ハーレム主人公が羨ましい   作:八雲 幸

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ハーレム主人公と羨望

 

 突然歩き出していった清水に面食らいながらも、俺は追いつくために小走りをした。そのまま隣まで移動して様子を見るとやはり不機嫌そうだった。

 

「なあ、いったいどうしたんだ」

「…………いや、どうもしていないよ」

 

 いやいや、そんなわけないだろ——そう内心で思いながらなんとかして清水の機嫌をよくする方法を考える。だけど、そもそもとして、何故いきなり不機嫌になったのか、今日少し様子が変だったことに関係があるのか、分からないことばかりで何も思いつかない。

 俺だけで考えるのは無理だ。そう分かった俺は、俺たちの少し後ろをついてきている慎哉にアイコンタクトで助けを求める。人の機微にめざとい慎哉ならなんとかできるかもしれない。そんな望みをかけて

 

 

 無理だった。俺が慎哉の目を見た瞬間に勢いよく首を振ってきた。横に。流石に諦めるの早すぎじゃないかと文句の一つでも言いたくなったが俺も同じようなものだったことを思い出して、喉元まで来ていた言葉を飲み込んだ。

 さて、本当にどうしたらいいんだろうか。俺がどうしたんだと質問してから数分ほど無言で歩き続けてるにも関わらず、まだ何も前に進んでいない。…………いや、そうか。分からないことがあれば聞けばいいのか。そんな当たり前の事をずっと思いつかなかったことを恥じながら、出来るだけ慎重に質問する

 

「えっと、俺たち、一緒に下校してそのままどっかで遊ぶんだよな」

「そうだね」

「あー、いつものショッピングモールに行くでいいか」

「それでいいよ」

 

 よし、何とか最低限のことは分かった。どうやら不機嫌だが遊ばないかという誘い自体は無くなっていないらしい。だったら、ショッピングモールでなんとかして楽しませれば機嫌もなおってくれるかもしれない。そう考えた俺は、それを共有して楽しませる作戦を立てるために慎哉を手招きして俺の隣に来させる。そのまま清水にバレないように小声で話していると慎哉が指を指した。どうやら着いたらしい。つまり、作戦実行ということだ

 

「ほら、行こう。清水さん、浩介」

 

 慎哉が俺たちに声をかけると同時に清水の隣に陣取り、俺と慎哉で清水を挟み込む。これは俺たちが清水を楽しませるために考えた陣形、不離三体(トリプルアウト)だ!……まあ、提案した瞬間にえっと、名前だけでももう少し考えた方がいいんじゃないかなー、と言われたが……全然気にしていない!大事なのはその効果だ。俺たちが考えた作戦ではこの陣形のまま、まるでホストのように清水に話しかけ、興味のありそうなものに連れて行き楽しませるということになっている……まあ大体当たって砕けろ的な作戦ということだ

 

「清水、あっちに本屋あるぞ、なんか欲しい本とかあるか?」

 

 清水は本が好きなはずだ。推理小説を読んでいるところを多々見たことがある。これはなかなかいいんじゃないか。俺は期待に胸を膨らませながら清水の返答を待つ

 

「ないかな。気持ちだけ受け取っておくよ」

「そ、そうか」

 

 失敗した俺は肩を落としながら歩きだす。すると、バカにしたように慎哉が鼻で笑ってきた。俺の方が不機嫌になりそうだ。だが、慎哉は自信満々な顔をしている。俺はその態度に失敗したら絶対煽ってやろうと決意を固めながら期待して見守る

 

「清水さん、あっちにゲームセンターがあるよ。遊ばない?」

 

 なに、ゲーセンだと!意外というか考えなしというか、絶対無理だと思うんだが…そもそも、清水がそういううるさい所が苦手なことぐらい慎哉は知っているはずなのになんで選んだんだ?

 

「……そうだね、行こうか」

 

  なんだって、okしただと!まさか、慎哉はこうなることを読んでいたというのか。その驚きからの衝撃に弾かれたように慎哉の方を向くとさっきの顔がマシだと言えるほどのドヤ顔顔を披露していた。ムカつきと笑いが溢れないように我慢しながら、そんなものを清水に見られたらせっかくの苦労が水の泡になるぞ、と慎哉に手でやめさせるように指示を送る。……ようやくやめてくれた。そう安堵した矢先、清水が話しかけてくる。とんでもなくギリギリだった

 

「知ってるかもしれないけど、僕はこういう所に来たことがあまりなくてね、どういうものが面白いのか説明してくれないかい」

 

 うーん。やっぱり苦手なんだよな。だったらなんで行こうなんて言ったんだ?そんな疑問が渦巻くが清水を楽しませることの方が大事だと思い直し、それに蓋にして考えないようにする。しようとした。だけど、そうする前に慎哉が清水に話しかけた

 

「その前にさ、話してくれないかな。実はもうあんまり不機嫌じゃないんでしょ」

「……やっぱり慎哉くんは察しがいいね。羨ましくなるよ」

 

 ん?話についていけない。いったいどういうことだ、清水が不機嫌じゃない?だったらどうしてこんなに黙っていたんだ?

 

「僕が不機嫌だったのは学校を出てすぐくらいまでだったんだよ。その後は…いきなり普通な感じに戻るのがちょっときまりが悪くてね」

「なるほど?てか慎哉はどうして気づけたんだよ」

「いつもは行かないゲーセンに行くって言った時に確信したかな。多分俺たちに遠慮してるんだろうなーってさ」

「遠慮?」

「うん。慎哉くん達が僕を楽しませようと頑張っているのにそれを無視するのは少し子供っぽすぎると思ってね。それと、藍沢くんの誘いを断ったときに思っていたよりショックを受けていて、断ることに罪悪感が出てしまって…」

 

 そういうことだったのか。ようやく話を理解出来た俺の胸の中にあるのは喜びだけだった

 

「まあ、清水が不機嫌じゃなくなって本当に良かったよ」

「…本当にごめんね」

「気にすんなって。それで、どっか別のところに行くか?」

 

 さっきの話を聞くと清水は本当にここに来たかったわけではないはずだ。たとえ清水がなにも変わりがないとしても俺の清水を楽しませたいという思いは別に変わらない。

 

「いや、大丈夫だよ。せっかくここまで来たんだし、せいぜい遊ぶさ。それに君たちが楽しませてくれるんだよね?」

「ああ、当たり前だろ」

 

 慣れていない清水に楽しんでもらうために慎哉と一緒に面白そうなゲームを探す。まず、俺が先に面白そうなゲームを見つけて清水たちをその場所に連れていく。俺たちの前には椅子に座り、ハンドルを使って遊ぶ体感型の筐体が鎮座していた

 

「俺が紹介するのはこのレースゲームだ。結構面白そうだろ」

「浩介ってこういうのやるんだ。得意なの?」

 

 慎哉が俺に聞いてくる。それに、清水も見てくる。どうやら興味があるようだ。だが……

 

「いや?俺はレースゲーム自体ゲーセンじゃ初めてやるな」

「浩介、面白いのか知らずに清水さんに紹介したの?」

 

 ちょっと引いているような顔をしながら浩介が、真面目な事を話してくる。なんか俺が悪い気がしてくるんだけど

 

「いやいや、ちゃんとした理由があるから。それを聞いてから判断してくれよ」

「じゃあその理由を説明してよ」

「えーっと、清水って初めてだろ。だから実力差がないようなやつの方が楽しめるかなって。あと、普通にレースゲームに興味あって、やってみたかったんだよ」

「それ、後の方の理由が本当の理由なんじゃないの」

 

 呆れたような口調で慎哉は言った。だけど、どうやら納得してくれたらしい。その証拠に引いたような顔はしなくなった。

 

「じゃあやるか、対戦ってできるよな」

「うん。…清水さんも好きな場所に座っていいよ」

「ああ、分かったよ」

 

 俺たちはそれぞれ好きな筐体に座り、対戦を始める。俺と清水はちょっと手間取ったが、それはご愛嬌というやつだろう。だが、初めてで慣れてないという条件は全員同じ、その中では家でレースゲームをしている俺は経験がある分有利だ。これは圧倒的一位を取って慎哉に本屋のときに煽られた恨みを晴らすチャンス…絶対勝つ!

 

 

 

 

「結構難しかったねー。でも思ったより面白くて良かったよ。清水さんも面白かった?」

「ああ。ゲーム自体ほとんどしたことがなかったんだけど、なかなか楽しいものだね。みんながハマる原因も分かった気がするよ」

 

 2人が楽しそうに話している。俺はそれを筐体の椅子に座りながら項垂れて聞いていた。

 

「ま、まあ。浩介も初めてだったんでしょそれなら仕方ないって」

 

 慎哉に慰めの言葉を聞く。あんなに自信があったのに俺は最下位をとってしまった。ちなみに、慎哉が一位で清水が4位だ。というか

 

「なんかおかしくないか?なんでそんなに強いんだよ。初めてのはずだろ」

「いや、覚えてないの。俺と浩介の2人でレースゲームで対戦結構してたじゃん。家庭用ゲーム機だったけどさ」

「そういえば……そうだったな。俺は俺だけに経験があると思っていたけど、実はそんなことはなかったということか。まあ、そういうことなら俺が最下位なのも納得でき……」

「そうだとしても藍沢くんと慎哉くんの経験は同じなんだから負けたのは実力じゃないのかい。それに、僕にも負けているんだし流石にその言い訳は通らないよ」

「……はい」

 

 清水の正論に刺されて、俺の頭がさらに沈む。流石にあの言い訳はダメだったか……

 

「ほら、次は俺の番なんだからしっかり立って。移動するよ」

 

 慎哉が明るく大きな声で場の雰囲気を元に戻す。確かに、清水を楽しませるのに俺が楽しんでないとダメだよな。そうやって立ち直った俺は清水と共に慎哉についていく

 

「俺が紹介するのはこれだよ」

 

 俺たちの前にはバチが側にあって太鼓と一体化している筐体が鎮座していた。

 

「リズムゲームか、苦手なんだよな」

「そっちの方がいい勝負になるんじゃない」

 

 確かに、逆にいいかもな。そういうことで、最初は俺と清水がやることになった

 

「僕は体を動かすのは得意だからね、さっきみたいに勝たせてもらうよ」

「さっきは何かの間違いだからな。あれだけで俺の実力を判断しない方がいいぞ。それに、俺も体を動かすのは得意なんだ」

 

 清水の言葉に、楽しませるなんて事を考える余地は無くなった。真剣に勝ちを拾うために集中する。目を瞑り、息を短く吐く。そのまま目を開け、バチを取る。そして、俺はさっきの屈辱を晴らすようにバチを太鼓に叩きつけた!

 

 

 

 

「そんなに落ち込むなって、さっきより全然マシだったよ。……まあ、清水さんもさっきより強かったけどさ」

 

 慎哉が俺の肩に手を置いて慰めてくる。今回はこいつも煽ってこなかった。それは、俺たちは清水の圧倒的センスの前になすすべもなく敗北したからだ。清水は初心者だと言っても誰にも信じられないようなコンボ数を叩き出し、得意だと豪語していた慎哉を危なげもなく下した。ああ、あと最下位は俺だ。勝てるはずがなかった

 

「これは面白いというより楽しいと言った方がいいね。これは僕でもハマりそうだよ」

 

 下駄箱の不機嫌さはどこにやら、今の清水はとても楽しそうだった。本当にいい笑顔だなぁ。それを見ただけで負けたことなんかどうでも良くなる

 

「もうそろそろ帰らないといけない時間じゃない?」

 

 慎哉がそう言ってくる。どうやら、結構時間が経っていたらしい。あと10数分ぐらいしたらここを出ないと電車に間に合わない。電車に乗って登校していない慎哉はまだいてもいいが、俺と清水は流石に明日も学校なのに遅くまで遊ぶなんてできないので、それに乗らないといけない

 

「じゃあ帰るか。いくぞ清水」

「っあ、ああ。分かったよ」

 

 清水を読んでも反応が遅かった。それに、後ろ髪を引かれるようにチラチラとある場所を見ている。そこは、

 

「もしかして、クレーンゲームしたいのか?」

 

 図星だと言うように肩がというより体がはねる。やっぱりしたかったのか

 

「ゲームセンターといえばクレーンゲームと言うほど有名だろう。それに僕も一応知っていたから、気になっていてね。……でも、時間がないならしなくてもいいよ」

「なにバカなこと言ってんだよ。さっき言っただろ、俺たちは清水を楽しませるって、時間とか関係ないんだよ。それに、あと数回ならプレイしてもまだ間に合わうから、気になるならプレイしてみろよ」

 

 そう言うと清水は頷いてクレーンゲームのところに小走りする。俺たちもなんとか追いついてクレーンゲームの説明をした。その時に教えてもらったが清水は40cmほどの大きさの猫のぬいぐるみを狙うようだ。

 

 

 

 

「もう少し奥かな。ああ、惜しい」

 

 もう五回ほどプレイしているが一向に取れる気配がない。慎哉と俺も指示を出して協力している影響か、少しずつ景品を入れる穴まで近づいてきているんだが、アームでぬいぐるみをきちんと持ち上げられたことが一度もないのだ。アームが弱いのか、清水が苦手なのかわからないがこのままでは電車に間に合わなくなるだろう。まあ、最悪次の電車まで数十分待つだけだからそれでもいいんだけど

 

「藍沢くん、どうやら僕じゃ取れないようだ。だから、代わりにやってくれないかな」

 

 数回のプレイで限界を感じたのか、もう少しで電車に遅れるからか清水が俺に頼ってくる。だが、俺はその情報をうまく処理できなかった。清水が頼ってくることなんてほとんどなかったからだ。そんなことで、数秒経ってから再起動した俺は嬉しさで満たされながら返事をする

 

「ああ、任せてくれ。絶対取るからな」

 

 息を短く吐く。そうやって集中した俺は百円を筐体に入れてプレイする。幸いぬいぐるみ自体は近い。きちんと掴むことが出来れば持ち上げてあの穴に落とすことができるだろう。状況を整理した俺はまず右にアームを移動させる。ここは俺の目で見て位置を合わせる。そのあと、奥にアームを移動させる。

 

「もう少し奥だよ。あ、もうすぐ。っ今!」

 

 慎哉の声を聞いてアームを止める。あとはボタンを押して、アームを下げるだけ…緊張しながら、祈りながら俺は指でボタンを押す。アームが猫のぬいぐるみを掴む。離すな、そのまま、そのままで頼む。そう祈る。それが通じたのか、アームはぬいぐるみを持ち上げ離すことなく、ぬいぐるみを景品穴へと落とした。

 

「よっしゃ!ほら清水これ」

 

 ぬいぐるみを取った俺は清水の前にぬいぐるみを掴んで持っていき、渡す

 

「よかったな」

「う、うん。あ、ありがとう」

 

 清水はぬいぐるみを受け取ると顔をぬいぐるみで隠してお礼を言ってくれた。それを見た俺は、本当に取れて良かったと思った。…とても可愛い

 

「流石だね浩介。今までの負けを取り返すかっこよさだよ」

「うるせえな。ほら、帰るんだろ。清水も、もういいのか?」

「ああ」

 

 もう充分過ぎるほど楽しんだ俺たちはショッピングモールを出て、駅へと向かう。途中、慎哉が改めて確認すると少し時間がきついと分かり三人で走ることになった。なんとか駅のホームまで来た俺たちだが、もう電車がついていた。そのため、すぐ側のドアから車内に入る。中は仕事帰りの社会人ばかりで満員電車と言っていいほどだった。

 

「じゃあな、慎哉」

「バイバイ、慎哉くん」

「また明日ー」

 

 わざわざ駅まで見送りに来てくれた慎哉に手を振る。慎哉も大袈裟に手を振ってくれた。いつものことだが、嬉しくなってくるな。そうやって、慎哉と別れた俺たちはドアの側で立ちながら話をする。そうこうしていると怪しい人物を見つけた。サラリーマンのような格好をしている呼吸が荒い30代ぐらいの男性が清水の後ろにピタリと張り付いている。清水はドアから外を見ているせいで気づいていない。

 これはまずいかもしれない、助け……いや、流石に見た目だけで判断するのは失礼か。いや、でも何か起こってからじゃ遅い。何か起こるという確信があれば……ん?周りを見ていると、ドアの側の席に仕切り板に寄りかかりながら神崎蓮が座っているのを見つける。まずい、と急いで顔を体ごと背ける。

 

 だが、蓮がいるということは清水が何か危ないことになる可能性が高いということだ。でも、やっぱりなにも起こっていないのに……そうか、だったら何も起こらないようにすれば…

 

「清水、もう少し近づいてくれないか」

「っえ。だ、大丈夫、分かったよ」

 

 清水がこちらを向いてゆっくりと近づいてきた。体があと少しで触れそうなほど距離が縮まる。俺は、両手をドアについて俺とドアの間に清水を閉じ込める。

 

「な、何するんだい。こういうのは、やっぱり付き合ってからじゃ…」

 

 清水がぬいぐるみを抱きながら、小さい声で俯きながら話す。そのせいで最後の方は聞こえなかったが。やっぱりいきなりするのは失礼だったか……俺は蓮にバレないように、尚且つ清水にきちんと聞こえるように顔を耳に近づけて囁く

 

「いきなりこんなことしてごめんな、でも蓮が今近くにいるんだ。危険かもしれないからこうやって守らせてほしい。ダメか?」

「っん。わ、分かった、分かったから、もう少し…離れてくれないかい」

 

 ぬいぐるみを抱いている力がさらに強くなり、顔は分からないけど耳が赤くなっている。やっぱり怒っているんだろうか。清水が言っていた通り少し離れ、そんなことを考える。さっきとは打って変わって、会話がないまま電車は進んでいった。そして、清水が降りる駅に到着した。俺は急いでこの姿勢を解く。

 

「藍沢くん、守ってくれてありがとう。それと、バイバイ」

 

 それだけ言い残し、清水は電車から走り去っていった。ふう、これで大丈夫だろう。あとは、まあ帰ってからもう一回謝罪のメッセージを送るか。……てか、蓮がこの電車にいるってことは俺たちと同じくギリギリまで美桃と遊んでたってことだよな。…………羨ましいなぁ。

 

 そんな羨望の念を抱きながら、俺はドアに寄りかかる。そんなものをなくすために今日のことを思い出してニヤけながら……

 電車はそのまま進んで行った。

 

 

 

 

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