「おや。珍しいお客さんだ」
逃げるようにビデオ屋のドアを潜る。
平日の昼下がり、客は居ない。
店内には店員のボンプと、カウンターにひとりの青年が立っていた。
「ああ……久しぶりだな、店長」
彼こそ、このビデオ屋の店長の片割れ。
名前をアキラと言う。
「どうしたんだい?アレックスさんが1ヶ月経たずに来るなんて」
「色々あってな……」
「それに、顔色が悪い……まるで治安官に追われてるみたいだ」
「治安官……じゃないが……表に虚狩りがいやがる」
「虚狩り……?」
虚狩り、と言ってアキラは疑問符を浮かべる。
オイオイ、しらを切る気か?
「店の用心棒にしちゃビッグネーム過ぎじゃないか?」
「ええと……アレックスさん。僕は虚狩りと言われると候補者がふたりいるんだ」
「は?二人?オイオイ店長……虚狩りって言ったら星見雅だろうが」
「アレックスさん……最近ニュースは?」
「見てねぇな」
「なるほど……それじゃあ知らないのも無理はないか。郊外に住んでるから、その辺に疎いのかも」
「……まぁな」
店長が新聞紙をひとつ、裏から持ってきた。
「こいつは?」
「新しい虚狩りの就任記事さ」
「は?」
増えたのか……?
虚狩りが??
一面にはデカデカと、新エリ―都市長と握手する少女が描かれていた。
「マジかよ……」
「ああ。僕の友人さ」
「ほう……店長も隅に置けないじゃないか」
「よしてくれ。本当に友達なんだ」
……Random Playの店長は、女性関係にだらしないって噂があったり無かったりする。
人の良い性格だし、本人は友人と言っているが女性側はどんだけガチなのか想像に難くない。
「……コイツじゃないな。星見雅だ」
「雅さんがかい?何しに来たんだろうか……」
「気配を消す修行だとよ」
「ははは……雅さんらしい」
「……知り合いなのか?」
「え?ああ……友人さ」
「店長……アンタ何モンなんだよ……」
「しがないビデオ屋の店長さ」
っと、そうだった。
世間話をしに来た訳じゃない。
店長は、聞き手上手だから口数が多くない俺でもつい話ちまう。
とんだ人たらしだぜ。
「所で、今日はどうしたんだい?」
「あー……それがな」
前置きが長くなってしまったが、店長に状況を説明する。
「借りたビデオがホロウの中に……か」
「すまない、店長……好意に甘えてる立場でこんな事が起きちまって」
「いや、正直に言ってくれてありがとう」
「プロキシかキャロットがあれば俺が直接取りに行くんだが……生憎と持ち合わせが無くてな」
さっき貰った謝礼だけでプロキシを雇うのは不可能だろう。
「おっと……新エリー都だとホロウ潜りは犯罪だったか」
「いや、僕は何も聞いてないよ」
店長が苦笑する。
いたたまれない。
どうしたものか……。
「……手段があれば、アレックスさんが自分で取りに行くつもりなんだね?」
「……店長?」
「アレックスさん。インターノットは見れるかい?」
「インターノット?生憎とスマホを持ってなくてな」
「そうか……郊外の人はそういう人もいるんだな……ちょっと待っててくれるかい?」
店長が裏手に引っ込んだ。
待つこと数分。
「お待たせ」
「それは……?」
「ウチではもう使っていない古いタブレットさ」
「タブレット……?」
確かに年季が入っている。
店長がスイッチを押すと、無事に電源が入った。
「あげるよ」
「……良いのか?」
「もちろんタダじゃない」
店長はにっと笑って言った。
「アレックスさん。君には……ホロウに潜ってもらうよ」
「……なんだと?」