……まさかのアレックスのブレイカースタンスTシャツがラインナップに入ってて正直欲しい…!!
「アキラ。そう言えばリンは?」
「リンはビビアン……友達とデート中さ……僕は誘われなかったから暇を持て余していたんだ」
「……なるほどね……」
「柚葉やアリスとも会うらしくて、妹の人たらしの才能に恐怖しているところさ」
(お前が言えたことじゃないだろ……)
海の家の経営は好調だった。
見目麗しい美女2人の接客、それなりの味の料理。
特にリナとプルクラの集客率が凄まじく老若男女シリオン問わず人が来る結果になった。
「……早いとこ、結果出そうだな」
俺はこの時、流石に見通しが甘かった。
――――――――――
三日目。
海の家も繁盛して妨害のことなんか忘却の彼方にすっ飛んだ頃。
「えっ……?ホロウの中に……?」
アキラの呆然とした声が裏方から聞こえた。
「どうした、アキラ」
「大変だ、アレックス……補充をお願いしていた運送業者のトラックが……ホロウに」
「なんだと?素人じゃあるまいしなんでそんな……」
「わからない。けど……何だか嫌な予感がするんだ」
「……他の奴らは知らないな?俺とお前だけで探すぞ」
「……本当に行くのかい?」
「やるしか無いだろ。幸い今日回す分はある……俺が抜けてもカリンが居るなら何とかなる」
「……僕もサポートしたいところなんだけど……今はキャロットを持たせるしか出来ない」
「……そうだった。お前が指揮執ってるもんな……」
仕方ない。
キャロットだけ受け取って俺だけでホロウに潜るしか無い……か。
「行ってくる」
「……気を付けて」
――――――――――
バイクを走らせて、スロノス区と衛非地区を繋ぐ海岸線を進む。
恐らく、この道路は必ず通るはず……。
(……ん?)
衛非地区とスロノス区、ファンタジィリゾートは海を大きく迂回するように道路が敷設されている。
そして……間の海にはホロウがある。
十中八九あのホロウに落ちているはず無のだが……。
(陸路であそこに行くことは出来ない……なら、どうやって……?)
「あ!おーい!そこの人!」
「ん?」
バイクを停める。
手を振る二人組によって行く。
「アンタらは……?」
「俺達はファンタジィリゾートに向けて荷物を運んでたんだ」
「けど、道に爆弾が仕掛けてあってな……」
指を差した方を見れば……爆破後と崩落した道路。
「まさか、荷物を海に落としてそのままホロウに……?」
「そのまさかなんだよ……」
「ホント、誰だよ……」
二人は項垂れていた。
「会社はピンチなのに仕事に失敗したとか……社長になんて言えば……」
「まぁ……なんだ……気を落とすなよ」
「最近あのホロウから歌声が聞こえるからこえーんだよなここ」
「ホロウから歌が?」
「ああ……セイレーンだって噂になってんだよ」
「セイレーン?」
「歌声で船を沈める化け物さ」
「……化け物、ねぇ」
……ん?
「……なんだこの音」
ピッ、ピッ、ピッと電子音が鳴っている。
「なんか……カウントダウンみたいだな」
「も、猛烈に嫌な予感がしてきた……!」
「……爆弾か!?」
次の瞬間、光がひらめく。
俺は咄嗟に二人の前に出る。
硬質化は間に合ったな。
「ごっ……!?」
浮遊感。
やべ、吹っ飛んだか……!?
ばしゃん、と水の音。
拙い、海にふっ飛ばされたか!?
海面に上がらなければ……。
(……拙い、浮かばない……!?)
どんどん海流に流されていく。
行く先は……。
(ホロウか……!最悪だ……!)
――――――――――
「ゲホッ……!くそっ……ホロウまで流されちまった……」
結局、ホロウの中へ突入してしまった。
キャロットは持ってるから、脱出するだけなら問題はないか。
「資材は何処行った……うん?」
何か、聞こえる。
「……歌?」
『セイレーンだって噂になってんだよ』
「セイレーンとやらか……?」
興味本位で、歌の方へ歩いていく。
エーテリアスも居ないし、妙な環境だ。
それに、この歌から……何となく声の主の気持ちが伝わってくる気がする。
(無視するのも、なんか寝覚めが悪いな)
最近、そんな事ばっか思ってどんどんお人好しなことやってる気がする。
しばらく歩くと……。
瓦礫の上で、誰かが空に向かって歌っていた。
だが、その姿は……人間には見えなかった。
光を吸い込みそうな漆黒のボディ。
大きな尻尾のように見える4本のノズル。
緑の頭部ユニットから伸びる金の装飾。
腕は細いが、足のパーツは自重を支えるためにかなり太めに作られている。
極めつけは……顔。
人間のような表情を浮かべられるほど精巧に作られていた。
新エリー都では、然程珍しくない存在……知能構造体と呼ばれる存在だ。
人間と変わらない市民権を持っているため、彼らはロボットではない。
そんな、知能構造体の女性が……歌っていた。
「………………」
俺は、しばらく耳を傾ける。
人の声も、知能構造体の声も、案外差は無いんだろうか。
いい歌だ、そう思う。
「……誰?」
歌が止まる。
知能構造体の女性が、俺の方を見ていた。
「あー……すまん」
バレてしまったので、バツが悪くなって物陰から出ていく。
「……ホロウの中で歌ってたのか?」
「……そうよ。悪い?」
なかなか気の強そうな女だ。
狐のような見た目とつり目が、さらにそう見せる。
「いや?ホロウは誰のものでもないしな。好きにすりゃいい」
「そう……そうよね。私は、この中なら自由に歌える。私の、歌いたい歌を」
女は空に手を伸ばす。
人間のような柔らかさは無いのに、その姿は絵になるように見えた。
「私の意思を無視する歌なんて歌いたくない」
「………………」
「……でも、そんな生活も終わった。良かったかどうかなんて分からないけど」
俺は、女の言い分をずっと聞いていた。
「……なんで、私……貴方にこんな事言ってるのかしら」
「……さぁな。何も知らないから案外話せるのかもな」
「……知らない?」
翡翠の瞳が、丸く見開かれた。
「自分で言うのもなんたけど、私……結構有名人よ?」
「悪いな……そう言うのはサッパリなんだ」
「ふぅん……?」
女は、にやりと笑った。
なんかプルクラもこんな顔するよな……その時は大抵ロクなことにならなかったけど。
「私を知らないのね」
「ああ」
「歌、どうだった?」
「歌?」
「私の歌ってた歌。貴方はどう感じた?」
そう問われて、俺は黙った。
こちとら郊外のチンピラ崩れ。
そんな教養持ち合わせて居なかった。
「………………その、なんだ」
結局、いつものように口ごもる。
「ね、ね、どう?」
女は期待を顕にして反応を待っていた。
どう、答えたものか……。
「……俺は、好きかな」
率直な感想を述べた。
最近は言葉を並べようとするより、こんな感じでひと言で素直に答えれば何とかなったような気がしてた。
「……そう」
女は照れたように目を細める。
こうして話していると、コイツが知能構造体とは思えない気持ちになってくる。
「なら、いっか」
「あー……すまねぇ、聞きたいことがあるんだ」
「ききたいこと?」
「荷物を探してる。ホロウの外で事故があってな。荷物が流されちまった」
「……見たわ」
「本当か?」
「ええ。確かあっちの方……一緒に行きましょう、案内してあげる」
「助かる。ええと……」
ここまで話していて、お互い自己紹介が無かったのを思い出す。
「私は……そうね。ヴェスポ、そう呼んで」
「……分かった、ヴェスポ。俺はアレックスだ」
というわけで、ヴェスポ登場。
好きなキャラだったんですがフェードアウトしてしまったのでちょっとショックだったんですよね……。