ゼンゼロ要素……どこ……?ここ……?
……ほとんど、無意識だった。
俺に浴びせられる歓声に、片腕を天に突き上げて応える。
ふと、視線を上げると……プルクラと目が合った気がした。
(……ありがとな)
俺は、プルクラに向けてサムズアップを送る。
プルクラは手を振って返した。
「ゲホッ……ったく、お前マジで強いな……」
「鍛えたからな」
「……鍛え直しだな……」
ダンはそのままリングを降りていった。
俺も、帰ろう。
――――――――――
「お疲れ様ぁ。ちょっと冷や冷やしちゃったよ」
控室までの選手通路。
そこに、照と掃除屋が居た。
「………………」
「でも、ちゃんと勝てたから問題ないよね。じゃあ、ギルスとの面談、よろしくね」
「………………」
「……無視?酷いんじゃない?」
照を無視して、俺は掃除屋の前に立つ。
「……なんだ?」
やっぱ怖い。
けど、ここで退くのは俺のプライドが許さない。
「俺の仲間に手を出してみろ。黒枝だろうが掃除屋だろうが関係ない。ぶっ潰してやる」
掃除屋を精一杯睨見つけて啖呵を切る。
照が呆れたように見ていた。
しばらくして……掃除屋の女が無表情で言った。
「プロメイア」
「あ?」
「今の名前だ。掃除屋は廃業した」
「あっ、おい待て」
「……良い啖呵だった」
「はぁ……?」
「あっ、ちょっと、何処行くの?照ちゃん置いてかないでよぉ〜」
二人が去ってから……俺は、大きくため息を吐くのだった。
――――――――――
「やぁお疲れ様!鮮やかな逆転劇で感心するよ。あ、そのまま近くに寄らないでくれたまえ。汗臭い」
「………………」
控室に戻ると、ダッドリー……ヒューゴにいきなりそんな事を言われる。
「さっさとシャワーで汗を流し給え。情報共有がある」
「わーったよ……」
多分汗の気配が消えるまでヒューゴは話を進める気がないだろうからさっさとシャワーを浴びてくる。
「……あ?ライカンか」
戻ってみると、ヒューゴとライカンが何やら話していた。
と言うかライカン、ここまで来れたんだな。
服装はいつも通りだし。
「お疲れ様です。アレックス。目覚ましい活躍でしたね」
「……敬語はやめてくれ……なんか気になっちまう」
「ハハハ!」
「何がおかしい……はぁ……分かった」
「いや、何……どうもきな臭い話が出てきてな」
「……面倒事か?」
「面倒事だ」
冗談めかして聞いてみると、ライカンが真顔でそう返してきた。
「美術品の販売はどうやら社長の命令ではないらしいのだよ」
「……何となく、そんな気はしてた」
ギース·ハワードがそんなのに興味あるイメージが無いんだよな……。
シノギとして使うにしたって盗品は足がつくだろうし。
「ほう?それはまたどうして」
「……何となく、だ」
前世でそっくりさん見たことあるんですよー、とか言えるか。
「含みがあるな」
「やめろって……本当にただの勘だ……」
「ヒューゴさんもその辺にしておいてあげてくださいまし……アレックスさん、怪我の治療もまだなんですのよ?」
ヒューゴの追及を止めたのは、バスケットを持ったリナだった。
「……リナ、それは?」
心なしかライカンの顔が青ざめている気がする。
シリオンの嗅覚で中身を察知しているのだろうか。
「何だかんだ、もうお昼ですもの。軽めのものですが昼食を用意しましたわ」
「……必要ない、と……言いましたよね」
「ライカンさんの分はありませんわ。アレックスさんの分ですもの」
ライカンとヒューゴが顔を見合わせ、安堵したように見えた。
同時に、こちらを哀れむような目をしてきた。
なんだアイツら。
「……俺に?」
何となく、試合前のやり取りのせいで気まずい。
「はい。量は少ないかも知れませんが……どうぞ、召し上がってください」
リナからバスケットを受け取る。
中身はサンドイッチだった。
具材は……中々、口にいれるには挑戦的な色をしている。
「……もらおう」
「アレックス……!」
「待て、ライカン……下手に止めれば怪しまれる……!」
「だが、昼からの試合に影響が……!」
一切れ手に取り、口に入れた。
……中々、刺激的な味だ。
まるで口の中で弾けているような。
「……旨い」
「……!本当ですか……?」
「ああ……」
二切れ目、三切れ目と口に放り込んでいく。
誰かの手作りとか久し振りだし味わって食べたい所だが……朝から連戦で腹が減って仕方なかった。
……食事中、ライカンとヒューゴが俺のことを化け物でも見るような目で見ていた。
「……ごちそうさん。うまかったよ」
「お粗末様でした。では……」
リナがバスケットを回収して、外に出ようとしたのを……。
「……ちょっと、待ってくれ」
「はい?」
「……話が、ある」
後ろの2人に目配せして、俺はリナと共に控室を出た。
「お話とは……?」
「あー……その……」
誘ったは良いものの、やっぱり言い辛い。
「何か?」
小首を傾げてこっちを見ている。
……その反応が似合ってるのも凄いよなぁ。
「………………」
勇気を出せ、俺。
リングの上ではあんなに喋るじゃねぇか。
「……すまなかった」
「はぁ……?」
「試合前に、キツく当たっちまっただろ」
「……ああ。その後に『俺の女だ』と言っておりましたわね」
「あっ……あれは、その、なんだ……」
バッチリ聞かれてたじゃねぇか……。
「アレックスさん、わたしをそんな目で見ていらしたのですね」
「ぐ、ぬ……」
「そんなに照れなくても良いではありませんか。わたし、こう見えても見た目にはそれなりに自信がありますので」
知ってる……!
「そ、そうじゃない……あの時……黒枝と接触していた」
「黒枝……!」
リナの目が険しくなる。
おふざけの雰囲気が消える。
「どうして、アレックスさんに……?」
「……ギルスとこのあと接触するタイミングがある。そこで……奴と話して欲しい、と」
「……ギルス·ハワードと対面するのですか……?」
珍しく、リナが驚いた様な顔をする。
「決勝前に、選手と面談をするのが通例らしい」
「なるほど……」
「……プルクラを、人質に取られた」
「……そう、だったのですね。打ち明けてくれた、と言うことは……」
「もう、心配ない」
「はぁ……」
リナがため息を吐く。
珍しい……そう思っていると、
「えい」
「っ!?」
つん、とリナが指で俺の額を突く。
思いっ切りダンに蹴られていた場所なのでめちゃくちゃ痛かった。
「ぐぉ……!」
「全く……貴方は本当に手のかかる方ですね」
「な、なんだと……!」
「そこらの悪ガキと同じです」
「そこまでいうか……!」
「ですが……」
すっ、とリナが俺から視線を逸らす。
と言うか、そっぽを向いた。
「……カッコよかったですよ」
……辛うじて見える耳が、赤かった。
「……お、おう」
「あー、そろそろ良いかね?お二人とも」
「「!!!」」
ヒューゴの声に二人して驚く。
その様子にくっくっくと笑う。
「内線で連絡が来た。社長面談だとさ」
遂に、来た。
遂に、社長と対面。