衛非地区、適当観。
「来たな」
雲嶽山の宗主である女性、儀玄。
術法と呼ばれる特殊な技術を修める道場をやっているとか。
「今は特段急務も無い。少しだけ面倒を見てやる」
「……よろしく頼む」
俺は大人しく頭を下げた。
「全く、アキラも無理を言うようになったな」
「すみません、師匠。でもこういう事を頼めるのは師匠しか居なくて」
「……都合の良いやつめ」
「ハハハ……」
儀玄にジト目で睨まれるアキラ。
それに笑顔で応じている様を見てなんとも微妙な関係性に見えてしまった。
「それで?お前さんは前に警告したというのにミアズマに挑むのか?」
「……ああ」
「阿呆め」
額に指弾が当たる。
どういう理屈か知らんが、俺の身体が大きく揺らいだ。
「うお……!?」
「ふむ、体はかなり頑丈そうだ」
「な、何だ今の……」
「お前さんの目的、自分の能力の開花を目指して……せいぜい頑張れ」
……こうして、俺の適当観での修行の日々が始まった。
――――――――――
「アレクー」
貰った(勝手に)合鍵で彼の部屋を訪れる。
……誰も居なかった。
「あら?留守かしら」
スマホを取り出して二人にノックノックを送る。
『アレク居ないの?』
少しして、プルクラからメッセージが届いた。
『あれ?ヴェスポに言ってなかったっけ』
『今、アレックスさんは衛非地区に居ますよ』
『えっ。何も聞いてないけど』
『あー……そりゃごめん。あいつ暫く修行に行くみたいでしばらくいないよ』
『えーっ』
思わずため息吐いちゃった。
なんだか、アレクに関わってからため息が増えた気がするわ。
「しばらく居ないんだ」
部屋の中はしんと静まり返っている。
そう言えば私は中をあんまり見たことがなかったっけ。
「……普段、何してるんだろ」
悪いとは思うけど好奇心は止められない。
私はちょっと部屋を物色することにした。
「……あれ、女物だ……誰のだろ」
アレクの服は少ない。
これなんて書いてあるの?
……ディゲンヌって何……?
たまに着てるの見るけどよくわからないわ。
「……サイズ的に……まさか、プルクラ……?え、プルクラ同棲してるの……やるわね」
よくよく見ると歯ブラシやマグカップなどの生活用品は二人分ある。
浴室のシャンプー類も絶対アレクが使わない女性用が置いてあった。
「……今思うとこんな相手によく相乗り挑めたわね私」
――――――――――
「喝!」
「ぐおっ……!?」
背中を思いっきりシバかれた。
隣に座っていた虎のシリオンがびくっとする。
「アレックス、お前さん集中が乱れすぎだ」
「真面目にやってる……!」
「口答えしない。もう一度」
「お、おう……」
「『はい』だ馬鹿者」
「ぐ……はい」
座禅を組みなおして目を閉じえる。
集中して、自分と向き合う。
自らの中に眠る力を開花させるためには必要な事らしい。
「お前さんは身体の方は完成している。後は内面の問題だ」
「……」
「自分と向き合え。今まで出来た事なのだから、切っ掛けを掴め」
音動機の効果だと思っていた俺の力。
それを自在に引き出すために、まず自分を理解しなくてはならない。
俺は特に……前世の記憶とアレックス・ウィンガー、そして、今の人生の記憶。
全てが混ざっているため、儀玄に言わせると自分が定まっていないという事らしかった。
俺とは、なんなんだ?
(俺は、なんなんだ?)
しがない会社員。
格ゲーが好きな一般人。
旧都陥落を生き延びた子供。
地下闘技場の戦士。
ホロウレイダー。
……いや、全部違う。
俺は……。
「アレックス」
「……」
考え事から引き戻された。
気が付けば、日が暮れていた。
「やれば出来るじゃないか。今日はここまでだ。初日からあまり根を詰めるな」
「……ああ」
「はい、だ」
一瞬掴みかけた、俺の本質。
(戦いの中に生きる男……多分、そうなんだろうな)