「………………」
ルミナスクエア駅、ホームにて。
俺はリナに呼び出されて応じてしまった。
カリンの件で俺があまり会いたがらないのを見透かされたのか強硬手段に出たようだった。
「………………」
待ち合わせの1時間前。
落ち着かず、かなり早めに来てしまった。
今日の格好は白シャツに緑のオーバーオール。
スト3のシャツ破いてない格好だ。
今思うと、ストVのアレクはなんで裸サスペンダーなんだろうか。
「………………」
どうしよう。
本当にガラにもないことをしてる自覚があるから余計にたちが悪いし落ちつかない。
一度どこかで時間を潰してから来るべきだったか……。
「……まぁ。早いですわね」
「あっ……」
ばったりと、踵を返そうとした時にリナと鉢合わせしてしまった。
「お久しぶりです、アレックスさん」
リナがいつもと変わらない笑顔を向けてきた。
バツが悪くなって視線を反らしながら、俺はおう、と返した。
「今日は……その、いつもと違う装いにしてみましたが……どうでしょうか」
そう言われてしまってはちゃんとリナの方を見ざるを得ない。
聞かれたらちゃんと答えろとプルクラにシバかれた思い出もあるし。
……今日のリナの格好は、何とまぁイメージからかけ離れていた。
幅広の麦わら帽子に、オフショルダーの丈長ワンピース。
背中も結構出てるし、深窓の令嬢と紹介されてしまえば信じてしまいそうだ。
「……似合ってる」
「ありがとうございます」
胸元が若干……と言うか大分開いてるのを見ないようにするので精一杯のなか答える。
「プルクラから、アレックスさんは胸派と聞いていましたので……少し勇気を出してみました」
「どう言う情報共有をしてんだお前ら……」
「ヒミツです」
「そうかい……まぁ……仲が良いなら別に構わない」
リナ、プルクラ、ヴェスポの3人でノックノックにグループを作ったらしい。
そんな事をヴェスポが呟いていた気がする。
「さ、ここに居ては通行人の邪魔になってしまいます。ひとまず移動しましょう」
「あ、ああ……おい……?!」
リナに手を引かれて歩き出す。
美しい令嬢も、今日は大分お転婆の様だ。
「天気も良いので、河川敷に行きましょう」
……リナの機嫌は、良い。
「……ああ」
手を引かれるがまま、俺達は河川敷まで移動する。
「……カリンちゃんが、意識を取り戻しました」
唐突に、リナから告げられる。
「……っ!本当か……?」
「はい。少し混乱していましたが……今は休んでいます」
「そう……か……」
良かった、という言葉を飲み込む。
なにも、良くなんて無いから。
「……すまん」
「どうして謝るのですか……?」
「俺が、もっとしっかりしていれば……」
「………………」
「俺があんな無様にやられなければ、カリンもあんな目に遭うことなんて無かった」
俺にもっと力があれば、カリンを守ってあの野郎をぶちのめすことが出来るのに。
つい、そう思ってしまった。
「えいっ」
「うおっ……?!」
リナが歩みを止めて、振り返ってから俺の両頬を両手で包む。
「最近よそよそしかったのは、それが原因ですか?」
「……………」
「黙秘権の行使は認めません。大人しく吐いてくださいまし」
「……そう、だ……と言ったら」
「怒ります」
「………………」
リナの目は、真剣そのものだった。
「カリンちゃんの仕事は、プロキシ様の安全の確保。最優先事項はご主人様の無事なのです。あの子は全力を尽くしました……あの子は強い子です。貴方に守ってもらう必要は無いんです」
「……俺は」
「カリンちゃんのお兄さんだから、ですか?」
「……なんでそれを」
「カリンちゃんから聞きました。でも、何故ですか?初対面のときは否定していましたのに」
「……ミアズマに汚染された時」
あの時に、忘れていた過去の風景を見せられたから。
リナも恐らくミアズマについてはそれなりに見識を持っている前提で話したが……。
「まぁ……ミアズマの。アレは記憶にちなんだ幻覚を見せる効果があったと聞いておりますわ」
杞憂だったようだ。
リナにもミアズマに関しての知識は備わっていたようだ。
「……真実かどうか分からん。けど、俺はカリンと過ごしていた時期があった……のかも知れない」
イマイチ自信がない。
実感がわかないから。
「……アレックスさんのご両親は」
「旧都陥落の時に死んだ」
死体は確認できていない。
でも、間違いなく二人とも生きては居ない。
「……申し訳ありません」
「気にすんな。あの災害で何も失くしてないやつなんて……新エリー都にはいない」
カリンについて、もうひとつ気になることがあるのを思い出す。
「ギルスは、来たか?」
「え?……はい。奥様を連れて一度来られました」
「来たのか……」
「まだカリンちゃんは意識が無い時でしたから、そのままお帰りに」
「そうか」
「……詳しくは語りませんでしたが……アレックスさんはご存知なんですね」
「………………ああ」
リナはそれ以上聞かなかった。
「……何だか、あれから色んなことが起こりすぎている気がしますわ」
「同感だ」
「ですので、後悔のないようにしようと思います」
「……それが良い」
後悔、か。
「俺も、後悔したくない」
簡単な話だった。
一回の敗北で卑屈になってしまっていたらしい。
「……ふふっ。良い顔になられましたね」
「え……?」
「先ほどまで、怒られるのを待つ子犬のような顔でしたので」
「……そんな顔してたか?」
「はい。大変かわいらしゅうございました」
「勘弁してくれ……」
「うふふ」
「なん、ちょ、撫でるな、やめろ」
「うふふふふ」
「……ありがとな」
「はて、なんのことでしょうか」
「決まったよ……気持ちが」
「……へ!?」
そう言うと、リナが珍しい声を上げた。
……あれ?話が違ったかな。
「き、気持ちというのは……?」
「俺の、やるべき事だ」
「……やるべき事」
「今、あのホロウの危険性を一番わかってるのは多分……この世界で俺だけだ」
プロヴィデンスホロウに鎮座する、ギル。
奴について知っているのは俺だけだ。
「だから、被害が出る前に……俺が、ぶっ倒す」
「……そんな事を、ずっと悩んでいたのですか?」
「……ああ」
「らしくないですね」
「……ああ、本当にな」
「前にも言いましたけど……貴方は、戦う人です」
「………………」
「悩んだり、立ち止まったりするのは似合いません」
リナの中では、もう俺はそういうイメージになってるらしい。
「貴方の戦う姿が、私達は好きなのですよ」
「……そうか」
じゃあ、戦わなきゃな。
「……やってやるさ」
「来たね、アレク」
「ハァイ、久しぶり」
「……あ?プルクラと、ヴェスポ?」
ルミナスクエアの河川敷に、何故か二人がいた。
「わ、今日のリナ凄く可愛いわね」
「ふふ、ありがとうございます。ヴェスポ。おしゃれしましたので」
「ふーん……アレク、ちゃんと褒めた?」
「似合ってるとおっしゃってくれましたよ」
「やるじゃないか。アンタ胸派だしね」
「やめろお前……あんまそう言う事いうのは……」
「好きなんだろ?」
さも当然と言わんばかりに言い切られた。
……ハイ。
「……黙秘する」
「黙った所でねぇ?」
「ねー」
「やかましいぞお前ら」
「で?決まったの?」
……どうやら、今回の件は3人全員グルだったらしい。
「決めたさ」
「へぇ?」
「……プルクラ。多分そう言う話ではありません」
「……だと思った」
俺が答える前から何か二人が微妙そうな顔になる。
あれ?俺なんか間違えたか?
「それで?決めたって?」
ヴェスポが引き継いだのか、続きを促してくる。
「プロヴィデンスホロウに行く」
「……別に、アンタが行かなくてもそのうち解決する話じゃないか」
「俺がやらなきゃダメなんだ」
「「……」」
プルクラとヴェスポがジト目で俺を見て来た。
二人してリナの隣に移動する。
「ちょっと、これどういう事?」
「貴女がアレク連れだすって言うから譲ったのに話が違うじゃない」
「申し訳ございません……アレックスさん、悩んでた内容が私達の予想とちょっと違っていたようで……」
……なんの話をしているのだろうか。
「……アレク」
「な、何だ」
プルクラから妙な気迫を感じる。
「ちゃんと戻ってくるんだよ」
「……当たり前だろ」
「なら良い。行っといで」
「……ああ」
「アレク。迷ったり悩んだりしたら私を思い出して。どんな時でも、貴方を想って歌ってあげる」
「ヴェスポ……」
「アレックスさん。カリンちゃんをこれ以上悲しませないでくださいね……勿論、私達も」
「……必ず、帰ってくる」
「約束、ですわよ」
「ああ」
3人から背中を押してもらえた。
絶対、帰ってこないとな。
「……行って来る」
「「「行ってらっしゃい」」」
俺は、アキラに連絡する。
「……アキラ。プロヴィデンスホロウへ向かいたい」
3人に背中を押され、アレックスは覚悟を決める。