明日は良いことあるさ……きっと。
ビーチパラソルでも防ぎ切れない夏の日差し。
空は雲一つ無い快晴。
風も穏やかで、波の音が静かに響く。
(……悪くねぇ)
俺はビーチチェアに横になっていた。
(こうやって、のんびりするのも……中々どうして悪くない)
今の格好は先日買った緑のスイムトランクス。
髪は後ろに雑にひとまとめしている。
遂に、ファンタジィリゾートとやらにやって来た。
なんでか知らないがプルクラがチケットを持っていたので安めに部屋も取れた。
……まさか、アイツ前々から……?
(……おせぇ)
今は、そんなプルクラを待っていた。
女性の着替えは遅いと聞いていたが、水着は更に遅いのか。
(着るもんは1枚だけなのにな……)
若干季節外れなのか、客足は思っていたより多くない。
まだまだ暑いが、この程度郊外に比べたら雲泥の差だ。
「お待たせ」
「……おう」
ちらり、と声のした方を見る。
ビーチサンダルに……白の、水着を着ていた。
胸元から下まで露出は無いワンピース型だが、胸の谷間を見せるようにバックリと開いていた。
プランジングタイプと言うのだろうか。
「どう?」
マスクの無い、ドヤ顔で俺に問う。
「……悪くない」
「素直に褒めたらどうだい?アンタのご所望の色だよ」
「別に……色だけだ」
「アンタ胸派だからね。どう?嬉しい?」
「なっ……!俺は別に」
「隠し方が古典的過ぎ」
「………………アレは、フォルテが」
「嘘つかないの」
寝転んでいた俺の頭に軽くプルクラの拳が当たる。
バツが悪くなってそっぽを向いた。
「……悪い。言葉が、出ない」
結局絞り出したのはそのひと言だった。
「……良いよ。それで」
プルクラは満足そうに俺の寝転ぶビーチチェアの空いた場所に腰掛ける。
腹の上に尻尾が置かれた。
「定員オーバーだ」
「良いじゃないか。周りのカップルに負けないくらいくっついたって」
周囲を見渡したら、確かに……それなりに好き合う男女のペアばかりだった。
「……俺とお前は、そんな関係だったか」
「アンタは、どう思う?」
「………………」
プルクラと、俺の関係。
正直……もう一歩先へ行きたい気持ちも、ある。
けど、
「……悪い。俺の気持ちがまだ……中途半端だ」
中途半端。
もう一歩、踏み込めない。
「……良いよ。待ってあげる」
「すまない」
「なんで謝る時は素直なんだか……」
「ぬお……」
プルクラの尻尾が俺の顔に当てられる。
フサフサだ。
抱き心地は満点だろう。
「ほら、歩こ」
「あ、おい」
プルクラに手を引かれて立ち上がる。
俺達は波打ち際を並んで歩いた。
「泳がなくて良いのかい?」
「……俺、浮かばないみたいでな」
さっきテンション上げて海に入ったら思ったより浮かばなくて危うく溺れかけた。
「はぁ……?脂肪、足りてないんじゃない?」
「そうか……?そういうお前は……あー……すまん」
そもそもネコ科のシリオンは水が嫌いだ。
こうして歩いてるだけで負担なのではないのだろうか。
「別にこれくらいどうってことないよ。たまには、良いもんさ」
「……そうか」
しばし、無言。
2人で歩く。
穏やかな時間が過ぎていく。
「………………」
「………………」
正直、プルクラと真剣に向き合いたい。
でも……今の関係が崩れるのも怖い。
(俺は、こんな臆病だったか……)
仕方ない。
こっちの人生では人とまともに関わったことが無いから。
「……ん?」
プルクラの耳がピクリと動く。
シリオンは聴覚に優れている……何か、聞こえたのだろう。
「どうした?」
「……トラブルっぽい」
「そうか……」
「離れよ。アンタ、トラブル体質だし」
「……わざわざ首突っ込んだりしねぇよ」
「……どうだか」
「ハハハ、流石にな」
……次の瞬間、何故か俺の側頭部にドリンクの紙カップが命中した。
ご丁寧に中身が入っていた。
びちゃあ、とコーヒーが顔にかかる。
「………………」
「………………」
プルクラが、頭を抱えた。
「テメェ何処のどいつだ!!」
ぶつかったカップを握り潰して俺は叫んだ。
トラブルは歩いてくる(