最近はアレックスとテリー練習してますがやっぱりテリーの方が動かしやすくてついついそっちを使ってしまう……。
ホロウ調査協会は実はホロウ内での戦闘任務も請け負っていて……戦闘用シュミレーター抱えている。
「……本当に俺が使って良いのか?」
「構わないとも」
アキラの紹介で使用許可を貰えたのは僥倖だった。
VR装置に窮屈な思いで身を埋める。
「起動しますね」
オペレーターの声がして、俺の意識は電脳空間に旅立って行った。
『ダイブ完了。気分はどうだい?』
「……違和感なさすぎて怖いくらいだ」
簡素な電脳訓練場に降り立つ。
早速目の前に雑魚のエーテリアスが並んでいる。
「肩慣らしには、丁度いい」
俺は肩を回し、突撃した。
ものの数秒で群れは一掃される。
「もっと強いのを出してくれ!」
『分かった。なら、こいつはどうかな』
目の前に再現されたのは……いつぞやの巨大なエーテリアス。
デットエンドブッチャーだ。
「おいおい、コイツかよ……!」
振り降ろされる斧を、俺はブロッキングでいなす。
ガキン!と甲高い音が響く。
俺は一歩も退かずにその場に踏み止まった。
……すげぇや。
自分でやった事なのにびっくりしている。
俺は伸び切ったブッチャーの腕に
赤黒い閃光が散る。
最近気が付いたのだが……一部の技がパニッシュカウンターすると何だかこんな光が散るようになった。
俺はそのままブッチャーの腕を掴み、一本背負いで叩き付けた。
パニカン派生のムーンフォールだ。
「DASH!!」
無防備にダウンしたブッチャー目掛けてドライブラッシュ。
一気に距離を詰めて
立ち上がろうとしたブッチャーに見事ヒットし、俺は更に畳み掛ける。
屈大P、ブレイカースタンス移行、小P派生、大P派生、立ち弱K。
鬼の様に昔練習したアレックスの基礎コンボ。
そこから大エアニースマッシュが定番の〆だが、ここで弱フラッシュアックスを選択する。
「ハァッ!!」
ブッチャーが吹き飛ぶ。
そこへ、追撃のスーパーアーツを叩き込む。
「ロックオン!」
両手を地面に着けて、全身全霊のタックル攻撃。
「GO!!」
SA1、レイジングスピアーでブッチャーにトドメを刺した。
……間違いない。
(あの頃よりも、俺の攻撃は強力になってる……!)
修行の日々、ROF、ホロウでの経験……自分のなかに眠るポテンシャルが発揮されつつある。
「俺は、強くなってる……!」
今、実感する。
俺は……あの頃の地下での日々と比べて、格段に強い。
「アキラ!まだまだ足りねぇ!次だ!」
『わ、わかっ……えっ!?ちょっと、待ってくれみや――』
「……アキラ?」
アキラとの会話が途切れた。
突然切られたような妙な違和感だが……。
「……お」
俺の目の前に、新たなターゲットが生成される。
ホロウの大物級を倒せるなら次はどいつが相手になる……。
「……は?」
相手の姿を見て、俺はマヌケな声を上げた。
だって無理もないだろう。
目の前に現れたのは……緑の羽織と、今時古風な刀、そして艶のある見事な黒髪をなびかせるシリオンの女性だったのだから。
「……強者を探しているそうだな」
「……限度があるがな」
「あの時、気配を断つ修行をしていた私に気が付いたお前に……少し興味が湧いた」
「……あん時かよ」
会話してるって事は協会に残っている戦闘データじゃない……。
(……VRだってのにプレッシャーはひしひしと感じる……)
分かる。
分かってしまう。
圧倒的な強者のオーラ。
ギルスに感じたプレッシャーと同じ。
いや、それ以上かも知れない。
「名乗っていなかったな。私は星見雅」
「その顔知らない人間はエリー都には居ねぇんじゃねぇかな……俺は、アレックスだ」
「そうか。では、手合わせ願おうか」
答える前に、星見雅の姿は消えた。
「速っ……!?」
咄嗟に腕をクロスしてるガードする。
太刀筋は間違いなく首を狙っていた。
星見雅の刀を、俺の両腕は弾いてくれた。
「……!硬いな。面白い」
「マジかよ……!?」
また消える。
動きが速すぎる……!
元々アレックスは鈍重な重量級キャラだ。
キャミーやジュリの様なスピードタイプにはどうしても不利が付きやすい。
……そして、何がやってられないかと言うと。
(今の一撃、めちゃくちゃ重かった……!)
この女、この速さを持ち更にパワーまで持っていると来た。
あまりにも不平等、理不尽。
だが、
(面白ぇ!!)
この理不尽に対して、俺はどこまで食い付ける?
「……!また防ぐか」
星見雅の二の太刀を、今度は反応してブロッキングする。
反撃の前に既に射程外。
追いかけることは不可能。
(どう対応する、どう立ち回る……!)
久しく忘れていた感覚。
戦いの高揚感。
やっぱり俺は戦いに生きる男なのだろう。
この絶望的な状況を楽しんでいる。
「ぐっ……!」
ガードは間に合うが手痛い一撃だ。
動きをまるで捉えられない。
「まるで鋼鉄……いや、鋼鉄ならば斬れる」
「本ッ当に規格外だなアンタは!」
「……!」
ガードにDリバーサルを仕込む。
刀を弾かれた星見雅に頭突きが入る。
(防がれた……!)
弾かれた勢いを利用して腕でガードされる。
拙い。
Dリバーサルはガードされると-6Fの不利を背負う。
腹に衝撃。
「がっ……!」
「む……!」
星見雅のカウンターで放たれた蹴りが腹に入る。
カウンター目的の速い一撃だが……凄まじい威力だ。
ふっ飛ばされる。
「ふむ……手応えがあった。なるほど、カウンターならば通るのだな」
(マジかよ……!)
一瞬で看破された。
と言うか俺もそれは知らなかった。
「次は、斬る」
「っ……!」
またも星見雅が消える。
次は、どっちから……!
「クッソ見えねぇ!!」
疾すぎるこの女!
下手に反応してカウンターを貰ってしまうとそのままやられかねない。
「っ!」
一瞬なんか光が閃いた。
ほとんどカンでバックステップする。
「む」
「っぶねぇ!!」
星見雅の手が俺の目の前をスレスレで通り過ぎる。
が、そのままひらりと身体を回転させ片手で刀を振り落とした。
ブロッキングで受けて蹴りを返すが空を切った。
「くっ……!」
ダメだ、こちらの手がまるで通じない。
防戦一方だ。
(何か……何か手は……)
考えてる暇は無い。
星見雅がこうも撹乱に振り切って俺に攻撃しているのは、恐らく速さでラッシュをかけたとて防御されるからなのではないだろうか。
「……ふっ!」
「うおっ……!」
突然の下段……!
刀は弾いたが勢いは殺せなかった。
俺は転倒しダウンをとられる。
「ぐっ……!」
拙い。
早く起き上がらなくては……!
どん、と腹部に衝撃。
踏まれたのか……?
いや、違う!
マウントを取られた……!
俺とコイツの体格差ならむしろ押し倒せるが、その前に俺の喉が貫かれる……!
詰みだ。
『課長。タイムアップです』
知らない女の声がした。
「……そうか。残念だ」
星見雅が俺から降り、刀を鞘に戻した。
「は……?」
『これ以上雅さんが動くと、装置が保たなくてね……タイムリミットを設けていたんだ』
「……んだよ、それ」
愚痴っぽく零してしまった。
どの道あのままやっていても負けていた。
『それより凄いじゃないかアレックス。あの雅さんと戦って、無傷でやり過ごしたなんて』
「……無傷、か」
正直そんなこと言われても嬉しくはなかった。
形式だけ見ればお互いノーダメージのドロー試合。
確かに、星見雅は俺の防御を貫けなかった。
……いや、
(リアルでやり合っていたら、恐らく……)
突破されていただろう。
それに……あの女、確か前に資料で見た時は炎のような氷を扱うとされていた。
つまり、
(手を抜かれていた……)
相手は全然全力ではなかったのだ。
「クソっ……!」
俺は仮想訓練場の床に拳を打ち付けた。
これが、虚狩りか……。
あまりの実力差に笑いが出てくる。
「アレックスと言ったか」
「……何だよ」
気付けば、星見雅は俺の前に立っていた。
汗ひとつかいてねぇ。
涼しい顔をしていやがる。
それはそれとしてめちゃくちゃ顔立ちが整っている。
リナやプルクラ、ヴェスポとは違う方向の美人だ。
「中々に頑強な肉体に私も驚いた。この世に私の刀を生身で弾ける人間がいるとは」
「……たまには居るもんだろ、そういうの」
「私の知る限りでは居なかった」
「そうかい」
「防御力は問題ないが、攻め手に欠ける」
「アンタが速すぎるだけだろ……俺には追えねぇ」
「ふむ……私が仕掛けた時に反応出来ていた」
「いや……カンだあんなの」
「お前は攻撃を仕掛けるより置いておく方が向いているタイプだ」
「……置く、か」
確かに格ゲーには置き技と言う概念はある。
例えば相手のドライブラッシュに対して立ち弱Kや屈大Kのような横に長い技を先に撃ち、その判定が残っている内に相手がそこに飛び込む……と言った概念の話。
「なるほど、参考になった」
「有意義な時間だった。では」
帰ろうとした星見雅に一声かけた。
「星見雅。次は……勝つ」
「……フッ。楽しみにしておく」
……えっ?今笑った?
そんな面白いこと言ったつもり無かったんだけどな……。
『そんな事を雅さんに宣言して……後悔しても知らないぞ』
「フン……例え虚狩りだろうと……負けっぱなしは性に合わねぇ」
そうさ。
あんな奴等にも勝つ気で戦わなきゃ……ギルにはとどかねぇんだ。
やってやるさ。
VS虚狩り。
刀と身体能力だけとは言え圧倒的な実力差を前に、アレックスは折れずに立ち向かう。
最近コイツバトルジャンキーみたいなメンタルしてきたな……。