無一文で。
俺みたいなヤツが、身体一つで稼げる商売なんてたかが知れている。
不愛想な憎まれ役って肩書きが邪魔をしているからだ。
「テメェふざけぶげぇっ!?」
絡んできたチンピラの頭に
周りに居たヤツらもたじろぐ。
「……御託は結構だ。んで、立ち退くのか……どうなのか。選べ」
「な、なんだと……!?」
とある空き地。
武装した集団が占拠しているとのことで道行く酔っ払いのオッサンに泣き付かれてはるばるやって来てしまった。
「お前らやるぞ!相手は一人だ……三人に勝てるわけねぇ!!」
「ひとり、そので伸びてるぞ」
「もう遅いわ!!」
いつの間にか、バトンを持ったエーテル防護ヘルメットの男が背後から襲いかかってきた。
勢い良くバトンが振り抜かれ……。
バキィッ!!
………………バトンの先端が折れ、明後日の方向へ飛んでいった。
俺は、一歩も動いていない。
「なっ……えっ……?」
折れたバトンと俺を交互に見て呆然とする男。
俺はそいつの肩に手を置いた。
「交渉決裂だ」
「あ……ひぇ……待っ」
「ヘッド!!」
そのまま、ヘルメットに頭突きをぶちかました。
被っていたヘルメットが粉々に砕け散り、中の男は失神した。
「ば、化け物……!やってられるか……!」
最後の一人は武器も捨て情けなく走り出す。
その背中を追うわけでもなく……飛び上がった。
「ひ、ひぃっ!?!」
「イェーイ!!」
逃げる男の背中に……飛び上がった俺の両の脚が、空から突き刺さる。
男は声もなく地面とキスして意識を刈り取られた。
「はぁ……これじゃ、身体が鈍っちまうぜ」
ため息を吐き、空き地の出入り口で見ていた男性に声を掛ける。
「これで良いのか?」
「……まさか本当に片付けてくれるとはな……治安官は既に呼んだから、後片付けはしておく」
「最初から通報しとけよ」
「いや……なかなか奴さんも腰が重くてね」
「そうかい……」
「そういや……君、ここらで見ない顔だな」
「……新参者さ。ここに流れ着いただけの。用は済んだから帰るぜ」
「待て。礼をしたい……これくらいで良いか?」
「は?なんでアンタが礼なんか」
男が、ディニーの詰まった袋を投げて寄越した。
断る理由がないが、コイツがなんで俺に身銭を切る。
「ここの持ち主なんだ」
「ああ……」
「ともかく、助かったよ」
「……じゃあな。せいぜい気を付けろよ」
――――――――――
「………………」
麺屋錦鯉。
新エリ―都で人気のラーメン店で、六分街と言う比較的治安の良い街で店を構えている。
「久しぶりだな、アレックス。ちょっと痩せたんじゃないか?」
店主のチョップ大将は、月1でしか来ない俺の顔を覚えていた。
「ちょっと色々あってな……注文、良いか」
「おうよ」
いつも頼むのは、白鉢かぼちゃラーメンだ。
色々食ったが、俺はこれが好きだ。
安いし。
「………………」
ラーメンを啜り……ふと、右手を見る。
古めかしいビデオ屋が目に入った。
「………………しまったな」
手荷物をホロウに落としてきた……中には、ここに入っていたビデオも含まれていた。
「どうした?」
チョップ大将が、そんな俺に声をかけてくる。
昼過ぎ、ピークタイムはとっくに過ぎているので客足もなく俺しかいない。
「いやなに……ホロウに、借りたビデオ落としちまってな」
「オイオイ……早めに謝りに行けよ?」
「……これを食ったら行くさ」
レンタルビデオ屋『Random Play』。
月に一度、ここでビデオを借りるのが俺にとって数少ない楽しみだった。
来られるのが月に一度ということで……本来2週間のレンタル期間を店長の好意で1ヶ月にしてもらっていた。
……今まで返しそびれたことは無かったが、その店長の好意に今回泥を塗ってしまった。
気が重い。
「……ごちそうさん」
「おう。さっさと行ってこい」
「……ああ」
重い腰を上げて、俺はビデオ屋のドアに手を掛けた。
………………ん?
視線を感じる。
思わず右を見る。
「……む。客か。気にするな」
…………………なんか、見たことある女性が腕組みで立っていた。
(………………いや星見雅!!?!!!?!!?!!?!)
対ホロウ六課の誇る最高戦力、虚狩りの称号を持つ女性。
何故そんなヤツがここに居る……!?
と言うかバレたら人が……。
「……?」
あれ。
おかしい。
アイドル的人気を誇る対ホロウ六課の職員がここに居るのに誰も気付いてない……。
「気配を消す修行だ」
いや何も聞いてないけど。
「気付いたのはお前だけだ」
左様でございますか。
「……お前、腕は立ちそうだな」
キラリ、と星見雅の瞳が妖しく光る。
俺は大慌てでビデオ屋の中に逃げ込んだ。