高校二年生という肩書きにも慣れて来た四月の終わり頃、俺は登校していた。すっかり慣れて面白みがなくなった景色を眺めていると珍しい光景が目に入る。いつも少なくても最低3人は女子と一緒にいる蓮が今はたった1人の女子と登校している。しかもいつもと違ってとても楽しそうな笑顔を浮かべているのだ。
俺は相手が誰か気になって顔が見れる場所まで移動する。そうしていったい誰なのか確認すると「ああ」とつい言ってしまう。蓮の隣にいるのは
昼休みになり、俺は慎哉たちと一緒に昼食を食べていた。始業式の日での出来事の後、慎哉から気まずいだろうからあんまり神崎と話そうとしなくていいからねと言われ、俺もいつかなんとかしないとなと思いながらもその言葉に甘えて蓮とほとんど話さなかった。結局、何も変わっていないということだ。
このスペースについては清水がいちいち移動するのが面倒くさくないかいと言っていたこともあり、昼休みだけここに集まることになった。たまに他の男子生徒がくるが、蓮や女子生徒は来ていないのでなかなかいい場所を選んだものだと自分を褒めたくなってくる。
そんなふうに考えているとふと今朝見たことが頭によぎる。話のネタになるかもと思いつつ、気になっていたこともあってその話を口にした。
「登校しているときに蓮を見たんだけど周りに1人しか女子がいなかったんだよ、結構珍しくないか」
「それは確かに珍しいね」
慎哉が俺に同調してくれる。清水は…と、清水の方を向くと口を開いてくれた。
「僕としてはそうなるのも当然な気がするけどね。まあ、思っていたよりも早かったみたいだけど」
ん?清水の言っていることが理解できない。あんなにモテていたのに、モテるという言葉を凌駕するほどに女子に囲まれていたのに、それがなくなるのが当然?自分の中で考えていても埒が開かないと思った俺は、その疑問を解消しようと清水に質問する。
「なあ、なんでそうなるのが当然なんだ?全然わからないんだが」
「ああ、君は知らないのか」
そういう風にもったいぶりながらも清水は教えてくれる。
「ここ最近、神崎くんが女子を振りまくっていてね。告白されるされない関係なしにいきなり、俺は君のこと恋愛的に好きじゃないから付き合えないんだごめんね、と言っているらしい。十中八九それのせいだろうね」
まさか蓮がそんなことをしているなんて、清水が言っているから事実なんだろうが全く想像できない。蓮は告白してきた女子を振るときにあの子にあんな表情をさせてしまったと傷ついていたというのに
「なんで蓮はそんなことをしているんだ?」
そう尋ねると今まで口数が少なかった慎哉が答える
「浩介は神崎と2人きりで登校している女子を見たんだよね。だったら、その子のことが好きだから他の女子たちを遠ざけるためにしたんじゃないかな」
「うん、僕もそれが一番可能性としては高いと思うよ」
慎哉の意見は確かに理由として完璧だ。でも、俺としてはそれを認めたくない。ただでさえ美桃は蓮のことが好きなのに蓮も好きで両思いだと俺がなんとかできる隙がなくなってしまうからだ。そういうわけで、慎哉の意見を否定できる根拠を考えていると慎哉から声がかかる
「急に黙っちゃったけどさ、もしかして一緒に登校していた女子、美桃さんだったりする?」
多分無駄だろうと思いながら俺は慎哉から目線を外し、動揺を悟られないようにする。というかなんでこんなに察しがいいんだよこいつ
「ははは、やっぱりそうなんだ。それはご愁傷様だねー」
やっぱり気づかれていたか。外していた目線を慎哉の目に合わせて恨みを込める。そんなことをしていると、清水から疑問の声がとぶ
「なんで神崎くんの相手が咲だったらご愁傷様なんだい」
ああ、そういえば清水には話していなかったのか。まあ、いい機会だし話しておくか
「美桃は俺の中学の時の友達で、好きな人なんだよ」
……なんだ?俺が美桃のことが好きだと言った瞬間から清水はなぜか黙っているし、慎哉もなぜか震えている。いったいどうしたんだ
「なあおい慎哉、どうし「ちょ、ちょっとお腹痛くなっちゃって、ご、ごめんね」……あ、ああ」
あの震えは痛みを我慢していたということか。そう納得した俺は今度は清水に話しかける
「なあ清水、せっかく言ったんだし何かリアクションとか「ねえ、藍沢くん。本当に咲のこと好きなの?喋ってるところなんて全く見てないのだけど」…は、はい。今は気まずくてあんまり喋れてないけど、本当に好きです」
な、なんか怖くて敬語になってしまった。俺が何かしてしまったのか?全く心当たりがないんだけど
「……そう。じゃあ咲のどこが好きなのか細かく正確に言ってくれないかい、これからの参考に「ん!こんにちは〜珍しい組み合わせだね、私も入っていいかな」……咲」
清水が喋っていると、いきなり美桃が現れて喋りかけてくる。というか、美桃がどうとかよりもここに女子が来きたことに驚いてしまった。よく来れたな
「まあ、藍沢くんがいいのならいいんじゃないか」
「俺は別に入ってくれて構わないぞ」
…なにか清水が俺を怪訝そうな目で見てくる。やっぱり、気まずいとか言っていたのに了承したことに驚いたのだろうか。まあ、俺もいい加減美桃とは仲良くしたかったし、蓮が美桃のことを好きな可能性が出てきて気まずいとか言っている場合じゃなくなったからな
「やったー、ありがと!ていうか、浩介と凛ちゃんって仲良かったんだ。もっと早く気づいてたらなー」
「まあ、一年の時は別のクラスだったし、俺があんまり関わろうとしなかったこともあって仕方なかったんじゃないか」
「ん、それもそうだね」
「な、名前呼び…」
てか、清水は俯いて何してるんだ?何言ってるのかもわからないし……まあ今は美桃と喋ることに集中するか
「というか、美桃って清水と仲いいのか?名前で呼んでるけど」
「それはもちろん。一番の大親友だよ!」
「へーそれはいいな」
それにしては清水に睨まれてるけどな。まあ、さっき清水も咲って名前で呼んでいたし、本当に親友なんだろう。たぶん
「私としては浩介も大親友だと思ってるけどね」
「……本当か?あんなこと言ったのに、それでも……」
「当たり前でしょ!そう思ってないとこんないきなり声かけるなんて真似しないよ。それに、ここにきたのも浩介と話したかったからだから……だから、安心して」
美桃はまるで花のような笑顔で俺に微笑む。きっと俺を大親友だと言ってくれたのは本音なんだろう。
本当に、美桃は中学のときから変わらない。いつも明るくて、優しくて、俺が欲しい言葉を投げかけてくれる。そりゃこんなにいい人なら蓮が好きになるのも当然かもな
「俺も、今でも親友だと思ってる。だから、前みたいに話しかけていいか?」
「いいに決まってるよ。……あれ?私は大親友って言ったのに浩介は親友じゃん。おかしいでしょ」
「はは、別にいいだろ」
「よくないよ!」
よかった、美桃とまた親友になれて。勇気を出して話しをすることを選んでよかった。まあ、美桃がどんどん追い詰めてきたせいで、逃げる選択肢がなかっただけかもしれないけど。
「ん、もう昼休み終わっちゃうね。一緒に帰る?」
そう美桃は首を傾げながら可愛らしく尋ねてくる。
「いや、あと1人いたんだけど今トイレにいるんだ。だから、そいつを待たないといけないから先に行ってていいぞ」
「そっかー、じゃあ今度はその友達も紹介してね。バイバーイ」
非常に残念だが仕方ないな。でも話す機会はこれから山ほどあるだろうし別にいいか。そう思えることに俺の胸は喜びと嬉しさでいっぱいになる。そして、そのままトイレの方に行くために席から立とうと
「藍沢くん、一つ質問があるんだけどいいかな」
したところでいきなり清水が話しかけてきた。今まで黙っていたこともあって「うおっ」と声を出し、驚いてしまう。そして確認をとってきたにもかかわらず質問してくる
「藍沢くんが好きな咲は神崎くんのことが好きなんだよね。そして神崎くんも咲のことが好きな可能性が高い。それでも咲のことを諦めないのかい」
この質問にどういう意図があるのかよく分からないが清水は真剣に聞いてきている。だったら、俺も自分の本音を言うしかない
「俺も十中八九付き合えないんだろうなって思ってるんだけど、そんなこと関係ないくらい好きなんだよ。どんなことになっても諦めきれない。多分恋ってそういうものなんじゃないかな。まあ、初恋を拗らせてるだけかもしんないけどさ」
「そう…そういうものなんだね」
わかんないけど満足してくれる答えだったのか?ずっと顎に手を置いて考えているんだけど
「慎哉くんもきたみたいだし、僕たちも教室に帰ろうか」
「あ、ああ」
確かに慎哉が歩いてくる姿が見える。結局よくわからなかったけど清水が納得できたのならそれでいいか。俺はそう思って、清水の言う通り教室へと歩き出した。
放課後、特にすることもない俺たちはすぐさま帰る準備をして、下駄箱から靴を取り出す。清水が異様に遅かったのが気になったが、昼休みからなんかちょっとおかしいから大丈夫だろう
「あ、あの、藍沢くん。もしよかったら、下校するときに少し寄り道しないかい」
いきなり清水が声をかけてくる。なんだ、そんなことを言いたかったのか、そのくらいいつでもokするに決まってる
「ああわかった。慎哉とあと美桃も誘うか?」
「い、いや……そういうことではなくてね」
清水がこちらから顔を背けながら否定する
「だったらどういうことなんだ?」
「え、えーとそれは…」
急に言葉に詰まる。いったいどうしたんだ
「んー、ごめんね盗み聞きしちゃって。それで、私は蓮と帰るから一緒に下校できないんだよねー」
清水を心配していると、いきなり下駄箱の陰から美桃が出てきて、いけないということを伝えてきた
「そっか。じゃあまた明日な」
「うん、また明日。凛ちゃんもね」
やっぱり美桃と蓮の仲は相当深まっているみたいだ、せめてもう少し早く美桃と親友に戻っておけば……そう考えていた俺は清水と美桃がお互いに親指を立てていたのを見逃してしまった。
「それで、俺はどうすればいいのかな?」
慎哉が下駄箱の陰から顔だけを出して聞いてくる。どうやら慎哉も盗み聞きしていたらしい。チラリと清水の方を見るとまだ黙っている。仕方ないなと思って俺が話す
「慎哉が一緒に来たかったら来ていいんじゃないか」
「うーん。どうしよっかなー」
ん?いつのまにか清水が慎哉の方を見ている。すごい目力だ。やっぱり来て欲しいのか?
「俺も行くことにするよ。楽しそうだしね」
「そうか、じゃあ行くか……あれ?」
いきなり無表情になった清水が無言で俺の横を通って校舎から出ていく。どうやら、清水は何故かとても不機嫌らしかった