ちなみに今までアレックスはドライバディスクを装備してないことになってます。
なんで生きてるんですかねこの男。
……六分街、吟遊ニードル。
最新の楽曲からマニア垂涎の逸品まで何でも揃うと噂のCDショップだ。
六分街の隠れた名店として人気を博しているのだが……今日は、一味違った。
「ねぇ……あの人……」
「最近見ないと思ってたけど……」
「まさか六分街で……」
今日はやけに視線を感じる。
知能構造体であるヴェスポはそれなりに奇異の視線を向けられる事は多かったが、今日はいつもと違う気がしていた。
……自身が休業中で、筋肉ムキムキでマッチョな男と熱愛発覚と報道されたのを知らないでいるのはここだけの話。
「よし……!」
ヴェスポは吟遊ニードルの玄関を通る。
「こんにちはー!」
「……おや、ヴェスポさん。いらっしゃいませ」
誰もいない店内で、ひとりの知能構造体の女性がレコードを流しながら座っていた。
ヴェスポと同じようなスラリとした黒いボディに、蓄音器のような髪のパーツ、美しいフェイスの魅惑的な女性だ。
名をエイファと言う。
「貴女のような方がここに来るなんて、本当に珍しいですね」
「私も来るとは思っていなかったわ」
「ヴェスポさん……何か、変わりましたか?貴女の声……前に聞いた時よりも感情が乗っています」
「そう?私は変わったつもり無いけれど」
「世間では噂になっていますからね……『休業中の歌姫、熱愛発覚』と」
「えっ、なにそれ……知らないんだけど……」
「私が知っているレベルですから……色んな人に思った以上に見られていますよ」
知能構造体が変装するのはとても難しい。
人間のように体型をごまかしたりすることが出来ないからだ。
昔、ヴェスポが妹のように可愛がっていた知能構造体は、ホログラムを使って自身を人間のように見せていたが……。
「まぁ良いわ!そんな事より今日は大事な用があって来たの」
「はぁ、用ですか」
「ドライバディスクを作るの」
「………………分かりました。奥へどうぞ」
エイファが立ち上がり……店の看板にCLOSEDの標識をかけた。
「驚きましたよ。歌姫の貴女が裏メニューを口にするなんて」
ドライバディスクとは……ホロウによる侵食を抑える作用がある周波数をディスクに閉じ込め……折角なので好きな曲を流そうぜ!という……所謂処刑用BGMみたいなものである。
「では……どのような風味の曲をご所望で?」
「歌うわ」
「……はい?」
「私が、ゼロから作るの。私が作った歌を原盤に込める」
「なんという……そこまで貴女にさせる人なのですね……?」
「べ、別に誰もアイツのためとか言ってないわよ!」
「私は何も言っておりませんが……」
「とにかく!私が今から歌う曲をドライバディスクにして!」
「……承知しました。ですが……」
エイファが言い淀む。
ヴェスポが首を傾げた。
「……結構、お高いですよ」
「ふん!私を誰だと思ってるの……?そのくらいは払えるわ」
「……杞憂でしたね。では早速取りかかりましょう……私もゼロからディスクを製作するのはなかなか経験が無いので楽しみですね」
「ふふふ……!こんなサービス、滅多にしないんだからね!」
それは、ここには居ない誰かへ向けたメッセージのように思えた。
「……ところで、随分と入れ込んでいるみたいですが……何処が気に入ったんですか?」
「えっ!?そ、そうねぇ……まだ会ってからそんなに経ってないんだケド……」
エイファがそう尋ねると、ヴェスポは先ほどまでの威勢が嘘のように狼狽え始めた。
「そのぉ……私が鼻歌とか、口ずさんだ時に……アイツ、手を止めて聞いてくれるの……」
「ふむ……」
「本当、私の歌が好き過ぎて困るって言うか〜……!」
「その方は、そもそもヴェスポさんのことをご存知だったんですか?」
「あっ!聞いてよ!それが私のこと知らないって言ったのよ!」
「まぁ……よほどの郊外から来られたのですね」
「私の歌どころかビジュも知らないとか本当にあり得ないって思ったの!でも……」
「でも?」
「……アイツ、私の発する音を……歌だって言ってくれた。好きだから、歌であってほしいって言ってくれたの……」
「………………」
エイファも、音楽を扱う知能構造体である。
だからこそ、ヴェスポに投げられた言葉を知っている。
ヴェスポが惚れ込んだ相手は、そんなヴェスポの悩みを知らないとばかりに投げ飛ばしたらしい。
「もう困っちゃうわよね!だから私のこと知るまでずっと隣で歌ってやるんだから!」
「ベタ惚れですね」
「違うわ!アイツが私にベタ惚れなの!」
なお、そんな事実は無いのだが本人は生憎と不在である。
なんなら既にエイファの中では付き合ってるものだと結論付けられていた。
「ふふふっ……その方の為にわざわざドライバディスクを作る貴女もベタ惚れですけどね」
「うっ……もう!!」
「では、そろそろ始めましょうか」
「ええ!」
ヒロイン達がギャーギャー騒いでる話のほうが筆が進むのなんでなんでしょうね……。