままである。

 その姿はどこか保護欲を誘うものがあった。

 

「最初からウトウトしてるなーとは思ってたけどな」

「……頑張ってくれてましたから、仕方ありませんよ」

 

 優しそうな笑みを浮かべる横須賀提督。橘提督に対し、九条も優しい笑顔を浮かべる。

 軽く頭を撫でると、小さな手で九条の服を掴んできた。

 

 

「とりあえず、早速ですが指揮をお願いしても良いですか? 電ちゃんを寝かせてあげないと」

「あぁ、この桐谷理沙様に任せておけっ!」

 

 ドン! と大きな胸を張る理沙提督に橘提督と九条は目を背けた。

 そのまま九条は部屋を退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電を部屋に寝かせてきたあと。

 九条は、空いている時間に仕事をこなしておこうとパソコンを開いた。

 自分のパソコンは船と一緒に大破したので志島鎮守府の備品を借りている。

 

(……えっとパスワードパスワード)

 

 海軍で使用されるパスワードは一つたりとも同じものはない。それぞれの鎮守府の機密情報でもある。

 当然、九条が志島鎮守府のパスワードを知っているはずもないのだが、それは問題ない。事前に元帥から預かっていた資料があるからだ。

 

(ほいっと。じゃあ経過報告から)

 

 本来、機密を漏らす可能性がある資料など作られたりはしない。が、そんな事にも気付かない(、、、、、)九条は『手書きの資料』に書かれた通りの動作をして、

 

「ーーーーあれ?」

 

 疑問の声を上げた。

 その声はパソコンに表示された『音声ファイル』に向けられている。まさか音声で指示するから、終わったら消せと言いたいのだろうか、とちょっと考えて首を横に振った。

 

(……おいおい、音声でって機密情報じゃねえんだから。ってか何でお手伝い要員兼、提督(仮)のはずの俺がここにいるのかも分かんねーけどさ)

 

 ともかくにも出てきたのなら仕方がない。

 とりあえず開いてみるかー、とイヤホンをつけた九条はその『音声ファイル』を再生してみる。

 

 ーーザザッ。

 

 開いた瞬間、ノイズのような音が聞こえた。イヤホンをしているので少々耳が痛い。

 背景からはドンドンバンバンとまるで大砲の打ち合いでもしているかのような音が響いていた。

 ざザザざザざざ、と絶え間なく続く不気味に思わず背筋が強張る。

 そして、九条は聞いた。

 

『ザ……早、脱出…ゾザザ! 静寂島ざザざザザ!』

 

 ノイズの中から聞こえる声を。その声は真剣さを孕んでいていた。断片的に『脱出』、『静寂島』と聞こえたが。

 というかこれは本部からの資料ではないのか?

 もしかしてこれは、志島鎮守府が襲われた時の音声ではないのか?

 

(まさ、か? ってか静寂島って……確か近くに無かったか?)

 

 その時、一際大きな破壊音が聞こえた。

 ズドンッ!! という爆発音だ。もしこれが志島鎮守府が奪われた時の音声だとするなら、建物が破壊されたらしい。昨日見て回った時に見つけた、鎮守府内の破壊された場所の光景が頭に浮かぶ。

 確か、今も瓦礫の山が残っていたはずだ。

 

『ッ! ザザザッ撤退、総員静寂島、ゾザザザザザッ!」

 

 

 そこまで言って同時。

 音はなく、いきなりブツッ! と音声が終わった。つんざくというよりは、映像が途切れたように。

 

「………………ッ!?」

 

 九条は、全身の血管にドライアイスでもぶち込まれたかのような悪寒を覚えた。

 ゾグン、と。得体の知れない感覚に戦慄する。

 

「ま、さか。って事は今、静寂島に……ッ!!」

 

 その時、九条は思い出す。確か静寂島には九条の知り合いが住んでいたはずだ。

 深海棲姫(しんかいせいき)だったか。珍しい名前の女性が。それと同時に九条は気付く。

 

(ーーーーや、ベェ。この辺りって静寂島しか無人島なかったよな? まさか深海棲艦の連中、静寂島に行ってねぇだろうな……ッ!!)

 

 嫌な予感が加速する。そう言えばそうだ。ここら辺に拠点となりうる場所など、静寂島しか存在しない。

 万が一の避難場所としてもだ。

 そもそも敵がどこから来たのかを考えればそんなの一発だった。何故、気付けなかったのか、それが分からない。

 

(ぃゃ、まだそうなったとは決まってない。とりあえずメモだけ書いて様子見に行って)

 

 慌てて九条は立ち上がる。

 ともかく戦いは本職に任せよう。二人からは休むように言われたし、その時間を有効活用してやればいいのだ。

 最低限の自衛の装備だけをどうするか考えて、

 

(……ぁ、そう言えば船)

 

 船がぶっ壊れるどころか修復不可能なところまで壊されたことを思い出す。

 というか船の操縦が出来ないのも忘れていた。とりあえず妖精さんを呼ばないと、と九条は廊下に出る。

 が、さらなる問題が発覚した。

 

(……っつっても、どこにいるのかが分からないんだよなぁ)

 

 そう、妖精さんがいる場所が分からないのだ。工廠(こうしょう)という場所にいるとは聞いたことがあるのだが。

 

「ぁー……」

 

 九条は溜息のような声のような音を出して、一人考えた。

 戦場にいる者にしては、あまりにも無防備すぎる仕草で。

 そこで九条は思い出す。そう言えば、昨日使っていたモニターは今もあった気がする。確か船を簡易運航させるための道具だとか説明を受けたので、恐らくあれならば問題なく行けるのではないだろうか。

 

 素人丸出しの、馬鹿みたいな考え。ついでに犯罪であることにすら気付かないまま九条は歩きだした。

 

 

 

 

 

 ーーーーその無防備な少年を、『視線の主』はジッと見ていた。

 視線の主は、鎮守府の床下に隠れていた。海の近くというのは砂と湿気の侵入を防ぐため、大抵が床下の高さは七〇センチくらいある。

 床と床板を透視(とうし)していた、『視線の主』は少年を見た。

 

「……提督、見つけたよ」

 

 橙色セーラー服と黒スカートに身を包んだ茶髪の少女は、透視用ゴーグルを目から離した。音一つ立てずに床下を歩き回る姿はさながら忍者といったところか。床下に入るという、大概の人は嫌がりそうなことをしているにも関わらず、少女は楽しげな笑顔を浮かべている。

 

「うん、予想通り見つけてた。提督が言ってた役者が揃う(、、、、、)までそんなに時間は要らなそうだよ」

 

 通信用のマイクに小さな声で彼女は言う。その声からは楽しさが溢れていた。

 移動する少年の後を追いかけながら、彼女はその様子を嬉々として眺めている。

 

「へぇ〜、あの人がねぇ。私にはそうは見えないけど、提督が言うならそうなのかもね」

 

 耳に届く提督の声に思わず気分が高まる。このような夜戦にも似た暗がりでの仕事も好きだが、それ以上に彼女は提督との会話が好きだった。思わず我慢仕切れなくてフフッ、という笑い声が漏れてしまう。

 

「分かってる。ちゃんと見張っとくから、帰ったらご褒美に夜戦しましょ? な〜んてね」

 

 そう言って、『彼女』は提督との連絡を切った。

 『彼女』川内型軽巡洋艦(せんだいがたけいじゅんようかん)川内(せんだい)は少年の後を追うように走り出した。

 

 

 

 




「一言」、一日が濃い。

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