今回はアレックスになってしまった転生者のお話です。
あまり長く書くつもりはないのでお付き合いいただいけると幸いです。
……控室にまで聞こえてくる歓声。
それを背に、俺は目の前に立つ「上司」の声に耳を傾けていた。
「良いか?耳の穴かっぽじってよく聞け。今日の対戦相手は我らが憎き商売敵だ。お前が奴をボコボコにすりゃ俺たちのシマでデカい顔が出来なくなる」
「………………」
ギッ、ギッ、ギッ……と、俺は興味なさそうに手慰みにハンドグリップを握っていた。
「そうすりゃウチのチームは……おい!聞いてんのか!」
高らかな演説で悦に浸っていた上司が、話を聞いていないのに気が付いて俺の肩を揺する。
それを鬱陶しそうに退けた。
「試合になれば良いが」
「ハン!相変わらず不愛想だなテメェはよ。だが、俺は寛大だからな……結果さえ残せばテメェの態度は大目に見てやる」
「そいつはどうも」
ハンドグリップを放り投げで立ち上がる。
そろそろ時間だ。
鏡を見てフェイスペイントがおかしくないか確かめる。
問題がないのでニット帽を被る。
赤い稲妻が繋がり、ニ閃走る。
「頼むぞ!アレックス!!」
俺は、気怠げに手を挙げた。
――――――――――
リングには、既に相手が立っていた。
こちらをニヤニヤと眺めながら手を鳴らして待っている。
『皆さんお待ちかね!只今入場だ!アレェェェェックス、ウィィィィクス!!』
ワァァァァ、と大きな歓声が聞こえる。
周囲を一瞥して、フンと鼻を鳴らしてリングに登った。
「来やがったな」
カーン!とゴングが鳴る。
「テメェのチームには散々辛酸を舐めさせられた。今日こそ精算の時……ぐへぇっ!?」
最後まで言い切る前に、俺はそいつの顔面にドロップキックを叩き込んでやった。
「がふっ……!?」
派手に吹っ飛び、リングの上を転がった。
が、相手も喧嘩慣れしている。
すぐに切り替えて立ち上がり、睨見つけてくる。
「舐めやがって……!」
「やかましいぞ」
俺は面倒くさそうに相手を指差して言い切る。
「ゴングはとっくに鳴ってんだ」
「そうかよ!」
拳を振り上げて向かってくる相手に掌底を放つ。
「ぎっ……!?」
「フラッシュチョップ!」
「ぐえ……!」
水平に薙ぎ払うチョップが顔面にヒットし、堪らず相手の向きが180°変わる。
がら空きの背後からひざ裏にローキックを放った。
「おあっ……!?」
ガクン、と体勢を崩し両の膝を付く。
「ガラ空きだ!」
脇に両手を差し込み、背後から羽交い締めにする。
「は、離せ……!」
「覚悟は良いか……!」
「うおっ……!?」
そのままバックドロップ。
相手をリングに叩きつけ……すぐさま起き上がりもう一度叩き付けた。
「Over the limits!!」
俺は手を離し、転がる相手の顔面に蹴りを一発かました。
またしても後方へ倒れる。
無防備になった両足を掴んで、担ぎ上げた。
「あ、げ……やめ……」
「祈りは、済ませたか……!」
「待っ」
「そらよ!!」
頭と肩を抱えて、真っ逆さまにリングへとたたき落とした。
……オーディエンスも静まりかえる。
今回の対戦相手は、そのまま失神した。
「て、テメェ……!やりやがったな!!」
観客のひとりが叫ぶ。
それに触発されたようにブーイングが発せられた。
何度もゴングが鳴る。
試合が終わったのだ。
俺は、息を大きく吸う。
「やかましいぞお前ら!!」
そして、思いっきり叫んだ。
「弱い奴がくたばった……それだけの話だろ」
転がる相手を指さし、言い放った。
この先、ずっと。
俺が戦えなくなるまで、こんなシケた場所で過ごす事になるのだろうか。