Q、この小説ではゲーム(コンピューター)を通して艦娘に指示を出すのですか?
A、その通りです。原作(アニメ)では戦時中のような実際のやり方でしたが、その知識が不足している為、このような方法を取らせて頂きました。
どのような攻撃をするか、動きをするか。何の陣を使うか。全てをそれ一つで出来るようにしています。
……それと、主人公以外のパートをどう書くか悩み中。
試しにこんな書き方にしてみましたがどうでしょうか?
突然現れた高校生に横須賀提督は何を思うのか。
これは横須賀提督の体験した全てである。
○月×日、晴れ
不法侵入者。艦娘達が前線でほぼ壊滅状態に陥り、無傷で残っているのは偶々近くで遠征をしていた第六駆逐艦隊だけになっていた頃、追撃するかのようにその報は届けられた。
どうやら侵入者は高校生位の少年らしい。艦娘達の報告によると逃げ足が速かったらしく逃げきられたそうだ。
一応、睡眠弾の射出は普段から許可しておいた筈なのだが、それすらもアッサリと避けられたらしい。……何かのスパイか何かなのだろうか、ソイツは。
そして悪い情報は続いた。本部から呼び出しが掛かったのだ。
命令内容はこうだった。他の援軍の艦娘達も大破が多数出ており、幸いにも轟沈はしていないがそれでも撤退出来るかすら怪しい。
その為、俺の第六駆逐艦隊を盾に使わせろ……だ。
この命令が来た時にふざけんな!って思ったさ。そりゃ思ったよ。でも、その命令を出したのは上層部。提督の中でもまだまだ下っ端である俺がその命令を無視出来る訳もない。
結局、第六駆逐艦隊にはその場で敵艦を防げとだけ命令して後の艦娘達を全て撤退するように指示を出した。
……あぁ、俺は最悪なクソ野郎だよ。上司の言いなりで仲間を見捨てるようなクソ野郎だ。
そして後を秘書艦に任し、こちらから撤退の援軍を送れないか調べていた時だった。
突然、勝利を告げる鐘が鳴ったんだよ。そして鎮守府全体で敵艦を轟沈、作戦は成功しました。というアナウンスが流れた。
……えっ?って思ったね。負けたはずだろって。
で、提督室に戻った俺に待っていたのは艦娘達からの報告と、本当に敵艦を全滅させたという吉報だった。
どういうことが詳しい報告を求めたところ、例の不法侵入者。
名前を九条日向、と言うそうだが彼が勝手に艦娘達の指揮をしていたらしい。つまりは俺のパソコンを勝手に使って勝利させちまった……ようだ。
正直、信じられねぇ。だが、俺のパソコンを確認したらそこには『完全勝利』の文字で彩られてあった。
編成は第六駆逐艦隊、つまり駆逐艦四隻。対する相手は俺達が戦艦やら何やらを大量に投入して敗北した深海棲艦。
……あり得ねぇだろ?で、ソイツがどんな指揮を取ったのかをパソコンに残ってたデータで確認したんだ。
……何だ、これは。
それが奴の指揮を見た俺の感想だった。
「全艦突撃、よそ見はするな。全速力で突き進め」
その理由は九条の戦法。画面に映る映像を確認する限り九条は全艦を真っ直ぐ突撃させていた。
しかも、敵艦に両方から挟まれ、横から撃たれ放題の完全に敗北するであろう布陣で。
だが、何度か映像を繰り返している内に、その作戦がどれ程有効なのかを嫌という程分からされた。
「抜けた……ッ!?」
敵艦に挟まれているということは、敵艦からすれば、もしその攻撃が外れた場合、その弾はそのまま味方に当たっちまうって事だ。
そして、死を恐れていないあり得ない行動に何か裏があるのでは?という不信。
つまり、そう言った精神的な一瞬の躊躇いを利用して、奴は敵の攻撃を掻い潜った。
……駆逐艦には火力が無い代わりに『速さ』がある。それを知ってたソイツは全速力で戦艦レ級目掛けて突撃を掛けさせ、成功させた。
……驚くのはこれだけじゃない。奴は、中央を最速で突破すると同時に全艦隊に魚雷を発射させた。その打った先は全て同じ一点。
「爆ぜろ」
魚雷同士をぶつけて海の中で爆発を起こしやがったのだ。
当然、その際にとんでもない量の白水が空に舞い上がって一時的に視界を奪われた状態になっちまう。だが、奴はそれを見越して俺が逃走用に装備させておいた閃光弾を撃たせた。
「……撃て」
視界が奪われた時に敵が上げたと思われる閃光弾。当然、敵はそこに居ると思って弾丸を一斉に放つ。実際、深海棲艦もそうしていたし、俺だってそうしていた筈だ。
銃撃の激しい炸裂音が響く。ただし視界は泡立った波で真っ白だ。
その際に手元の操作盤での記録を見ると、駆逐艦達をその場から散開させていた記録が残っていた。恐らくは回避行動を取るためか。
「……我、勝てり」
そして次に視界が晴れた時……映像の中で深海棲艦共のボスである戦艦レ級は轟沈寸前のダメージを受けていた。
……そう、轟沈寸前のダメージを受けていたのだ。
つまり、九条は敵の攻撃を上手く誘導して敵艦のボスに当てた。火力不足を敵の攻撃で補ったのだ!
……簡単に言ってるが、こんなの奇跡と言ってもおかしくない、最早神業だ。何度もデータを見返していて気付いたのだが、敵の攻撃全てを当たらないギリギリ。つまり紙一重で避けるように細かな指示を出し続けていた履歴が残っていた。それどころか、戦艦レ級の攻撃すらも利用して雑魚敵艦に当てている。
俺達が全力で攻撃してなお、通用しなかった相手をこうも簡単に撃破したのだ。
ハッキリ言おう。天才……いや、そんな生温いモンじゃねぇ。こんなの天災だ!
采配をする為だけに生まれてきたような神の妙手だ!
だから、九条が発した次の言葉に俺は不思議と納得出来た。
「お粗末だな。この程度か」
「……ッ!」
お粗末。奴はそう言った。それも俺達海軍が総力を挙げて攻め込み、敗北した相手に……だ。
しかし、奴はそれを言うだけの采配を見せたのだ。
くやしかった。自分自身に。何も出来なかった俺自身に、そう思った。
……そして最後に奴、九条はピッ!と指を立てるとこう呟いた。
「終わりだ」
そしてボスが轟沈する様を見て混乱した敵艦を全艦轟沈。反撃を鼻で笑うかのようにあしらい、駆逐艦だけで完全勝利。……笑えねぇ。本当に笑えない。
…………まぁ、何にせよ確定だ。九条は重要な参考人。結果的に勝利したとはいえ、『提督』じゃない素人が戦局に左右するような事をやらかしたんだからな。
とりあえず俺としてはこれから九条の事を本部に報告する。一応、VIP用の部屋に通しておいたが大丈夫だろうか?
……あぁ、今から頭が痛くなってきたぜ。
○月△日、曇り
本部からの伝令が来た。何をしても良いから鎮守府から出すな、そして反感は買うな……だそうだ。
その理由は何となく分かっている。
恐らくだが、海軍が総力を挙げて敗北した相手に一般人である九条が完全勝利を収めた。それも駆逐艦、たったの四隻で。
そんな事実を表に出すわけにゃあいけない。
最悪だと、陸軍にでも伝わっちまえば海軍は何を言われるか分からないしな。
だからこそ、俺達は九条を何としても海軍に引き入れなければならない状況に追いやられちまってる……と、言ったところか。
それに海軍は九条に目を付けている。恐らく、昨日送ったデータを見たのだろう。
……そして理解したんだろう。九条があんな自殺紛いな戦いを平然とやってのけ、そして完全勝利出来るような天才だと。
昨日、九条の身柄を捕らえた艦娘によると、完全勝利するまで艦娘に気付かないほど画面に集中していたらしい。まるで遊びか何かのように適当に指示を出しているように見える癖に、その指示は全て的確、何一つのミスすらない。俺なんかとは比べ物にならかったようだ。ハハ、泣けてきやがる。
まぁ、まだ会った事は無いが俺個人としてはヤツをとやかく言うつもりはない。寧ろ感謝したいくらいだ。二、三隻の轟沈は覚悟してたくらいだったのに、それを救ってくれたんだからな。
……それに、目標も出来た。目指すべき先が見えた。
……それから暫くして、妖精さんが建造終了の報告をしてきた。建造なんてした覚えが無かったので話を聞いてみたら、九条がやったようだ。初めて会った……と言っていたので間違いない。
そして出来た艦娘に会ったんだが……
「大和型戦艦一番艦、大和です。よろしくお願いします」
……空いた口が塞がらないとは正にこんな事を言うんだろうな。俺の目の前には元帥の秘書、長門と互角にやり合える力を持つ戦艦が居た。しかも使用した資材は大型建造を成功させる為の数値の最低値。
……羨ましくない、と言えば嘘になる。俺よりも十は下の高校生が、俺なんかよりもよっぽど才覚ある事に。
だが、それと同時に不信感も感じていた。大型建造を成功させるレシピ……それを何故九条が知っていたのか。まさか適当にやった訳ではあるまい。
明日、俺はヤツに会う。正直まともに会話出来る自信なんざねーが、海軍として、俺個人として正しい行動を取るつもりだ。
…………明日は大変な日になりそうだ。
○月□日、晴れ。
部屋に尋ねた俺を、九条日向は快く迎え入れてくれた。
俺の階級を聞くと少し表情が曇ったのは恐らく階級が低いせいだろう。……悪かったな低くて。
とは言え予想していた事だ。俺は態度を変えることなく、先に頭を下げた。
「まずはお礼を言わせてもらう。……この度は誠にありがとうございました。新海域解放に参加していた提督を代表させてお礼を申し上げさせて頂きます」
そう言うと九条は疑問を覚えたような表情を浮かべていた。まるで何を言っているのか分からない……そんな
……まさかあの戦いが何でもないような事だとでも言いたいのだろうか。
しかし、その心配は杞憂だったようだ。あぁ、と納得の声を漏らすと九条は話し始めた。
「アレですか、いえいえ。気にしないで下さい。あの程度の事で」
「……ッ!?」
"あの程度"。九条はそう言った。驚いて顔を見ると、その顔は本当に何でもない事のようにのほほんとした表情だった。
「貴方方の攻略の手助けになったなら幸いです。寧ろ、やってしまって良かったのかな?とも思い始めてたので」
「…………………」
本物だ……コイツは、本物だ。
アレは偶然で起こした事じゃない。何よりもコイツ、九条自身が何をやったのかを把握している。
目の前で話して初めて理解出来た。……コイツは異常だ。
少なくとも俺のような凡人じゃねぇ。そして天才なんて生温いモンでも断じてない。
…………天災だ。とても、俺が相手取れる相手じゃない。
「俺としても完全勝利出来て良かったです、……本当に被害が出なくて良かった」
「…………っ!」
だが、次の言葉で俺は目を見開いた。
……今、コイツは何て言った。被害が出なくて良かった……だと?
「……俺、心配だったんです。あんな戦いで死なせたくなくて」
そう言った九条、君の目は心の底から安堵しているような表情だった。
そして、その時俺は勘違いしていた事を悟った。
「皆……生きて帰れて良かったですよ。あんなのでゲームオーバーしてたら……笑えませんからね」
……コイツは。
「……なぁ、九条君。一つ聞きたいのだが良いかな?」
その許可を得る前に俺は尋ねた。
その質問は、確認だ。
もしも、九条日向という人間が艦娘を大事に思っていたら?
もしも、九条日向が何らかの方法で艦娘が轟沈しそうなのを知り、それを防ぐ為にこの行動を起こしたのなら?
そんな、淡い希望。
「キミは……何故、敵を倒してくれた?」
その質問に九条君は当たり前でしょ?と言うと、
「それが……俺にとって何よりも重視すべき存在で。何よりも好きなものだったから」
真っ直ぐな瞳でそう答えたのだった。