目が覚めると、俺は病院のベッドの上だった。
「……あ?」
「あぁ、おはよ」
「……病院?」
「他に何処だと思う?」
「………………病院だな」
身体を起こして自分の状況を確認……げ、めっちゃ包帯巻いてある……。
「全身に火傷、肋数本骨折、肩脱臼、脚肉離れだってさ。安静にしてな」
「……そんなに?」
「そ。ヴェスポの用意したディスクが無かったら危なかったんだから」
ベッド横で椅子に座ってリンゴの皮を剥いているプルクラが淡々とそう語った。
「……ほんと、無茶するんだから」
「……そうだな」
しゃりしゃりとリンゴの皮が剥かれる音だけが病室に響いた。
「なぁ……」
「嫌」
「まだ何も言ってねぇだろ……」
「何も聞きたくない。まずは怪我を治しな」
「………………」
「アンタが命賭けた理由とか、落とし前つけたいとか、そう言うのは私はどうでもいいんだよ。でもね……知らない所で死にかけて満足そうにされるのが私はめちゃくちゃ嫌なの」
ずい、と綺麗に皮が剥かれたリンゴを丸ごとひとつ差し出された。
切ってくれねぇのかよ。
左腕だけは無事なので受け取って齧る。
口の中もズタズタだったのかめちゃくちゃ滲みた。
「言っとくけど、リナもヴェスポも怒ってるからね」
「……そうかい」
「医者が言うには来週退院だってさ。頑丈過ぎでしょ」
「……そうか」
俺はまた横になった。
まだまだ身体が疲れている。
「寝る?」
「ああ……疲れた……」
「そ。おやすみ」
しばらくうとうとして、すぐに眠気がやってきた。
眠りに落ちる前に、プルクラが俺の頭に手を置いていた気がする。
(本当に怒ってるのかよ、お前……)
その声は、口からでなかった。
――――――――――
「んが……?」
誰かが病室に入ってきたのに気が付いて、意識が覚醒した。
正体は……リナだった。
「あら、起こしてしまいましたか……?」
「ふぁ……今、何時だ……」
「15時ですわ」
「そうか……で、何の用だ」
「ええと……」
「私が話そう」
リナの後ろから、えらく小綺麗な格好をしたスーツ姿の男が現れた。
何となく見覚えがある……いや、コイツは。
「……新エリー都の市長サマが何の用だよ」
「覚えていてくれて光栄だ。アレックス·ウィクス君」
新エリー都市長。
企業が跋扈しているこの街にもちゃんと市長はいる。
そして、そんなTOPS連中としっかり渡り合っている実力者でもある。
「改めて、私が新エリー都市長のメイフラワーだ」
「なんでそんな奴がリナと一緒に?」
「私がヴィクトリア家政の社長だからだ」
「なるほどね……」
前々からヴィクトリア家政はきな臭いと思っていたが、こんなバックがいたとはな。
後ろに控えるリナは、何も喋らない。
「アレックス君。君はとてもデリケートな立場に今立たされている」
「……どういうことだ」
「まだ、伏せられてはいるが……君がホロウをひとつ消滅させた事が多方面に知れ渡ってしまった」
「…………………」
ホロウを消す。
これが、今この世界でどういう意味合いを持つか。
答えは、称賛はされない。
ホロウは人々の生活を脅かす脅威であると同時に……エーテル資源の宝庫である。
今、新エリー都はエーテル技術で成り立っている。
そんな中……ホロウが消えればどうなるか。
エーテルに依存した社会が破綻してしまう。
日々を過ごす市民にとっては朗報である。
そして、エーテルを食い物にしている者たちにとって凶報でもある。
TOPS連中が黙っているわけがない。
「俺の身に危険が及ぶ……と?」
「そうだ。だから……」
「お断りだ」
「………………」
メイフラワーが何を言おうとしていたか。
正直、聞かなくても分かった。
「まだ、何も言っていないが」
「首輪を着けられるなんて真っ平ごめんだ」
「アレックスさん……!」
リナが口を挟もうとしたのを、メイフラワーが手で制した。
「虚狩りの就任、考えてはくれないのかね?」
虚狩り。
それはこの世界に於いて最強の称号の一つである。
そして……みだりに力を使わないよう制限をかけるための枷。
「俺がそんなガラかよ。無理だね」
星見雅、葉瞬光。
俺の知る二人の虚狩りと比べてあまりにも向いてない。
無辜の誰かのためとか、そんな大義で戦ったことはない。
俺は、俺のために戦っただけ。
そして、何よりも。
「俺の目指す最強は、それじゃない」
俺の欲しい最強は、虚狩りなんかじゃない。
強者と競い、殴り合い、リングの上で勝ち取る称号。
それこそが俺の欲する最強だ。
「俺は、無愛想な憎まれ役……ヒールレスラーだ。ベビーフェイスには今更なれない」
「…………………」
メイフラワーは黙ってしまった。
そこへ、
「よく言った。それでこそだ」
「……ギルス·ハワード……!」
ギルスが、病室に入ってきた。
オイ流石に狭いし他の入院患者に迷惑……個室じゃねぇかここ。
「久しぶりだな、市長殿」
「何の用だ」
「迎えに来たのだよ。ウチの社員を」
「オイ待て。まだなるとは言ってねぇししかも社員かよ」
「社員……?TOPSで抱え込むつもりか」
「ああそうだとも。私と組むのだ」
「俺の話聞けよ……」
なんかメイフラワーとギルスで盛り上がり始めて置いてきぼり食らったんだが。
リナが近くにまで寄ってきて耳打ちをする。
「……メイフラワー様とギルス様はあまり仲が良くなく……」
「見りゃ判る。あと、あんまり顔近付けるな……」
どぎまぎするだろ。
「あら。うふふ……まだ私で緊張してくださいますの?」
「うるせぇ」
リナが上機嫌で離れた。
なんなんだまったく……。
「アレックス」
「あ?」
「選べ」
「……聞きたくないが、何を」
メイフラワーとギルスの話がついたのか、二人が俺を見ている。
「虚狩りを拝命し、市政に加わるか」
「私と共にリングの上で戦うか」
二人が条件を提示した。
俺は、第三の選択肢を提示出来ないから選ぶしかない。
「俺は……」
選ぶまでも無かった。
だってそうだろう?
虚狩り候補、行くところまで行った気がします。
でも、アレックスは選択する。
己の欲しいものを。