「お前たち、無事か!?」
「しゃ、社長……!」
「どうしてここに……」
「動けるのが私しか居なかったからな。これはまた派手にやられたな……」
「はい……荷物の一部が海の……あのホロウに」
「よし、無事なものはこちらの車に詰め込んで残りは捜索に……」
「それが、ひとり荷物を取りに来たっぽいマッチョがいて……」
「そいつ、爆弾の爆発から俺たちを守って吹っ飛んだんです」
「……ホロウに?」
「はい……」
社長と呼ばれた男性が、近くに横たわるバイクに気が付く。
「……アレックスか?」
――――――――――
「〜♪」
俺の前を、ヴェスポが鼻歌を歌いながら歩いている。
……何となく聞き覚えのある曲調だ。
「〜♪〜♪」
本当に楽しそうに歌っている。
途中から鼻歌でなくなり歌詞付きで歌い始めた。
「歌うの、本当に好きなんだな」
そう呟くと、ヴェスポが笑顔で振り向いた。
「ええ」
「……そうか」
「何、耳障り?」
「そうは言ってねぇ。それに、俺は好きだとさっき言ったろ」
「……ふふっ」
満足そうに微笑んで、前を向く。
また鼻歌が始まった。
「………………」
そんな様子を見て、何だか気が抜ける。
「お前、戦えるのか?」
「無理よ。戦闘用モジュールは外されてるもの」
「……なんだと?」
「安心して。ちゃんと支援はしてあげる」
「……そうかよ」
「大丈夫よ、ナイトが守ってくれるもの」
「……ナイト?」
「ねぇ、アレクって呼んでも良いかしら」
「……好きにしろ」
「アレク、貴方どこから来たの?」
「リゾートから」
「えっ?リゾート?貴方が?」
「……チッ……やかましいぞ!」
やいのやいのと質問攻め。
流石に鬱陶しくなってきたので遂に口調が強くなった。
「あ……ごめんなさい……人と話すの、久し振りで……」
「……チッ」
そこで大人しく詫びられるとますますやり辛い。
気晴らしに適当なエーテリアスをブチのめそうにも生憎と本当に何も遭遇しないと来た。
「……言い過ぎた」
そうしおらしくなられると悪気が増してくる。
「………………」
「………………」
そこから、お互い何も喋らずに歩く。
歌は無くなってしまった。
(……やっちまった)
あんまり良くないと分かりつつも自分がこういう性格だと言うのに文句の一つ言いたくなってしまう。
「あっ。あれじゃないかしら」
ヴェスポが指差す。
確かに、木箱と段ボールが乱雑に置かれていた。
……中身、無事なんだろうか。
「……助かった」
「どういたしまして。私も久し振りに人と喋れて楽しかったわ」
滲んではいるが、伝票はファンタジィドリームに宛てた物だった。
箱を開けると……流石にビニール包装されていたので無事であった。
中身も消耗品の補充がメインで食料品が少ないのも幸いだった。
「持てるやつは持って、残りはキャロットにメモしておくか……」
アキラから預かった端末の中に写真と座標を記録する。
「俺は脱出するが……お前は、どうする?」
海の向こうを眺めるヴェスポに声を掛ける。
彼女は振り向きもせずに呟く。
「私、帰る場所ないの」
「……何?」
「……愚痴、聞いてくれる?」
ヴェスポが砂浜に座る。
体育座りで座った彼女は、俺の方を向きながら小首を傾げた。
……おねだりが上手いことで。
……あまり時間は無い……が、ヴェスポを放っておく気にはなれなかった。
俺は、無言で隣に座る。
「優しいのね」
「うるさい。さっさと話せ」
「私ね……元々、TOPSの歌姫だったの」
「……………」
ヴェスポは語る。
TOPSの芸能部門で歌っていたが、日々TOPSの意向を汲んだ歌を歌わされていた。
そこに、ヴェスポの意志は無い。
更に……知能構造体の発する音は、歌なのだろうかという民意が少なからずあった。
「ねぇアレク。知能構造体の出す音は、歌と言えるのかしら」
「……言えるだろ」
「……理由、聞いても?」
俺は視線を海の向こうに向ける。
「……俺は、好きだから。それが歌であって欲しい………………それじゃ、駄目か?」
言ってから、恥ずかしくなってヴェスポの方を見れなくなった。
俺は勢いよく立ち上がる。
「話は終わりだ……!俺は行くぞ」
「待って」
ヴェスポが、俺の手を取る。
「私も一緒に行くわ」
「……え?」
「荷物、二人で持った方がたくさん持てるでしょ」
「あ、ああ……助かる」
ヴェスポが上機嫌で段ボールをひとつ抱える。
なんで急に機嫌が良くなったのか分からない。
「ったく……」
女の機嫌ってのはよく分からない。
「……待て」
「どうしたの?」
「エーテリアスだ」
ずっと見ないと思ったのは、理由があった。
「しかも、デカブツ……!」
腹に見える部分が膨張し、メタボリックな印象を受ける……赤いエーテリアスだ。
甲虫のような人のような歪な形をしている。
協会によると、ミアズマラヴェジャーと命名されているのは後に知った話。
「どうするの……?」
「片付ける。どの道逃げ道はアイツの向こうだ」
「……大丈夫なの?」
「隠れてろ」
俺はエーテリアスの前に出る。
エーテリアスは咆哮をあげた。
「OK、始めよう」
いつもの構えをとる。
エーテリアスが次々と赤い液体を吐き出していく。
俺はそれを避け、打撃を加える。
(……なんだ……?)
身体が重い。
調子が出ない。
(何か、嫌な予感がする……)
エーテリアスが身体を丸めて転がってくる。
「こ、のっ……!」
俺はその回転を受け止めた。
ぎゃりぎゃりと嫌な音と火花を立てながら、俺は回転をとめる。
逆さまになったエーテリアスを、ゆっくりと両腕で持ち上げる。
「祈りは、済ませたか……!!」
そして、そのまま叩き落とした。
「ハイパーボム!!」
びちゃあ、と何かが飛び散る。
派手に液体が俺にかかる。
「うっ……」
突然の目眩。
不調が明らかになってくる。
(やばい……)
視界がぼやけてきた。
違う、これは……エーテリアスの特性か……?
エーテリアスが叫ぶ。
赤い、瘴気のようなものが漏れ出る。
(やばい……間違いなく、あれを吸ったら……終わる……!)
「アレク!」
ヴェスポの叫び声が遠い。
「まず……」
立っていられず、俺は片膝をつく。
「う、おぇ……」
気分が悪過ぎて、遂に吐いた。
「はっ……はぁ……はぁ……か、はっ……」
苦しい。
何何だこれは。
視界がどんどん暗くなっていく。
ヴェスポが俺をずっと呼んでいる気がする。
……意識も、落ちかけている。
何も感じない。
(く、そ……)
俺ひとりで来るべきでは無かったか。
だが、後悔というというのはいつだって手遅れのときにするもの。
俺は、自分が死ぬかも知れない状況を冷静に客観視していた。
(ここ、までか……)
「HA HA HA!!!!」
……なんか、めちゃめちゃ豪快な笑い声が聞こえてきた。
「は……?」
「デッドリーレイヴ!!」
金髪の男が乱入し、エーテリアスに見覚えのある技をぶちかましたところで俺の意識は途絶えた。
「アレク!」
ヴェスポが走ってくる姿が、視界の端に見えた。
アレックスは状態異常耐性が極端に低いので、ミアズマの汚染がマッハで溜まります。
なので影響をかなり強く受けるのでミアズマ系のエネミーとは相性最悪となります。