時は少し遡って。
「すまんな。出発前に呼び出してしまって」
俺は、またハワードコネクションに呼び出されていた。
呼んだのはもちろんコイツ、社長のギルス·ハワードだ。
社長室に入るのももう何度目だろうか。
「俺とアンタの仲だろ」
「フッ……お前にそう言われると悪い気はせんな」
……何で俺コイツにこんな気に入られてるんだよほんと。
そう言えばハワードコネクションは縮小したはず……
以前来た時とまるで変わっていないな……。
「私を誰だと思っている。言ったろう、這い上がって見せると」
「……そうかい。それで、用ってのは?」
ギルスがスーツの懐から1枚の封筒を取り出した。
かなり上等な造りをしている。
「アレックス。お前は……ロスカリファという名前を聞いたことは?」
「……無いな」
「そうか。実は、これをお前に託そうと思ってな」
「……これを?」
ギルスが封筒を俺に差し出す。
受け取るか迷い、手にした。
「これは……招待状か」
「そうだ。近々……新エリー都とロスカリファの親交のためのイベントが開催される」
「へぇ、良いことじゃないか。俺なんかが行っても良いのか?」
「格闘大会だ」
「……なんだと?」
「新エリー都とロスカリファの親善試合を行うのだ」
「……それを、俺に?」
そう聞くと、ギルスは背後の窓から新エリー都を一望する。
「出る気はないか?」
「……なんでそこまで」
「お前がその気なら私から推薦する」
「………………」
「フッ……私もここまでお前を気に入るとは思ってなかったさ。これは、礼だ」
「なんの……」
「カリンと、会った。妻と一緒にな」
「………………」
そう、ギルスは言った。
何とも言えない複雑な顔をしている。
「妻は……ひと目で分かったと言っていたよ」
「そう、か……」
「勿論……あの子は私たちのことなんて覚えていなかったさ」
赤子も同然の頃に生き別れたのだ。
記憶なんてほとんど無いだろう。
「妻があの子を抱き締めた時、あの子は泣いていた」
「………………」
「少しは、覚えていたんだろう」
「これから……どうするんだ?」
「あの子が望むようにするさ。一緒に暮らしたいならそうするし、拒絶するのなら……辛いが、生きていてくれただけでも」
「そうか」
なんとも言えない気分だ。
まさかこうなるなんてな……。
「これはお前が運んできた縁だ」
「買い被りすぎだ」
「フッ……感謝してもしきれん」
「やめろって……」
「思えば、お前と初めて会ったあの日から面白そうな男だとは思っていたさ」
ギルスは俺に背を向ける。
「アレックス。私はTOPSに返り咲き、新エリー都に格闘技のショービジネスを開拓する」
「……プロレスでもやるってのか?」
「郊外の賭博場を合法化し整備するのだ」
「……えっ?」
「私と組め、アレックス」
「組む……えっ??」
ギルスと、組む?
「お前の戦う舞台を、私が整えてやる」
「ちょ、ちょっと待て……!」
「そして、いつか共に掴もうではないか……最強の称号を」
「最、強……」
柄にもなく心が動いた気がする。
最強。
それは、あまりにも魅力的で、甘美で、渇望する響き。
以前……ROFで掴み損ねた称号。
それに、今度こそ手が届くのかも知れない。
そう考えると、胸が高鳴る。
……だが、
「……考えさせてくれ」
俺は、こう答えざるを得なかった。
「あのホロウに挑むのだろう?」
「……ああ。負けっぱなしじゃ性に合わない」
分からないから、やってて面白くないから一戦やって抜ける、そんなんで踏んだMasterやハイマス、グラマス……そして、LEGENDの称号は胸を張って名乗れるか。
俺の推しのプロゲーマーはそう言っていた。
ランクマッチで当たってきっちり2先して栄光を掴む。
一度負けてるのなら、次はヤツに二回勝つまで。
「お前は、そういう男だ」
「……そうだ。俺は戦う男らしいからな」
プルクラも、リナもそう言っていた。
「フン。ならばさっさと叩き潰してこい」
「言われなくても……やってやる」
俺は、ギルスから招待状を正式に受け取る。
やってやるさ。
(首を洗って待ってろよ、ギル……!)