とある提督の日記   作:Yuupon

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 雷ちゃん視点。やっぱり雷ちゃんにはツッコミ役が似合う気がする。


32 ダメ提督製造機 雷の日記

 

 

 

 駆逐艦雷は何を思うのか。

 九条に触れ、彼の人間性を垣間見て彼女は何を抱くのか。

 これは、司令官を世話したがる一人の少女の日記。

 

 

 

 

 

 S月A日、晴れね。

 

 

 司令官が帰って来た! 何度かお見舞いには行ってたけど、やっぱり嬉しいわね!

 顔色も良いし、元気そうにしていた。

 怪我をしたということで、しばらく休暇をもらえたみたいなんだけど司令官がどこかソワソワしてるから気になったわ。

 多分、仕事をしたいと思ったのかしら? ワーカーホリックだとしても流石司令官、仕事を第一に考えるなんて提督の鏡ね!

 

 それから、今日一日は快気祝いの意味合いも込めて、司令官のためにパーティをしたわ!

 途中、金剛さんが、

 

「あぁもう! いいかげん引っ付かないと提督分が足りないデース!」

 

 って言って司令官に飛びついた後、大和さんに

 

「……三分までですよ?」

「俺の意思は!?」

 

 九条司令官が叫んでいたけど気にしない。

 最初に比べたら随分緩くなったなと思った。でも満更でも無かったのが癪に障ったわ。何故かしら。

 やっぱり胸? 胸なのかしら?

 

 でも、私達が抱きついても嫌な顔はしないってことは、そういうことなのよね!

 

 あと、明日本土に行くらしいわ!

 

 

 

 

 S月B日、雨よ……。

 

 

 生憎の雨で計画がご破算になってしまった。泣きたい。

 全く空気を読んでよね!

 

 それで不幸も続いて、侵入者まで現れるなんて! しかも多くの深海棲艦を引き連れてよ!?

 しかもこの前、志島鎮守府を司令官が奪還していた時よりも多くて練度が高い!

 この前の防衛で資材も大分無くなっていて、正直ヤバイと思っていたけど……。

 もう、信じられないから結果から言うわ!!

 

「よっしゃ、ノーミスクリア! ふふふ、こんな弾幕でウチの艦隊がやられるかーッ!!」

 

 司令官が指示用のパソコンの前で叫んでいたけど、結果はオールSクリアの完全勝利。しかもその戦法が酷かったわ。

 

「貴様ラガ艦娘か、私ハ港湾棲姫ーーーー!?」

 

 

 まず、手を抜いて戦い、撤退して相手を誘う。で、その誘いに相手は上手く乗ったのよね。

 それから相手が名乗り口上を上げているときに、

 

「これが大和の全力全開です!!」

 

 鎮守府から撃った大和さんの砲撃が相手に命中して爆散した。司令官曰く、戦艦クラスは出撃させると資材消費が激しいから本陣から撃てばいいとの事。

 ダメージで言えば大破レベルかしら? 一直線に飛ばした砲弾が真正面から入っていったのを見て思わずうわぁ、と唸る。

 でも、司令官の指示は止まらなかったのよね。

 

「ねぇ、知ってマスか? 撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけなんデース、よッ!!」

 

 ドン! と金剛さんの砲撃。でもこれは周りの深海棲艦が身体で止めていたわ。そのお陰で港湾棲姫はギリギリで

一命を取り留めていた。それからノロノロと逃げ出したんだけど。

 容赦なく司令官は一艦に突撃を命じたの。

 

「遅いです、貴女の動きは見切りました。貴女に足りないものは多々ありますが、何よりも……速さが足りない!!」

 

 島風の魚雷。続いて砲撃。

 うん、書いてて悪者に思えてきたわ。ちなみに港湾棲姫は大破で逃げ帰ったみたい。

 

 

 

 

 

 S月C日、快晴よ!!

 

 

 今日は雲一つない快晴だったわ。これで昨日行けなかった本土に行けるわね!

 メンバーは私と司令官。それから響と……ちょっと待ってほしい。

 

 

 白い女の子。ぃゃでもこれって……北方棲姫よね?

 なんで居るの? しかもなんで司令官は落ち着いてるの? 敵よ、ソレ。

 

 私が図鑑で見た北方棲姫とは服装が違っていたが、間違いなかった。問題は、その北方棲姫の手を握って幼児に対するように接している司令官。

 ふと響を見ると、口をパクパクしていた。余りの衝撃で反応出来なかったみたい。

 

「ネェ! アレ食ベタイ!」

「タコ焼き? 熱いから気を付けなよ? 雷ちゃん達も居るよね?」

 

 何故だろう。あまりの出来事に呆然としてしまっていて気がつくと私達はタコ焼きを頬張っていた。

 そして北方棲姫を見る。

 

 司令官の背中に乗っていた。おんぶである。

 あれえ? 北方棲姫は『カエレ!』とか言いながら攻撃してくるんじゃないの?

 というか何で船の人も疑問を抱いてなかったの? もしかして私達がおかしいのこれー!?

 すると、

 

「雷、話しておきたいことがある」

 

 響が耳元で囁いた。それから彼女の話に耳を傾けていたのだが、

 

「……嘘!? 前にもあった……!?」

 

 どうやら司令官は深海棲艦にもツテがあるらしい。

 電と響はそのシーンを見たらしいのだが、深海棲艦と一歩も引くことなく対等に話していたそうだ。

 ……まさかとは思うけど、敵のスパイじゃないわよね?

 いや、あれだけ思い切りよく沈めてたらその可能性は無いか。

 

「電は、司令官が深海棲艦との和平を目指していると言っていたよ」

 

 末っ子の姿を思い出す。あの子は、例え深海棲艦でも沈めたくないという優しい子だ。

 だからこそその姿を見てそんな希望を見出したのか。

 

 もしかすると……司令官には気を付けないといけないかもしれないわね。

 本当はしたくないけど、探りを入れてみましょう。

 

 

 

 

 S月D日、晴れよ。

 

 

 今日は携帯ショップに行った。

 

「じゃあこの機種でお願いします」

 

 どうやら、志島鎮守府奪還の際に携帯が壊れたらしい。

 戦艦棲姫に海に引きずり込まれちゃってね! と笑っていたが何故笑えるのか分からなかった。

 というかそこまでされて何で生きてるのよ? ……と、いけないいけない。昨日みたいな事があったせいでどうも司令官を疑ってしまうわ。

 

 それからも司令官を観察していたんだけど、北方棲姫も暴れたりせず普通の子供のようにおとなしかった。

 時折司令官に撫でられた時は嬉しそうに目を細めている。

 

 ……前から思ってたんだけど、司令官はニコポナデポとか持ってるんじゃないかしら。なんて言うの? 撫でられた時に暖かい感じがするのよね。

 まるでお父さんに護られているみたいに。

 

 ……艦娘の私がお父さんなんて、変な話だけど。

 

 

 

 それから、ホテルにチェックインした時。

 意を決して私達は北方棲姫について聞いてみたんだけど、

 

「……二人に聞こうか。深海棲艦に心があると思う?」

 

 質問で返された。その質問に私達は頷いてみる。少なからず、先程までの北方棲姫の様子を見ていると、心があるように見えた。

 

「正解だよ。艦娘達にもそれぞれ心があるように深海棲艦にもソレは存在する。そしてその中には、人間と和平を望む深海棲艦も居る」

「……でも、現に戦争してるじゃない」

「そうだ。人間ってのは愚かでね、常に自分達が一番で居ないと恐怖を覚えるんだ。だからこそ敵を屈服させようとしているんだよ」

 

 そう話す司令官の目はどこか遠くを見ていて。

 

「二人にはまだ分からないかもしれないけどさ。俺は。俺という存在は、そんなふざけた理由の戦争に巻き込まれて、どこかで不幸になって。それでも何も言わずに耐えようとしてる奴を助けるためにここに居たいと思ってる。もちろん、全てを救えるなんて思ってないし救ってやる、なんて気持ちもない。でも、俺は現状を変えたい。勿論、君達だって身体を張ってでも守るつもりだよ」

 

 その目は子供に向けられるように優しげで。

 

「だから、俺はほっぽちゃんを助けた。深海棲艦だからーーなんて関係ない。俺は、俺自身が。彼女を助けたいと思った。そこに命令違反だとかそんなふざけたものはいらない。命令違反だろうが何だろうが、例え元は敵だったとしても、そいつが理不尽な不幸に見舞われていたら俺は助ける。それだけで動く理由になる」

 

 夢とか、何かあれば言ってくれ。その道に進めるように努力する。勿論、理不尽な目にあった時も。

 でも、今はまず大きく成長しないとね。

 

 そう言って司令官は笑った。まだ、早かったかな? と微笑んで頭を撫でてくれた。

 暖かい、安心出来る大きな手。

 

 それを感じて、私は気づいた。

 

 

 私が、なんで今まで司令官に好かれようとしていたのかを。

 それは、きっとーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 『誰かに愛されたかった』から、だと。

 

 

 

 

 S月E日、晴れ!

 

 

 

 昨日は柄にも無くメソメソしてしまったわ。

 でも、そのお陰で司令官がどんな人なのか、分かった気がする。

 だから、もう疑うのは辞めにするわ。響も同じ考えだったらしく、顔を見合わせて笑ったのはいい思い出だ。

 

 さて、今日からまた明るい雷様の復活よ!

 

 

 で、なんだけど今日は横須賀鎮守府で演習を行うらしい。数日前に決まったようで、全てを艦娘の判断に任せるようだ。

 横須賀鎮守府へは既に金剛さんと暁、それと電が居てそれぞれスタンバイをしていたわ。

 人数は五人しか居ないけど、精一杯頑張らないと。

 

 で、結論から書くわ。

 

 

「……強い」

 

 やはり横須賀鎮守府の艦娘達は強い。前に所属していたから分かるけど、特に霧島さんや赤城さんの練度が桁外れだわ。愛宕さんは……うん、強いんだけどね。金剛さんと撃ち合いになって、必死に頑張っている様子を見せながらわざと弾を受けてあられもない姿を提督に見せるのは……うん。

 

 電と暁が顔を真っ赤にしていたけど、響がトドメを刺していたわ。

 ……北方棲姫と行動すると言われて心配してたけど、司令官が観戦してなくて良かったかもしれないわ。

 だって、司令官が居たら金剛さんが絶対に真似していたもん!

 

「あ、愛宕何でこっち近づいて来て。つかまず着替えろ!

「えー? 頑張ったんだから愛宕、ご褒美が欲しいなぁ?」

「後で何でもしてやるから着替えて下さいお願いします!」

「ふふ、何でもしてくれるなら仕方ないわねー」

 

 ちなみにこれが相手の橘提督達の会話。対戦相手で生き残っていた霧島さんの顔が不幸(ハードラック)踊っ(ダンス)ちまった感じになっていて正直怖かった。

 でも、金剛さんが何か耳元で呟いたら治ってたわ。何を言ったのかしら? 

 

「ゴメンなさい足が止まらないのですぅうううっ!!」

 

 ちなみに霧島さんと赤城さん以外は電がテンパってぶつかるの繰り返しで大破認定にしてしまったらしい。

 

 図にすると、

 

 電、敵にぶつかり大破させる→テンパって動き回る→電、敵にぶつかり大破させる。

 

 ……何これ強い。っていうかゴリ押しじゃないこれ!? 酷いギャグ漫画でもここまでの展開は少ないわよ!

 と、思ったらいつの間にか身体が宙に浮いていた。

 どうやら赤城さんの戦闘機にやられたらしい。同時に暁も吹き飛んでいて、どうやら轟沈判定を出されたらしく無理やりエリアから追い出された。

 

 の、結果。

 一応勝利だけど、戦況はとてもじゃないけどよろしくなかったわ。特に私。負けていたら戦犯だった。

 

 うー! 悩んでばかりいないで精進しないと!

 

 

 

 

 S月F日、晴れよ!

 

 

 電達は一旦帰った。

 で、昨日の夜。どこかソワソワしていた司令官を見て何かあると思っていたら、なんと学校の制服に着替えていた。

 

 そう言えば学生なんだっけ?

 

「司令官どこに行くの? 司令官は私が守るんだから離れないわよ? え、学校? じゃあ司令官の膝に座ってるわ!」

 

 そう聞くと司令官は微妙な顔つきをした。

 何か考え込んで、溜息を吐く。

 

「……雷ちゃん。ほっぽちゃんが来た時に何で敵が攻めてきたと思う?」

「何でって、北方棲姫の仲間か何かじゃないの?」

「違うよ。一昨日言ったけど、深海棲艦には心がある。その中でもほっぽちゃんは温厚派だ。様子を見ていたけど、攻め込ませた素振りは無いからね」

 

 そう言って、司令官はチラッと目線だけ動かして端を見た。

 

「……じゃあほっぽちゃんが攻め込ませたもので無いと仮定して考えよう。なぜほっぽちゃんがウチの鎮守府に居たのか。それが鍵なんだよ」

「何でって……そりゃあ北方棲姫が鎮守府の防衛戦と関係無いなら、別の深海棲艦に追われてきた……あ!」

「そう、港湾棲姫だ。つまり、ほっぽちゃんはアレから逃げてきたんだよ」

 

 淡々と告げる司令官に私は驚愕を覚えた。

 もしかして、そんな思いが頭をよぎる。

 

「逃げてきた理由はいくつか思い当たるけど、次に敵の目的。ほっぽちゃんが狙いのはずだけど、そのためにまず俺を狙うはずなんだ。何故なら俺は『交渉カード』として使えるからね」

 

 鎮守府で初めて北方棲姫を見た時、司令官は港湾棲姫と結びつけたのではないか。

 それも、初めて会ったその瞬間に。

 もしーーそうなら、やはり司令官は別格だ。

 

 そんなことを思った雷の頭を撫でて司令官は言う。

 

「それに、その証拠に気付いてるかな? ほら、尾行()けられてる」

 

 指差す先には、こちらを覗き込む白い影(、、、)。人間にしては白すぎるソレは、確定的に司令官の話を裏付けていた。

 尾行()けられていることには気付いていたが、そこまで考えが及ばなかった。

 

「……俺の考えがあっていれば敵の狙いは俺だ。学校なら人が多いからひとまずの安全は確保出来る。それに同級生を人質を取られたら困るからな。見張りも兼ねてだけど。まぁ雷ちゃん達には鎮守府へ帰る手配をしてあるから安心してくれ」

 

 やはり全て読み切っている。

 あんな僅かな情報だけで真実を。

 そして、その上で護ろうとしているのか。

 司令官は私たちを。司令官に関わる全ての人々を。

 

「本当は両親の元に行くべきなんだけど、あの人達は問題ない。俺よりも遥かに優秀だからな」

 

 だから、だからこそ。司令官の口から溢れた言葉に私は驚愕した。

 俺よりも遥かに優秀。どんな化け物一家だよ、と思わずツッコミを入れてしまう。

 

 そしてなんだかんだ言いながら私達は司令官の学校へ向かった。

 

 

 

 

 




 『一言』
九条以上のチート両親。果たして勘違いなのか。
うん、これ以上やると艦これ世界の世界観が壊れる気がするね(え? もう手遅れ?)

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