コイツなら来れるよなぁと思って……。
プロヴィデンスホロウは、不気味なほど静まり返っていた。
あれから協会もホロウを封鎖して静観。
拡大も縮小もしていないホロウを前に、誰もがニュースを忘れようとしていた。
「………………」
俺は、適当観から出て夜のランニングをしていた。
ヴィクトリア家政が仕立ててくれたスポーツウェアを着て、休憩がてらプロヴィデンスホロウを眺めていた。
(……何考えてやがる、アイツは)
俺は、ギルについてはよく知らない。
古くから存在する秘密結社の長であり……シャドルーとはまた別のアプローチで世界を手にしようとした男。
(……ぶっちゃけ、ストリートファイターの世界でもそれほど多くを語られていない。何なら絡まないファイターだって多い)
何故そんな奴が……一番無縁そうな『アレックス』と縁があるのか。
それは、アレックス·ウィンガーの養父が彼に負けたことが原因だった。
今まで、狭い世界しか知らなかったアレックスは……この件を機に世界を知ることを決意した……というのがストリートファイターIIIでの出来事のハズ。
「………………」
ヤツは、エーテリアスを従えていた。
何故そんなことが出来るのか、それは問題ではない。
人間も、あの魔性に魅了されてしまっている。
ホロウ調査協会の先遣隊の何人かが、周りの静止を振り切って独断でホロウへ入ろうとしている。
協会の人間が、だ。
やられた。
そうとしか思えない。
しかし、世間はまだ騒いでいない。
まだ大事ではないのだ。
俺は奴が危険だということを認識している。
……まだ、この世界では俺だけ。
「……もどかしいな」
早く片付けねばならない。
だが、俺はまだ……手が届かない。
「……ん?」
ふと、空に何か光るものが見えた。
ホロウの光の反射か、それとも星か。
……動いた。
珍しい……流れ星か。
(星に願いを、って柄じゃないが……願懸けには丁度いいか)
俺の手が、奴に届きますように。
………………ん?
「……なん、オイオイオイ冗談じゃねぇ!!」
光が……こっちに向かって落ちてくる!
俺は急いで逃げようとして……アレが本当に星なら逃げ場なんて無い事に気が付いてしまい、足がもつれた。
転ぶ。
あ、終わった……。
流石に目を閉じちまったね。
「……え?」
……何も、起きてない?
恐る恐る目を開くと……。
「っ!?」
俺の目と鼻の先に、少女の顔面があった。
「のわっ!?」
驚いて後ずさる。
この世のものとは思えないほど煌めく銀の髪。
寒色系のゴスロリ服。
吸い込まれそうなほと爛々と輝く赤い瞳……。
「……えっ?お前……!?イングリッドか……!?」
「ほむ?わしを知っているのか小僧?」
小僧ときたか。
まぁそうだよな……本当に俺の知るイングリッドなら俺なんか赤子同然だ。
「マジでイングリッドなのか……」
「何やらただならぬ気配を感じて来てみれば……わしと何の縁もない世界でわしを知る男がいる……不思議なこともあるものじゃの」
しかしまぁ見た目と喋り方のギャップがすごい。
こっちには似たような喋りの治安官がいるけど。
「それで?小僧はこのぷりちーなわしを何処で知った?」
「うーん……」
素直に話して大丈夫なのだろうか。
コイツはかなりメタ的な存在だ。
画面の向こうが見えているタイプのキャラクター。
そもそもイングリッドとは一体何者なのか。
正直よく分かっていない。
本人は超常現象の一種とは言っているがどこまで本当かは分からない。
……まぁ、大丈夫だろ。
「ストリートファイター」
「……ほう?小僧、そう言えば見たことのある顔をしておるな……アレックス、と言ったか」
「何だ、覚えてたのか」
「にょほほほ。むさ苦しい顔じゃが熱意があって良い若者じゃったよ……おぬしは、ちと違うのう?」
「ああ。なんの因果かそいつと同じ顔で産まれた」
「どれどれ……」
イングリッドがどこからともなく本を取り出す。
ページをぱらぱらと捲って……。
「なるほど。おぬし、記憶が2つあるのか」
「そうらしい」
「ごく普通の会社員だった前世と、この終わりかけの世界で産まれた今の記憶……そして、前世の記憶がわしらの出演しておるげーむがある世界じゃな?」
「……流石だな。そこまで分かるのか」
「にょほほほほ!最近誰も彼もわしのことを厄介者とかまた出た!とか好き放題言いおるから、たまの称賛が気持ちいいのう!」
……そらべガとか豪鬼とかを小僧呼ばわりしてるから嫌がられるわな。
「……で?なにしに来たんだよ」
コイツが来るって事は……正直、この世界にだいぶ拙いことが起きる前触れみたいなもんだ。
「ただならぬ気配、と言ったではないか」
「……まさか、ギルか?」
「なんと!あやつもおるのか」
「まぁ……」
「あのでっかい黒い塊の中じゃな?」
「……よくわかったな」
「あれ、相当ヤバい気配がしおる。放っておくと世界が滅びるぞ」
「……それほど、か」
ヤバいとは思っていた。
だが、イングリッドがそう言うってことは……。
「……終わるのか、この世界」
「元々終わりかけじゃろ、ここは。仮にあの黒いのをなんとか出来ても、この世界に同じなのが沢山ある」
「まぁな……でも」
「……そうじゃの。おぬしは生きおる。諦めておらぬ目をしておる」
イングリッドが目を細める。
「足掻く若者に手を貸すのも年長者の務めかの」
「……別にいいぜ。この世界のことは、俺たちで何とかしねぇと」
「見た目はあの小僧と同じじゃが、おぬしは素直なチェリーボーイじゃの」
「同じなのは顔と身体だけだからな」
「ふむ……想いを寄せておるおなごが三人か。あっちよりプレイボーイじゃの」
「……待て!なんだそれは!知らねぇぞその情報!」
三人!?
なんで!?
「にゅふふふ。わしの目には見えておるぞ。いいのういいのう若いのの色恋は」
「クソババァめ!」
「にょほほほほ!まぁ頑張れ、この世界のアレックス」
「……ケッ。さっさと行きやがれ」
「いんや?結末は見届けさせてもらおうかの」
「……そうかい」
イングリッドの身体が輝き始めた。
「アレックスよ。おぬしの思ってるよりもこの世界はギリギリじゃ。だがの……諦めるな」
「言われなくても」
「そうか。健闘を祈るぞ」
光の粒子が舞い散り、イングリッドが空高く飛んでいった。
「……ったく。何なんだよ全く」
俺は、何もかもひっくるめてそんな感想をこぼすのだった。
と言うわけでこの世界の行く末はコードホルダーに監視されることになりました。