とある提督の日記   作:Yuupon

28 / 41
 日記風を久々に書いた。


28 エピローグ

 

 

 

 

 戦艦棲姫が確保された頃。

 九条日向(くじょうひなた)は自分の名前が呼ばれたような気がして足を止めた。

 大穴が開けられた山の中から声は聞こえた。山の外側ではなく、内側だ。目を凝らして山の方をあちこち眺めていると、人間が入れそうな穴があったことに気づく。聞き覚えのある声だったからか、もしかすると深海棲姫さんじゃあるまいか、と淡い期待を抱いていたりする。

 

「……よっと、地面から中に繋がってんのか?」

 

 地面に開いた穴に潜り込むと、道が続いていた。その道は数メートル続いていて、上に向かっている。これは確定か、と九条はグングンと突き進んでいく。そして山の内側に侵入しようとしたが、体が思うように動かなかった。単に怪我が響いているやというのは違う。何だか異様な重さがあって、全く力が入らない。と、そこでようやく慣れない感覚の正体に思い立った。

 

「あ、そういや装備……」

 

 妖精さんから渡された装備を思い出す。そう言えばずっと背負ったままだった。そりゃ体力も奪われるわけだ、と九条は思わず溜息を漏らす。

 それを下ろしてから辺りを見渡して、気付いた。

 

 人らしき誰かがいる(、、、、、、、、、)

 

「ーーーーッ!?」

 

 思わず飛び退るようにして身構える。が、一向に襲ってこないことに臨戦態勢を解除した。

 そしてジッと観察して、

 

 

「ーーーーぁ」

 

 

 九条はようやく目の前の何者かが探していた『彼女』であると認識した。

 眠っていた、という表現をするべきなのか。彼女は静寂島にある洞窟の奥で岩壁を背にするように目を閉じていた。

 洞窟の中には大きな湖が存在していて、どうやら海につながっているようだった。横には家具が置かれており居住スペースであるように見える。

 九条が近寄ると、どうや目を覚ましたらしい。ん、と声を漏らしてから彼女。

 ーーーー深海棲姫は起き上がった。

 

「深海棲姫さん……か?」

 

 本当にいたことに驚愕を隠せないままに九条は言った。

 深海棲姫は一瞬だけ見開くと、少し驚いたような様子を見せる。

 

「アッ、九条……カ?」

 

 今目が覚めた! というような声に思わず苦笑してしまう。が、とにかくにも彼女の無事を確認出来たのは収穫だった。

 氷桜から、戦艦棲姫をとりあえず捕獲した事、民間・海軍共に死者は出ていない事を聞いた九条だが、全くもって実感はない。自分の目で生きている事が確認出来て良かった、と口の中で呟く。

 

「良かった、無事だったんだな。氷桜に保護はされなかったか」

「……勝ッタノカ?」

 

 ぶつぶつと言っていると深海棲姫がそんな事を聞いてくる。九条は頷いて、

 

「あぁ、民間や海軍に死者は出てない。戦艦棲姫は捕獲して戦争は終結したよ」

「……ヤハリ、カ。戦艦棲姫ハドウナル?」

「悪いが分からない。俺の手が届く場所じゃないし……」

 

 そう答えると深海棲姫はうーんと唸り始めた。どうしてかは分からないが、ようは気になるということでいいのだろうか、と海軍について何も知らない九条は超アバウトに状況を判断する。

 ……ちなみに実の所、意図するしないに関わらず、深海棲艦と密会している現状は疑いの余地なくアウトなのだが、九条にはその事実に全く自覚がない。勘違いバカは罪か。いずれにしても海軍上層部からしたらふざけんな! の一言に尽きるだろう。

 

「だー……つか、避難したほうが良いぞ。ここらにも敵は多いからな。家があるってんなら送るけど、……というか学校どーすっかな。出席日数とか完全にヤバい気がする。何故なら最近はずっと事件が起こっているから!」

「ィャ、送ルノハ良イ。ソレト学校……気ニシテル場合ナノカ?」

「何を言う! 高校は卒業しとかないと進路に響くわ! いつまでも海軍で働いてると思うなよーっ!」

 

 そもそも犯した罪を許される代わりに雑用しているだけなのだ。何にしてもこの生活は長く続かない。

 だからこそ二週間近く経ってくると本格的に進路がヤバいと感じ始めていた。

 すると、

 

「…………マタ助ケラレタノカ」

 

 ボソリと、深海棲艦が呟いた。

 その深刻そうな声色に九条は顔を向ける。

 

「……? 何の話を」

「知ラナイ振リハ良イ。私ガ言ッテイルノハ現状ダ」

 

 現状……? と首を傾げてから九条は気付く。

 あぁそうか。今生きている事のお礼を言いたいのか。それなら氷桜に、と言おうとして、

 

「助カッタ。オ陰デ私モ覚悟ヲ決メタヨ。聞キタイ事ガアレバ好キニ聞ケ」

「覚悟……? 何の覚悟だよ」

「決マッテイル。守ル覚悟ダ」

 

 その言葉で九条は思い出した。そう言えば、始めて出会った時に守りたい相手がどうとか言っていた気がする。

 恐らくそれか、と考えて。とにかく良いことなんだよな、と判断した九条は、

 

「……そうか。なら頑張れ。俺に止める権利はねーし」

「アァ、ヨロシク頼ムゾ」

 

 そのまま伸ばされた手をギュっと掴んだ。

 握手。

 もしここに第三者がいれば間違いなくあり得ない光景だと言える光景がそこには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ☆月L日、深海日記

 

 

 思っていたよりも海軍は強大だったと言うべきか。

 九条によると、志島鎮守府は驚くほどアッサリと奪い返せたらしい。本人は撃たれたけど、と笑いながら傷痕を見せていた。

 

 戦艦棲姫は捕獲されたらしい。一応、彼女も知り合いなので酷い目に遭わされないことを願うが恐らくそれは避けることの出来ない未来に違いない。

 戦艦棲姫が大きな野望を持っていなければ。

 とは言え、深海の大本営の作戦はこれで失敗だ。戦艦棲姫という大きなものを失い、敵には誰一人被害がない。

 人間側にいたスパイの奪還も完全に不可能となった。これによって、ますます戦いは不利に働く。

 

 

 ……私は戦争が好きではない。だからこそ、九条日向という人間に出会った時に私はこう感じた。

 彼なら。彼ならばこの世界を変えてくれるのではないかと。

 

 駆逐艦二隻での鎮守府攻略を簡単だったと言える男だ。きっとそれだけのチカラを持つのだろう。そして彼は深海棲艦に対しても敵意を向けることはない。

 彼が敵意を向けるのは、彼にとっての敵だけだ。それも相手が改心すればすぐに消え失せてしまう。

 

 まさしく英雄のような男だと思った。

 そして彼は当然のように私を逃した。

 まさか海軍のレーダーを妨害する機器まで持ってくるとは思っていなかったが……。

 

 とにかくもう、結論を出すのは遅くない。

 私は決めた。

 

 

 人間と深海棲艦の和解。それを目指すために、彼のチカラを借りる。

 

 決行は何時になるか。一年か、二年か。分からないが、決して遠くない日に出来るはずだ。

 

 だからこそ、その為に私は命を賭けると誓おう。

 

 

 

 (深海棲姫エンド)

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 戦争は終わった。

 ならば、済ませなくてはならない事がある。

 

「……、」

 

 駆逐艦、電と島風は、人を待っていた。志島鎮守府の堤防である。濃霧が晴れ、打って変わって雲一つない快晴の空を見つめていた二人は、バタバタとした足音が近付いてくるのを聞いた。

 二人はくるりと振り返る。

 そこにはーーーー、

 

 

「……お疲れ様、電ちゃんに島風ちゃん。無事に集結出来たようで良かったよ。怪我もないみたいだしね」

「それはこっちのセリフなのです。それと司令官さんが怪我をしているのが最も駄目だと思うのですが」

 

 九条日向の姿があった。電達のツッコミにタハハー、と笑い声を漏らしている。

 さきほど快晴、と言ったが時刻的にはそろそろ日暮れ。昼間の騒ぎから数時間経過していた。見た目はピンピンしているものの、一応九条は救急患者である。二日前にに勾玉によって阻まれたとはいえ、心臓を撃ち抜かれたり戦場に舞い戻ったりすれば、心配するというのは極々自然だった。

 九条はジト目で見つめる二人に戸惑った様子を見せて、

 

「あー、ともかく無事で良かった。終わり良ければ全て良しって言葉もあるし。俺以外の怪我人もいないし最高の結果じゃねぇか」

 

「この状況で笑ってられる気持ちが理解出来ません。それとも司令官はあまりの疲労でハイになってるんですか? それと司令官、馬鹿ですか? なに胸に弾丸くらっといて何生身で戦場に飛び出してるんですか? 業務だってデスクワークだけのはずでしょ!? それと怪我してるのに最高の結果とかまさかドMなんですか? 変なこと言ったら最速でぶっ飛ばしますよ?」

 

「……、はい。スミマセン島風サン」

 

 とりあえず謝る。まぁ非があるのは明らかだった。その時は頭が一杯で気付けなかったが、よく考えれば随分馬鹿なことをしたものだと自分でも思う。

 ザクザクと九条のミスを羅列していく二人に、精神がやられてしまいそうになった。

 九条が黙ると、電と島風の態度も沈静化していく。

 電が、九条を見ながら、やがてポツリポツリと言葉を発した。

 

「分からない事がいくつかあるのです」

「分からない事?」

「はい。質問に答えてもらえませんか?」

 

 電はキッ、と真剣な顔つきをして、

 

「まず一つ目。今回の件、そもそもどうして起こったのでしょうか? 武蔵野提督が敵艦を煽る真似をしたという報告書を見たのですが、どうにも腑に落ちないのです。それに戦艦棲姫のような姫級が現れていたのはここから遠く離れた場所。偶然と言われてしまえば反論出来ませんが……」

 

 続いて二つ目です、と言って、

 

「何故、大本営が『駆逐艦二隻での攻略』をあそこまで強く言ったのでしょうか? 司令官さんの指揮を信頼していたと言われればそれまでですが、怪しいのです」

 

 そして最後です、と言って、

 

「今回の(くだん)。大本営の目的は何だったんでしょうか。志島鎮守府の奪還にしてもそうです。どう考えても敵が弱すぎた。あの練度の敵に志島艦隊が敗れるとはとても思えません。と言ってもその時攻めてきた敵とその後引き継いだ敵が違うからと言われてば議論はできないのですが」

 

 言って、電は九条の顔を見上げると、

 

「……司令官さん。司令官さんは気付いてるのではないのですか? そもそも不自然な部分が多過ぎるのです。私達ではおかしいと思っても、答えは出ませんでした。でも、聡明な司令官さんなら全てーーーー」

「電ちゃん」

 

 電の声を九条は区切った。

 そして堤防に沈黙が降りる。

 答えを出すためには、手札の材料が少なすぎた。それでも司令官ならば、と思っていた電に対し、九条は言う。

 

「電ちゃん。それ以上は機密情報(トップシークレット)だ。今この場で話す内容じゃない」

 

 言ってから、九条は二人を抱きしめた。

 そして軽く頭を撫でる。頑張ったな、という言葉をつけて。

 それから鎮守府内に歩き出した九条に対し、二人は待ったをかけた。

 

「待ってください! 最後に一つ、教えて欲しいのです。……司令官さんは何のために戦ったのですか?」

 

 うん? と九条は一度だけ電の言葉を確かめて、それから答えた。

 

「自分のためだろ、と言いたいけど。正確には俺自身と守りたい人のためだよ」

 

 

 こうして戦争はひとまずの終わりを告げた。

 明日からはまたいつもの日常が始まる。

 きっと、まだ私は未熟なのだろうと電は思う。

 だから、頑張る事にした。

 明日からも、これからも。精一杯頑張って、いつか理解出来るようにする。

 

 そう、決めた。

 

 

 

 

 

 

 ☆月L日、駆逐艦電の日記。

 

 

 鎮守府から司令官さんが姿を消したと聞いた時は、本当に心臓が止まりそうでした。

 そのまま司令官さんが残した後を追跡しながら進んでいたのですが、とある地点で不自然な曲がり方をしていたのです。

 何かあるのかと調べてみると、敵艦の姿を発見しました。

 戦艦棲姫。姫級の深海棲艦だったのです。

 

「……オイオイ、まさか私達が追ってくることを計算して丁度ここでかち合うようにしたんじゃねーよな? やけにデータが拾いやすいと思ったら」

 

 理沙提督がそんなことを呟いていました。本来であればこじ付けのようにしか思えないその言葉。ですが、司令官さんが絡むとあり得ると思ってしまう自分がいます。

 船には連装砲隊が居ましたので、それをオートモードにして数で攻めました。

 艦娘一四人に、連装砲が五十。フェアも何もあったもんじゃない物量差でしたが、そのお陰もあって犠牲者なく捕獲に成功したのです。

 

 それから、夕方頃に司令官さんが帰ってきたのです。

 ヘラヘラと笑っていましたが、どれだけ心配をかけたと思っているのか。それに関しては島風ちゃんがツッコミを入れたので私は何も言いませんでしたが。

 

 そして、気になっていた事をたずねてみました。

 『今回の戦争』。どう考えても不自然過ぎるのです。島風ちゃんとも話してみたのですが、結局答えは出ませんでした。

 だからこそ司令官さんに聞いたのですが、はぐらかされてしまったのです。

 

 機密情報(トップシークレット)。と言っていました。

 ……ふと陰りが浮かんでいたようにも見えました。

 

 きっと。司令官さんが教えてくれなかったのは私のチカラが足りないからなのでしょう。

 これからも頑張らないといけないのです。

 

 夢を、叶えたいから。

 

 

 

 

 

 ☆月L日、最速の島風日記。

 

 

 戦争が終わりました。

 電が大本営の命令が不自然だと言っていましたが、恐らくあの『駆逐艦二隻』の命令の原因は私にあるのでしょう。

 

 黒鎮守府のエース。練度一五〇の最速狂殺兎。

 かつてはそのような名前で呼ばれていました。

 つい最近。私の友達が死んだことがキッカケで私は彼の元を去りました。それからは海を放浪していましたが、九条司令官率いる艦隊に『新しい艦娘』として保護されたのです。

 

 しかし、元帥の目はあざけなかった。

 本来、あの海域では私が現れることはありません。だからこそ気付かれたのでしょう。本部から移動する際に『笑み』を向けられました。

 

 

 ……今回の件、電には分からないと通しましたが恐らく黒鎮守府が原因のはずです。

 私があそこを抜けたのは黒鎮守府が検挙される数日前。だからこそあそこの内情は知り尽くしている。

 あそこはただの『黒』ではない。

 

 そのことを電に聞かれた司令官さんは、私の目を見ました。

 一瞬。そんな刹那の行為でしたが、それで気付きました。

 

 きっと彼も元帥と同じように気付いている。練度は出来るだけ下手に撃つことである程度までは数値を誤魔化せましたが、やはり限界がありました。

 ……どうすればいいのでしょうか。

 

 私の事情を知っているのに黙ってくれた司令官を私は守れなかった。

 きっと彼はそれを言っても気にするな、と言うでしょう。でも、それでも。

 

 ぃゃ、元々私は殺し過ぎた(、、、、、)

 かつての提督が黒鎮守府の提督だとかは関係なく。

 彼はふざけるな、と私達に下された命令に対して言ってくれたけど、でも私は。

 

 

 

 

 (駆逐艦二人エンド)

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 夜。志島鎮守府にて、盛大なパーティが開かれた。

 『作戦成功』と書かれた看板がデン! と置かれており、中に入ると大量のテーブルに料理がある。

 

「……なぁ、ここって奪ったり奪われたりしたばかりの鎮守府なんだよな?」

 

 と、そんな事を呟いている九条日向は入り口で突っ立っていた。その顔は若干呆れ顔である。

 いや、別にパーティが嫌いなわけではないのだ。むしろ好きな部類に入る。料理や飲み物を楽しみつつ、仲の良い者と語り合えるパーティは良いものだと思う。

 だが、つい一昨日まで敵の支配下にあった場所でパーティをするのはいかがなものかと疑ってしまう。

 

「何をしてるの? 主役がいかないと盛り上がらないよ?」

 

 背後から声をかけられた。

 氷桜だ。戦争中に基地を奪われたにしては随分とラフな態度である。まぁそれは良い。

 海軍としては良くないのだろうが九条としてはどうでも良い。

 

「ぃゃ、主役って。つーか俺としてはさっさと帰りたいんだけど。……学校の単位ヤバいし」

「何冗談言ってるのさ。ほらほら行って行って。静寂島の奪還に加えて戦艦棲姫の捕縛はキミの功績だ。流石ヒーロー」

「完全に悪意あるようにしか聞こえないんですが!? ってか戦ってもないのにヒーロー呼ばわりされるわけにはいかねーだろ。それなら艦娘にやるべきじゃねーのか?」

 

 そもそも艦娘が何か分からないが、直接深海棲艦と戦ったのは艦娘だ。妖精さんが作っていた連装砲ちゃんとやらみたいなやつなのだろうが、ヒーローと呼ぶならむしろそっちを呼んでやってほしい。

 

「まぁともかくお礼の気持ちも込めてるんだから楽しんでいってよ。茶番に付き合わせたお詫びでもあるしさ」

「茶番って……何だそりゃ。まぁ楽しませてもらいますよっと」

 

 そんなこんなで。

 九条は会場まで歩いて適当に皿をとる。それから食事を始めた。

 

「……、あー。最近色々不幸な気がしてならない。まぁどう考えても自業自得なことも多いけど。もう良い腹が壊れるまで食って忘れてやるーッ!!」

 

 一日中駆けずり回ったり、色々な人に謝ったり。肉体的にも精神的にもボコボコにされた九条は、疲れた顔でパーティの食事を物凄い勢いで食べ始めた。

 妙なベクトルに吹っ切れたとも言う。

 

「アハハ、そもそもここまで非日常が続いてた事自体がおかしいんだ! よーし、ここからはごく普通のありふれた日常のターンだろこれーッ!!」

 

 わけのわからないことを言いながらバクバクバクバクッ! とテーブルマナーを気にせずに食い漁る様は完全に社会の常識を疑われるものだったが本人は気づいていない。それどころか物凄い食のスピードに驚いた人々が余興代わりにとやんややんやと(はや)し立てる。

 そしてあらかた食い尽くした九条は言った。

 

「もっと追加を持ってこい!!」

 

 

 

 

 

 

「……で、アイツを利用したってわけか。まぁあんな事をしてても気付いてるようだが」

「そうだね。流石九条クンだ。ボクの予想以上に彼は凄かったよ」

 

 そのパーティの端。少し離れた場所で、橘提督は氷桜提督と話していた。

 武蔵野鎮守府にて、全ての事情を知った橘提督はやや真剣な目で問う。

 

「お前の目的は恐らく黒鎮守府だろう。それか黒鎮守府提督の身柄か? それで元帥に交渉でも仕掛けるつもりか?」

「まさか。そんな馬鹿な真似しないよ。ボクはあくまで一提督としてやれることをやるだけさ。九条クンと同じようにね」

 

 そう言う彼をどこか疑いの目で橘提督は見る。前から思っていたのだが、こいつも中々に得体の知れないやつだ。

 九条もそうだが、氷桜はそれよりも何か策謀めいたものを感じる。

 もし、それが守りたい存在に襲いかかったら。

 

(いや、考え過ぎか? だが、こいつも天才だ。九条とは別種の意味で)

 

 侮れない。今こうしている瞬間にも何を企んでいるのか。そもそも何が見えているのかも分からないが。

 しかし、九条や元帥が放置しているということは『そういうこと』なのだろう。

 

 橘提督は知っている。

 こう言えばあれだが、彼はエリートだ。

 エリートだからこそ、自分達の上の存在が分かる。

 

 得体が知れない(、、、、、、、)

 

 自分達が思いもしない策を考えつき、それを失敗作扱い出来るような人間は。

 九条は指揮の面で。そして氷桜は策の面で。

 

(駄目だな。とてもじゃねーが駄目だ。叶わない、と思わされてる時点で勝てるわけがない。だからこそ、俺も成長しなきゃならねーな。現に武蔵野提督から話を聞くまではてんで駄目な思考をしていた)

 

 事前に得ていた情報と、自分の目で見た情報。それらを組み合わせることのできなかった橘提督は黙り込む。

 そして改めて決意した。

 

(ーー俺は、足りない。だからまずは経験を積む。全ては、俺の守りたいもの全てを守るために)

 

 

 

 

 

 ☆月L日、横須賀提督の体験日誌

 

 

 やはり俺は未熟だ。

 九条や氷桜を見てそう思った。

 大本営の思惑。それを武蔵野鎮守府で知るまで、全く変な方向に俺は進んでいた。理解出来ていなかったのだ。

 

 情報が足りなかったとか、言い訳をすればいくらでも出てくる。でもそれは情報を集めなかったのが悪い話だ。

 全て分かっていたからこそ、九条は最初からあそこまで余裕ある返事をしていたのだろうし、氷桜もあえて鎮守府を担保にかける真似をした。

 そうだ、俺はまだ足りないのだ。

 

 経験も、頭も、行動も。全て、全てが足りていない。

 このままじゃ駄目なんだ。

 

 だから、頑張らなくちゃならない。

 まずは、同じ舞台に立てるように努力することから始めよう。

 

 

 

 (横須賀提督エンド)

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 とある提督の日記。

 

 ☆月L日、濃霧が晴れたよ! やったね電ちゃん

 

 

 ……何だか日記を書くのが物凄い久しぶりな気がする。

 まぁそれはおいておこう。

 

 『戦争』が終わった!

 

 第三部完! とはならないけど嬉しい。

 何がと言われれば、日常の生活に戻れるから。

 

 個人的には意味分からないことを氷桜に言われたり、電ちゃんの質問に対してうまく答えられなかったり、食べ過ぎで腹壊して気分は最悪だけどね。

 うっぷ、吐きそう。

 

 まぁそれはともかく。皆無事で良かった。実を言うと、連装砲ちゃんの改造を手伝ったりとかしてたから上手く動かないんじゃないかって心配だったんだよね。

 そして流石の氷桜。

 

 そもそも今回の件は黒鎮守府提督が元凶なんだとか。それを誘うために鎮守府を一時的に捨てるとか、というかそれで成功させるのがパネェ。

 俺何も出来なかったよ。何これただの邪魔じゃね?

 

 ついでに船大破。これも借金になるのかな? とりあえず黙っているつもりだけど。

 …………、怖いし。

 

 まぁともかく本当に無事で良かった。

 パーティ明けでテンションが徹夜並みの感じになってるけどまぁいいや。

 

 

 

 ……ちなみに胸の傷は全治一週間。激しい運動と、暴飲暴食でまた血を吐いたからしばらくは業務出来なそう。

 ゴメン、鎮守府の皆。




はい。エピローグ終了です。
島風の過去を簡単に書いて、新しい艦らしくないセリフの理由の説明になったかな、と。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。