とある提督の日記   作:Yuupon

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今回は少し長めです。
それと他の視点も日記風に書くかこのまま説明っぽく書くかどちらが良いのか悩んでいるのですがどっちが良いんでしょうかね?


04 横須賀提督の体験日誌

 ○月☆日、晴れ

 

 正直、生きた心地がしない。……提督を引退してしまいたいくらいだ。

 

 事の発端は元帥に九条 日向についての報告をした事だった。

 俺の報告に元帥が少し小難しそうな表情を浮かべた後に、九条を呼ぶように言われたので呼んだのが現在、俺を悩ませている事の発端である。

 

 ……思えば、元帥に報告したのが間違いだったのかもしれない。

 

 

「キミが九条クンか。まぁ、そこに掛けなさい、なぁに。そう構えることはないさ」

 

 無精髭を撫で、ニコニコとした老人のような笑顔で元帥がそう言った。

 そして適当な世間話を始める。恐らく、九条の緊張を解くためか。

 流石の九条も元帥から呼ばれたことに少し驚いていたようだし。

 

 とはいえ、それも数秒でまた元の表情に戻っていたが。そしてしばらくの間楽しげに歓談していた二人だったのだが、突然九条が話を打ち切ると、本題へと話を変えた。

 

「それで……なんの御用。いや、聞くまでもありませんね。俺の"処遇"ですか」

「流石聡いの。その通りじゃよ。まぁ悪いようにはせん」

 

 今までとは空気が一変する。言うなれば休み時間が終わり、授業が再開した学校のような……?いや、そんな生温いモンじゃねぇか。

 

 そして何故か話は俺も部屋で聞くようにと言われている。何でも、これからの良い経験になるだろう……との事。元帥の言うことだし信じたが、何となく。いや、完全に嫌な予感しかしない。

 ……むぅ、頼むぜ九条。俺の首が飛ばないように。

 

「元帥様、そろそろ本題に」

「分かっておる、長門。……さて、それでだ単刀直入に言おう」

 

 そして元帥がそこで一旦言葉を切ると、真剣な表情で九条にこう言った。

 

「キミに第六駆逐艦隊と、新しく作られた鎮守府を任せたい」

 

 その言葉に九条は答えない。仏頂面で元帥……、いや、元帥達を見つめる。その目からは不可解、という言葉が浮かんでいた。

 

「何故?と言った表情だね。まぁ、言うなればキミの罪の精算だよ。この横須賀鎮守府に不法侵入し、あまつさえ勝手に艦娘達を使役した事に対する"罪"のね」

 

 その言葉にも答えない。目には影が掛かっているようにも見えた。

 ……その目はまるで失望したかのような目。この程度か、と見下すかのような目だった。

 これだけでも充分俺の胃を痛くしてくれたのだが、元帥の次の言葉はもっと酷い意味で俺の胃を痛くしてくれた。

 

「……ふむ、不満かね。ならばこれならどうだ?キミは私直属で働いてもらう事にする。つまり、私の後任。元帥の座を渡す事を約束しよう。これならどうかな?」

「…………ッ!!?」

「元帥様、それは!!」

 

 『元帥』の地位の約束。……元帥は分かっているようだ。今、目の前の少年がどれほど重要なのかを。そしてそれが分かっているからこそ、元帥という破格の地位を提示した。長門さんが諌めているが、恐らく聞く耳は持たないだろう。

 ……彼を手に入れるか入れないか。最悪の場合、それで国の。世界の運命が変わってしまうかもしれない。

 

 九条君の行動力。指示。陣。どれを取っても既に彼は完成されている。残されたデータから見た映像でそんなのは一目瞭然だ。

 駆逐艦達が頑張ったから勝ったとか言う同僚もいたが、そんなのあり得ない。頑張っただけで勝てるというのならもうすでに深海棲艦は全滅している。

 

 ……九条は、凡人の物差しで測っていい人間じゃない。

 

 そして元帥は書類を前に出した。その書類には、提督として一生を終え、鎮守府に勤める事。これを誓えば元帥の座。そして提督としての座を何の試験も受けること無くパスさせる……という内容が書かれていた。

 

 ……本気だ、元帥は…………本気だ。

 

「どうかね?条件は破格だと思うが」

 

 元帥が答えを迫る。

 破格。正にその通りだった。

 こんな条件普通はあり得ない。普通に考えて、提督になる為の試験を無条件でパスするだけでも破格だと言うのに、そこに元帥の座まで付けたらどれ位破格の文字をつければ良いのか分からないくらいに破格の条件だ。

 俺だったら……恐らく欲に負けて即決するかもしれない。

 だが、九条は首を横に振った。

 

「……すみませんが」

 

 そう言って頭を下げた九条に元帥が不思議そうな表情を浮かべる。だが、意趣返しなのかニコリと笑うと九条はこう言い返した。

 

「一生勤めよ、というのは"罪"として"長過ぎ"やしませんか?元帥殿?」

 

 その言葉に、俺は衝撃を受けた。……そうだ、そうなのだ。

 んな条件を受けたら一生、九条は提督という職に縛り付けられる。それは決して逃れられぬ鎖のように。

 元帥としては、その条件を上手く使って九条を取り入れるつもりだった……。

 

 水面下で繰り広げられる両者の黒い戦いに俺は思わず冷や汗を流す。

 

 

 異常だ。明らかに異常だ。

 この場はただの歓談なんて場じゃない。

 互いの思惑を通す為の戦いーー、

 

「まぁ、罪を償え。と、言うのであればその部分だけは認めてもよろしいですよ?」

「……つまり、契約は結ばぬ代わりに口頭の約束で、と?」

 

 九条の言葉に元帥が尋ねる。一体……何だってんだ。何のつもりで……

 

「その通り、それならばお互いに不利は無い。信じられないなら監視でも付ければ良いでしょう、ねぇ?」

 

 突然、九条が俺に話を振った。突然の言葉に思わず頭が真っ白になる。

 

「え?あ、あー。そ、そうだな、うん」

「横須賀提督の答えはお気になさらず。元帥様、続きを」

 

 長門さんに無かった事にされてしまった。とは言えショゲている場合ではない。

 ……この歓談は俺にとって、大きな成長に繋がる可能性がある。

 

 元帥と九条。俺なんかとは比べものにならない天才達。

 今の俺には到底出来る会話じゃない。だから、だからこそ。

 折角の機会……逃すわけにはいかない!

 

「つまり……キミはこう言いたいのかね?この書類への契約はしない。その代わり働けというなら期間を付けろ……と?」

 

 元帥が九条に尋ねた。

 次の返答。次の返答で決まる。俺も思わずゴクリと喉を鳴らした。

 だがーーその次の返答に九条は超ド級の爆弾を放り投げやがった。

 

 

「当たり前でしょう、たかがその"程度"の事に俺は一生縛られるつもりはありませんから」

 

 "たかが"。その言葉に俺も長門さんも。元帥さんまでが目を見開いた。

 ……コイツは深海棲艦と。人類の命運を決めるという戦いでさえ"たかが"と、言うのか?

 思わず九条の目を見つめると、その目は笑っていた。まるで、俺達の戦いが自分にとってはゲームとしか見えてないかのように。

 

「……ぐ、貴様!」

 

 元帥が怒りの混じった声を上げた、当然だ、命懸けでやっている俺達。提督の全てを敵にするかのような発言を九条はしたのだから。

 だが、九条はそんな視線をはねのけると笑った。

 

「ご安心下さい。ちゃんと、俺の犯した"罪"の分は働きますから。なんなら、警察にでも放り込みますか?」

「ッッ……!?」

 

 その目は、全てを見透かすかのように透き通っていた。

 そして今の発言。

 ーー全てこいつの手のひらの上で踊らされてた。俺も……元帥も。海軍でさえも。

 ーーコイツは全て知ってて脅している。

 

 陸軍と海軍における亀裂。海軍が陸軍への技術提供を拒否したこと。

 そんな裏の事情を全て知って……脅している。

 

 俺に……手を出すな、と。

 俺を……扱えると思うな、と。

 

 命懸けで挑む戦いなのに、何故アイツは笑えるのか。それも、心から楽しそうに。

 

 それは、戦場において笑える程の強者たる証だ。

 圧倒的強者であるからこそ……ヤツは笑える。

 

 ーー分からない。

 初めは艦娘達を助けたいという思いで後先考えずあんな事をした天才。元帥と同等レベルの素晴らしい人材だと思っていた。

 だが、違う。

 今ならばハッキリ言える。

 ……コイツは、コイツは……!

 

「それこそ、全力でね」

 

 人間として異常だーー。

 

 

 

 

 

 ○月@日、くもり

 

 

 昨日、九条が部屋を後にしてから俺は元帥と奴をどうするか話し合った。

 逃すのは危険……かと言って味方に入れても危険。

 つまり、手の付けられない猛獣だ。

 

 人類からしたら深海棲艦。それもとびきり厄介な。それこそ、鬼や姫といったレベルの化物のような存在。

 話は平行線で、結局、もう一度奴の実力を見よう。という方向で決定したのだがーー

 

 

「ここは一気に突き進むべきなのです!」

「良いと思うよ電ちゃん!そのまま進めば敵の裏を突けるし」

 

 …………なんだ、これは。

 

 そんな思いが俺の頭を駆け巡る。

 

 ……あまりに現実離れした映像を見たせいか、目をゴシゴシと擦りもう一度見てみる。

 うん、"あの"九条が楽しそうに第六駆逐艦隊四隻と戯れていた。

 いや、正しくは敵艦との戦闘を脳内シミュレーションをしているようなのだが、そんな事はどうでもいい。

 

 あ、有り得ねぇ。きっと俺はおかしくなっちまったんだ。いやー、過労とか胃痛って怖いなぁ。

 

「……ここは私が受け持つのか?」

プラーヴィリナ(その通り)!その通りだよ響ちゃん」

 

 ニコポナデポだ!じゃなきゃ、あいつらは九条に操られているんだ!

 いやー、流石天災はスゲェなぁ……じゃなくてッ!?

 

 ……いやいや!待て待て待て!!

 何なんだコイツ!?昨日の危険っぽい感じは何処にいった!?

 完全に小さな子供の遊びに付き合ってあげている優しいお兄さんポジションになってる……って、明らかにおかしいだろぉ!!

 

「それで、私は何処に?」

「雷ちゃんはここだね、それから暁ちゃんはここ」

「ちゃん……って、九条!一人前のレディーとして扱いなさい!」

「あはは、ゴメンね」

 

 完全に微笑ましい図なんですがそれは……。俺はどうすればいいと?

 内心気づかぬうちに俺は思わず馬鹿だった学生の頃の反応をしてしまっていた。

 ……いや、俺は悪くない。悪いのは俺の精神や胃痛の原因である九条のはずだそうに違いない。

 

「あ、提督さんなのです!」

 

 目の前の不自然すぎる光景に思わず部屋を覗き込むように見ていると、電に見つかり声をかけられた。

 く……空気を読んで欲しかった。せめて心の、死ぬ準備を。

 だが見つかった以上、仕方なく俺はオズオズと姿を見せる。

 

「……よ、よう」

 

 ぎこちないかもしれない。でも、これが限界なんだ。

 目の前の異常相手に挨拶出来ただけ充分ってもんだろう。

 

「提督?何でここに」

 

 雷が疑問の声を上げるが、その前に九条は自分に用事があると気付いたらしい。

 俺の肩をポン、と叩くと外へ出るように促した。

 

「ゴメンね、少しこの人と話があるから」

 

 その際に振り向いて申し訳なさそうな顔で九条が言った。気にしないで、と、第六駆逐艦隊が声を上げる。

 どうやらコイツは俺達との対応を上手く使い分け、艦娘に取り入っているようだ。

 ……つくづく恐ろしいやつめ、と内心毒を吐く。

 

 

 そして廊下に出た俺はいきなり本題に入った。

 

「九条君、すまないが頼みがある」

「何でしょうか?俺に出来ることならやりますけど」

 

 昨日とは違い、少し朗らかな表情でそう言ってくれた。

 これなら受けてくれそうだ、とホッと胸を撫で下ろす。

 

「明日、艦娘の演習があるんだがキミにも来てもらいたい。ご足労願えないだろうか?」

 

 元帥が言うには、これはどうやら保険らしい。

 有り得ないとは思うが、もし、あの時見せた指揮がマグレだったとしたら……?という疑問を解消する為だそうだ。

 でも、何か裏があるようにしか思えねぇんだよな。うーん、なんだろ。

 

 ……例えば九条の指揮を他の提督たちに見せつける、とか?

 んー、でもどうしてんな事する必要があるのかが分からねぇけど。

 

 まぁ、とにかく伝える事は伝えた。もし、何か裏があっても九条は自分で何とかする事だろう。

 

 そういえば九条に邪魔したな、と言って別れた後にボソッと、

 

「演習かぁ……楽しみだ」

 

と、九条が子供のような声で言っていたのはきっと幻聴だったのだろう。

 ……明日が終わったら有給取ろう、うん。そうしよう。俺は相当ヤバイと見える。

 

 

 

 〇月&日、晴れ

 

 九条日向という人間は人間には厳しく、艦娘には甘いらしい。

 それが分かったのは今日の演習での事だ。

 

 天候は良好、雲一つない青空だ。絶好の演習日和である。

 ……さて、今回の演習だが九条には適当に見繕った戦艦六隻を使用してもらうことに決定した。

 対する相手は俺よりも格上の少将の先輩提督だ。

 

 そして編成は先輩提督の第一艦隊所属の戦艦達。普段からその先輩提督は「戦争は火力だぜ」などのちょっとアレな発言をしている、正にどこぞの普通の魔法使いを彷彿とさせる方だ。

 とは言えちゃんと成果は残している人だし、何かと俺を気にかけてくれる人だから俺としても悪い感情を向けることはないけど。

 

 ……それに美人だし俺も好きって言うか、あぁもう!

 

 ……でも個人的には酒を飲みにいくときにべろんべろんになるのは止めてほしい。絡み酒だからなぁ……しかも胸とか押し付けてくるし性的欲求が……。

 

「あの、提督さん。大丈夫ですか?」

「どわぁぁあああああっとぉ!!?」

 

 急に後ろから声を掛けられた俺は変な声を上げながら飛び上がった。

 慌てて声をかけてきた相手を見るとそこには……、

 

「げぇ!魔王……じゃなかった。九条君か、余り驚かせないでくれ」

 

 魔王……ではなくそれに限りなく近い人間である九条君がいた。

 本当に急に声を掛けるなんて事しないで欲しい。ただでさえ、キミのせいで俺の心労はマッハなのだから。

 

 

 それから暫くして九条君と先輩の演習が始まった。

 パソコンを渡した時に少し驚いた様子を見せた九条君だったが、今はもう飄々とした顔で指揮をしている。

 

 そして戦況は……、と言うと。

 

「攻撃が当たらない……か」

 

 先輩の攻撃が一発も当たっていない。いくら火力重視の装備とはいえこれはあり得ない事態だ。

 九条君の画面をチラリと見ると、彼の手は絶えず何処其処の地点に移動せよ!や、ここで砲弾を放つなどの指示を全て彼一人で出している。

 そして彼の細かい指示の全てはその艦娘が全力でやればギリギリ出来る、そんなそれぞれの艦娘の能力に見合ったものしか出されていない。

 

 それでも限界はあるはずなのに、どんなに先輩が撃つように指示してもその弾丸は全て回避される。

 それも、必要最低限の動き。まるで、ゲームのチョンよけのように。

 

 やがて、一隻。また一隻と先輩の艦娘達は大破まで追い込まれ、最終的には完全勝利。

 そしてフゥ、と息を吐くと九条は終わった……という表情でパソコンから顔を上げた。

 

 これで、本当に確定だ。

 

 ヤツは……、九条日向という人間は…………、

 

 ーー本物だ。

 

 そんな事を考えていると、九条が突然俺に話しかけてきた。

 

「……提督さん。これ、やっぱり俺、謝ってきた方がいいですかね?」

 

 俄かには信じられないその言葉。そして九条の目線はボロボロになった艦娘達が映る画面に向けられている。

 それを聞いて初めて、俺は九条の人間と艦娘達への対応の違いの理由に気付いた。

 

 九条の顔は打算なんかじゃない。その顔は間違い無く本当に申し訳ないと思っている顔。

 あぁ、そっか。

 気付いたら簡単に飲み込めた。

 

 ーーコイツは、艦娘は好きだけど人間は嫌いなのか。

 

 どうして?とは思わない。

 ……九条の特異性。そういう面から見たら、俺達人間に何かトンデモナイ事を負わされちまったのかもしれない。異常だ、おかしいとなじられたのかもしれない。

 

 それが理解した俺は、不思議と九条を怖いとは思えなかった。

 ……今までの評価なんて関係ない。俺は、俺自身は。

 

 コイツをどう思うのか。コイツの存在をどう受け止めるのか。

 

 

 ……多分だが、俺はこれからもコイツの監視を任される事になるだろう。

 正直、数ヶ月で胃に穴が開く予想しか出来ないがなんとか頑張るつもりだ。

 

 

 ……全ては人類の為。

 そしてーー俺の為に。


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