嘆きの裏野は頑張りたい   作:永佑

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前に話していた序章(第1話〜第5話)の修正、とりあえず終わりました。まだ誤字や変な表現があれば都度直していきますが、ひとまずここから続きを書いていこうと思います。


第10話 【アレイン円柱遺跡群】③

 

 道中で出会った魔物は、砂兎だけだった。ソーラさんの言っていた通り、この辺りには砂色の毛並みをした兎があちこちに生息している。

 

 歩いている最中も、地面のそこかしこに口を開けた巣穴から、小さな顔がひょこっと覗いていた。こちらへ気付くと慌てて穴へ飛び込み、また少しすると恐る恐る顔を出す。その様子を見ていると、本当に警戒心だけで生き延びてきた生き物なんだなと思う。

 襲ってくる気配はまったくないので、そのまま通り過ぎる。

 

 素早く身を隠す姿と、食物連鎖の最下層という立ち位置は少し悲しいけれど……どこか他人事とは思えなかった。油断すると妙な親近感を抱いてしまいそうである。

 

 やがて視界が開け、【アレイン円柱遺跡群】にたどり着く。そこには、十七本の石柱が円を描くように並んでいた。

 

「これが【アレイン円柱遺跡群】……」

 

 名前だけ聞けば、もっと神秘的な場所を想像していた。

 何百年も人を寄せ付けない遺跡とか、霧に包まれた神殿とか、そんな雰囲気を勝手に期待していたのだ。

 でも実際は、見晴らしのいい荒野に石柱が並んでいるだけだった。周囲を見渡しても特別な建物はなく、魔物の気配もない。拍子抜けするくらい静けさに思わず本音が漏れる。

 

「……地味」

 

『それでも行くって、あなたが言ったんですよ?』

 

「いや、だってもっとこう……ワクワクする場所かと思ってました」

 

『初心者向けですから』

 

「初心者向けって、夢まで初心者向けになるんですか?」

 

『贅沢言わないでください』

 

 まあでも、確かに安全そうではある。

 それは初心者の僕にとって何よりありがたいことなんだけど、もう少しだけ冒険している雰囲気が欲しかった。

 

 そんなことを考えながら石柱の間を歩いていると、不意に足が止まった。

 中央付近。円形に並ぶ石柱の真ん中あたりに、大人が数人並んで入れそうな穴がぽっかりと口を開けている。

 自然にできた穴には見えない。誰かが意図して掘ったような、真下へ続く縦穴だった。

 

 僕はいつでも逃げられるよう周囲を確認しながら、慎重に穴へ近付いていく。

 縁へ手を掛け、ゆっくりと中を覗き込んだ。薄暗くて奥までは見えない。ただ、人が通れそうな空間が下へ続いていることだけは分かった。

 

『中には何もなさそうですが……確認しに行きますか?』

 

「うーん……」

 

 返事をしながらも視線は穴から離せない。こういう場所って、大抵嫌な予感しかしないんだよな。

 

『何か出てくるかもしれませんよ?』

 

「……何かって…………魔物、とかですか?」

 

 嫌な想像が頭をよぎる。

 実は砂兎には親玉みたいな存在がいて、いきなり飛び出してくるとか。そういう展開だけは勘弁してほしい。

 だが、ソーラさんはあっさり否定した。

 

『いえ、宝具です』

 

「……あ」

 

 その一言で、僕の頭の中から魔物のことが吹き飛んだ。

 

 ……そうだった。ハンターたちが宝物殿へ潜る理由は、マナ・マテリアルだけじゃない。

 

 宝具。宝物殿の中で生成される、マナ・マテリアルから生み出された特殊な道具。

 原作によると、その正体は世界のどこかに記録された「かつて存在した道具」の再現品らしい。

 魔力を流し込むことで力を発揮し、蓄えられた魔力が尽きるまで使い続けられる。

 炎を纏う『煉獄剣(れんごくけん)』。姿や声まで別人へ変えられる仮面『転換する人面(リバース・フェイス)』。一度だけ命を守ってくれる指輪『結界指(セーフ・リング)』。

 読んでいる時は、「こんなの使ってみたいな」と素直に思った。

 

 ……まあ、そんな都合よく見つかるわけがないんだけど。

 

 宝具は、レベルの低い宝物殿ほど出現率が極端に低い。レベル1の宝物殿である【アレイン円柱遺跡群】で期待するのは、正直ほぼ無理だ。

 

「でも、よく考えたら【アレイン円柱遺跡群】で宝具なんて出ませんよね?」

 

『ティノ・シェイドは見つけていますよ』

 

「あれはクライの適当な思いつきが、たまたま本当になっただけじゃないですか」

 

 原作3巻のゼブルディアオークション編。アーノルドさんに負けたティノが、名誉挽回のために宝具を探しに行く話だ。

 安全そうだからという、クライの適当な理由で選ばれた宝物殿だったのに、本当に宝具が見つかってしまう。あれは完全にクライだから成立した奇跡である。

 

「しかも、あれってこの宝物殿が生み出した宝具じゃなくて、外から持ち込まれた物でしたよね?」

 

『そうです! そうです! よく読んでるじゃないですか!』

 

 うわ、すごく嬉しそう。姿は見えないけれど、絶対に満面の笑みになっている。

 

 ……その気持ちは分かる。自分の好きな作品を誰かが読んでくれて、「あのシーン良かったよね」と話せるだけで嬉しいものだから。

 僕は思わず苦笑しながら、もう一度穴の中へ視線を落とした。

 

「……とりあえず、入ってみますか」

 

 完全に無駄足になりそうな空気は漂っている。それでも、まだ何も始まっていないのに諦めるのは違うしな。

 

 僕は慎重に足場を確かめながら、ゆっくりと穴の中へ降りていった。




第10話でした。【アレイン円柱遺跡群】編、まだまだ続きます。
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