「ハイパー、ボム!」
最後の1体をバックドロップで沈め、辺りは静まり返った。
「アキラ、もういいぞ」
「……いやはや、音に聞いていたけども中々豪快なスタイルだね」
『すごーい!本当に素手で全部倒しちゃった』
「まぁ……俺は不器用だからな。武器なんて持っててもすぐに壊しちまう」
前に音動機で手にした物が硬化出来ないか試したところ……上手くいったのだが1回使って力を抜くとバラバラになってしまった。
鉄パイプなんか簡単なシロモノだとばきりと突然折れたりする程度だが木箱なんかは手を離した瞬間釘が全部抜けてバラバラになった。
どういう壊れ方してんだ。
(壊れるっていうか、素材に戻るって感じだな……)
そして……明らかに自分のパワーが上がっているのを感じる。
自分より重い物を持ち上げられる、キツい威力の攻撃を受け止められる……自身の性能が底上げされている、そんな気がする。
(こいつの力なのか……?)
フリンツ合金。
エーテルとの親和性の高い金属だと聞いてはいる。
それが、何故このホロウに落ちていて自分が拾ったのか。
偶然にしては出来すぎている。
(……考え過ぎか)
ひとまず、利用できるならありがたく使わせてもらおうじゃないか。
「アレックスさん、この辺り……見覚えがないかい?」
アキラに声をかけられ、周囲を見渡す。
……見覚えのある車が見えた。
「間違いない。ここだ」
2人と1体で慎重に車へ近付く。
やはり、あの時俺が乗っていた車だ。
周囲を警戒する。
先程大規模な戦闘があったばかり、すぐにエーテリアスは湧いてこないだろう。
俺はひっくり返った車の後部座席のドアを引っ剥がした。
『ひぇ……』
「大丈夫かな……」
「元はと言えばウチのチームの物だ……大丈夫だろ」
適当な事を言いつつ、俺が座っていたであろう場所を探る。
……あった。
目当てのものはすぐに見付かった。
なんの変哲もない、ただの対衝撃鞄。
……ちなみにこれは昔プルクラから買ったものである。
少し汚れはあるが、中身は無事だった。
少しだけディニーの入った財布と……ビデオテープ。
「あったぞ、店長」
中からテープを取り出し、アキラに渡した。
「……確かに。ウチのラインナップだ。良かったよ、見つかって」
「すまないな、店長にこんなところまでご足労もらってよ」
「良いんだ。商品が無事ならそれで」
足元でボンプがぴょんぴょんと跳ねていた。
これで、このホロウでの用事も済んだ。
俺は、ちらりと廃車を見る。
……思えば、ここまで色々あった。
色々有りすぎた。
いつものように試合に出て、車に乗って、お礼参りに遭って。
いつもならそこで終わる筈のルーティンが、ホロウに落ちてから全部変わった。
帰る場所をなくして、仲間も亡くして、金も無くして。
全部無くなって、俺は遂に闘技場から出た。
外の世界に。
(……なぁ、前世の俺。どうだ?今の俺は……何が起こるか分からない、すごい世界で生きてる)
それなりに若い年齢で死を迎えた前世の自分。
毎日が退屈で、ありきたりで。
でも、この世界にそんなものはない。
いつ終わるか分からない。
いつ死ぬか分からない。
そんな、綱渡りで……同じ毎日の無い世界。
(どっちが良いかなんて分かんねぇけどよ……俺は、アレックスとして今生きてる。笑っちゃうよな)
ストリートファイター6をプレイし、何だかんだ一番長く使ったキャラクターになってしまった。
本当に、人生何が起こるか分からない。
(……なんて、感傷に浸り過ぎか……ん?)
……廃車に、影が落ちた。
俺は直ぐ様足元のボンプとアキラを両手で掴んだ。
『えっ!?』
「アレッ……」
「舌噛むぞ!!」
俺はそのまま二人を投げ飛ばした。
……影が一段と大きくなる。
「I'm Ready!!」
いつものセリフと共に気合を入れて身構える。
次の瞬間、巨大な質量の落下と共に廃車が潰され粉塵が巻き起こった。
「アレックスさん!?」
「隠れてろ!出たぞ!」
今までの人型エーテリアスの3倍以上の巨体。
看板のような斧のような得物を持ち、闖入者は俺をしっかりと見据えていた。
「……よう、また会ったな」
あの時。
全てが変わった日に出会った要警戒大型エーテリアス。
デッドエンドブッチャー。
俺達はまた邂逅する。
「今度は……前のようには行かないぜ?」
ブッチャーが、低く唸る。
その凶暴性から、同じエーテリアスからも忌避される存在らしい。
「OK、始めよう」
リベンジマッチだ。
VSデッドエンドブッチャー、開幕。