ギルスの用意したボートで、ホロウへ侵入した。
……毎度毎度、侵入の時のストレスのかかり方が尋常ではないと感じてしまう。
(……本当に、別の世界に入った気分だ)
「……静かすぎる」
アキラがぼそりと呟く。
「静か?ホロウは大体そうじゃないのか?」
「何と言うか……空間の揺らぎが少ないし、エーテリアスの活動が活発じゃないんだ」
「そうなのか……?」
このホロウは、衛非地区にある原生ホロウ……ラマニアンホロウの共生ホロウだ。
共生ホロウは、エーテルの活動が沈静化すると縮小していき……最終的に消滅する。
「……つまり、消滅寸前だと?」
「いや、そうじゃない……エーテル濃度は前来た時よりもむしろ高い。でも、この高さでエーテリアスが湧いてこないのはおかしいんだ」
何だかいい話では無いな。
ホロウの中でエーテリアスに遭わないといううのは、ホロウレイダーにとっては垂涎の状況である。
リスクを最小限にして宝を入手できるようなものなのだから。
「どの道、頭を追いかける事には変わりないのだ。行くぞ。レガール、お前は脱出ポイントの確保を」
「……畏まりました」
ギルスがレガールに指示すると、コイツは頭を下げる。
……信用して良いのか?
「TOPS入りしていない我が社をわざわざ乗っ取るメリットが無い。今回は大丈夫だろう」
「……本当かよ」
「灸は据えた。暫くは大丈夫だ」
「……アンタがそう言うのなら」
この社長本当に物好きだな……。
「あ、あの……アレックスさん」
カリンが、俺のズボンを軽く手で引く。
「……どうした?」
「そ、その……」
「……ゆっくりでいい。落ち着け」
「は、はい……」
屈んでカリンと目線を合わせる。
そして、カリンが深呼吸するのを待つ。
「嫌な、予感がします」
はっきりとそう言った。
「……大丈夫だ」
カリンの頭に手を乗せる。
「家政にちゃんと帰れるようには努力する」
「か、カリンじゃなくて……アレックスさんも、自分を大事にしてください」
「分かってる。危なくなったら撤退だ。それでいいな?」
アキラとギルスにそう問う。
「元より、そのつもりだ。僕は皆のプロキシだからね。帰り道まで案内するのが、僕の役目だよ」
「リスクを犯す価値がそこまで無ければ、私も撤退に賛成だ」
二人の確認も済んだので、いよいよ探索を開始する。
「行こう」
アキラの音頭で、行動が開始された。
――――――――――
……結論から言うと、マフィアのボスはすんなり見つかった。
「ぎ、ひぇ……!?離せ!離せェ!!!」
……数多のエーテリアスに捕まり移送されていた。
「……どういうことだ?」
アキラが呆然と呟いた。
「エーテリアスが統率されてる……」
「……確かか?」
「アレを見てくれ。どう見たって行軍の構えじゃないか……」
確かに、雑魚のエーテリアスが隊列を組んでいる様に見える。
「……何事だ?」
「分かりません……」
「ボスが居るんじゃないのか?」
このホロウの環境で頂点に君臨している個体が居るから、俺はそう思うのだが……。
「アレックス。エーテリアスは基本的に群れないんだ」
「……意思の疎通がとれそうには、確かにないな」
「だから……こんな統率が取れているのは、はっきり言って異常だ」
ホロウの専門家がそう口にするって事は、相当ヤバい案件みたいだ。
「……アイツ、運ばれてる後を着けたら親玉見れるかもな」
「……危険を知らせるためにも、確認する必要があるかも」
「行こう」
ギルスが即断する。
俺たちはそれに頷いた。
着かず離れずの距離感で、気付かれない様に尾行する。
「「「「…………………」」」」
誰も、一言も喋らない。
心臓の鼓動が早くなる。
しばらく歩いて。
「……これは」
ホロウの中の建築物として……あまりにも不自然な風景だった。
長い登り階段と、その頂に鎮座する玉座。
そして、そこに座る何者か。
「……人か?」
誰かが、座っている。
「……なっ」
俺は思わず声を出してしまった。
何故なら……見覚えがあったから。
「何で……」
天に向かうほど逆立つ髪。
遠くからでも分かる、左右で色の違う肌。
天帝と名乗る、あの男の姿。
俺はストリートファイターは6から参戦した人間だが……なかなか奇怪な見た目をしていたから知っていた。
なんで、こいつがここに居るんだ……!?
「や、やめろおおおおおおおおお!!」
悲鳴。
俺以外のメンツはそっちに気を取られていた。
俺達の追っていた男は……エーテリアスに取り押さえられ……侵蝕を受けていた。
姿が急速に変異していく。
俺達が息を潜める間に、男は哀れにもエーテリアスの仲間入りをした。
「どう……して……」
カリンが呆然と呟いた。
……視界の端に、何か光る。
俺は、咄嗟に動いた。
「あぶねェ!!」
「?!」
カリンを庇うように前に出る。
その瞬間、
「がっ……?!」
氷の塊が、俺の腹に突き刺さっていた。
「マジ……か……」
「え……え……?」
カリンが、状況を飲み込めずに声が漏れる。
「アレックス……!?音動機の効果が何故発揮されていない……!?」
「拙い!ギルスさん!エーテリアスが!」
「くっ……!」
「アレックスさん……!?何で、カリンを庇って……!」
カリンが俺の腹の氷塊に触ろうとする。
その手を払った。
「駄目だ、触るな……!」
「でも、」
「お前は、俺が守らないといけないんだ……!」
「えっ……?」
「親父と、お袋に誓ったんだ!お前だけは……」
そう、言い切る前に。
「クリオキネシス」
ここの人間ではない誰かの声でそう聞こえた。
更に俺の身体に氷の塊が着弾する。
「生きろ……!」
俺が言えたのは、そこまでだった。
――――――――――
「あ、ああ……そんな……」
カリンの代わりに、アレックスさんが攻撃を受けてしまいました。
そして……そのまま、氷に包まれました。
「アレックスさん!アレックスさん!」
声を掛けても反応はありません。
「カリン!撤退だ!」
プロキシ様がカリンの手を掴みます。
でも、カリンは動けませんでした。
アレックスさんが氷に包まれる前に言っていた言葉。
カリンを守ると、誓ったと。
やっぱり、アレックスさんはカリンの家族だったんです。
置いていくなんて、出来ません。
「い、嫌です……!」
カリンは、初めて拒絶しました。
「ぐ……!数が多い!」
「……仕方ない!ピュロイス!」
プロキシ様とギルス様が応戦を始めました。
カリンも戦わないといけません。
でも、このままアレックスさんを置いておいてしまっては……命が無いかもしれません。
(どうすれば……どうしたら……!)
カリンの頭の中はもうごちゃごちゃです。
でも、
『お前は、どうしたいんだ?』
「!?」
いつの間にか目の前に、金髪の男の子が立っていました。
「え……?」
どうしたい?
決まってます。
「死なせません……絶対に!」
顔は良く見えませんでしたが、男の子は笑っていました。
どくん。
「っ……?!」
身体の中から、何かが溢れ出すような感覚。
「カリン……!?」
「う……!」
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」
カリンの身体から。青い暴風の様な物が巻き上がりました。
……カリンの意識は、ここで途切れました。
次回、最終章。
アレックスの活躍もあと少しです。
最後までお付き合いよろしくお願いします。