「入り給え」
そう言われ……そりゃあまぁ豪勢な応接室に呼ばれた。
「マスクは外してもらって結構だ」
「……そうか」
ヒューゴのマスクを外し、久し振りに素顔になる。
目の前の、スーツ姿の男……ギルス·ハワードと対面した。
(道着じゃなくてスーツってことは……KOF15のギースか?)
金のオールバックと、堀の深い、逞しい顔付き。
そして……スーツの上から分かる、鍛え抜かれた肉体。
「楽にしたまえ」
「……そうさせてもらう」
応接室のソファにどかっと座る。
……うわ、座り心地良すぎ……ん?この反応前にもしたな……。
「で?TOPSの社長さんが俺みたいな流れ者に話だって?」
この口は相変わらず憎まれ口ばっか叩きやがる。
「君は、自分が何をしたのか些か認識が足りていないと見える」
「何……?」
ギルスが、テーブルを挟んだ向かい側のソファに腰掛ける。
「なんの後ろ盾もなく……画廊のオーナーと名乗る男の推薦で参加した新人ファイター。それが君の情報の全てだ」
「………………」
「ダッドリー……いや、ヒューゴ·ブラドの送り込んだファイターだ。興味も湧く」
「……なんだと?」
ヒューゴの変装を見破った……?
いや、これは……泳がされている?
分からん……でもギースなら看破してそうではある。
「君はモッキンバードの一員かどうか。それは些細な問題だがね」
「モッキンバード……?」
また聞いたことのない固有名詞が出てきたんだけど。
「その反応をした後に出すセリフとは思えんな」
「……いや、その……」
「……その顔、まさか本当に知らないのか?」
俺の困惑した顔を見て、ギルスが苦笑した。
「聞いたことはないかね。この時代に生きる怪盗だよ」
「怪盗………………?」
ヒューゴの姿を思い起こす。
……まぁ、確かに言われてみればやりそうだ。
「なるほど、とんだ食わせものだな……ヒューゴとやらは」
「クセの強い奴だ」
「ククク……なるほど」
このまま話が終わってしまうのもよくないので、俺は話を切り出した。
「……俺からも質問したい事があるんだが」
「ほう?私にか」
「……美術品を、盗んでオークションを開催してるのは……アンタの指示か?」
ヒューゴと、ヴィクトリア家政と、そして黒枝。
全員の関心はこの情報に集まっていた。
「それを、私に直接聞くのか……?」
「一番手っ取り早いだろ」
ギルスがディニーガンを食らったような顔をしている。
「ククク……ハハハ!!とんだ大馬鹿者だなお前は!」
腹を抱えて笑い出しやがった。
「で、どうなんだよ」
何となくバツが悪くなってぶっきらぼうに促した。
「ハハハ……くっ、は、フフ……久し振りに、これだけ大笑いしたものだ……」
ちょっと涙目になってるんだけどコイツ。
「答えは、ノーだ」
「……マジか」
確かにこれは面倒事だ。
コイツの指示じゃないってことは誰が……。
「おそらくは副社長の差し金だろう」
「え?副社長?」
「ヤツは、社長の座を狙っているからな」
「……それを分かっていてアンタは何で動かない」
「ヤツに私を倒せるだけの力が無いからだ」
力。
それは単に腕力だけの話ではない。
ギルスを失脚させるに足る情報、金。
全てがまだ足りていないということ。
「ヤツは焦っている。だからこんな分かりやすい資金集めをやっているのだろう」
「……黒枝も来てる。そろそろ拙いんじゃないか?」
「わざわざそれを私に教えてどうする」
「どうする……ってったって……」
確かに。
何で俺はコイツにそんな事を教えてるんだ?
……答えは、何となくわかってた。
「……なぁ」
「何かね」
「アンタ……何を抱えてるんだ?」
「……何?」
「この部屋に入ったときに見えたアンタの背中。めちゃくちゃ小さく見えたよ。対面してからは全然そんな事無かったけどさ」
正直、この男がギースみたいなオーラを持ってなくて最初は拍子抜けした。
目線があった瞬間、めちゃくちゃ圧倒されたけど。
「……フン。察しのいいやつだ」
「そうか……?」
「まぁ良い……お前になら話しても良いと、私も思ったからな」
そして、ギルスは語り出した。
「……娘が、いた」
「……娘?」
息子じゃない……!?
え、でもそうなるとこの世界にギースの息子……ロック・ハワードの立場の女が居るってことになるのか……!?
「愛人との間に出来た娘だが……愛していたよ」
「……旧都陥落か?」
「……ああ。この世界に生きる人々は、アレに全てを奪われた」
薄々分かってきた。
ギルスは、娘を探している。
けど、結果は奮わない。
「腑抜けている、そう言われたよ」
「……娘を心配する親に言う言葉かよ」
恐らく会社の力も使って探していたのだろう。
「私は……TOPSに名を連ねて、それなりに好き放題やってきた。最近は活動も大人しくなって……確かに、腑抜けた」
「………………」
黙って、ギルスの話を聞いていた。
「……お前は、何も言わないのだな」
気休めも同情もするなら簡単だ。
「俺から言えることなんてねぇよ」
立ち上がる。
聞くことは聞いたし、決勝もある。
「……面談と言いつつ、私の愚痴をお前に聞かせただけではないか」
「そうか?……そうかもな?んじゃあ……なんか聞きたいことでも?」
「そうだな……月並みだが……私の娘に会ったことは?」
「分からん」
「だろうな」
お互い笑い出した。
「大企業のトップも、人の子か」
「それはそうだ。ホロウよりもエーテリアスよりも、人が最も恐ろしい」
「違いない」
またしても笑い合う。
「フフフ……アレックス。この大会終わったら私の下に来ないか」
「ありがたい話だが、俺にスーツが似合うと思うか?」
「思わんな」
「そういうことだ」
今度こそ部屋を出ようとして……。
部屋が、揺れた。
「……何だ?」
「これは……爆発物だな」
何で、エリー都の富裕層が集まってるこの場所で。
「……何故」
思わず呟く。
たが、その前に俺の言葉は遮られた。
「社長!大変です!」
スーツにサングラス姿のいかにも使いっ走りみたいな奴が応接室に走り込んできた。
「副社長が……謀反しました!!」
俺とギルスは顔を見合わせて、ため息を吐いた。
「さっさと処分しねぇからだろ」
「まさか、今行動を起こすとは……短慮にも程があるな」
「どうすんだよ」
「私に刃を向けようと言うのだ。実力を分からせるのみ」
「……こっわ」
めちゃくちゃ獰猛な笑みを浮かべている。
まんまギースで流石に俺もビビった。
「お前はどうする」
ギルスがスーツを脱ぎ、ワイシャツ姿になる。
「……仲間が心配かな」
マスクを被り直して、俺は立ち上がった。
「モッキンバードとヴィクトリア家政だ。心配は要らないだろう」
「他にも居る」
「ああ……準決勝のシリオンか」
応接室のドアに手をかけて、俺はギルスに投げかけた。
「じゃあなギルス。生きてたら……そうだな。手合わせしてくれ」
俺の申し出に、ギルスがニヤリと笑う。
「ほう……?覚えておこう」
それだけ聞いて、俺は走り出した。
ギルス·ハワードに悲劇有り。
ギースにはそういったもの何も無かったんですけどね。
そして起こるクーデター。
黒枝も居るのに何やってるんでしょうね。