……俺のダウンから一週間が経過した。
あれから特に目立った妨害もなく、店主も復帰した。
「良いか小僧!これが炎の使い方だ……!」
「やめろジィさん!また腰やるぞ!!」
売上も好調で今のところ順風満帆だ。
「お姉さん、めっちゃ美人じゃん!このあと俺たちとどう?」
「申し訳ございません、タイプではありませんので」
「そこのシリオンのお姉さん!俺と遊ばない?」
「他を当たりな」
「きゃあ〜!ヴェスポ様よ!」
「サインも撮影も歌のあとでね!」
……めちゃくちゃ人気だなあの3人。
何が一番大きいかってヴェスポが歌い出したのだ。
『私にも手伝わせて!』
そんな事を言い出して……何かと思えばである。
屋台の簡易ステージで歌を定期的に披露し始めたのである。
お陰で客足が増え、店主、俺、カリンの3人体制で料理を調理することになった。
ウェイターもアキラがカバーに入り、店主の奥さんも含めて4人で回している。
ただ、問題がひとつ。
「お姉さん!」
「すいませーん!そこのお姉さんひとり!」
「シリオンのネェチャン!」
「あーんヴェスポ様〜!」
……ヴェスポはともかく、プルクラとリナがめちゃくちゃ声をかけられるようになった。
ぶっちゃけ二人とも美人だしそりゃそうだろうなって感じではある。
上にシャツを着ているとは言え水着姿だし。
それに時間取られるのがなかなかのタイムロスだ。
何か良い手は無いだろうか……。
「アレク」
客足が止まり、休憩がてら水を飲んでいた時にヴェスポが戻ってきた。
「おう。おつかれさん」
「ふぅ……何にも気にしないで歌うのも気持ちいいわ」
「そりゃ何よりだ」
気温も高いから水分補給はこまめにしなきゃならん。
特に厨房のメンバーはなおさら。
「それにしても、プルクラとリナは人気ねぇ」
「……そうだな。店回すのがちょっと不便だが」
「そうねぇ〜」
「何かいい案は無いか?」
「………………あ」
ヴェスポがにやりと笑う。
「思いついたのか?」
「ふたりに指輪させれば良いのよ」
「指輪……ああ、なるほど。既婚者を装うのか」
しかし、未婚の女性にそれをさせるのもちょっと気が引けるな。
「……ふたりに悪い」
「良いんじゃない?貴方から渡せばふたりとも付けてくれるわよ」
「は?俺が……?」
「だってこのメンバーでアキラにやらせる訳にはいかないでしょ」
「リーダーはあいつだろうが」
「アキラ、意外とモテるのよ?女性客の大半彼目当てだもの」
「………………」
え?俺があのふたりに指輪付けるように言うのか??
「……他の案は」
「ワタシソレシカオモイツカナイナー」
「……くそっ……!」
無い頭を必死に回転させようとする。
この案は論外だ。
(どうする……)
「ちょっと、離しなよ……!」
プルクラの声が聞こえてきた。
割と切羽詰まっている。
トラブルの予感がした。
「……悪い、ちょっと出てくる。他の案考えといてくれ」
「はーい」
表に戻ると、プルクラがオオカミのシリオンの男性に腕を掴まれていた。
「ちょっとくらい良いじゃん。今は客もいないしさ」
「アンタみたいなチャラついたヤツはゴメンだよ」
「そんな水着着ててその物言いは無理があるでしょ?悪いことはしないって」
「離しな……これ以上は手が出るよ」
「へぇ?客に暴力振るうんだ」
「……チッ」
懸念通りのトラブルだ。
アキラが止めに入ろうとするも足止めされている。
俺はわざと歩幅を大きくして肩で風を切るように歩く。
さながらヒールレスラーの入場のように見えるよう意識する。
……プルクラの手をつかんでいた男が俺を見た瞬間露骨に視線が泳いだ。
「ナンパは他所でやりな」
「な、何だよアンタ……」
「厨房担当だ」
「えぇ……?どっかのレスラーだろどう見ても」
「ここの料理の半分はコイツが出してるよ」
「マジかよ」
「二度も言わせるなよ」
こういう手合いはとにかくビビらせるに限る。
見たところ体格は細め、背も俺より低い。
シリオンは純粋な人間より身体能力が優れていると言われてるが、そんなことは関係ない。
こっちは手慣れてると思わせるのだ。
「は、ハハ……いやだなぁ。冗談ですよ、ハハハ」
シリオンの男性は、乾いた笑いを浮かべながら逃げ去った。
「……はぁ」
「……アレク……」
「気を付けろよ」
「……なんか、対策しないとねぇ」
ヴェスポの言葉がフラッシュバックする。
「………………」
やっぱ……それしかないのか……。
「対策、か……」
「やはりここは……私達に声を掛けられないようにするしかないでしょうね」
「……何か案でも?」
リナがそう言いだす。
何か名案がありそうだ。
「指輪です」
「お前もかよ!!」
二人分の指輪を用意することになりそうです。